第27話 王城襲撃




ーー リンデール王国 王都 佐藤 光一 ーー






「『探知』……ん〜わからん。正面突破しかないか」


俺は王城前の建物の屋根から広範囲に探知の魔法を掛け、城の中の様子を伺ったが王らしき奴がいる場所がわからなかった。恐らく上階にあるであろう執務室か居室にいるんだろうけど、場所がわからない。

これは中に入って執事辺りを捕まえて聞くしかないな。


「魔力障壁らしきものが張り巡らされているが大丈夫だろう。さて、魔王軍が来る前にやるか『転移』」


城はやたら高い壁と魔力障壁に囲まれておりいきなり中には転移で入れそうにない。

ならばと俺は黒魔剣ではなく光希製のミスリルの剣を取り出し、目の前の門とその前にいる6人の兵士に対して剣に付与されている魔法を発動した。


「なっ!? き、貴様突然どこから現れた! 」


「剣を抜き王城前に現れるとはこの命知らずが! 殺せっ! 」


「「「ハッ! 」」」


「こんにちは。ちょっと王に用があってさ……きちゃった♪ んじゃあ吹き飛べっ! 『雷龍牙』! 」


ドゴォッ!


「「「ぎゃああぁぁ! 」」」


俺が剣から雷をまとった龍の頭部を繰り出すと、雷龍はその顎門で兵士を咥え噛み砕き焼き殺した。そして門へと襲い掛かったが、門はヘコみこそしたが吹き飛ぶには至らなかった。


「くそっ! 障壁で威力が減衰したか……ならもういっちょ!『雷龍牙』! 」


ドーーーン!


「よっし! 魔法が付与された武器はいいよな。魔力減らないし。あ、でもあと一発放ったらしばらくは使えそうもないな」


俺は上級クラスの魔法を2回連続で放ったため、剣にはめ込まれている魔結晶の魔力が一気に減ったのを見て黒魔剣に持ち替える事にした。さすがにこの剣に付与されている冥界の黒炎は王城内では使えないが、この剣は頑丈だからな。


「さて、一気に行くかな」


俺は破壊された門の残骸を飛び越え一気に王城の中に駆け出した。


《 て、敵襲! 障壁と正門が破壊されたぞ! 》


《 な、なんだあの黒い髪の男は! 悪魔か!? 》


《 城の中に入れるな! 入口を守れ! 》


「無駄だって! 『冥界の黒炎』 」



俺は王城の入口を慌てて固める50名ほどの黒鉄製ぽい全身鎧の騎士たちに、剣から冥界の黒炎を放ち焼き殺した。

そして城の入口の扉の内側にも魔力反応を複数感知したので、そのまま扉に向かって風の上級魔法を放った。


「お邪魔しまーす! 『風龍爪』 」


ドンッ!


俺が放った風龍の爪はその爪で扉を切り裂き、そのまま反対側にいた兵士たちを吹き飛ばした。


俺は城の中に入り吹き飛んだ兵士たちを尻目に中に入り、正面の扉の前にいた兵士たちを斬り飛ばし扉を蹴り開けるとそこは謁見の間だった。


するとそこには運良く正面の玉座に座る肥え太った男が鎮座していた。

謁見の間には多くの騎士と貴族らしき者たちがおり、恐らく定例会議中だったのかもしれない。

中にいた者たちは外での騒ぎが聞こえていたのだろう、俺の姿を見るなり多くの騎士が魔銃と剣を手に貴族と王を守るべく展開した。


背後からも多くの兵がやってくる反応がある。時間を掛けてはいられない。


「く、黒髪!? ま、まさか勇者か!? 教皇めしくじったか! 」


「貴様! ここをどこだと思っている! 剣を抜き王城を襲撃するなど正気か!」


「侵入者はたった1人だ! 魔銃で一掃しろ! 」


「させるわけないだろ! 『氷結世界』 」


俺は銃を構え放とうとする兵士たちよりも早く氷結魔法を発動した。


《 ひっ!? なんだこの氷は! か、身体が凍……》


《 あ、足が! 腕が! そ、そんな凍っ……》


《 つ、冷たい! ま、魔法か!わ、私を守れ! あ、足が! 》


俺を中心として全方位へと地面を凍らせながら進む魔法は、後方から謁見の間に迫っている兵士の群れと、正面に立ちはだかる兵士たちへと襲い掛かった。

そして地面を這う氷に触れた兵士の足、腕、胸、頭を一気に凍らせていき、次々と兵士たちを物言わぬ氷像としていった。

魔法操作が上手くいかず貴族らしき数人も凍らせてしまったのはまあ仕方ない。

凛さんや光希ほどまだ扱いは上手くないんだ。


「ヒッ!? な、なんだその魔法は! し、知らんぞ! そんな魔法見たことも聞いたこともない! しょ、召喚されたばかりだというのに何故そこまでの強さを! 親衛隊にはBランクの者も多くいたのだぞ! ありえん! こんなことあってはならん! 教会から聞いた話と違う! 」


