第37話 反乱





「こうきぃぃぃぃ! 死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った! なんで置いて行っちゃうんだよ! 俺は信じてたんだぞ! ポーション飲むたびにそろそろ来てくれるって待ってたんだ! なのになんで先に行っちゃうんだよ! 俺の中級結界であの集中砲火はやばかったんだよ! 何度も破られて鎧の結界もやられて被弾したよ! アイツら味方にまで撃ちやがってさ! 不意を突かれて転移が間に合わなかったんだ! 中級ポーション5つに上級ポーションまで飲むはめになったんだよ! なのになんで! なんで先に……くぅぅ……やばかった……マジでやばかった……」


「お〜光一! 俺はお前ならできると信じていた。だから任せて先に行くことにしたんだ。それに聞いてるぞ? 大活躍だったそうじゃないか。リムが褒めてたぞ? そしてなんと! お前の獅子奮迅の戦いぶりを見ていたサキュバスとダークエルフの中で、光一のファンになったやつがいるそうだ! こりゃ子種を欲しいって言われるのも時間の問題だな! 頑張ってよかったな光一! 」


「え? マジ? 俺の子種を? そ、そうか……ダークエルフだけじゃなくてサキュバスまで……な、なら頑張った甲斐があったな。飛空戦艦もキッチリ確保したしな。あ〜誰だろう……あの時一緒にいた子かなぁ。俺の肩を叩いてウインクしてくれた子かなぁ。へへへ……あとで紫音さんとリムさんに聞いてみようかな」


「おう、聞いてこい! いやぁさすが勇者だな。光一の成長ぶりには驚かされるよ。俺がお前の年の時には1人でここまでの戦果は出せなかった。俺もうかうかしてられないな」


「よ、よせよ! 俺なんてまだまだだよ。まあ光希にそう言われると嬉しいけどな。へへへ……んじゃちょっとリムさんとこ行ってくる! 」


光一はそう言ってリムたちが乗るヴリトラのとこへと転移をしていった。


「女がらみになるとこれほどコロッと気持ちが変わるとは……我ながら見ていて痛いな……」





帝都を陥落させて2日が経過した。


俺は国境で帝国軍を全滅させた光魔王軍を率いるリムから、逃げた敗残兵の掃討完了の連絡があったのでゲートで迎えに来ていた。


するとボロボロの鎧姿の光一が飛んできて、俺に文句を言い始めたから軽くいなしたが相変わらず単純な男だ。もっと痛い目に遭わせないとあの単純さは抜けないだろうな。

俺の若い時ソックリ過ぎて見ていて辛いよ。そりゃ貴族令嬢やサキュバスのハニートラップに引っ掛かるはずだよな。


ああ、帝都はいいのかって?

帝城で皇帝を捕らえた翌日の夜には、以蔵率いる獣人の反乱軍が帝都に到着してさ。

俺は以蔵と静音に紫音や桜をよくやったって労ったんだ。そして反乱軍の者たちと一緒に一晩ゆっくり休んでもらって、今朝からゼルムの指揮のもと皇族と貴族、そして帝城の役人たちを処刑している。俺と恋人たちはそういうのを見物する趣味はないので、リムから連絡が来たのを幸いにドーラと共に光魔王軍を迎えに来たんだ。


ドーラが現れた瞬間ヴリトラが騒ぎ出したが、ヴリトラには俺の許可なくドーラに近づくことを禁止しているからな。遠くから鳴きながら熱い視線をドーラに送っていたよ。ドーラはガン無視してたけど。

でもあまりにヴリトラがうるさいから、蘭に睨ませたらピタッと止まったよ。コイツもクオンと大差ないなと思った瞬間だった。



それにしてもリムから心話で戦果を聞いていたが、光一の活躍はめざましかったようだ。前衛を務めた魔石で創造した魔物と、調子に乗って前に出た魔族の少ない犠牲のみで帝国軍を殲滅することに成功したそうだ。

エルフやダークエルフにサキュバスたちに死者はいなかった。怪我を負った者は多いが、俺が全てエリアヒールとラージヒールで治したから全員ピンピンしている。


これも光一が敵の魔砲を全滅させ、リムたちと共に飛空戦艦を鹵獲した成果だろう。

光一も着々と力を付けているようで何よりだ。


「すごい変わり身よね……光一さんて本当にダーリンなのかしら? どうしても同一人物に見えないのよね」


後ろで光一とのやり取りを聞いていた凛が不思議そうに言う。

俺も同一人物とは思いたくないが、事実アイツは昔の俺にそっくりなんだ。


アイツがいると、常に子供の頃の失敗を彼女の前で友人にバラされてる気分なんだよな。

昔の自分を思い出すと無性に殴りたくなる時があるだろ? 俺は常にそんな気分なんだ。しかもその自分が目の前にいるんだぜ? いや殴らないけどさ、光一は煽てて頑張ってもらわないといけないからな。

