第28話 天雷
ーー 王都 光魔王軍左翼 光魔王軍副司令官 聖魔人 リム ーー
「ゲートを出た者から隊列を組め! レムは新参者を連れてアジムを後方から見張れ! また勝手に魂縛魔法で隷属させたドッペルゲンガーを、我らに変身させてセクハラしていたら知らせろ! 今度こそヴリトラで消し炭にしてやる! 」
「「ハッ! 」」
私は光魔王様の命令を受け魔族軍を連れゲートをくぐり、王都から10kmほど西の平原へと出た。
ここは今は更地だが、過去に大聖堂があった場所らしい。
王都近郊とムーアン大陸には事前に以蔵殿たちの一族が派遣されており、そこで得た情報から光魔王様はこの場所に決めたようだ。
「リム姉さん。もうさ、アジム殺っちゃおうよ。アイツのイヤラシイ視線にボクはもうウンザリだよ」
「あの舐めるような目付き。光一さんにそっくりですわ。光一さんは愛しの光魔王様の写し身ですから、むしろ光魔王様の喜ぶ服やそれを見る角度がわかって参考になりますけど、アジムは百害あって一利なしですわ」
「アハハハハ! 光一はそうだよね〜。確かに光一の視線が強くなる角度は、光魔王様にも効果的だったよね。ベッドでも喜んでくれたし、光一ならまあ見られてもいいかと思えるよね」
「光一殿か……確かに気がつくと斜め後ろにいて胸を覗いていたな。気配を全く感じなくて何度も驚かされた。光魔王様もなぜ光一殿に転移魔法を与えたのか……」
光一殿は光魔王様に見た目もエッチなところもそっくりだ。方舟では光魔王様と光一殿2人から、常に胸に視線を感じていた。光魔王様だけなら心地よいのだが、光一殿に見られるのはちょっとな。
光魔王様ご自身が若い時はあのような感じだったとは言っていたが、光一殿からはどうも覇気を感じない。絶対的強者のオーラというか、そういうものが光魔王様に比べ圧倒的に足らないから同一人物とは思いにくい。
配下の者はいずれ経験を積めば光魔王様のような強者になるはずだと、それならばと手を出そうとした者もいた。しかし光一殿と関係を持ったら、光魔王様のお情けは確実にもらうチャンスは無くなるぞと言ったらあっさり手を引いていたな。
まあ確かに光一殿も経験さえ積めばとは思うが、現時点では光魔王様の好みを探る判定機くらいにしか思えないな。
「光一に転移魔法は与えたらダメだよね! 方舟で光魔王様と露天風呂入ってた時に空から覗きにきたもんね!」
「そのようなこともありましたわね。確かそのあと光魔王様に半殺しにされてましたわね。夏美さんにも怒られてましたわ」
「ふふふ、そんなこともあったな。あの時は光魔王様が、私たちの裸を見ていいのは自分だけだと言ってくれたことの方が嬉しくて忘れていた」
懐かしいな。突然光一殿が上空に現れて、光魔王様がいたことに驚いて逃げる間も無く闇刃で両目を切られていたな。そして地上に叩き落として下半身を冥界の黒炎で焼いた後に、私たちの裸を見ていいのは俺だけだと言って時戻しで光一殿の記憶を消していた。
気が付いた光一殿は、下半身が無くなっていてパニックになっていたのを覚えている。下半身が焼かれたことを覚えてないのだから相当怖かっただろうな。
なかなかにエグい仕置きだとも思うが、それほど私たちのために光魔王様はお怒りになったのだと三人でニヤニヤしたのを覚えている。
「リム姉さんは転移魔法使えるようになった? ボク難しくて全然だよ。光一は使いこなしていたのに悔しいやぁ」
「私もまだまだだ。2回に1回は発動しない。光一殿も数ヶ月掛かったと言っていた。まだ覚えて数日の私たちが焦る必要はないさ」
光魔王様と初めて一つになった夜。私たちは転移の紋章魔法を乳房に刻印していただいた。
光魔王様の物となったようでとても嬉しかったが、この転移魔法。相当に難しい。
とてもではないが戦闘で使うなど無理だ。決まった場所に転移するのも失敗続きだ。
