第6話 真犯人 光一

 



「やっぱりあの世界が原因だったか……」


 俺は日に日に増え続ける神力の原因を探るべく、女神の島の大神殿にやってきてリアラへ思い当たる節がないか聞きにきていた。その結果、リアラの口から原因はアトランの世界であることを告げられた。


『 ええ、私の神殿に勇者の像が一緒に祀られてます。どうやら私の使徒ということになっているようです。勇者だけの神殿もあちらこちらにできているようですよ? 』


「お、俺の神殿も!? いったいなぜなんだ? 俺は彼らの国を滅ぼした男だぞ? 」


『はて? 最初に勇者が祀られた神殿がムーアン大陸だとしか私には……そう言えば光神教とか言っていたような……』


「……わかったよリアラ。全ての謎は解けた。アイツのせいだ。光一の奴があの時何かしたに違いない」


 あの時だ。オルガス帝国を滅ぼしたあの日。獣人の反乱で死んだ帝都の民間人の家族を蘇生した時だ。あの時光一に後のことを任せて俺はその場を後にした。恐らくその時に俺に面倒なことを押し付けられた光一が、俺への反発で光神教を布教したに違いない。


 確かに俺はリアラの使徒であることを証明するために、あの一家を蘇生させた。子供もいたしな。多くの帝都に住む住人の前で人が生き返ったんだ、俺を神と崇めるのも無理はない。だが俺はリアラの使徒だとあの時に名乗った。それなら信仰はリアラに向いたはずだ。それを光一が光神教という信仰対象を与えた。それにより俺はリアラの使徒であり、光神教の蘇生神のような存在だと認識されたに違いない。全ては光一の責任だ。


『ふふふ、そうでしたか。私としては以前より遥かに信仰する者が増えたので文句などありませんが、勇者は人からどんどん離れていき気が気ではないのかもしれませんね。時間の経過速度も違いますし、このまま現人神になりそうですね』


「ぐっ……それだけは……リアラ、物は相談なんだが、俺をもう一度アトランへと転移させてみないか? 」


『ふふふ、神殿を破壊するのでしょう? ついでに魔王として振る舞うつもりですか? 今のあの世界はムーアン大陸で幾つかの紛争はありますが、アトラン大陸とヴェール大陸はとても平和です。勇者を行かせるわけにはいきません』


「くっ……しかしこのままでは俺は……」


『半神になっておいて今さらです。ヴリエーミアとも約束しているのでしょう? 生きている間に神になれば神界に来た時の地位も高くなります。そうなれば彼女も安心するでしょう。そしてそのまま時の神として彼女を助けてあげるのも容易くなるでしょう。勇者よ、貴方が半神になったのは何も信仰を集めたからだけではありません。それは創造神様に認められつつあるということなのですよ』


「全くもって望んでいないんだが? 」


 勝手に生きている俺を神としてスカウトするのはやめて欲しい。俺はまだ地上で生きてる人間なんだ。そういうのは死んでからにして欲しい。


『ヴリエーミアと契約した以上、死んだ後に神になるのは確定しているのです。遅いか早いかの違いでしかありませんよ。たいしたことではありません』


「それは神の感覚だろ……人間にとっては重要なことなんだよ」


『そうでしたか? 私も人であったのは数万年前のことなので記憶が薄れているようですね。いずれにしろなるようにしかなりません。勇者よ諦めなさい』


「サラッと元は人間だったとか言ってんなよ……マジか……ヴリエーミアといい元人間ばかりなのか」


 アマテラス様もそうだと言っていた。なんなんだよ神って……


『ふふふ、私が生きていた頃は魔導文明が発達した世界で、宇宙で生活してましたから……全ては創造神の御心のままにです』


「もうどの世界の人間だったとかは聞かねえよ。ヴリエーミアの肌の色の違いとか色々納得できたよ」


 もしかしたらヴリエーミアは、宇宙で長いこと生活して変質した人間なのかもしれない。あの青白い肌の色も最高の感触も神だからと思っていたが、生前の肌の色なのかもな。この数億年の間に人類っていったい何度滅んでるんだろうな。もしかして創造神ってコンピューターってことはないよな? ないよね?