我慢だ我慢。俺の幸せのために。


「でも凛ちゃん、性格は似てるわよ? 」


「ん〜お姉ちゃんの言うように確かにえっちなとことか、弱ってる人を見捨てられないところとかはソックリだけど……思考が単純過ぎじゃない? 」


「ふふふ、男子三日会わざれば刮目して見よというでしょ。あと何年かしたら光希のようになるわよ。男の子は成長が早いのよ」


夏海が苦しいフォローをするが、アレはそう簡単には直らない。それは俺が一番よく知っている。

女がらみでは、最低3回は同じ失敗をする必要がある。俺も貴族の令嬢3回とサキュバスで5回失敗して懲りたんだ。サキュバスが多いのは仕方ない。それだけいい女なんだよ、見た目もベッドでも。

いや、言い訳じゃないけどうち2回はサキュバスと気付いていたんだよ。でも、もしかしたら違うかもという1%の確率に掛けて付いていったんだ。そこで死にそうになったけど。


「まあ確かに強くはなってるわね。私も1対1なら長期戦になるわ。ダーリンの過保護過ぎる装備があるから負けはしないけど、勝つイメージも湧かないのよね」


「私も長期戦になって苦戦するわ。うかうかしてたら追い抜かれるかも」


「凛と夏海はまだ光一には負けはしないよ。今はな。アイツが異世界に召喚されたらわからないけど」


雷神島や時の古代ダンジョン。そして浮遊島がまだある世界に行けばわからない。ただ、時の古代ダンジョンは蘇生以外なら手に入るが、蘇生は俺が持っているから手に入れることはできない。

それは蘇生魔法を手に入れられるのは後継者だけだからだ。ヴリエーミアは俺に口説かれてその後継者に俺を選んだ。彼女は一途で浮気をしないから手に入れるのは不可能だな。

ああ、ヴリエーミアは俺を時の神にしたら家庭に入るそうだ。神界にも寿退社とかあんのな。

そして男は永久就職……やっぱ死にたくねえや。


「蘭は並行世界の蘭に会いたいです! 大狐嵐動を一緒に撃ってみたいです! 」


「ランちゃん世界を滅ぼす気なの? 」


シルフィがドン引きした顔で蘭にそう言った。

確かにどこの世界でも余裕で滅ぼせるな。


「あははは! 蘭が2人とかやべえな! でもよう? あたしたちは蘭が一番だって認めてるけど、蘭がもう1人いたら旦那さまの取り合いになんねーのかな? 」


夜はみんな蘭の弟子だからな。シルフィでさえ、ベッドで俺の魔王棒を前に蘭の舌技の教えを受けている。おかげでシルフィの舌技も相当なレベルに達した。

蘭は俺の全てを知っているというか、蘭に俺が開発されたというか知らぬ間に調教されてたというか……俺は蘭のあの口と舌と指と腰のテク無しでは生きられない身体にされてしまったからこれは仕方ない。

俺は蘭に胃袋も黄金の袋も握られてるんだ。


「うふふ、大丈夫です。2人で主様に尽くします。主様は蘭が2人いたら喜んでくれるはずです」


「あ、ああ……そうだな」


蘭が2人……普段はともかく発情期は超精力剤があっても軽く死ねる……

休む間も無く代わる代わる蘭があの口と舌で俺の魔王棒を元気にさせ上に乗り……

ぜ、絶対に並行世界にはもう行かない! 絶対だ!


俺は年に1回だった蘭の発情期が、度重なる異世界転移の影響なのか2回になっている現状で、蘭が2人になったことを想像してその恐怖に震えていた。




そんなifの未来を皆で想像しているうちに、光魔王軍をまとめ集結させ終えたリムから心話が入った。

俺はリムの騎乗するヴリトラの背に行き、リムとミラとユリを労いそれぞれの乳と尻を揉みながら抱きしめてキスをした。そして今夜部屋に行くと3人に伝え、嬉しそうにするリムたちを背にゲートを帝都へと繋げた。

今日は帝都の外で野営して明日ヴェール大陸に帰る予定だ。


そして軍にゲートを潜らせ、ダークエルフとサキュバスと仲良く話しながら歩く光一を生温かく皆で見守り、俺と恋人たちが最後にゲートを潜ろうとした時に以蔵から心話が届いた。


