第5話 異世界人の国



「白狼がランクアップした? 」


「はっ! 2月にお屋形様によって創造され、リアラの塔に挑む教育隊の護衛に付けた白狼のランクアップが確認されました」


「創造で造った魔物はランクアップしないと思ってたんだけどな……アトランの時に創った奴らも、あれだけ人間を殺しまくったのにランクアップしなかった……なぜ今になって……」


 俺は以蔵から報告された内容に困惑していた。


「恐れながらお屋形様。お屋形様は気付いておられないようですが、その御身からは途轍もない神力が溢れ出ております。恐らくそれが原因かと」


「ああこれか……日に日に強くなっててな。制御が間に合わないんだよな。12月にこっちに戻って来てから増える一方でさ。そうか……知らずに神力で創造してたのかもしれないな。まあそれなら一応は納得できるが……」


 帰ってきてひと月ほど経過した時も気付いたが、神力の増加が止まらない。リアラに原因を聞きに行こう聞きに行こうと思いつつも、なんだかんだギルドの仕事をこなすのに忙しくて後回しにしていた。


 そのギルドLight mareは本格的に始動し、現在はダークエルフとサキュバスたちを中心に全国の上級ダンジョンに挑み始めている。それと同時に育成部門も立ち上げ、まずは日本で生まれ育った獣人たちを募集し女神の島で訓練を行なっていた。その時に創造によりCランクに能力が落ちた白狼を6頭ほど貸与したんだが、まさかその内の一頭がランクアップをするなんて思ってもいなかった。


 だがそれも神力が影響しているというのであればまあ納得できる。この神力は魔法の威力が上がる以外にも、何かと不思議な効果を発揮するからな。


 しかしこのまま増え続ければ、アマテラス様が言ったように現人神になりかねない。光一を先月迎えに行った時は方舟の信者は増えてはいたが、千人とかそこらだった。もしかしてその際に光一に頼まれて何人か熱心な信者を時戻しで若返らせたが、それが原因で信者が爆発的に増えたか? でも神力が増えたのはこの世界に戻ってきてすぐだったから、そうなるとタイミングが合わないんだよな。


 方舟の光神教は頭痛の種だが、光一が教祖でいることで方舟支店の言うことを権力者たちはよく聞くんだよな。もうあれは方舟世界で光一たちが活動しやすくするための必要悪として許容するしかない。そもそも男は入信不可にしているし、この世界と同じく元々信仰している宗教がある者たちばかりだ。そうそう改宗なんてしないだろう。となれば別の原因があるとしか思えない。やっぱリアラが何かしたとしか思えないな。


「まあわかった。護衛の白狼が強くなって悪いことは無いだろう。引き続き教育隊を頼む」


 俺はあとでリアラに神力のことは聞きに行くことにして、以蔵に教育隊の世話を引き続き頼んだ。


「はっ! ギルドの名を汚さぬよう立派な戦士に育て上げます」


「死なない程度にな。それより小太郎たちとは上手くやっているか? 」


「はい。小太郎殿も孫六殿も三太夫殿も、300歳以上下の私の指示に従ってくれております。そのおかげで新たに増えた同胞も我々の里の者に敬意を払って接してくれております。エルフたちもエフィル殿とララノア殿がよくまとめ、静音の指示に従ってくれております」


「そうか。それならいいんだ。いいか? 小太郎たちの手綱をしっかり握っておけ。あの3人の統率力も戦闘力も一流なのは認めるが、ダークエルフには珍しく脳筋だ。アイツらを同じダークエルフと思うな。あれは竜人族とそう変わらん。あんまり勝手をするようだったら、俺が元の歳に戻すと言っていたと伝えてくれ。俺はあいつらを若返らせたことを後悔してんだよ」


 あの真宵の森の三傑、いや三欠が以蔵の言うことをしっかり聞いているのは、アトランから連れてきた里の者と元々いる暗黒の森の里の者たちが馴染めるようにするためだろう。早く溶け込めるように、なるべくお互いの里の者たちが一緒に行動するように配置しているようだしな。


 だけど今はおとなしくとも、この世界に慣れてきた頃が危ない。必ず俺のとこにやってきて命令を! とか毎日言い出すに違いない。以蔵にしっかり手綱を握ってもらって俺のところに来させないようにしないと、また昔みたいに付き纏わられる。


