第9話




「お客さんは探索者なんですか?」


 俺は蘭を抱き抱えながらタクシーに揺られ、ぼーっと元の世界とあんまり変わらない景色を見ていたら運転手さんがそう話しかけてきた。


「ええそうですよ」


「でしたら八王子皇すめらぎショッピングモールに行けばいいですか?」


 ん? 皇ショッピングモール? 探索者かと聞いてからショッピングモールへと言うからには、素材買い取りショップやアイテム販売店や武器防具販売店やらが固まってある場所ってことかな?


「ええそうしてください。少々買っておきたい物がありますので」


「分かりました」


 そうしてしばらくするとゲートが見え、そのまま車で中に入ると元の世界にあったショッピングモールのようにいくつもの建物が並んでいる所の前のロータリーで車が停まった。俺は料金を払ってタクシーを降り周りを見渡すと、7階建て位の建物が等間隔で並んでおりその後ろに大きな倉庫っぽいものや公園が見えた。

 俺は蘭を連れ取り敢えずショッピングモール全体の案内板があるところまで行き確認する。


「やっぱりダンジョン関係のショップばかりだな。魔道具、鉱石、魔獣素材の販売買い取りショップ、武器防具販売店、質屋もある」


「なんだか王城のような高い建物が多くて蘭は目が回りそうです」


「ははは。そうだな。あっちだと高くても三階建てだしな。それよりまずは相場を調べてくるか」


 俺は素材店や鉱石店を周り買い取り価格表を確認し、不自然ではない大体の売るものを決めながら魔道具店がある建物へと向かった。

 この建物は1階が軽食エリア、2階から5階が魔道具売り場で6階が買い取り窓口となっているようだ。

 1階にはクレープ店があり蘭の興味津々な視線に負け買って食べることにした。


「あ、主様!甘いですおいひーです」


 蘭が苺とチョコと生クリームのクリームを頬張り、その切れ長の目をぱっちり開けた後に幸せそうに垂らして美味しそうに食べている。


「ほら、蘭ほっぺに生クリームついてるぞ」


 俺はハンカチで拭ってやり蘭が食べ終わるのを待つ。

 ほどなく食べ終わった蘭を連れ、まずは5階にある収納系魔道具売り場へエレベーターで向かった。


 5階に着くと流石に高額商品らしく鍵付きショーケースに入れられたアイテムポーチやアイテムバッグが展示されていた。

 アイテムポーチやバッグなどはダンジョンの宝箱から手に入れるか、中級空間魔法と中級付与魔法の2つを持っている者であれば作れる。

 収納できる大きさは見つけたダンジョンのランクで決まり、魔法で作る場合は使用する素材や魔力値によって異なる。中級ダンジョンで見つかるのは殆どポーチ型で容量は20倍程度が一般的だ。上級ダンジョンだとショルダーバッグやリュックサックなどのバッグ型になり、容量が30倍ほどのものがある。

 蘭が持っているポーチは俺の特別製で、ドラゴンの皮で作ったものなので6帖程の部屋に入るくらいの容量がある。


「なるほど。この世界では収納系の魔道具はかなり高いんだな。需要と供給の差か」


 異世界に比べ人口が多く、探索者の数が多い割に高ランクダンジョンに入れる探索者が少ない。これはダンジョン以外でも魔獣が頻繁に現れる異世界と、ダンジョン以外では魔獣が殆ど現れない地球との差なのかもしれない。

 だから地球では上級ダンジョン以上で手に入る中級空間魔法の魔法書や、中級付与魔法の魔法書を手に入れにくいのかもしれない。そうなるとダンジョンの宝箱からの供給を待つ事になるから、出回る数が少ない。

