第34話 帝都へ





「殺し間か……さしずめムーアン大陸の入口にあるあの砦は餌か? 」


「そうみたいだ。あの砦には人の魔力反応が無い。恐らく砦を占拠したタイミングで魔砲の嵐かもな」


リンデール王都を占拠して3日。俺たちは王都にいた獣人とドワーフにホビットたちをヴェール大陸に移動させ、あとはギルセリオに王都を任せた。

そしてゲート魔法をフルに使い、王都東にあるほぼ無人の貴族領を3日掛けて蹂躙していった。魔族にその任をやらせたから、王都陥落を知った貴族が降伏したくてもできなかったようだ。


これが獣人やエルフだったら降伏してきただろう。それを見越して魔族たちにやらせたんだけどな。

貴族なんかこの大陸には必要ない。そんなもの残してもギルセリオと内戦を起こすだけだ。

そうなればただでさえこれから苦しい生活を強いられる民が、さらに苦しむことになる。つまりリアラを信仰する者が減る。


そうしてオルガス帝国に逃げた貴族以外全ての貴族の当主とその一族の男を殺し、女と子供(男女)は3つの大陸の真ん中にあるハワイほどもある島に移動させた。

十分な食糧とこの世界の作物の種を渡し、武器と農機具に関連書物も渡したからあとは自活するだろう。さすがに幼い女の子が可哀想だったから、貴族の屋敷をいくつか丸ごと転移で持っていった。甘いか、甘いな。


コイツらは大陸に残された民より今は待遇が良いが、将来島の原住民として近代化した大陸の者に発見される運命だ。周りは海の魔物だらけだからな。


まあそんな感じで最後に国境で帝国と対峙していた王国軍を軽々と撃破し、俺たちはアトラン大陸を征服した。

そして現在アトラン大陸とムーアン大陸を繋ぐ狭い緩衝地帯に展開している。目の前にはオルガス帝国の砦があり、そこから数十キロ先がムーアン大陸だ。

しかし砦は兵がいるように偽装をしてはいるが、探知の魔法を使える俺たちにはもぬけの殻であることはバレバレだ。

恐らく対地対空と万全の体制で待ち構えているんだろう。

ゲートで敵の真後ろに出てもいいんだが、ここは光一を活躍させようと思う。



「そうだな光一、ちょっと1人で行って砦の後方の丘に隠れて展開している魔砲や、魔力障壁装置を載せてる車両壊してこいよ。その後に魔族とエルフを突入させるようにする。光魔王軍が突入したら、光一は吸血鬼を連れて転移で飛空戦艦の鹵獲も頼むわ」


「ちょ、えええ!? 俺1人で!? あの殺し間に!? 」


「なんだ? 転移を使えば余裕だろ? 上級魔力回復薬もたんまりやったしそれに後ろを見ろよ、多くのエルフに獣人にサキュバスたちが見てるぞ? ここは勇者としての存在をアピールするとこじゃないのか? 王都の東門を攻撃した時の光一はカッコ良かったってダークエルフたちが噂してたぞ? 」


「ゴクッ……ダ、ダークエルフがか? な、ならやってみようかな。あ、危なくなったら助けに来てくれるよな? 」


「当たり前だろ? 兄を信じろ弟よ。俺は決して光一にできないことはさせない。今までもそうだったろ? 」


「た、確かに……いつももうダメだって時は光希が助けてくれていた。ほとんどが光希によって追い込まれた時だったけど、下半身が吹っ飛んだ記憶が無かった時は怖かったけど……ま、まあやってみるよ。お、俺紫音さんみたいなえっちなダークエルフと仲良くなりたいし! 」


「うむ。確かに紫音はエロいな。俺もそろそろ手を出しそうだ。まあそうだな、うまくいったら飛空戦艦を一つやろう。夏美さんたちが喜ぶぞ? 方舟フィールドの空を旅しながらなんてロマンチックだろ? 」