「思ってた以上に難しいですわよね。蘭お妃様も苦労なされたと言ってました。夏海お妃様も失敗なく使えるようになるには3ヶ月は最低でも掛かるとおっしゃってましたし、未だ戦闘で使うには不安があるとも言ってました。毎日の訓練が大切ですわね」
「そうだな訓練あるのみだ。さて、隊列を組み終わったようだ。ミラ、全軍を前進させろ」
「うん! ボクが号令をかけるね! 《 全軍前進せよ! 》 」
私はミラに心話を使い各部隊長に対し号令を掛けるよう指示をした。
そしてそれを聞いた各部隊長が配下の者に号令を掛け、4万の軍勢は王都に向かって前進した。
それから1時間ほど前進し、王都の手前1km手前にある小高い丘の上までやってきた。
「あらら、やっぱり籠城するみたいだね。兵士が外にいないや」
「魔導砲でしたか? 大量に配備されているようですが、あのようなおもちゃで私たちをどうにかできると本気で思っているのでしょうか? 」
「光魔王様の予想通りだな。野戦の方が楽しめたがまあいい、ならば私たちは予定通り包囲するだけだ。なるべく醜い魔物を前列に置いて怖がらせろとのご命令だ。ミラとユリはトロールキングとゴブリンキング。オークキングにハイオーガキングに王都を囲むように展開するように伝えてくれ」
「うん! まかせてよ! 」
私がそう指示をすると、ミラとユリは心話で各キングに前に出るように指示をし始めた。
私もバガスにも前に出るように伝え、魔導砲の射程範囲外に展開させ王都を包囲させた。
「ユリ、念のため探知で王国軍の戦力を測ってくれ。まあDランクばかりだと思うが、魔導砲の強力な物があるかもしれんからな」
「わかりましたわリムお姉様。紋章『探知』 」
私は探知魔法をかなりの技量で使いこなしているユリに、王都内の戦力を調べさせた。
私とミラは細かい魔力反応を判別するのが苦手だ。その点ユリの技量は飛び抜けている。
「ん〜……奥の方にある膨大な魔力の塊が創魔装置ってものですわね。かなり大型ですわ。ほかは飛空戦艦の反応が一つあります。それ以外は魔導砲と呼ばれる物ばかりですわね。兵士はどれもFランクや強くてもCランク程度しか……え? あらあら……これは凄いですわね」
「どうした? 何か強力な兵器でも見つかったか? 」
「ええお姉様。私たちと同じくらいの魔力。Sランククラスの魔力の反応がございますわ。王都の中央からかなりの速度でこちらへと移動していますから、人であることは間違いなさそうですわ」
「ええ!? Sランクだって!? あの獣人好きの正義正義言ってるAランクの人が、確かこの世界で最強とか言ってなかった? 」
「間違いないですわミラお姉様。この魔力量は私たちに匹敵しますわ」
「ほほう……聖魔人となった我とか……この世界の人族でも骨のある者がいるようだな。光魔王様がおいでになる前に、どれほどの実力があるか少し威力偵察をさせてみるか」
フフフ……Sランクとは面白い。恐らく海の魔物を狩ってそこまで上げたのだろう。このダンジョンも魔法書も無い世界で、よくぞそこまでランクを上げたものだ。ギルセリオとかいう人族も大したものだが、あれは光魔王様が先祖にお与えになったという強力な武器があってのランクだからな。
総攻撃の前にどの程度の力を持っているのか知っておかねば、思わぬ苦戦を強いられ余計な犠牲を出す事になるやもしれん。
「リムお姉様。それではオークを? 」
「いや、トロールとオークとオーガを前進させよう。威力偵察とはいえ魔導砲もある。ケチって余計な犠牲を出してもつまらんからな」
「わかりました。トロールキングの盾部隊を前列に、オークとオーガ部隊を2千ほど前進させましょう」
「うえ!? たった1人に二千も出すの? リム姉さんは相変わらず慎重だなぁ。ボク1人で行ってきてもいいんだけどな」