《 お屋形様。お忙しいところ申し訳ございません。私が連れてきた獣人の反乱軍を殺す御許可を戴きたく……》


「おいおい、どうした。何があった? 」


俺は以蔵から伝わってくる抑えきれない怒りの感情と物騒なセリフに驚き、状況の説明をするように言った。そして後ろで何があったのか俺を見る恋人たちにも心話を繋いだ。


《 はっ! 申し訳ございません。実は……》


以蔵の話をまとめると、帝都で住人の一部と反乱軍の獣人2万に勇光軍の獣人2千。そして以蔵やサキュバスたちの部隊300が見守る中で処刑が行われた。処刑は役人のあとに貴族の成人した男子、皇位継承権のある成人男子、最後に皇帝という順で行われた。見物していた獣人たちは大興奮していたようだ。

ここまではいい。リンデール王都と同じ展開だ。


しかし今回処刑を行なったのはエルフではなく獣人だ。

それゆえに事件は皇帝の処刑が終わったあとに起こった。

獣人の反乱軍のある虎獣人が、皇族の女子供と貴族の女子供も処刑しろと騒ぎ出したそうだ。そしてそれが瞬く間に2万の反乱軍に広まり、殺せ殺せと大騒ぎしだした。


以蔵たちダークエルフやサキュバス。ゼルムを始め勇光軍の2千の兵たちは、騒ぐ獣人たちを必死になだめたそうだ。女子供を見逃すのは俺の命令だと、従わないと大変なことになると抑えようとした。

が、相手は10倍近い人数のうえ魔銃を手に持ったままだ。その魔銃で帝都に来るまでに帝国兵を殺しまくったことで自信が付いたんだろう。

反乱軍は虎獣人の扇動のもと、貴族や皇族の女子供を監禁している帝城に入ろうと詰めかけた。


ゼルムは反乱軍を帝城の入口で抑えながら、同胞だからと我慢していたそうだ。ここで手を出したらランク差から死人が出ると。せっかく帝国の支配から解放された同胞たちを、こんなことで死なせたくないと。

反乱軍たちもさすがに自分たちを解放してくれた以蔵たちや、光魔王軍に恩を感じているのだろう。銃を向ける者はいなかったが、誰かが撃てば戦闘となるのは誰の目にも明らかだった。

以蔵もなんとか俺の留守中にトラブルを起こさないよう、冷静に獣人たちを問い正そうとした。


しかしその判断が間違いだった。

早い段階で首謀者を殺し、残りは殴って従えさせるべきだった。


帝城に詰めかける反乱軍の後ろで突然銃声がしたのだ。

その場にいた誰もが、誰が誰を撃ったのか振り向いたそうだ。

反乱軍たちはマズイという顔で、ゼルムたちは殺気のこもった目で。


そして全員の視線が集まった場所には、帝国の一般人と思われる4人の家族らしき人たちが胸を撃たれ血だらけになって倒れていた。父親と思われる男性にその妻と思われる女性、そして10歳に満たない女の子にその子の盾になるように倒れていた12歳ほどの男の子。


以蔵と静音、そして紫音に桜はすぐに動き、撃った者たちの首を刎ねた。一般市民は全員即死だったそうだ。

そして以蔵は怒り、光魔王であり勇者である俺の命令を聞けないなら全員ここで殺すと言い放った。

反乱軍たちはその光景を見て青ざめ、銃を手から離し騒ぎは収まるかに見えた。


ところが虎獣人は同胞を殺したと言い放ち、以蔵たちに銃を向けた。強制労働地区から解放してくれた以蔵たちにだ。

ゼルムは撃てば殺すとその虎獣人たちに言い、現場は一触即発の状態となった。

ここで以蔵は俺へ獣人たちを殺す許可の連絡をしてきた。


《 申し訳ございません。私の力及ばず……》


「もう少し早く連絡が欲しかったな。まあ手遅れではないからいいけど」


以蔵に反乱軍は任せてたから、以蔵が判断してやったことなら別に文句は言わないが……さすがに2万の獣人を殺したらマズイな。後方に家族もいるし、家族を殺された恨みが今後余計な火種になりかねない。

紫音と桜も心話が使えるんだから、連絡欲しかったよな。いや、さすがに頭領であり親である以蔵は飛び越えられないか。忍びの掟ってやつかもな。ダークエルフだけど。


《 ……申し訳ございません 》


「いいさ、とりあえず撃ってきたら殺さないように無力化しろ。そしてその虎獣人を唆している奴を特定しろ」


あんな魔銃程度ならゼルムたちでもギリギリだがレジストできる。無傷で無力化できるだろう。

それに俺は今回の件を単純思考の獣人らしいなと思いつつも、恩人に銃を向けるまでやるのは裏で悪知恵を働かせている奴がいるからだと思っていた。普通の虎獣人は義理堅い。そこまではやったりしない。

