第46話 進軍







「Avengers整列せよ! 」


「「「「「 Avenger! 」」」」」


「Avenger第1軍欠員及び病欠なし! 」


「Avenger第2軍欠員及び病欠なし! 」


「Avenger第3軍欠員及び病欠なし! 」


「Avengers総員揃いました! 」


「うむ。光魔王様。Avengers3000名整列いたしました」


「わかった」


俺はリムが用意した演台に上がり、拠点前に整列するオージーたちを見据えた。

いい面構えだ。復讐に狂った目では無く、信念を持ち目的を達成するために全てを焼き尽くそうとするギラついた目をしている。


昨夜アメリカから帰ってきてからは色々と忙しかった。まずは凛の尻を思うがまま揉みしだいたあとに、ダークエルフたちにグリ子たちとともに中華国へ先行してもらった。これは複数あるオーストラリア人保護地区を確保するためだ。今ごろ保護地区内とその周辺にいる中華兵どもは全滅しているだろう。

そしてドワーフとホビットたちに作らせておいた装備を小隊長クラスにも行き渡るよう配布した。さすがに分隊長クラスの分までは製作が間に合わなかった。ちゃんとオージーたちには出世払いの有料装備だと言ってあるから、全てが落ち着いたら集金に来ないといけない。


そのあとに日本政府に米国での出来事と、大統領にした要求の内容を報告した。戦車を全滅させたくだりで真田大臣が絶句していたが、あれは仕方ないことだったんだ。大臣は米国大統領は悪あがきすると思いますよとか言っていたが、それはそれで米国人の選択だから仕方ない。中華国が滅んだあとも悪あがきする気になるか見ものだな。


一通りやることをやった後は、皆で食事をして恋人たち全員とプラスセルシアと一緒に風呂に入り疲れを癒した。

それから寝るまでの間はこっそり撮影していた動画を編集し、数枚のDVDに焼いた。これは欧州と英国の連絡所に、米国と同じ愚を犯さないよう警告のために渡すつもりだ。それに今回被害にあった者たちにも渡して少しでも溜飲が下がればいいかなと思ったからでもある。

ベットでは凛と夏海と一緒に編集したDVDを見たら、夏海がまた首輪をして欲しいって言うからしてあげたら盛り上がった。凛はドン引きしてたけどね。


そして翌朝。留守番の男のダークエルフを呼び特警隊員が入院している病院にポーションとDVDプレイヤーにAvengerと書いたディスクを渡すように言って、政府にもディスクを届けるように頼んだ。帰りは転移のスクロールで帰って来させるから拠点の防衛は大丈夫だろう。


んで朝食を食べて外に出るとオージーたちが整列していたので、これから中華国に行こうかなと思う。



「これより中華国に鉄槌を下す! オーストラリア人保護地区は昨夜のうちにダークエルフたちが押さえている! お前らは後方を気にすることなく思う存分戦え! 」


「「「「「 Avenger! 」」」」」


「お前たちに問う! この戦いは復讐のためか! 」


「「「「「 No Sir! 」」」」」


「ならば中華の支配から独立しオーストリア国を再興するために戦いか! 」


「「「「「 Yes Sir! 」」」」」


「いいだろう。昨夜話した作戦通りに動け! 武器を持たない民間人と婦女子への暴行は固く禁ずる! 破った者がいればその場で殺せ! いいな! 」


「「「「「 Avenger! 」」」」」


「ジェフリー! 貸し出した天雷のスクロールをしっかり管理しろ! 戦いが終わり残っていたら返納しろ! 俺の魔力で作った物だ。隠せばすぐに見つけられる。欲を出すなよ? 」