「アンタが王か? 俺は魔王を倒した勇者光希の弟だ。上級魔法書ももらったし武器も譲り受けた。何より俺は魔物のいる世界から来たんだ。そこで兄貴に死んだ方がマシだという鬼畜な訓練という名の実戦でシゴかれたんだ。この程度やれて当たり前なんだよ。勇者光希ってのはそれだけのな存在なんだ。お前らは嘘の歴史を信じてるようだけどな」


俺はそう言って謁見の間の中央を立ちはだかる氷像を砕きながら進んだ。


このデブの王の祖先が魔王を倒しただ? 冗談はやめてくれ。そもそも倒せるほどの力があるなら勇者召喚なんかしないだろ。


「あ、ありえん娼館に入り浸り我が祖先の功績を掠め取った卑怯者の勇者が……その弟がこれほどの力を……ありえん……」


「信じようが信じまいがどうでもいいさ。お前には獣人の解放を宣言してもらう。そのあとは人質だ。一緒に来てもらおうか」


俺は王座の手前にある階段前で立ち止まり、そう言って階段をゆっくりと登っていった。


「ヒッ!? く、来るな! 儂はリンデール王国の国王だぞ! お、お前たち何をしている! た、助けよ! 儂を助けよ! 」


王は凍った兵士たちを見て腰を抜かしている貴族や文官らしき者たちに必死に声を掛けていたが、誰一人として立ち上がる者はいなかった。


「勝手に人を異世界に召喚して手に余ると思ったら殺そうとしやがって。お前さ、ただで済むと思うなよ? とりあえず獣人の解放をここで宣言してそこにいる奴らに即刻やらせろ。断るなら……」


俺は王の左手首に剣を突き刺し切断した。


「ぐっ……ぎゃあぁぁぁ! 痛い痛い痛い! 手……儂の手……ぐうぅぅ! 」


「このまま四肢を切り刻まれて死ぬか獣人を解放するか選べ! 」


「が……がいほう……解放……する……い、命だけは……」


「おいっ! そこの偉そうな服を着た文官! お前だよ! 聞いたか? 王命だ。今すぐ王都中に触れを出せ! 」


「は、はひっ! す、すぐに! 」


俺が王に一番近い所にいる文官ぽい格好をした爺さんにそう言うと、その爺さんは四つん這いのまま王座の右後方にある扉へと這っていった。


さて、この王を連れて外に転移して、近くにあったでっかい建物を破壊してから王都の門を開放させるかな。獣人たちが集まるのには時間が掛かりそうだな。魔王軍と戦っている前線の兵士たちにはせいぜい時間を稼いでもらわないとな。


俺は手首を抑えてうずくまっている王を見下ろしながら、これからの行動を確認していた。

しかしここで決死の表情で謁見の間に飛び込んできた兵士によって予想外の事態が起こった。


その兵士は氷像と化した外の兵士や、謁見の間の兵士たちを目にして顔を青ざめさせていた。しかしよほど大事な報告なのか、凍っている床に跪き震える声で緊急の報告だと言ってその内容を述べ始めた。


「ご、ご報告申し上げます! お、王国軍は魔王軍との戦いに敗れました! 全滅です! 飛空戦艦も全て墜とされました! そ、そして現在王都は先ほど突然現れたおよそ4万の魔物に包囲されようとしております! ご、ご命令を! 」


ぶっ! マジか!? 早すぎる!


「なっ!? ぜ、全滅……ぐっ……ば、馬鹿な……10万の兵と最新兵器を揃えた軍勢が……うぐっ……飛空戦艦まで……そ、それに魔物がもう現れただと!? あ、ありえん! ここから決戦場まで走ったとしても2日は掛かるはずだ……いったいどうやって……ああ……終わりだ……王国は召喚した勇者と魔王によって滅ぶ……」


「おいおい……マジかよ……」


やばいやばいやばい! 獣人たちの脱出が間に合わない! 10万の王国軍を全滅させた上に4万もまだ残ってるのかよ! 強すぎだろ!