「ククク……お屋形様。ご心配には及びませぬ。あの3人は新しくできた側室殿の相手に手一杯です。正室のお七殿も若返ったゆえ気力を奪われておりまする」


「お? ということはあのエルフ用の媚薬の効果があったということか? 」


「はい。あの薬と超精力剤は、我々エルフ種を繁栄させる神薬となりましょう。私と静音も恩恵に授かっており、近いうちに紫音と桜の弟か妹ができるやもしれませぬ」


「そうか! お七が試験薬を飲んでくれると言うから頼んだが、そこまで効果があるとは……古代の知識は凄いな」


 俺は少し照れたように言う以蔵の言葉に膝を叩いて喜んだ。


 これまではダークエルフの女性はエルフよりも性欲が強いから、ダークエルフの男だけに超精力剤を与えていればよかった。しかしエルフはそうはいかない。エルフは男女ともに性欲が薄い。それでも男に超精力剤を飲ませてなんとか数を増やそうとしたが、女性があんまり乗り気ではなく逆に興奮している男のエルフを毛嫌いしている感があった。それでも種の繁栄のためと受け入れてアトランでは数を増やしたが、俺はその作業のような子作りをなんとかしようと思っていた。


 そしてその問題を解決しようと古代書を読み漁り、エルフにも効果があるという強力な媚薬を開発した。シルフィに試すのは俺の体力的に怖かったので、たまたま女神の島に行った時に通りかかった小太郎の嫁さんのお七に頼んだら快く引き受けてくれた。その際に効果があれば他の者にも飲ませますと言っていたが、まさか静音にまで回っていたとはな。


「はい。些かダークエルフの女には効果が強すぎる気がしないでもないですが、エルフにはあれくらいがちょうど良いと思います。来年か再来年にはベビーラッシュになるやもしれませぬ」


「そうかそうか! 効果が強いのはいいんだ。この世界をエルフで満たすのが俺の夢だからな。とりあえず1万人を目指そう! エルフは300から3000に、ダークエルフは700から7000人にだ。女神の島の森は広い。十分生活できるだろう」


「はっ! お屋形様のエルフ種に対する身に余るほどのご厚意。我らエルフ一同生涯の忠誠を誓いまする」


「よせよせ。俺はエルフが好きなだけだ。お前たちの価値観は素晴らしい。是非この世界に広めて、その価値観をこの世界の常識にして欲しいんだ」


 そうすればあと百年もしないうちに、俺がモデルやアイドルになる可能性がある。整形なんかしなくても、世界の美に対する価値観を変えればいい。結果としてフツメンに希望を与えることができ、イケメンはフツメンにと転落する。我ながら素晴らしい試みだと思う。


 今から歌とダンスの練習でもしておくかな。サインも必要か。


「お屋形様……我らをそれほどまでに認めて頂けているとは……見に余る光栄でございます」


「ん? ああ……うん、そうだがまあそう固くなるな」


「はっ! それでお屋形様。話は変わりますが、紫音と桜はお屋形様のお役に立っておりますでしょうか? 」


「ああ、2人ともよくやってくれているよ。紫音のどこか抜けた策士振りも、桜の健気さも俺は好きだな」


「おお……では夜のお勤めも? 」


「ん? まあ……その、なんだ。まだと言えばまだだけど、将来以蔵をお義父さんと呼ぶことになるかもしれないな。ははは」


 最後まではしていない。が、もうそこまでしてなんで最後までしないの? ってとこまではしている。風呂に入る時は全裸にさせてるし、口と胸を使ってのご奉仕もさせている。紫音なんて俺がエレベーターに乗ると必ず一緒に乗ってきてキスをしてきたり甘えてくる。俺と蘭とのえっちの最中に蘭が2人を呼んだりもして、既に俺は2人の身体の隅々まで知り尽くしている。最後までしていないのはリムたちを受け入れてまだ間もなく、彼女たちとの関係が落ち着くまではと思っているからだ。特にミラはまだまだ俺にベッタリだし、ユリの誘惑も日に日に強力になってきている。さすがに今手を出したら身体が保たないし、紫音たちに寂しい思いをさせてしまう。


 いずれリムたちとも凛と夏海とセルシアとの関係のように落ち着けば、紫音と桜も受け入れたいと思う。蘭も凛もとっくにOKしてくれているから俺次第なんだけどな。女の子が順番待ちしているこの状態。俺は世界一の幸せ者だと思うよ。


「なんと! それは朗報ですな! どうか紫音と桜を可愛がってやってください。お屋形様に愛されれば幸せになれることは間違いございまぬ。親としても安心でございます。あの子たちには苦労を掛けた分、とことん幸せになって欲しいゆえ」


「幸せにするさ。アンネットに造らせている結界の塔ができれば子供も作る。女神の島の領有権も得られそうだしな」


「なんと! 結界の塔の完成は楽しみです。その塔があれば里も島もあらゆる外敵から守れましょう。領有権のお話はシルフィーナから聞き及んでおります。やはり昨年のオーストラリアの件が決め手になったそうで」