「マジか! やる!鹵獲しまくってやる! 」


「よしっ! 決まりだ! 光一よ! 強さを示せ! 世界を救えるほどの勇者であることを証明しろ! 」


「ああ! 証明してみせるさ! 」


光一はそう言って最前線へと転移していった。


うん、チョロい。

方舟には精霊神の加護がないからエルフたちを定住はさせられないが、光一が上手く口説けたなら俺が方舟に集金に行った時に一緒に俺の世界に連れてきてやる。帰すのは1ヶ月後になるが、そこは光一が夏美たちにうまく言い訳するだろう。通い夫ってやつだな。


この世界からエルフたちを連れ帰れば、ダークエルフも合わせて1000人規模になる。それだけいればエルフにとってはイケメンの光一だ。誰かしら光一に口説かれるだろう。そして光一はエルフたちと一緒に住むために、精霊神やリアラの依頼を受けるようになる。報酬として方舟のフィールドに精霊神の加護を得るためにな。ふふふ……我ながら完璧な計画だ。



「うふふ、主様。光一さんは頼もしいですね」


「ああ、アイツは俺たちの救世主だよ。是非頑張ってもらいたいな」


俺は頭上で滞空しているドーラから転移し、隣に現れた蘭にそう返した。

どうやらそのキュートは狐耳で聞いていたようだ。


「蘭もドラちゃんとスーちゃんと遊ぶ時間が欲しいです。子作りもいっぱいしないといけませんから、光一さんには期待しています」


「大丈夫だ。俺たちの勇者ならやってくれるさ」


そう、勇者ならきっと俺たちを救ってくれる。勇者なら……

なるほど、勇者に期待する人の気持ちはこういう感じだったんだな。


俺と蘭は最前線で光一がシルフの力を借り、光魔王軍全軍に向かって『俺が単騎で突入して敵兵器を殲滅してくる! 』とか叫んでいる姿を眩しいものを見るかのように目を細めて眺めていた。


そしてエルフたちの声援を背に黒魔剣を振りかざし、砦方面へと転移を繰り返して単騎で突入する光一を見送って俺は獣人部隊に心話で合図を送った。


《 ゼルム! 獣王国を滅ぼした帝国へ復讐の時間だ! 》


《 おうっ! 先祖の無念晴らしてやるぜ! 》


《 エフィルとララノアはここに残りエルフ部隊を率いろ! 光一が敵を沈黙させたらリムの号令で突撃しろ! 》


《 はい! 新勇者光一の後に続きます! 》


《 三太夫、小太郎と孫六がいないがダークエルフたちを頼んだぞ! 》


あの二人は別働隊として以蔵と共に帝国領にいるからな。


《 承知! 少数でも問題ござらぬ。殿のご期待通りの戦果をあげてみせるでござる! 》


《 トータスはセルシアがいないからと暴走するなよ? 》


《 勇者様、若返ったからといって昔と同じではございませぬ。ご安心くだされ 》


よく言う。あのセルシアが抑えるのが大変だって言ってたぞ。


《 ならいい。ではこれより俺と獣人部隊は帝城に乗り込む! 後は頼んだぞリム! 》


《 ハッ! 光一殿の合図の後に突撃します! 光魔王様、帝城で! 》


《 ああ、帝城で会おう!『 ゲート』 》


俺は各人に指示をした後にゲートを開き、すぐ後方に整列していた獣人部隊2000を潜らせた。

そして最後にドーラの背に乗る恋人たちと俺が通り、ムーアン大陸の国境を後にした。


ん? 光一が危なくなったら助けないのかって? 転移があるから多分大丈夫だろう。俺はそんなにヤワじゃないからな。これは光一に対しての信頼だな。




ゲートを潜ると帝城から南30km地点にある高い山に囲まれた古戦場に出た。ここは俺と蘭がムーアン大陸奪還作戦で魔王軍と激戦を繰り広げた場所だ。


「懐かしいな」


「はい。ここで多くの仲間が死にました」


「魔王軍の数が思ったより多かったからな。共に戦った者たちの末裔を滅ぼすのか……まったく、嫌な仕事だ」


家族を、仲間を頼みますと言って散っていった人族の戦士たちの末裔を、俺が殺すことになるとはな。

将来獣人たちが人族を滅ぼそうと動いたら、その時は絶対に光一にやらせる。俺はもうゴメンだ。


「主様……」


「コウ、でもここで手心を加えれば、そう遠くない未来にヴェール大陸に人族は復讐に来るわ。ヴェール大陸で獣人やドワーフにホビットの皆が力を付けるまで、ここで弱らせて時間を稼がないと」