 ここに展示されているのも全てダンジョン産の物のようだ。


「しかしポーチ型で300万かよ。バッグは2つしかなくて2000万とか……」


 そろそろ店員の視線が痛くなってきたので6階の買い取り窓口へ行くか。いくつかここで売ってしまおう。

 6階に行くと正面に買い取り窓口が5つあり、軽く鑑定をしてその中央窓口にいる初老の男性のところに向かう。


「すみませんいくつか買い取りお願いしたいのですが」


「いらっしゃいませ。どうぞこちらにお掛けください」


 60代位の白髪が目立つ長い髪をオールバックにして後ろで結んでいる男性が、俺があらかじめ肩にかけていたバッグをチラリと見ながら俺達を席に促した。

 俺は肩に掛けていたバッグからポーチを3つ出し、バッグと一緒にカウンターの上に置いた。


「これは……」


「この4つを買い取って頂きたいのですが」


「全て収納系魔道具ですね。しかも容量が通常の物より大きい……」


 話が早くて助かるな。5人いた中でこの人だけが鑑定魔法を持っていて、あと名前が『皇』だったんだよね。


「失礼ですがこれをどちらで?」


「私の祖父から譲り受けた物でして……」


「左様でございますか……」


 まあ、見ればわかるよな。ダンジョン産と違いデザインが野暮ったくないし、素材は良いの使ってるし明らかに魔法で造ったものにしか見えないもんな。容量も店売りの倍だしな。


「それでおいくら位になりそうですか?」


「はい。こちらのポーチが1つ600万円。バッグが5000万円でいかがでしょうか?」


 うーん……まあデザイン製や耐久性を考慮して買い取りならこんなものかな。

 ポーチにしろバッグにしろ激しい戦闘を行った際に、内側に付与されている魔法陣が破損したら中身にあるものを全てぶち撒けて使えなくなってしまう。


 その為ダンジョン産の物は外側に耐久性のある素材で覆う為に、元の大きさより大きくなってしまい携行性や動きやすさに影響が出る。なので最初から耐久性のある素材を使い、魔法で造られたものの方が人気があるし高い。


「はい。その金額でお願いします。お金はこちらに振り込みできますか?」


 そう言って俺は探索者タブレットに表示されている探索者協会銀行の口座を見せる。


「はい問題ございません。それではお振込みを致しますので少々お待ちください」


 皇さんはそう言ってポーチとバッグを持って裏の事務所に行き、少しして俺の口座に6800万円が振り込まれたのを確認できた。


「お待たせ致しました。入金確認お願いします」


「はい間違いなく確認できました」


「倉木様。本日は大変貴重なアイテムをお売り頂き誠にありがとうございました。またアイテム等お売りになる際は、是非私共にお声掛け頂けますようお願い致します。ご連絡頂けましたら私が買い取りにお伺いさせて頂きますのでお気軽にご連絡ください」


 他の受付窓口や事務所にいた人が全員出てきて一列に並び、皇さんがそう言って頭を下げると同時に全員が頭を下げてきた。


「あ、はい」


「こちらが私の連絡先となります」


「はい、ありがとうございます。また何かあれば連絡させていただきます。では」


 皇さんが名刺を渡してきたので受け取りその場を後にする。


 エレベーターで1階まで降り喫茶店に入って少し休憩する。

 俺はコーヒー(本物)を頼み蘭にもケーキと紅茶を頼んであげ2人でゆっくりする。


「主様。ろくせんまんと言うのはどれ位のお金なんですか?」


 蘭にはこちらの世界に連れてくると決めてから5年ほど日本語を教えていたからかなり話せるが、お金の価値までは教えてなかったなと俺は苦笑いする。


「そうだなぁ。大体異世界で言うところの白金貨6枚かな」


「白金貨ですか! そんな大金だったんですね〜」


「さっきのクレープが大銅貨5枚てとこかな」


「あら結構お高いんですね」


「まあ物価が全然違うからな。向こうじゃ白金貨6枚あれば一生遊んで暮らせるが、こっちだと普通に生活して20年くらいじゃないか? 俺は贅沢したいからそんなにもたないけどな」


「確かにあちらとは乗り物や建物など全然違いますね。蘭は主様さえいれば贅沢なんてしなくてもいいんですが……」


「そう言ってくれるのは嬉しいが、俺は蘭にもっと良い服を着て欲しいし美味しい物を食べさせてあげたいんだよ」


「主様……主様にそう思って頂けて蘭は幸せです」


 嬉しそうな眼差しを向ける蘭に、なんだか恥ずかしくなり俺は頭を少し掻いてその場を誤魔化すのだった。


 その後参考程度に武器防具ショップを見に行くと、流石にこのショップには多くの買い物客がいた。皆がチラチラと蘭を見ている視線を感じたり、科学と魔法が融合したなんだかSFチックな防具を見たり、柄だけと思ったらスイッチを入れれば光の剣が現れる数百万円の剣を見て驚いたり、しかも鑑定したら威力が灰狼の防御を貫く程度な事に更に驚いたりした。この世界で武器防具なんて買う事は無いなと思った。そうしてなんだかんだと冷やかして見て回った。


