第84話 心話
「入口はこんなもんでいいんじゃないか? あとはオーストリアの傭兵が守るだろ」
「う〜ん……誰でも入れるからな。大丈夫かなぁ」
「大丈夫だ。俺に考えがあるから任せとけって! さあ、Light mareランドに入ろうぜ」
「そのLight mareランドって名前さ、むかし千葉にあったと言われている遊園地みたいだよな」
「孤児院だらけなんだから子供が楽しめる土地にしないとな。せっかく廃墟となった公園や遊園地から色々持ってきたんだ。大人になるまでは楽しい日々を送らせてやりたいだろ? 」
「あはは、大人になったらうちの社員としてこき使うからな」
「大人になったら甘やかすつもりはないからな。大丈夫だ、うちの会社はブラック企業の中でも優良な方だ」
「ブラック企業てのは労働条件が凄く悪い会社のことなんだろ? その中で優良って言われてもな……」
「つべこべ言うな、お前もうちの社員なんだ。楽に死ねると思うなよ? さあ、行くぞ! 」
「俺がなにしたってんだよ……」
アマテラス様との約束の日まで残り一週間となった今日、俺と光一は方舟特別エリアに来ていた。
ここには会社所有の中世界の草原・森・海フィールドに繋がる門を、新生オーストラリア国の門の隣に設置してあり、その門の前にあらかじめ用意しておいた平屋の建物とバリケードを設置するためだ。
会社所有のフィールドはとりあえずLight mareランドって名前を付けておいた。遊園地はないが子供が覚えやすいかなと思って適当に付けた名前だ。
街には一応人力で動かす乗り物なんかはあるけど遊園地とは程遠い。
でも大きなネズミの置物やアヒルの置物とかをそこかしこに置いてあるから、なんとなく楽しそうに見えればいいんだ。初めてここに来て不安を抱えてる子供の心が少しでも軽くなれば儲けものだ。
前に魔法で強引に建てた会社社屋やその他の住居用建物には、一応魔道具で水が出るようにして照明が点く程度の発電施設は作った。
しばらく食事とトイレは一ヶ所でまとめてってことになりそうだ。その辺は日本政府に依頼してあるから数年以内には整備されるだろう。
俺は最後にやることがあるので光一を連れてLight mareランドに入り、魔石を2つ取り出した。
「ん? それはSランクの魔石じゃないか? 倉庫用の魔石としてくれるのか? 」
「違うよ。倉庫にSランクの魔石を使うなんてもったいないことするかよ。いいから見てろ」
そう言って俺は光一から50mほど離れ魔石を地面に置き、手をかざして魔法を発動した。
『創造』
「え? お、おい! 」
《 グオォォォン 》
「従え! 」
《 グオッ! 》
俺は創造魔法を発動して、山岳フィールドで倒した上位火竜を蘇らせた。
火竜は大きさはそのままだがランクがAランクとなっており、戦った時より弱体化していた。
しかしこの世界の通常兵器には無双できる。以前のクオンと同じくらいの働きはできるだろう。
「よしよし。命令する。ここにいる光一の命令に絶対服従をしろ」
《 グオッ! 》
「ええ!? こ、光希? まさか!? 」
「光一にプレゼントだ。このドラゴンに乗り俺の代わりに世界の抑止力となれ」
「お、俺が竜騎士に……す、すげー! 光希サンキュー! ずっと欲しかったんだマイドラゴン! コイツがいればここに他国が攻めてきても撃退できる! 」
「一応大気中から魔力を吸収できるが回復には時間が掛かる。出撃させる時は渡した魔力回復促進剤を必ず飲ませておけよ? ブレスを吐かせ過ぎて魔力が空になったらコイツは消えるから注意しろ」
だから念のために二体用意しておくんだけどな。
俺は光一に注意事項を伝えた後にもう一体の竜も創造した。
「やべー、竜が二体も……やべー……」
「あまり酷使して使い潰すなよ? 」
「ああ! 大切に使わせてもらうよ。光希お前最高だな! 」
「まあな」
この竜で借地料の未払い国に取り立てに行くのはお前なんだけどな。今はそこまで思考が回ってないみたいだから敢えて言わないけどな。
「なあ? やっぱこの竜も餌は少しでいいのか? 」