だとしたら虎獣人に野心を植え付け、目的のためならば仕方ないと唆した奴がいるはずだ。


恐らく狼か鼠人族だろう。この二種は頭が回る奴が多い。その知能を利用して、純粋なほかの獣人種たちを騙す奴が一定数いる。勇光軍にはいない。強い獣人のリーダーが常にいたし、リンデールに追い込まれている時にそんなことをしようものなら即仲間に殺されるからな。


ただ、これまでずっと強制労働地区にいた奴らは別だ。周りには同胞しかおらず、リーダーも帝国の奴隷でありそこは小さな王国だ。

同胞を騙し唆し、リーダーを利用して奴隷でありながらもそれなりに私服を肥やしていたんだろう。

そんな時に俺たちがリンデールを滅ぼし帝国も滅ぼそうとしているという話を聞き、その証に王国製の大量の武器や物資を提供してきた。これはもしかしたらと思ったのだろう。


そしてダークエルフたちに先導されて、貴族の領地を蹂躙して回った。その圧倒的な勝利に野心が芽生えたのかもな。


この大陸が狙いか? 今後のことを見据え、俺がいないうちに皇族と貴族の血筋を根絶やしにして人族がまとまらないようにしたかったか?

俺が国境の軍を迎えに帝城から離れたことを知り、5万の軍を引き連れて戻るなら1週間以上は掛かると見て動いたか? ゼルムたちと以蔵やサキュバスは、自分たちの10分1の数しかいないから今がチャンスだと?


しかもここまで帝国兵を倒してきた魔銃や魔砲がある。できれば殺したくないが、いざとなったら勝てると思ったか? そしてゼルムたちも同胞には手を出さないと踏んだか?

そして俺が戻るまでに獣人をまとめ、俺に獣王国復興を宣言して認めてもらおうと考えていたのかもな。

自分たちを助けた勇者なら、自立を認めてくれるはずだと。


獣人はエルフやドワーフにホビットたちと違い人に近い。

基本的には純粋な者がほとんどだ。しかしときおり人族並みに悪どいことを考える者もいる。

確かに人族に利用されないためにはそういう者も必要だ。全員が単純で純粋だったら、他種族に知らないうちに奴隷にされるだけだ。仲間うちで騙し騙される経験は必要だ。だからそういった者たちは必要悪でもある。


しかしだ。


舐められたものだな。

ゼルムたちも俺も。


《 リム。獣人の反乱軍が今度は俺たちに反乱するそうだ。ヴリトラで帝城の上空を飛んで威嚇しろ 》


《 ハッ! 光魔王様のお慈悲で助けられたことを忘れ反乱を起こすとは……恩知らずの者たちはこのヴリトラで怯え震え上がらせてやりましょう》


《 ああ、ドーラと俺がいなくなった途端に威勢が良くなったみたいだからな。せいぜい脅かしてやれ 》


俺はそう言って心話を切り、騎乗しているドーラにゲートを潜らせた。


「私たちに助けられたのに随分ね……」


シルフィがオープンにしていた心話を聞いて、ため息混じりにそう言った。

まあシルフィは少し納得してる感じだな。獣人には種族が多いから、色んな奴がいるってのをわかっている。


「獣人は義理堅い奴が多いんだけどなー。悪知恵の働く奴もいるからなー」


セルシアも過去にそういうのに会ったことがあるようだ。頭の後ろで両手を組み、やれやれって顔をしている。


「恩知らずもいいところよね。ダーリンを知らないからできるんでしょうけど」


「うふふ、虎ちゃんはおいたをする子が多いですね。また躾をしないといけませんね」


蘭はリチャードのとこにいた虎獣人を思い出しているようだ。確かガイルだったか。四肢を切り取り目をえぐってたからな。あれを躾という蘭が2人とかやっぱ俺には荷が重いかも。


「ははは、確かにな。脳筋だから利用されやすいよな。まあ今回は首謀者を殺してあとは腕や足の2〜3本ほどで勘弁してやるさ。後方に家族もいるからな。世代交代したあとにヴェール大陸で分裂しても面倒だし」


家族を殺された恨みは根深く残る。それは残された子が引き継ぎ、その子がまた引き継ぐ。

ゼルムたちが寿命で死んだあとに、弱体化した獣王国で反乱を起こすかもしれない。

なら殺すのは少数だ。恩知らずな奴らだ殺されて当然だと、大多数の獣人に思われる範囲の人数でないといけない。虎獣人とその取り巻きは見せしめに殺す。これは生かしておくと派閥を作る。

一度でも反乱を企てた者は生かしておいてはいけない。許されればまた必ずやる。


「まったく……全部終わったあとに面倒な奴らだ」


俺はため息を吐きながらドーラを帝城へと飛ばした。









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