第36話 依頼達成




「勇者様! 」


「ゼルムか。コイツが自称神の皇帝だ。上の階に固まってるのは一族だろう。そいつらと一緒に連れて行け」


俺が地面に這いつくばって気絶している皇帝を蘭と見下ろしていると、この3階にある謁見の間の入口にゼルムが部下を連れて現れた。

ゼルムを始め50名ほどの獣人たちの手に持つ剣は、どれも赤く染まり革鎧は返り血にまみれていた。


「コイツが先祖の国を滅ぼし奴隷にした一族……わかった。オイッ! 連れて行け! 俺は上に行く」


「「おうっ! 」」


「勇者様。凛さんたちが例の施設を押さえて待ってるぜ! んじゃ後でな」


「ああ、後でな」


ゼルムは5名ほどに皇帝を運ばせ、そのまま王座の斜め後方にある扉から部下を連れて奥へと走っていった。

リンデール王城はエルフに仕切らせたからな。オルガスは国を滅ぼされた獣人たちにやらせるのが妥当だろう。


しかしこの帝都にあった魔砲は強力なうえに連射してきやがった。まさか上位竜の中でも飛び抜けて魔力の多いドーラの魔法障壁が破られるとは思わなかった。やはり人族は危険だな。

創魔装置を取り上げても、またいつかとんでもない兵器を生み出すかもしれない。世界に魔力がある限り可能性は0じゃない。

ドワーフと獣人の教育に力を入れさせなきゃな。国王が獅子族なのに脳筋寄りのゼルムだから、賢い鼠人族か羊人族あたりを宰相にさせるか。ドワーフはやりたがらないだろうからな。

あの魔砲を作った帝国の魔導技師を攫って、人族より早く魔力を使った兵器の開発をさせる必要もあるな。


「さて、蘭。シルフィたちのとこに行くか」


「はい! 」


蘭は元気に返事をして俺の腕へ腕を絡め、フンフンフン♪と鼻歌を歌いながら俺とともに帝城の後方にあった施設へと転移した。


蘭はご機嫌だな。

まあこの帝都は俺と蘭で陥落させたようなもんだからな。

帝都を囲む外壁にある門を俺が破り、蘭が大狐嵐動で門の中にいた数千の兵士を焼き殺した。そしてそのまま大狐が街の中央通りを爆進して、この帝城の門を破壊した上に1階を爆破。

そこに俺が燃え盛る1階を消火している兵もろとも氷結世界で凍らせて、途中混乱しつつも斬りかかってくる兵を返り討ちにしながら悠々とこの謁見の間にやってきた。


連れてきた獣人たちは2千しかいないから前に出たが、呆気なさすぎだろ。

街壁や城壁にある魔砲は全てドーラとシルフィたちにより無力化したし、街は獣人たちが掃討作戦を行なっている。東西にある門は押さえてあるから逃げる事はできない。


帝国の場合獣人は街にはいないから、暴動を警戒する必要もない。ドワーフとホビットは獣人と同じく別の地域でまとめられ働かされているしな。今ごろは以蔵が率いる反乱軍に解放されているはずだ。

うん、リンデールより制圧が楽だな。




♦︎♦︎♦︎♦︎




「ダーリン! お帰り。もう終わったの? 」


「コウ、施設は制圧したわ。地下に創魔装置があるそうよ」


「ただいま。終わったよ。やっぱり皇帝は普通の人族だった。神じゃなかったよ」


転移が終わると3つの塔に囲まれた施設の前にドーラがうつ伏せで寝ており、その背のシートに恋人たちが座ってお茶をしていた。

そして俺と蘭が現れると立ち上がり、皆がドーラの背から転移で降りてきた。


「あははは! そりゃそうだよ旦那さま。旦那さま以外に生きてる神なんているわけないって! 」


「セルシアの言う通りですね。光希以外に現人神なんているはずありません」


「でも信仰を集めてたからもしかしたらと思ったんだよ。不本意ながら俺がそうだし」


でも皇帝は人族だった。やはり祈られるだけじゃなれないようだ。それとも皇帝は言うほど信仰されてなかったとかか?


「強さも必要なんじゃない? 強さと信仰が条件かも」


「強さねぇ……神力がどういうものかわかった今は、リアラにもアマテラス様にも瞬殺される自信があるけどな」


不本意なことに日々神力は増えてはいるが、あの2柱の女神の持つ神力の足もとにも及ばない。あれは数多ある並行世界から長年信仰されて得た力だ。半神程度でなんとかなる相手じゃない。

この世界でのリアラの力が弱っているのは、神界から地上に力を及ぼすにはその世界の信仰が必要なんだからだと思う。


「そんなに凄いのね女神様って。アマテラス様とリアラ様はどっちが上なのかしら?」


「う〜ん、どっちも同格ぽいな。世界の大きさや人口で担当してんじゃないか? 日本よりこの世界は広いけど、人口は日本は4倍あるしな。あとは信仰している者の数とかだと思う」


日本は直接アマテラス様を信仰していなくても、その長い歴史と神社が至る所にあるからな。

もしかしたらアマテラス様の方が力がある可能性もある。


そう考えると人口が日本より多く、信者も多い米国の神なんてやばそうだな。あの神は世界中に信者がいるしな。ほかにも信者が多い国はあるけど、教えの解釈の違いで争ってるとこの神は強くても干渉はしないだろう。信者同士の殺し合いをスルーしている時点でやる気を感じられない。まあ日本の神以外は、過去に世界に干渉し過ぎて創造神に怒られてるから大丈夫だろう。警戒すべきはアマテラス様とリアラ以外にもいるらしい異世界の神々だな。


「だったらダーリンも信者を増やせば力が強くなるのね。布教しようかしら? 」


凛が真剣な表情で顎に手をやりそう言う。


「よせっ! やめろ! 俺は人のままでいい! 神界なんかに行く気はないからな! 」


俺は現世でえっちなハーレム三昧の日々を送るんだ。肉体を捨てる気はない!


「うふふ、主様が神になれば蘭は神獣として一緒に神界に行けるはずです。死んでも一緒です」


確かに蘭はそうなるだろうな。神狐だし。

まあそれなら寂しくはないか。神狐の姿で固定されたらえっちなことできないけど。


「ランちゃんばかりズルいわね。私も精霊神目指そうかしら」


「それなら私も炎と氷の女神を目指すわ! 」


凛が得意げに言う。

なんだよその神。


「私は剣神を目指します」


夏海が刀を鞘ごと突き出し真剣な目でそう言った。

あの掛け声を世界中に広めるのか……


「あ、あたしはえ〜っと龍神? でもそれだと龍の身体になっちゃうじゃん! 」


「あはは。セルシアはそうなっちゃうな。まあそう簡単に神になんてなれるわけないから、これ以上信仰されなきゃ俺は半神のままだろ。みんなを置いて行くことはないさ。神になったら今みたいに毎日みんなとえっちなことできるかわからないしな」


ヴリエーミアは召喚しないとできないし。ん? あっちでも肉体あんのかね? 明日また召喚してイチャイチャする約束してるし、その時に聞いてみるか。


「ぷっ! えっちなことできないから神になりたくないとかダーリンらしいわ」


「ふふふ、凛ちゃんの言うとおりね。光希らしいわ」


「うふふ、そうですね。交尾は主様の生き甲斐ですから」


「旦那さまはあたしに逆立ちさせてしたり、恥ずかしい格好ばかりさせるからな〜。あ、あたしは別にいいんだけどさ。き、気持ちいいし……旦那さまが喜んでくれたし……」


「ふふふ、コウは昔からそっち方面は好奇心旺盛だものね。調合もそっち方面は伝説の域に達しているし、実際この世界のエルフが一時爆発的に増えた話を聞いてびっくりしたわよ」


「あはははは……まあまあ、そんなことよりリアラの依頼をコンプリートしに行くか! さあ行こう! 」


俺は恋人たちの言葉に居心地が悪くなり、とっとと建物の中へと入っていった。

外で2人きりになるとすぐ俺を木陰に引っ張っていって、俺のズボンを下ろして口で奉仕を始めるエロフのシルフィにだけは言われたくないと思いながら……



そして地下深くにリンデール王都にあった装置とまったく同じ創魔装置があり、俺はサクッと魔結晶を回収した。そして装置自体も蘭の神炎で溶かした。

それから地上へと出て建物と塔を俺の『轟雷』で破壊した後に、地形操作で地下深くに埋めて硬化で固めた。


「これでリアラの依頼は全て完了だな。あとは司祭たちに布教を頑張ってもらうか。そのあとはこの大陸は放置だな。勝手に国ができるだろう」


ギルセリオはアトラン大陸で手一杯だろうし、この大陸に国を任せられる人材はいない。

兵器や技術書類を根こそぎ回収さえすれば、ギルセリオの脅威にはならないだろう。勝手に小国が複数できるさ。ギルセリオの子孫がいずれ征服してもいいし、帝国みたいなのがまたできたならそれはそれでいい。人族同士で争うのはどこの世界も同じだ。

他種族を滅ぼそうとしたり、星の魔力さえ吸い取ろうとしなければ俺がまた呼ばれることもない。

そのために魔族と獣人たちに力を与えるんだ。三つ巴で永遠に睨み合ってくれるのが一番いい。


「ギルセリオさんはさすがに手が回らないわよね。普通の人たちには気の毒だけど」


「凛? 何も知らなかったとしても、獣人の犠牲のもとで繁栄してきたのよ? 普通に戻るだけよ。地下から魔力を吸い出したのは確かに為政者がやったことだけど、それによる被害は獣人や魔族たちも受けるわ。コウがいたからなんとかなるだけよ」


「そうよね……ダーリンがいなかったら、関係ない魔族やエルフに獣人に竜人、そしてドワーフやホビットの人たちも作物が育たなくて飢えていたのよね。エルフはその前に種の滅亡の危機でもあったし……シルフィの言うとおりね」


「凛らしい優しさだけど神ですらどうしようもなかったんだ。俺たちが全ての人を救うことなんてできないさ。俺が人族には芋しかやらないと決めた。だから凛は気に病む必要はないんだよ」


「ダーリン……」


凛は何も知らない普通の民たちが苦しむのが可哀想なんだろう。

確かに飢えて数は減るだろう。それも体力のない幼い子供が……

リアラを信仰する者も減るがこれについては仕方ない。


地球産の小麦をやれば、人族は余裕ができまた魔導技術を発展させるだろう。そしてヴェール大陸へとやってくる。それは予想しているより確実に早い時期になると思う。

創魔装置は無くとも海の魔物は繁殖してかなり多い。それらを倒して力を付けたら油断はできない。

人族の繁殖力はどの種族よりも強い。

しかし 戦争は大量の食糧がなければできない。国も食糧があってこそ成り立つ。だから今は与えられない。


そもそも俺が地球の作物の種を持って来なければ、この世界の人間は皆が飢えるところだったんだ。

魔族と獣人たちを俺は救った。うん、そう思えば気が楽だな。


それにヴリトラを持ち帰りたいという、リム三姉妹によるベッドでのおねだりに負けてしまった以上、ここには魔石によって創造した上位竜4体を置いていくしかない。能力は中位竜にまで落ちるから、ヴリトラほどヴェール大陸の防衛能力は高くはない。

まあそこは俺が竜の首サイズの結界の首輪を作ってやれば、上位竜並みには戦えるはずだ。さらに二頭一組で行動させる。そこまで徹底すればヴェール大陸の防衛はなんとかできるだろう。


それでもこの帝国にあった魔砲を大量に作られたら危ない。だから最低百年は文明を停滞させていてくれないと困る。それくらいのあれば獣人も今の何倍にも増えているだろうからな。

あとは技術開発をサボらせなければいい。


蘭はヴリトラを持ち帰るのはいい顔をしなかったが、女神の島から普段は出さないことを条件に了承してもらった。そりゃ可愛がっているドーラのストーカーを近くに置きたくないよな。

ドーラは露骨に嫌な顔をしていたがそれは無視した。


仕方ない。あの滅多にお願いごとなどしないリムがお願いしてきたんだ。

そのうえ3人がどこで知ったのか、胸の先端とアソコを絆創膏だけで隠した姿で迫ってきたんだ。そして俺の魔王棒を3人で上目遣いでペロペロしながらお願いしてきたら、そんなのもう断れるわけない。


それにベッドの上でもサキュバス特有の特殊な形状の魔王棒の鞘で、果てても果てても3人で代わる代わるもっともっとと……

あの全てを吸い取られ尽くす感覚……サキュバスよりも凄かった。

さすがサキュバスの上位種だ。性魔人恐るべし。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る