第47話 包囲







「報告します! Avenger軍は軍施設を襲撃した後に車両を確保! 第1軍は中華協産党方舟首都『福万』へ進軍! 現在中華軍方舟攻略部隊およそ一千と交戦中!我が軍が圧倒しております! 第2軍は耕作エリア内にある強制労働所および労務所を襲撃し同胞を解放! 第3軍は鉱山エリアにて同様に同胞を解放中です! 」


「わかった。引き続き動きがあれば報告しろ。それと戦っている者たちに伝えよ。地上の保護エリアにいるお前たちの家族たちはいま腹一杯飯を食っている。笑顔の家族の顔を見に早く戻ってこいとな」


「あ……Avenger! ありがとうございます教官! 戻って全軍に伝えます! 」


「お前たちが狩った魔物の肉だ。礼には及ばんさ」


俺がそういうと伝令役の男は照れたような表情をしながら、侵攻中の攻略済みフィールドへと戻っていった。


ジェフリーは外にいる俺たちと連絡を密にする為に、門を潜ってすぐの場所に通信所を設置した。そこには通信手が詰めており、各軍団からの報告を取りまとめて俺に報告しに来ることになっている。


報告を聞く限りでは作戦通りにことが運んでいるようだな。

作戦ではこのあと解放したオーストラリア人たちに護衛を残し、各神殿を制圧した後に全軍で党員とその家族しか住むことができない福万都市を包囲する手はずとなっている。

都市といっても5mほどの塀に囲まれ、中央にある幹部居住区以外は木造の家しかない街だ。それでも数万人が住んでおり、塀の上に自動機関銃が設置されている。塀は分厚いらしいが、打ち砕いて侵入することは今のオージーたちには容易だろう。20年後に中級程度の魔物に囲まれるならその程度の防備でも耐えられるだろうが、2000人以上いるBランク相当の人間の攻撃は防げないだろうな。


方舟特別エリアに繋がる門は以蔵たちが制圧済みだし、攻略済みのフィールド内から外に出る門はオージーたちが制圧している。万が一外に出れても俺がいるから地上からの援軍は望めず、他国へ助けも求めることもできない。唯一残された手段は神殿でオーストラリア人がフィールドに入れないように設定を変更するくらいだが、その神殿もオージーたちが確保するから無理だろう。

少ない可能性だった神殿でロシアにある門に繋げるという事もこれでできなくなる。


もう中華協産党の連中は福万都市でじっくりオージーたちに料理されるのを待つことしかできない。

党員は民間人じゃないからな。今回の作戦の要である管理者と鍵を確保したあとは皆殺しになるだろうな。




「順調ね〜もともとダーリンに精鋭部隊壊滅させられてたから、数だけが頼みの綱だったのかもしれないけど地上と繋がる門を抑えられたらどうにもならなさそうね」


「そうね。各都市と繋がる資源フィールドの門から出てきた兵は、クオンを見て皆引き返していってるわ」


「二軍らしき方舟攻略部隊が都市にいたのは誤算でしたが、彼らなら撃破できるでしょう」


「なんだ? 前回逆侵攻されたからって攻略諦めて一番強いやつらを手元に置いていたのか? 情けない奴らだな〜」


「主様の魔法で一撃で全滅した部隊よりさらに弱いなら精鋭でもなんでもありませんね」


「ははは。確かにたいしたこと無いだろうな。それとセルシア、権力者なんてそんなもんだ。一に保身二に保身だよ。昼の時点で都市に進軍開始してるなら明日には全てが終わってそうだな。いくつのフィールドの管理者を確保できるか楽しみだ」


そう、今回の作戦の最大の目的は協産党の壊滅と開拓済みのフィールドの確保だ。中華国が単独で確保している3つの草原と2つの森に1つの海。この中から最低でも草原の一つを確保しないと300万人の国民を食わせていくのは難しい。新規で攻略してもいいが、作物はすぐに育たないからな。最悪俺が魔力を使いまくって神麦を分けることもできるが、できれば国民がすぐに住める家屋と資源がある土地が欲しい。シドニーの復興も時間が掛かるだろうし、何もないオーストラリア人たちにはすぐに住める安全な土地が必要だ。


「管理者は都市で軟禁されてるのよね? 奪われるくらいなら殺されるんじゃない? 」


「恐らくな。ただ、国家主席も管理者らしい。党がそう宣伝していたから間違いなさそうだ。それなら最悪一つは手に入るだろう」


「あ〜確かにそれなら間違いなく手に入るわね」


「権力者ならありえるわね。神殿で管理者になって神にでもなったつもりなんじゃない? 」


「非戦闘員が管理者になるとは……攻略した後によほど大掛かりな護衛を付けて神殿に向かったのでしょうね」


「各国に根回しもしないと難しいと思うから、恐らく非戦闘員の管理者は国家主席だけであとは軍人だろうな。ほかの管理者はうまく確保できれば儲けものだな」





そしてそれから数時間が経過して夕方になろうという時に、都市を完全に包囲したとの報告があった。中華国方舟攻略部隊との戦闘でも重傷者が数十人出たが死者はいないそうだ。圧倒的だな。

そして途中逃げようとした党の高官を捕まえて拷問して色々聞き出したところ、国家主席が都市にいることと国家主席がこの都市のあるフィールドの管理者であること。それと若いオーストラリア人の女性を囲っている高官の情報や都場所などを聞き出してから殺したそうだ。

なかなか良い情報を得たな。俺は火を使うことを禁止して、水属性の魔法使いには火災が発生した時に対応できるようにしておくよう伝え伝令を帰した。


ここからが正念場だ。上手く攻めてくれよ?



「どうやら大丈夫そうだな。リム! 無線で以蔵にここへ誰か人を寄越すように伝えてくれ! 」


「ハッ! 」


俺は中華協産党が滅んだ後の準備をするために、リムに以蔵たちを呼び出すよう頼んだ。


そして小一時間ほどした頃、紫音と桜がグリ美に乗ってやってきた。

確か二人は別々の保護地区を制圧していたはずだ。報告か何かで以蔵のところにいたのかな? まあちょうどいいか。


「お屋形様お待たせ致しました。桜がここに! 」


「……紫音参上」


「ご苦労さん。悪いが全ての保護地区に俺を案内してくれ。住民の移動準備をする」


「はっ! 承知致しました。ご案内致します」


「…………やっぱり……らっきー」


「ああ頼む」


俺はそう言ってグリ美の背に乗り、紫音と桜が隣同士で座っている前後4人掛けシートの後部座席に座った。

ああ……いい匂いがするな。これは前に2人にあげた香水の匂いだな。桜はつけ過ぎなような気がするが、紫音はふんわりと香る程度の量だな。見た目はそっくりな双子でもこういう所に違いがあるんだな。性格も桜は活発で命令に忠実。そして真面目で何事にも一生懸命取り組みむが、少々堅いのがたまに傷だな。そういうところはリムに似ている。

紫音は桜と対照的でおとなしくあまり喋らないうえに常に眠たそうな顔をしており、その表情は滅多に変わらない。一見何を考えてるかわからないように見えるが、実は思慮が深く常に色々と考えている。これで俺以外とコミュニケーションがちゃんと取れるなら、安心して指揮官として使えるんだけどな。

俺と話す時は表情こそあまり変わらないが、目の色が変わるというのだろうか? 目の動きで感情がわかる。その事から俺に好意を持ってくれているのも伝わってくる。話している時にいつの間にか俺の服の裾をそっと握ってるところなんて可愛く思えてしまう。


「それではお屋形様出発致します。ど、道中は私たちがお、お話し相手をさせていただきますので……」


「ん? そうなのか? 最近二人とゆっくり話す機会が無かったしな。ちょうどいい機会だから色々話そうか」


「は、はい! よ、よろしくお願いします! 」


「……桜緊張し過ぎ。まずはお姉ちゃんが手本を見せる。鏡を通して見ていて」


「う、うん……紫音を見てる」


なにやらここにくる途中で二人で色々順番など決めたようだ。桜に色々言った後に紫音が後部座席に来て、その黒い忍者装束の胸元を両手でぐっと広げ俺の隣に寄り添うように座った。そして俺の太ももに手を置いて下から上目遣いに俺の顔を覗き込んだ。


グレート! なに? 静音に教わったの? そのはち切れんばかりの褐色の胸元にホワイトシルバーの美しい髪。そして無表情だけど薄っすらと頬を赤く染め、拒絶されたらどうしようと不安そうな目。これは堪らん!


「あっ……光希様……」


俺は紫音の腰に手を回しそっと抱き寄せた。


「さて、話し相手になってもらおうかな。おっ! ステータス上がってるな。Aランクになるのも時間の問題だな」


「…………はい……がんばりました……光希様の側に居続けられるように……」


「それは嬉しいな。だが無理をして死ぬなよ? 生きてさえいれば良いことがある。経験済みだろ? 」


「…………はい。光希様に救われて今は幸せ」


「そうか……幸せか……その言葉を聞けて救って良かったと思えたよ。もっと幸せになれ。好きなことをどんどんやれ。俺が手伝えることならなんだってしてやる」


キメラにされ40年もダンジョン内で閉じ込められてたんだ。毎日屍肉を食べ人として生きることを否定され続けてきた。その失われた時間の分を好きに生きて取り戻して欲しい。楽しいことをたくさんして忘れて欲しい。この子たちにはもっともっと幸せを感じて欲しいな。


「……ありがとうございます……あの……」


「ん? どうした? なにかやりたい事があるのか? 」


「……光希様の側に……もっといたいです……戻った時に……女神の島ではなくお屋敷で……め、メイドの仕事を是非……」


「ははは、照れるな。でもメイドをしたいのか? 結構大変だぞ? 」


「……できます……光希様の側にいれるなら……なんでも……」


「ストレートだな。俺はそういうのには弱いんだよな。うーん、そうだな。二階に住んでもらってマリーと凛の仕事の手伝いをしてもらうかな」


紫音は無口なのにいつもストレートに気持ちを伝えてくる。こんなこと言われて嬉しくない男なんてこの世に存在するのだろうか? プライベートルームは遠慮してもらうが、それ以外の場所の管理をしてもらおうかな。凛の会社の手伝いもやってもらおう。


「…………嬉しい」


そう言って俺の胸に顔を埋める紫音に少しドキッとしながらも俺は紫音の頭を撫でた。


それから最初の目的地に着き警備をしているダークエルフに住民の移動準備の進捗を聞き、ゲートの地点登録をした後に再びグリ美に乗り込んだ。

すると俺の隣には全身をカチカチに硬くした桜が座っていた。

俺は桜の頭を撫でてリラックスさせ紫音と同じようにやりたいことはないのかと聞くと、桜はどもりながらも俺の側で働きたいと言った。この辺は双子なのかなと思いながら、俺は桜も自宅のメイドにすることを決めた。

桜は表情が豊かなのでそれはもう嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。その花が咲いたような笑顔を俺はとても綺麗だと思った。普段は堅い性格の子が少女のような笑顔を見せるとそのギャップにドキッとするよね。同じ顔なのにこんなに違うんだなと思ったよ。



そうして途中何度か交代しながら三ヶ所の保護エリアを周り、ゲートの地点登録を済ませた。

最後の方では紫音は俺の膝の上に横座りしていたよ。色々大胆な子だよな。俺が紫音の胸の谷間をガン見しつつお尻の感触を股間で感じムラムラしてるを我慢している時に、紫音がここでする? とか言い出した時は危なかった。


この子を本当に家に住まわせて大丈夫かな……ユリとはまた違った攻め口なんだよな。


俺はそんな事を考えながらも、大島に戻ったらダークエルフの女の子たち全員と海水浴に行こうという計画を紫音に提案するのだった。


全ては夢を叶えるために。








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