「ああ、米国があの時正統オーストラリアに魔誘香を横流しをしたからな。止めてた魔道具や魔誘香の輸出再開と、魔銃を将来輸出するのを餌に女神の島の領有権を認めさせた。冒険者連合も問題ない。数年後にはあの島は俺たちLight mareの所有する土地となる。リアラの塔の周辺だけ他国に開放する形だな」


 そう、女神の島を俺は異世界人の国にする。王はいない。各種族の代表たちによる元老院議会を作り、そこに統治を任せる。恐らく日本や中華広東共和国や米国にいる獣人たちがこぞって移住してくるだろう。この世界に異世界人の安住の地を作る。それがエルフやホビットにドワーフを、俺がこの世界に連れてきたことへの責任だ。


「それほど早くにですか。では我々も森の管理を今まで以上にしっかりせねばなりませぬ。精霊神様の加護を得られたあの森と湖に、多くの精霊が来てくれるようにせぬば」


「ああそうしてくれ。しかし本当に元の世界に戻らなくてよかったのか? さすがに1人もいなかったのは予想外だったぞ? 」


 この世界に戻ってきてすぐに、世界中にいるダンジョンと共にこの世界にやってきた異世界人へ元の世界に戻れることを告知した。しかし希望者は0だった。獣人たちは戻ったとしても300年以上時が経過している事や、世代も変わり生き残っている者が少ないということもあったのだろう。それに今さら戻ってもこの世界ほど人族と上手くやっていく自信がなく、万が一奴隷にされたら堪らないと否定的だったようだ。


 ダークエルフはまあ俺という主を置いて戻る気はないらしい。義理堅い種族だからこれは予想していた。ガンゾたちにしてもこの世界の酒に慣れた今、元の世界の酒なんてもう飲めないそうだ。イスラは絶対帰らないって俺に抱きついて泣いてたな。別に無理やり帰すつもりはないんだけどな。


 ヨハンさんたちホビットもそうだ。戻れば間違いなく人族に支配されると言っていた。常に人族に虐げられてきた彼らとしては、この世界は天国のようらしい。それと俺に恩返しができていないと。俺が生きている間はこの世界から離れることはないとさ。まあ30世代は離れられないってことになるな。なんの呪いだよ。


 ニーチェは顔を真っ赤にして、俺のお嫁さんになるから帰らないとか珍しく大きな声を出して言ってた。あまりに可愛くて萌え死ぬかと思ったよ。ちっちゃい子もいいよな。


 まあそんなこんなで俺がリアラに報酬として求めた、この世界にダンジョンと共に来た者たちの帰還は無駄になった。まさか1人もいないというのは予想外だった。でもそう思ってたのは俺だけだったらしく、シルフィやセルシアは当たり前だと笑ってたな。なんだかな〜。


「戻りたいと思う者などおりませぬ。この世界に来たからこそ家族と再会ができ、ダークエルフの姿に戻ることができました。お屋形様のお陰で我らは幸せを再び手にすることができたのです。お屋形様と共にいることが我らの使命であり恩返しでもあり、そして幸せでございますれば」


「全部たまたまだ。たまたま入ったダンジョンに紫音たちがいただけだ。救おうと思って助けにいったわけじゃない。だからそこまで恩に感じなくていい。紫音と桜に出会えたことで俺にもメリットがあった。お互い様だ」


 あの時上海のダンジョンで紫音と桜に出会えた。そのおかげで今彼女たちの幸せそうな顔を毎日見ることができ、俺にはもったいないほどの好意を向けてくれている。結果として一番得をしたのは俺だ。あの美女2人に惚れられるなら、あんなダンジョンくらいいくらでも攻略するさ。光一なら真っ先に突撃していっただろうしな。今の光一じゃリッチエンペラーに殺されただろうけど。


「お屋形様……お屋形様はいつも我々が気負わないよう、そう仰います」


「買いかぶり過ぎだ。俺はしたいようにしかしていないし、できることしかしていない。それで救われた者がいたとしたら、それはそいつらの運が良かっただけだ」


「運……ですか」


「運だ」


「でしたら我らは相当な幸運に出会ったということですか」


「運とはそういうもんだろ? 」


 貧乏でドン底だった時に、拾った宝くじが当たることだってある。そういうもんだ。


「確かに………ククククク……」


「だろ? ぷっ! ははは! 」


 俺は我ながら少々無理があるなと、以蔵が笑うのに釣られて笑ってしまった。


 いいんだ。絶望に暮れていたみんなが、毎日幸せそうな顔をしているのが嬉しいんだ。


 以蔵と静音に紫音に桜やその他のダークエルフたちが、親子仲良くしている姿を見るのが嬉しいんだ。イスラやニーチェたちだってそうだ。離れ離れだった家族と一緒に、幸せそうにしている姿を見るのが嬉しいんだ。


 俺は本当の家族とはもう会うことができないから。


 だからみんなには俺の代わりに家族と幸せになって欲しいんだ。



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