「わかっているさ。とっとと終わらせて帰ろう。俺たちの家へ」


「はい! 主様! 」


もうここへ来た目的のエルフは救った。あとはお持ち帰りをして、未婚でフリーのエルフたちを海辺のヌーディストビーチに誘うだけだ。

そしてエルフの男どもを薬漬けにして、まずはエルフを10倍に増やす。今度は俺の手でエルフの楽園を作る。


「ギルドの運営も中途半端だし、早く終わらせて帰りましょ 」


「私も会社が心配だわ」


「私はお祖父様たちが何か問題を起こしてないか心配で……」


「あの人たちはほっとけばいいさ。日本にいないしな。それに凛、時の流れが違うからこの世界に1年いても向こうじゃ2日しか経ってないから心配するな。半年で帰れば1日だ」


「あっ! そうだったわ! 方舟に行った時よりも短いのね。半年で1日ってなんだか複雑ね……でも元の世界の暦で歳は増えるから……徳したのかしら? 」


「ふふふ、凛ちゃん光希と一生を過ごすなら歳は数えるのはやめましょう。シルフィに怒られるわよ? 」


「ちょっと夏海? どう言う意味よ。見た目が若ければいいのよ見た目が。 私は永遠の20歳よ! 」


シルフィは182歳。


「ふふふ、ごめんねシルフィ。私も見た目は20歳だから同じ歳ね」


27歳の夏海とシルフィが同じ歳とはさすがにそれは……


「ちょっとコウ! なによそのえ〜って顔! 私の歳を数えたでしょ! 」


「か、数えてないさ。これから生きることに飽きるまで一緒にいるんだ。歳なんて数えてるのは最初だけだろ。そのうちどうでもよくなるさ」


女の子が751歳の誕生日とか祝う気になれないだろうしな。


「あははは、そうね。歳なんて気にするだけ無駄よね。ダーリンとずっと若い姿のままで一緒にいれるんだし」


「そうだよ。30代の皆を見てみたいけどな。まあそれはいつか試せばいいさ。さて、それじゃあ進軍してとっとと帝都を陥落させるか。帝国に逃げ場はないしな」


俺はそう言って女性にとって微妙な話題から逃げた。

そしてゼルムに心話を送り、獣人部隊を前進させた。


以蔵と小太郎たちには王都を攻める前から、帝国の北に複数ある獣人保護エリア。まあ強制労働エリアだな。

そこの獣人たちとサキュバスと組んで接触させていた。大量の食糧を手土産にな。

そして3日前に王国軍との決戦や王都攻めの際に鹵獲した魔銃や魔砲、装甲車や兵員輸送トラックなどをゲートで各エリアに配ったところだ。


そしておととい帝国に強制労働させられていた獣人たちが一斉に蜂起した。

ダークエルフとサキュバスも付いていることもあり、保護エリアを見張っている帝国兵如きは鎧袖一触だったそうだ。その後反乱軍となった獣人たちは、そのまま南下して北の貴族領を占領しながら帝都へと向かっている。戦闘に参加しているのは男の獣人のみだが、それでも2万はいるそうだ。


帝国は国境から兵を削るわけにもいかず、帝都の防衛軍を一部差し向けたらしい。

帝都付近に潜ませているサキュバスの報告では、帝都にはもう1万ほどしか兵がいないとのことだ。


貴族たちはほとんどの兵を帝城の守りと国境に派遣しているから、あっという間に蜂起した獣人たちに領地を蹂躙されている。一応民間人と女子供には手を出さないようには言ってあるが、ずっと虐げられてきたからな。光魔王軍とは違いそこまで統制は効きにくいため、以蔵たちも抑えるのが大変なようだ。


さて、これで皇帝は逃げ場が無くなった。あとはトドメを刺すだけだな。






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