「ああ、仮初めの命だからな。魔力を維持する程度の食事しか必要ない。その代わり成長もしないけどな」
基本的に創造で創り出された魔物は生体オートマタに似ている。そこに実体はあるのだが、エネルギーは魔力だ。生体オートマタと違うのは、魔力が無くなると消滅することくらいかな。
「なるほどな。そこにあってそこに無い……そんな感じか。でもそんなの関係ないな。俺と恋人たちでしっかり可愛がることにするよ」
「俺の力量じゃ知能を完全に再現できなかった。恐らくクオン以下の知能だからしっかり命令しておけよ? 」
「え!? クオン以下って……マジか……」
わかるよ。クオン以下とか言われたら絶望するその気持ち……
でもこまめに命令しておけば大丈夫だと思う。多分……
「じゃあ俺は伊勢神宮に行ってくるから、光一はこの竜たちの躾をしといてくれ」
「ああ、夏美と玲を呼んできてしっかり躾をしておくよ。へへっ! 二人とも驚くだろうな! 」
慣れたら地上で遊覧飛行するんだとか言っている光一に、俺は日本からは出るなよと言ってから特別エリアへ戻った。そして日本が管理する門から伊勢神宮のある森に向かった。
「おお〜道もできてるのか。仕事が早いな」
伊勢神宮のある森へ向かう途中に草原を開拓して建築中の街が見え、その周辺に建ち並ぶプレハブ小屋群と俺が暇だった時に地上から移設したマンション群に多くの人が出入りしていた。
お昼時だからみんな忙しそうだな。移住は順次進めてるとはいえ、まだ数万人しか移住できていないからな。一番進んでいる日本でこの程度だから他国はもっと少ないだろう。それでも10年もしないうちに人類は全て方舟に移住しているんだろうな。中華や南朝鮮は知らんけど。
そんな街並みを見ながら俺は森へと続くできたばかりの道を踏みしめ、森の中へと入っていった。
「お? あそこか。階段まで持ってきたのかよ……平地でいいじゃん。せっかく移設したんだし」
森を進むと鳥居があり、それを潜ると見覚えのある石階段が見えた。あれは正宮に繋がる階段だな。
俺が長い階段を登り白い鳥居を潜り少し歩くと、金色の屋根の正宮が見えた。
「凄いな。完璧な移設だな。これならアマテラス様も……げっ! 」
俺が正宮の見事な移設技術に驚いていると急に辺りが霧に包まれ、以前感じた神気が俺を襲った。
『……佐藤殿 』
「アマテラス様? 」
姿が見えないがアマテラス様の声だ。こっちにはまだ来れないのかな?
『ええ、こちらへ来られるのを待っていました』
「すみません。まだ一年経過するには時間があると思いまして」
『いえ、よいのです。力が溜まったと伝えたかっただけですので』
「そうですか、予定より早かったですね。ところで俺はアマテラス様の期待に応えることができたでしょうか? 」
『はい。貴方なら大和の民だけではなく、他の土地の民も救っていただけると信じてました。他の神々も喜んでいます』
やっぱり蜘蛛の糸だったのか? もし俺が日本人以外を見捨てたら帰還できなかった? もしくは帰還日を延長させられた可能性があるな。人にものを頼んでおいて同時に試すとか……試練にしても依頼にしても、神ってやつはなんでこう人を試すのが好きなんだろうな。
しかし今さ、ほかの神々とか言わなかったか? 喜んでる? これはちょっとマズイ流れになりそうだな。
「救えそうだったから救っただけです。無理そうなら救ってませんでした。それでも救うことができたのは、この世界の俺の手助けがあったからです。俺たちLight mareだけでは難しかったと思います」
『そうですか。さすが勇者に選ばれただけはありますね。並行世界の佐藤殿も優秀な戦士なのですね』
「ええ、自分で言うのもなんですが大変な才能を持っています。ただ、まだまだだ経験不足でして……できれば一度異世界で修行させてやりたいところですね。そこで経験を積めば俺に匹敵する戦士となるでしょう」
『なるほど……違う世界で経験を積み佐藤殿のような勇者となる可能性があると。それは頼もしい限りです。そうですか、佐藤殿と同等の……』
おっし! いい感じ! 次は是非光一へ! 佐藤光一へお声がけを!