『私は異世界出身ですが。ヴリエーミアは地球とは別の星のようです。シーヴは確か……』


「いやいい! 聞きたくない! なんか魂までも管理されてそうで知りたくないわ。とりあえず原因はわかった。光一をシメてくるからまたな! 」


『あら? もう行かれるのですか? まあいいでしょう。それだけ神力があれば私の声もここに来なくても届くでしょうし』


「おい! 光一を使えよな! いいか? 光一を指名しろよ? アイツに何かあった時以外は連絡してくんなよ? 」


『あらあら、嫌われたものですね。ならば新勇者も私の神殿を建ててくれたようですし、そちらで声を掛けてみることにします』


「自分の胸に手を当ててよく考えるんだな。それにしても神殿を建てたのかアイツ……ヤバイな」


 馬鹿なのかアイツ? それともドMなのか? そりゃいきなり召喚されるよりは、神殿で前もって知った方がいいだろうけど……俺には到底真似できないし、しようとも思えないけどな。


 とりあえず光一はタダじゃ済まさねえ! あの野郎余計なことしやがって! こっちに連れてきて本気のヴリトラと戦わせてやる!


 俺は光一へのお仕置きプランを練りつつ大神殿を後にして、伊勢神宮へと飛んだ。

 そしてアマテラス様に呼び掛け俺を方舟世界へと送ってもらおうとしたのだが……


「え? 光一はいない? 」


『ええ、一昨日から並行世界で異星人に侵略されている日本を救いに行ってもらっています』


「は? 異星人? ダンジョンから出た魔物ではなく? 」


 俺は光一がいないということよりも、アマテラス様が言う異星人という言葉に耳を疑った。


『はい。時折その道を進む世界があるのです。火星に移住しようと多くの探査機を送った事で彼らに見つかったようですね。火星に行くのはまだ早いとは我が子に伝えてはいたのですが……』


「オイオイオイ、異星人との戦闘があるとか聞いてないですよ? 光一は勝てるのですか? もしかして夏美さんたちも一緒に? 」


『はい。一頭の竜と一緒に獣人の女性と天使も一緒に旅立ちましたよ。日本を救うのだととても乗り気でした』


「そ、そうですか……ちなみに異星人とは目の大きい頭ツルツルの人型とかですか? 」


 グレイとか呼ばれているあの宇宙人と戦っているのか? でもグレイなら何度も地球に来ているらしいから違うか?


『いえ、宇宙の破壊者である虫型の異星人ですね。この者たちは過去この世界にも降り立ち、当時栄えていた文明を崩壊させました。あの時は私が送った勇者も救うことができませんでした。なかなかに厄介な者たちです。ですが勇者に鍛えられ、魔法を扱える彼なら問題ないでしょう。ああそういえば新勇者にはその事を伝えていませんでしたね』


「虫ですか……わかりました。ならば今後異星人は光一に任せた方がいいですね。今回のことで俺より経験を積むと思いますし。こっちにいる光一の恋人たちには俺から永遠……いや、しばらく会えないと伝えておきます。俺は毎日皆で光一の無事を祈りますよ。虫はみんな苦手ですしね。ははは」


 出たよ神の得意技の伝え忘れ……今ごろアイツと夏美さんたちは発狂してそうだな。俺も夏海も虫は苦手だしな。よし、光一は異星人担当でいいだろう。異星人を倒してランクが上がるのか謎だし、魔法書も手に入らないだろうが戦闘経験は積めるだろう。うん、問題ないな。とりあえずお仕置きは万が一帰って来れた時にするか。発狂してそうだけど、その時は時戻しで記憶を消してやればいいだろう。苦労して得た戦闘経験も忘れるが……


『異星人も魂を持つ存在ですから能力は上がるでしょう。魔法とは別の能力も持ってますし。成長して帰ってくると思いますよ』


「そうですか。それなら良かったです。光一以外に何かあった時だけ連絡してください。蘇生しに行きますから」


『ふふっ、わかりました。すぐに連絡します』


「では俺はこれで」


『はい。また来てくださいね。ああ、そう言えば年末に姪の婿である 大國魂大神おおくにたまのおおかみから、勇者を探している人から祈りが届いたと聞きました。しかし数ある並行世界のうちの複数の世界から祈りが届き、世界が特定ができなかったと。次に来た時に話し掛けて確認してみると言ってました』