レミとナナだけでも連れて逃げるか……でも、魔王軍を王都に入れたら獣人たちも人族も関係なく殺されるだろうな。


その前にやれるだけやってみるか。獣人たちを東門に集めて、どうにもなりそうも無かったら門の前の魔王軍を殲滅して退路を確保して逃げる。

魔力回復薬は十分にある。できれば節約したいがここで使わないと死ぬ。


くそっ! ついてねえ! 召喚された国がいきなり滅ぶとか! Sランクスタートだからって難易度高すぎじゃねえか?


「チッ! クソ王! 付いて来い! 魔王軍と戦う。後ろから撃たれたらたまんねえからお前にも来てもらう」


「な、なぜだ! 儂は王だぞ! た、戦うのは兵の役目だ! ゆ、勇者よ! 元の世界に帰りたいのであろう? 魔王を倒すのだ! お、王国は最大限の支援を約束す……ぎゃっ! 」


「うるせー! テメエの助けなんかいらねえんだよ! 『転移』 」


俺は耳が腐る戯れ言ばかり言うデブを引き連れ、大聖堂の中庭まで転移をした。

そして限界まで範囲を広げた探知魔法を展開した。


ぬおっ! 強い! 俺と同じくらいの魔力のやつが1.2.3人か……次に強そうなのも3人……これもSランクはあるな。Aランクも多い……ん? げっ! なんだこの反応は! ドラゴンか! やばい! コイツはヤバイ! クオンより強いぞ! これは王国軍じゃ歯が立たないわけだ。これは俺も危ないな……」


俺は探知に引っ掛かる反応にゲンナリとした。やはりヴェール大陸にはダンジョンが残っているんだろう。

強いやつがウヨウヨいる。

こんな奴らを相手に光希と蘭さんは戦ってきたのかよ……これは東門から大勢の獣人を引き連れて逃げるのは無理そうだ。守りながら戦えるレベルと数じゃない。なによりもドラゴンがやばい。

街の獣人たちには悪いが、やれるところまでやってレミとナナだけ連れて逃げるしかないな。


しかし展開が早い。とても長距離を移動してきた後とは思えない。

魔導通信の情報が王城に伝わると同時に現れるなんて、いったいどうやって移動してきたんだ?

ドラゴンの背には詰めたって300人かそこらしか乗れないだろうに……


くそっ! 今はそんなことを考えてる場合じゃないな。クオン以上のドラゴンとSランククラスが6人と4万の魔物か……ドラゴンは無理だからスルーだな。減らせるだけ減らして追っ手を減らしてレミたちを連れて逃げるか。

ちきしょう……俺に力があれば……もっと……強ければ獣人たちだけでも逃がせたのに。


スマンなみんな。俺はここで死ぬわけにはいかないんだ。いつか必ず仇を……ん?


あれ?


俺は探知に引っ掛かる魔物たちがどんどん王都に近付くに連れ、魔力反応が鮮明になるに連れ違和感を覚えた。


こ、この魔力はサキュバス? いや、それよりも力強い……ん? でもこの魔力は……似ている……

え? まさか……リムさん? こっちはミラさんぽい。あれ? なんで? ユリさんもいる?

他人のそら似? いや、訓練中もフィールド攻略中も俺はずっとあの3人を見ていた。主に胸とお尻だけど。

あの3人がどこにいるかは常に魔力を追っていた。だから彼女たちの魔力を見間違えるはずはない。

という事はリムさんたちもこの世界に?


「イヤイヤイヤちょっと待て! こんな所にいる訳がないだろ落ち着け! 」


並行世界のリムさんたちか? いや、しかし300年だぞ? リムさんたちはこの世界の出身じゃないとかなんか複雑だったけど、それだって300年だ。並行世界てことは同じ時代の自分がいるはずだ。年齢がズレたって数年だろう。てことはこの世界に並行世界のリムさんが存在するのはあり得ない。


「これはこの目で確認するしかないな。あの胸とお尻を見ればわかる。魔力は見間違えても、俺があの胸とお尻を見間違えるはずが無いんだ! 」


俺はそう自分に言い聞かせ双眼鏡を取り出して首に掛け、デブの襟を掴み王都の正門へと転移をした。






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