「Avenger! 決して教官を裏切りません! 」




「よろしいならば 戦争《クリーク》だ! 」




「「「「「うおおおおおおおお! 」」」」」



《 戦争《クリーク》! 》 《 戦争《クリーク》! 》 《 戦争《クリーク》! 》

《 戦争《クリーク》! 》 《 戦争《クリーク》! 》 《 戦争《クリーク》! 》



「『ゲート』 Avengersよ! いや、オーストラリア軍よ! 戦え! そして建国せよ! 突撃! 」


「「「「「うおおおおおおおおお! 」」」」」


俺は今朝シルフィにこのセリフを言ってくれたらベッドで拘束プレイしてあげると言われ、誘惑に勝てずに言ってしまった……

しかしオージーたちもドイツ語で戦争と言ったらドイツ語で返してくれたな。きっと反射的なものだろう。この世界にこのネタを知る者がいないのがせめてもの救いだな。


くっ……シルフィが大喜びしているのが視界に映る……これがアニオタを恋人に持った者の苦しみなのか……でもこれでシルフィと……夜が待ち遠しいなぁ。


俺が恥ずかしさと喜びというはたから見ればアブノーマルな思考に陥っているのをよそに、オージーたちは雄叫びを上げながらゲートへと突入していった。

このゲートの先は中華国が攻略したフィールドに繋がる門がある。あとはオージーたち次第だな。


それとスクロールだが、俺たちは中華国の攻略済みのフィールドに入れないので、ジェフリーほか軍団長には天雷を付与したスクロールを各自三枚づつ渡してある。これは中華兵がまとまって来た際に使い、数の不利を補うためだ。そのほか麻痺蛾の鱗粉も渡してあるので、人質を取られた際にうまく使ってくれるだろう。


オージーたちを見送ったあと、俺は恋人たちとセルシアにリムたちを中華国の門の前で待機をさせ、クオンと共にゲートでフィリピンに移動した。そしてそこから南下しオーストリアのシドニーへと向かった。

行ったことは無かったがただ南に行けばいいのと、大きな大陸なので限界まで上昇したらすぐに見つかった。大陸を見つけてからは数時間ほど東へと飛び、世界地図と照らしてシドニーと思われる都市を見つけることに成功した。

高度を下げ荒廃した都市とそこに転がる大量の白骨化した遺体に眉を顰めながら進むと、海岸沿いに資源フィールドに繋がる門を見つけた。

俺はそこでゲートの地点登録をした後に中華国へとゲートを繋ぎ、皆の元へ戻るのだった。


さて、復讐者たちは解き放った。中華国の国家主席及び党の高官どもよ、これまで自分たちがしてきた事への報いを受けるんだな。楽には死なせてもらえないだろう。だがそれも因果応報だ。せいぜい虐げられた者の怒りをその身に受けるがいい。


「俺たちはここで、無いとは思うがロシアが中華軍を助けオージーたちが撤退することになった際の支援を行う。中華国のフィールドは全て繋がっているらしいから逃げ場はないしそう時間は掛らないだろう。ゆっくりお茶でも飲んで待ってよう」


「ふふふ、そうね。コウの勇姿を見れて今すごく気分がいいから私が皆にコーヒーをいれていげるわ」


「え? なに? さっきのダーリンの演説? カッコ良かったけど……でもいつも通りじゃない? 」


「そうですね。一軍を鼓舞する姿は連隊の時もありましたし……いつも通りですよね? 」


「そうだぞ!? あたしの旦那さまはいつもカッコイイんだぞ!? でもさっきのはあたしも聞いてて戦いたくなったな! 」


「うふふ、蘭はシル姉さんに勧められた漫画で読んだから知ってます。主様は少佐なのです」


馬鹿! やめろ蘭! バラすな! 凛が納得した顔をしてるじゃないか!


「し、シルフィがどうしてもと言うからな。それでシルフィが喜ぶなら、恥ずかしくてもやってやるのが恋人としての務めだからな」


「ええ、ありがとうコウ。とても様になってたわ。約束通り今夜私を拘束してもいいわよ。夏海と凛の乱れ具合を見てちょっと怖かったけど、頑張って挑戦してみるわ」


「ダーリン……」


「光希……」


「ん? なんだ? 拘束? シルフィはなにか悪いことしたのか? ならあたしも手伝うぞ? 」


「うふふ。セルちゃんにはまだ早いです。もう少しで群れに入れますから待ちましょうね」


「あたしには早い? なんかよくわかんないけど、旦那さまの群れにもうすぐ入れるなら待つか! 」


「アハ……アハハハハ……いや、その……あはははは」


俺は呆れた目で見る凛と夏海に乾いた笑いでごまかすことしかできなかった。

おのれ蘭にシルフィ……今夜は身動き取れない状態でキッチリお仕置きしてやる!














ーー 中華国方舟攻略済みフィールド Avenger軍団 総司令官兼第一軍団長 ジェフリー・オールドマン ーー








「トーマス! ジャクソン! 聞こえるか! 手筈通り軍施設を襲撃し足を手に入れる! 」


『 Avenger! そのあとは私は耕作地へ同胞の解放を! 』


『 Avenger! 俺は鉱山へ!』


「ああ、俺は電光石火で頭を潰す! 追い詰められた陳の野郎が入国設定を変え、ロシアの援軍を連れてくる前に全てを終わらせる! 」


俺は第二軍団長のトーマスと、第三軍団長のジャクソンに無線で連絡入れながら軍施設へと全速力で走った。

まさか俺たちが中華国へ反旗を翻すことができるとはな。これもあの時使徒様と出会えたおかげだ。


使徒様はまさに神の使いに相応しく、我々に試練を与えてくれた。それは一週間不眠不休で魔物と戦い続けるという壮絶なものだった。最初はこの痩せた細った身体にはキツかったな。

しかし使徒様の慈悲で食べきれないほどの食糧を与えていただき、我々は復讐と祖国再興のために歯を食いしばって試練に挑んだ。三日目には魔物を倒しランクが上がったおかげか、身体が付いてくるようになっていた。すると途端に魔物と戦うのに余裕ができ、交代で食事やほんの少しだが仮眠をとることもできるようになった。


いや、一番大きいのはこの黒鉄の武器と中級魔法書を与えられた、各軍団に100名いる300Avengers部隊の存在だな。俺もその一人だが、この300人がいるおかげで試練を乗り越えられたと言っても過言ではないだろう。それだけこの武器と魔法は強力だった。


同胞たちもよく耐えた。腕や足が吹っ飛んでも千切られても体当たりして魔物をよく食い止めた。腕や足は使徒様の持つ強力なポーションでくっついたが、その度にリム教官に甘えるなと怒鳴られたな。

当然だ。普通は千切れた腕は二度とくっ付いたりしない。それから復讐に燃えていた我々は自分を抑え、組織的に戦うようになり四肢の欠損者は激減した。与えられてばかりでは試練を乗り越えたことにならないと意識改革ができたのが良かったな。


そして半ば無意識で戦っていたところ、試練を乗り越えたと使徒様からの宣言があった。ご褒美に風呂と酒を振舞ってもくれた。貴重なアイテムバッグを与えてくださっただけではなく、中華国を打倒したあとの子どたちの為にとお菓子や粉ミルクをバッグに大量に詰めて渡してくれた。


装備も食糧もそして力も全て与えてくれた使徒様の期待を裏切ってはならない。我々は誇りあるオーストラリアの民。歴史は浅いが我が祖国は偉大な国だった。同胞を中華の鬼畜どもから救い、再びあの地でオーストラリア国を建国する! そのためならばなんだってしてみせる!


『 こちら偵察隊! 前方に30両からなる戦車部隊と兵およそ5千! 』


「わかった! 第二軍と三軍は散開! アレを使う! 」


『『Avenger! 』』


「スクロール『天雷』 」


俺は第二と第三軍団を敵を包囲するかのように左右に分け、昨夜一度だけ練習で使わせてもらったスクロールを使用した。その瞬間戦車部隊の上空からけたたましい音と共に雷が降り注いだ。

戦車部隊へ落ちた雷はその複雑な機構を焼き行動不能にし、周囲にいた中華兵たちは即死した。


「第一軍団はこのまま突っ込め! 皆殺しだ! 」


「「「「「オオオオオオ! 」」」」」


俺は軍団を率い突撃した後に邪魔な戦車を斬り飛ばし、腰の引けている中華兵の首を次々と刎ねていった。

世界は変わった。魔物を倒し力を得た我々には戦車などただの鉄の塊だ。


これがBランク、これが使徒様より与えられた我々の力。


中華国国家主席 陳 包刑《チン ホウケ》! 今行くぞ! 神の裁きを受けるがいい!







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