「まあ大体わかったから駅前の方に行って洋服とか携帯とか生活用品買い揃えよう」


「はい主様」


 俺たちはタクシー乗り場に向かい再びタクシーに乗り込み、八王子繁華街へと向かった。

 10分程で八王子繁華街に着き、まずは携帯ショップに行きスマホを2台契約して1台を蘭に渡した。

 スマホは住所が無くても探索者証と協会の口座だけで契約ができた。


「主様。これが以前言われていた遠くの人とお話ができる魔道具ですか?」


「そうだよ。蘭とは従魔契約で念話ができるが、これがあればこの国の知っている人と話すことができる」


「はぁ便利な物なんですね」


「蘭も今後仲良くなった人がいたらこの番号を教えてあげればいつでも話すことができるぞ」


「うふふ……それは楽しみです」


 向こうの世界に蘭と仲良かったギルドの受付嬢や宿屋の娘や市場のおばさんがいた。俺に付いてくることになってもう会えなくなってしまったからな。蘭は寂しく感じてるだろうし俺も申し訳ない気持ちがあるが、そんな事言ったら蘭に怒られるだろうから言えない。

 ただ俺はこの世界でも蘭に友達を作って楽しく過ごして欲しいと思う。


「よし、次は着る物を買いに行くぞ」


「はい主様」


 そうしてデパートに入った俺たちはレディースの服飾階に行き、ブランド物とか関係なく気になるショップに入った。そしてデニムやワンピースにブラウスやタイツやら、今流行りの服を店員さんにコーディネートしてもらい各ショップで服を大量に買いまくった。更に必要あるか分からないが、レディーススーツまで買いその階にあるショップの殆どを制覇し下着売り場に向かった。


「うっ……流石にここは抵抗あるな…」


 他の女性客が数人いる中に入る勇気は無く、複数人いる店員さんの1人に声を掛けて蘭が気になった物は全て買うので下着の付け方を教えてあげて欲しいと伝えた。そしてかなり恥ずかしいかったが、俺の好みをそっと伝えてコーディネートをお願いした。


「はい! お任せください」


 そんなニヤついた目で俺を見て言うなよ恥ずかしい!


「蘭、少し離れるからそこの店員さんに色々教わって好きなだけ買っていいからな」


「はい分かりました主様」


 俺はその場を離れメンズ売り場に行き、自分の服や下着に靴を買った。それと時計をペアで買い時間を潰した。


『主様終わりました』


 小一時間程して蘭から念話が届いたので、会計をしに下着売り場へ向かった。そこには大量の下着を手に抱えた蘭がいて、俺は早々に支払いを済ませた。


「どうした?」


 エレベーターで1階に戻る途中隣で蘭がニッコニコしてるので聞いてみると。


「早く主様に見て欲しいです」


「そ、そうか」


 早く俺も見たいです。


 デパートを出た俺たちはそこそこ高級そうな中華料理店に入り食事をし、そこそこ高級そうなホテルに向かいツインの部屋を取った。

 部屋に入ると蘭は脱衣所に行き、買ってきた下着を次々に身に付けてベッドルームで俺に見せてきた。


「主様主様! 凄いんですこの国の下着! スッケスケなんです! お尻丸見えなんです!」


 蘭が大事な部分以外はスッケスケの黒のショーツとレースのブラを見せながらクルリと回り、そのスケスケショーツを押し上げているムチムチのお尻を見せて言う。

 グハッ! 想像以上だ……これはヤバイ!

 俺がムラムラして襲い掛かりそうな自分と戦っている間に、蘭は次々と着替え白、赤、青、紫とカラフルな下着を俺に見せつけて反応を見ている。


「ああ、似合ってるよとても綺麗だし刺激的だよ」


「うふっ♡嬉しい」


 俺はなんとか平静を装いクールな大人を演じて言う。

 だが次に蘭が付けてきた下着はベビードールの下着で、横から見るとお大きく真っ白な胸の殆どがはみ出していた。

 そしてトドメとばかりに後ろ向きになり、殆ど丸見えのムッチリとしたTバックのお尻を見せながら上半身を少しひねり振り返った蘭は少し恥ずかしそうに……


「どうぞ召し上がれ♡」


 恐らく店員さんに仕込まれたのだろうそのセリフを恥ずかしそうに言う蘭に……俺は我慢できず襲い掛かった。


「きゃっ♡」


 その日の夜は朝方まで色々な下着を着けさせては脱がせ、蘭を美味しくいただいた。


 店員さんグッジョブ!!





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