第19話 参戦






「勇者様! 蘭様! ギルセリオです! グレン・ ギルセリオの子孫のアラン・ ギルセリオです! 」


「あの男がアランか。300年も経つのに目だけは師匠にそっくりだな」


「確かにあの真っ直ぐな目はグレンさんに似てますね」


「あの人がダーリンの師匠の末裔? 厳つい顔なのに綺麗な目をしてるわね」


「ああ、しかしまさか王国を裏切るとはな。王国の監視に限界を感じたか」



各砦から救出したオーク繁殖施設にいた獣人たちを西の砦にゲートで移動させた後、俺は攻撃に参加した者たちを回収しにもう一度各砦にやってきてゲートを開き回収していた。


そして凛と蘭が攻めていた王都に一番近い砦にやってきたところで、小太郎から第一騎士団が王国を見限りこの砦まで来ているとの報告を受けた。

なんでも獣人たちの救出にこの砦にやってきたところ、俺たちが先に砦を攻撃しており付近でそれを眺めていたらしい。


それを聞いてとりあえず俺はゲートを開き魔族たちを移動させ、凛と蘭を連れて第一騎士団が待機している林へと向かった。

林にたどり着くと、王国の鎧をまとった騎士と従者が千人ほどダークエルフたちと共に整列していた。

その先頭には厳つい顔ながら師匠と同じく真っ直ぐな目をした金髪を短く刈り上げた男が立っており、俺と蘭を見るなり興奮した面持ちで突然自己紹介を始めた。


よく俺と蘭の顔を知ってたな?


ああ、そういえば師匠の家には俺と当時7歳の蘭と師匠の家族が描かれた肖像画があったな。

多分まだ残ってたんだろう。だから俺と蘭だとわかったのかもな。


《 あ、あのお方は! 》


《 勇者様と一緒にいるんだ。あのケモミミ……間違いない 》


《 ああ、蘭様だな。あれほどの美女にご成長されていたとは…… 》


《 幼き蘭様の狐耳と尻尾もフサフサのようだったが、成長なされた蘭様のケモミミもまた…… 》


《 ああ…… 》


《 《 《 尊い…… 》 》 》


どうやらあの肖像画で一定の信者を得ることができていたようだ。

確か俺と蘭だけの肖像画もあったしな。モフモフの良さが伝わってなによりだ。


「君がアランか。師匠にそっくりな目をしているな。小太郎から聞いたがどうやら王国に見切りをつけたそうじゃないか。領民は大丈夫なのか? 」


「お気遣いありがとうございます。当家は現在名ばかりの伯爵でありまして、領地は保有しておりません。現在は国境付近の海岸沿いの開拓地で複数の村を作り、そこで元領民が獣人たちと共に生活をしております」


「そうか。亜人排斥をしている今の王国の現状を考えれば処分されてないだけマシか。恐らくその武力で生きながらえたんだろうな。ダンジョンの無くなったこの世界でAランクか、ほかの騎士たちもBランクとは大したものだな。海か? 」


「はい。我が騎士団は代々海の魔物を相手に訓練を行っております」


海の魔物はサハギンひとつ取っても結構強いんだがな。一度に出現する数も読めないし、それなりの犠牲を払ってきたはずだ。

そこまで頑なに武を求めたのは、エルフと獣人たちをいつか救うためだったのかもな。

それに腰に差している剣にも見覚えがある。


「その剣は師匠から? 」


「ハッ! エルダーリッチと相討ちにとなったグレン・ギルセリオの亡骸と共に、小太郎殿が届けていただいたこの剣を代々受け継いで使わせていただいております」


「ちょっと見せてくれ」


俺はそう言ってアランから剣を受け取りその状態を確認した。


う〜ん、さすがに硬化の魔法を掛けていたとはいえ300年でだいぶすり減ってるな。

何度も磨いて剣も細くなっている。竜巻刃の付与魔法があるから下手に打ち直せなかったんだろうな。

このままだと剣に付与した魔法の魔法陣も削れそうだ。


「よく今まで折れなかったものだ。使い手の腕でうまくカバーしていたのか。見事なもんだな。よし、直してやる……『時戻し』 」


「なっ!? こ、これは! この時計はまさか!? 」


俺は剣に時戻しの魔法を掛け、300年ほど時を戻した。


そして俺が師匠に渡した時のような重厚さと輝きを取り戻した剣が現れ、それを見たアランほか騎士団の者たちは驚愕の表情をしていた。


「これくらいか。これはもともと両手剣なんだよ。だいぶ細く短くなっていたけどな。悪いが鞘の方はうちのホビットたちに作ってもらってくれ。付いてくるんだろ? 」


「は、はい! 第一……いえ、ギルセリオ騎士団は勇者様と共に、友人であるエルフと獣人を救うために戦います! 」


「かつての同僚と戦うことになる。別に後方にいてもいいんだぞ? 」


「もとより覚悟の上です! 王国の騎士でありながら王を説得し、友への迫害を止めることができなかった以上。我らはこの正義の剣でもって王国を正します! 」


「悪いがリンデール王国は滅ぼす。正すなんて生易しいことをするつもりはない。王も貴族もそれに従う兵士たちも、女子供以外は皆殺しだ。これは確定していることだ。それだけのことを奴らはやった。これは俺をこの世界に再び召喚した女神リアラの意思でもある」


王国を正すなんてヌルいことを考えてるなら後方に押し込んだ方がいい。前線で騒がれても足手まといにしかならないからな。


「リ、リアラ様の!? …………なれば女神リアラを信仰する者としてその意思に従うまで。我らは王国を滅ぼし、残された罪なき民を助けることに尽力いたしましょう。それが王国騎士であった我らの務めかと」


「そうか、邪魔をしないなら好きにすればいい。アランたちは獣人とエルフと共に本隊に組み込む。風精霊の森の者たちと共に戦うがいい」


「風精霊の森のエルフたちと共に……承知しました。ギルセリオ騎士団はエルフと共に今大戦に参加いたします 」


「師匠みたいに無理して死ぬなよ? 」


「王国の魔導兵器ごときにやられはしません! 」


まあ大丈夫そうかな。シルフィの存在を知ったらまた驚きそうだけどな。

エルフが側にいればヘタな仏心も出せないだろうし、師匠のようにエルフたちを守ってくれるだろう。


「とりあえず開拓村に人をやって避難準備をさせてくれ。あとでまとめて転移させる。ムーアン大陸との境目の海岸付近か? 」


「はい。国境の砦の山に囲まれた南の海岸です」


「わかった。ゲートを繋ぐから、繋いだ場所に領民を集めさせておけ。2日後にまたゲートを繋ぐ」


俺はそう言って記憶にある海岸にゲートを繋いだ。そして驚くアランに騎士を何人か向かわせるように言い、ゲートを潜らせた。


そのあとは西の砦に再びゲートを繋ぎ、 残っていた ダークエルフと吸血鬼にギルセリオ騎士団とその車両群を後方へと送った。


まだ周らないといけない砦があるんだ。次の砦に迎えに行かないとな。


しかし師匠の子孫か。

ただ正義感が強いだけではなく、感情に振り回されず優先すべきものを見誤らないところは師匠にそっくりだな。


王国を滅ぼしたらアイツにこの大陸を任せるとするか。


俺はそんなことを考えながら、蘭と凛を連れて次の砦へと転移をしたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る