「私たちと同等なら二千は必要だ。ミラを一人で行かせ、もしも何かあったら私は後悔することになる。光魔王様も悲しむぞ? もう私たちの身体は光魔王様のものだということをミラはもっと自覚しろ」
そろそろミラの突撃グセをなんとかしなければな。私たちの身体はもう光魔王様の物だということをもっと自覚してもらわねば。
「うへへへ! そうだよね! もうボクの身体は光魔王様に隅から隅までべっとりマーキングされて……うん! ボクはおとなしくしてるよ! 光魔王様のものになったボクの身体が傷付いたら大変だもんね! 」
「そ、そうだな。わかればいいのだ」
どうやらわかってくれたようだが、あの笑い方はどうにかならないものか……我が妹ながらなかなかに気持ち悪い。
「リムお姉様、指示を出しました。トロールが前進していきます。Sランクの戦士の反応は正門の辺りに感じます」
「うむ。さすがユリだな。相手を誘い出すためにゆっくり進むよう指示をしたか。さて、魔導砲は盾で防がれるぞ? Sランクの戦士はどう動くか……」
私の視界にはトロールが100体ほど大盾を構えてゆっくりと王都へと前進し、その後ろをオークとオーガが続く姿が映っていた。
さて、魔力があっても魔法書が手に入らない以上、その豊富な魔力も身体強化にしか使えまい。
となると身体強化を駆使して近接戦闘を行うだろう。果たしてあの数のトロールとオーガたちを相手にどこまで戦えるか見ものだな。これは良い余興となろう。
私はまだ視界にその姿を見せない戦士が、いつ王都からその姿を現しトロールたちと戦うのか楽しみにしていた。
が、その楽しみは天から降りそそぐ光によって、一瞬にして焦りへと変わった。
ドゴオォォォン!
「なっ!? 」
「こ、これはまさか! 」
「ええー!? て、天雷!? 」
「あ、あり得ない! 」
トロールたちが前進をし、魔導砲の射程に入ろうとした時に突然雷雲が現れ広範囲に雷が落ちた。
あの魔法はもう何百回とこの目で見たことのある天雷で間違いない。
しかし天雷は雷魔法の上級魔法だ。光魔王様はこの世界の者に、上級魔法を付与した武器はドーラ様以外にお与えになっていないとおっしゃっていた。ギルセリオにでさえ中級風魔法を付与した武器だ。
だとすると魔法書で得た魔法となるが、この世界にはもう雷神島はない。いや、たとえあったとしてもあの島で雷の上級魔法書を手に入れるほどの実力がある者は勇者だけだ。
そうだ。こんなことはあり得ない! 光魔王様とお妃様以外に天雷を使える者がこの世界にいることなどあり得ないのだ!
私はトロールのすぐ手前の草原を、広範囲で焼き尽くした天雷を見て混乱していた。
ハッ!? 魔物たちは!? ……無事か。つまりは警告というところか。
しかしこの力は……
「ミラ! ユリ! あれは危険だ! 私たちで処分するぞ! 光魔王様が来られる前に障害を取り除く! 」
「うひょーー! バトルだ! 私たちに掛かればたとえ天雷の使い手でもやっつけられるよ! 」
「うふふ、新しい結界の腕輪を試すチャンスですわ。麻痺眼で身動きをとれなくして差しあげますわ! 」
「ヴリトラよ! 王都上空まで移動してくれ! だがお前は手を出すなよ? 私たちを運んだら後方に下がれ! 」
《 ヴオオォ! 》
ヴリトラでは火力が強すぎる。この子は加減ができないから王都を攻撃をさせては駄目だ。
光魔王様が来られる前に王都が火の海となってしまう。
「よしっ! いい子だ。行けっ! 」
私は勢いよく上昇するヴリトラの背に乗り、遠く王都の正門で黒い剣を手に持つ戦士へと向かわせた。
あの天雷は危険だ。光魔王軍に被害を出すわけにはいかない。もしエルフのいる部隊に天雷を落とされたら、紫音も無事では済まないかもしれない。私に初めてできた対等な友人だ。彼女を傷付けさせるわけにはいかない。
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