「ほ、本当ですか! お袋が俺を……やっぱり府中の神社に……ありがとうございます。大國魂大神には俺がお礼を言っていたと、なんとか特定をお願いしますとお伝えください」


 お袋と弟が神社で祈ってたに違いない。複数の世界からというのが気になるが……並行世界の俺も同じ目にあってるとかか? 光一もそうだしあり得るな。でも俺のお袋がいる世界が特定できれば元の世界に戻れるかもしれない。


 会いたい……心配しているお袋に弟に……せめて俺は無事だと幸せに過ごしていると伝えたい。


『わかりました。勇者が幸せ過ごしている事も、その際に伝えるよう言っておきます。私にも大いに責任があります。必ず元の世界を見つけますのでもう少し待っていてください』


「最初は恨みましたが今は感謝すらしてますよ。俺は最高に幸せですから。ただ心を痛めているお袋が心配なだけです。元気だって、幸せだって伝えたいんですよ」


 あの時召喚されなければ蘭に出会えなかった。

 あの時この世界に送還されなければシルフィや凛や夏海にリムたちに出会うことは無かった。


 もう恨んじゃいない。ただ、俺が突然いなくなって心配しているお袋を安心させたいだけなんだ。


『そうですか……必ず伝えます。もう少し我慢していてください』


「お願いします」


 俺はそうアマテラス様に頭を下げてその場を後にした。


 早ければ来年お袋に会えるかもしれない。

 多くの命を奪った俺をお袋は受け入れてくれるだろうか……いや、方舟世界のお袋は受け入れてくれた。大丈夫だ。俺はお袋に笑顔でただいまと言える。


 俺は元の世界に戻れるかもしれないという期待と、少しの不安を胸に帰宅したのだった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ええ!? 光一さんが異星人と戦いに!? 」


「そうみたいなんだ。おかげでヤキを入れ損ねたけどね。まあ今ごろは発狂してんじゃないか? 虫型の異星人らしいから」


 家に帰ってから夕食時に今日あったことを皆に話したら、神力の増加の原因に皆は苦笑してたのに光一たちが並行世界に行ったことには驚いていた。俺としては神力が増えることの方が重大事件なんだけどな。


「うっ……虫ですか……夏美もかわいそうに……」


「お姉ちゃんも私も虫は苦手だもんね。これは同情するわ」


「主様も苦手です。蘭は平気ですけど」


「虫の魔物のあの体液ブシャーがな。全部凍らせればいいだけなんだけど、見た目もグロいしできれば戦いたくない。それに異星人ていうくらいだ。恐らく蟲系ダンジョンにいる魔物よりデカイだろうし、相当な数がいそうだしな」


 絶対台所の黒い悪魔が巨大化した奴が、群れをなしてやってくるに違いない。勝てるが視界に入れたくない。


「しっかし光一の奴もいくら旦那さまみたいに強くなりたいからってさ、よく行ったよなぁ」


「セルシア、光一さんは光希に憧れてるのだもの。強くなるためには同じ経験をしたいと思ったのよ。アトランにはダンジョンが無かったし」


 夏海はそう言うが、方舟世界でも大フィールドを開放すれば十分鍛えられると思うんだよな。


「でも異星人が侵略してるということは、ダンジョンとか無い世界なのよね? 新しい魔法も覚えられないと思うんだけど」


「シルフィの言う通りよね。召喚される世界がことごとくダンジョンが無い世界だなんて、光一さんも引きが悪いわよね」


「それが完全に無駄とはならなさそうなんだよね。俺も凛の言う通り引きが悪いとは最初思ったんだけど、アマテラス様が言うには異星人を倒すと能力が上がるらしいんだ。なら少しは成長して帰ってくるんじゃないかな? SSランクにはなってるとは思うよ」


 異星人を倒してどれだけランクが上がるかはわからないけど、数の多そうな虫を倒し続けていればそれくらい上がりそうなんだよな。リアラの成長促進の加護もあるし。


「異星人を倒してもランクアップするの!? SSランクなんて私追い越されちゃうじゃない! 出会った時はBランクだったのに……こうしてはいられないわ! 私たちも特訓しましょう! ダンジョンに潜るのよ! 」


「はい! 蘭は賛成です! 家族みんなでダンジョン行きましょう! 群れの結束を固めるイベントです! 」


 凛の光一に追い越されたくない発言から出た、ダンジョンアタックの提案に蘭が元気よく手をあげて乗った。


 確かにもう1年以上ダンジョンに潜ってないな。アトランに行ってたってのもあるが、勘が鈍らないようにそろそろ行っておかないとな。


「うふふ、ランちゃんがそう言うなら行きましょう。フィールド系がいいわね。また湖でみんなで水浴びしたいわ」


「そうね。リムたちも今度は一緒だから楽しくなりそうよね。合宿みたいで楽しそうだわ」


「あたしもトータスの爺さんたちをまとめるのにもっと強くならなきゃと思ってたんだ。アイツら脳筋だからさ、力で押さえ付けないといけないからな。大変なんだ」


 シルフィと夏海もダンジョンに行くのは賛成のようだが、セルシアがトータスたちを脳筋呼ばわりしたことに俺は、いや凛とシルフィも一瞬固まった。その表情はまさに『おまいう? 』と言いたげな表情だった。


「そ、そうだな。セルシアも一気に同胞が増えたから大変だよな。大丈夫だ。俺はセルシアのことは全て理解している。ダンジョンでパワーアップしような」


「えへへへ! さすがあたしの旦那さまだな! あたしの心と身体を隅々まで全部知り尽くしてるだけあるな! あ、愛だな! 」


「ああ、知ってるとも。愛しているからな」


 沖縄の離島に殴り込みにきた日のこととか、上海の氾濫時に多田一族と一緒になって好き放題暴れてた事とかもな。なんでセルシアは覚えてないんだ?


「えへへへ! あたしは世界一幸せな女だな。えへへへ」


「セルちゃん可愛いです! 今日も蘭と一緒に寝ましょう! 」


「お、おい蘭! 抱きつくなって! たく、仕方ねえな。一緒に寝てやるけどこの間みたいに変なおもちゃを持ってきてあたしを襲うなよ? 」


「大丈夫です! 今度こそセルちゃんの身体を主様が喜ぶように開発してみせます! 」


 え? おもちゃ? なにそれ? 蘭とセルシアって何してるんだ?


「あんなことしなくても、旦那さまはあたしに満足してるからいいんだって! 普通に寝かせろよな! なあ? 旦那さま? 」


「え? ああ、うん。でも蘭が一番よく俺のことは知ってるからな。ちょっと蘭が何をしてるのか見たいかな」


 もしかして百合百合しいことをしているのかもしれん。ならば是非見たい!


「そ、そうか? 旦那さまが見たいっていうなら恥ずかしいけど……いい……ぜ? 」


「是非! 」


 これは確定だ。蘭とセルシアの百合だ! 新しい刺激だなこれは。これが流行れば凛と夏海、リムと夏海、シルフィと蘭という組み合わせも見れるかもしれん! 是非とも流行らせねば!


「ふふふ、私も興味あるわね。こっそり見せてもらおうかしら? 」


「わ、私も光希が望むならその……勉強のために……」


「ええ!? お姉ちゃん! もしかして私とお姉ちゃんとで? ダーリンと3人ならともかく2人だけでとかは無理よ……」


 凛は大丈夫だ。俺が頼み込めば何でもしてくれる。なんだかんだ言って押しに弱いからな。蘭と凛だけだ。俺に全ての穴という穴を使わせてくれるのはな。あのシルフィですらまだ抵抗があるって使わせてくれてないんだ。誇っていい。


「うふふ、蘭がセルちゃんを主様好みの身体にします! 」


 俺は蘭の頼もしい言葉を聞きつつ、夜を楽しみにするのだった。


 これはダンジョンに行く前に是非ともみんなの百合が見たい!



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