あっ、そうだ! 頼みたいことがあったんだ。ダメ元で頼んでみるか。
「アマテラス様。一つお願いがあるのですが聞いていただけますか? 」
『お願いですか? 』
「はい。この世界に一年滞在し、仲良くなった者もいます。そこでその者たちに危機が訪れた時に力を貸してやりたいのです。ですが、そうは言ってもここは並行世界。アマテラス様にお力を頂いたとしてもそう頻繁に来れるところではありません。そこでこの伊勢神宮で俺に連絡を取りたいと願えば俺にそれが伝わるようにして頂きたいのです。それは可能でしょうか? 」
『優しいのですね。ええ、可能です。本来であれば佐藤殿にも伊勢神宮に来ていただかないと私の力が届かないのですが、私の加護を与える予定でしたから離れていても伝わりますよ」
おお〜それは凄い! つまりこっちの世界で光一やお袋やらが伊勢神宮の正宮で俺と連絡を取りたいと願えば、元の世界のどこに俺がいようと伝わるってことか。
しかし加護か……呼び出しとかされそうだな。
まあ最初に全員にくれると言ってたし、いりませんなんて怖くて言えないしな。こっちの世界と連絡が取れるならもらった方がいいよな。
「ありがとうございます。ところでアマテラス様の加護というのは、どのようなお力があるのでしょうか?」
『加護はそれだけで恩恵がありますし、私の権能の一部を使えることができるようになります。そうですね……心話などどうでしょう? 佐藤殿が神狐としている念話の上位互換と言えばわかりやすいですか』
え? マジで!? 念話の上位互換て凄くね? マリーたちが使えるレベルのやつだったらいいな。
「それは地上にいる者から、方舟やダンジョンの中にいる者と会話が可能ということですか? 」
『ええそうです。この世界ほど離れていると難しいですが、近い次元の世界となら面識のある相手を思い浮かべるだけで意思の疎通が可能です』
キターーーー! やべえ! 携帯も念話も繋がらないダンジョン内にいる者と話せるのはデカイ!
これがあれば上海ダンジョンの氾濫の時のように、シルフィの危機を見過ごす事はなくなる。
「ありがとうございます! 皆も喜ぶと思います」
『ふふふ……仲間想いなのですね。私は貴方を気に入りましたよ」
「あ、ありがとう……ございます」
やべえ……嫌な予感しかしねえ。
『それに加護により恩恵を受ける者がいますので御礼になると思います。それでは帰る用意ができたらここへ来てください。約束通り元の世界へと送ります』
「え? 恩恵? あ、アマテラス様!? ……あ〜あ、行っちゃったか。恩恵てなんだろ? 」
俺がアマテラス様のお気に入り発言に戦慄していると、アマテラス様は意味深な言葉を残して去ってしまった。
リアラの加護は聖の力を装備に宿して勇者の成長を早める加護だったよな? アマテラス様に教えてもらうまで知らなかったけど。アマテラス様の加護も成長を早める効果があるってことか?
まあ加護をもらえばわかるか。わかるよな? リアラの時は気付かなかったしな……
とりあえず心話が使えるようになるのは嬉しいな。これで恋人たちと離れていても、たとえダンジョンの中でも連絡が取れるのは嬉しい。フィールドタイプのダンジョン以外は無線の通じる範囲が狭いからな。
ん? 思い浮かべた相手と心話ができるなら……夜に凛と愛し合ってる時に……隣で拘束した夏海に……心話を常に俺に送るように……そうすれば心の声が……
ククク……これは新たな扉が開けるな!
俺は拠点への帰り途中、アマテラス様からもらえる能力の使い道をエロい方向で真剣に考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます