第5話 レアアース





ーー Hero of the Dungeon 14階層 西条 英作 ーー







「西条君!あれ宝箱じゃない? 」


「え? あっ、確かに宝箱だね。あんな死角にあるなんて危なく見落とす所だったよ」


「お? なに? 宝箱見つけたのか? 今日はこれで5つ目だな」


「ガチャチケットが入ってますように! 」


「私はスキルの巻物がいいな。 もう死にたくないし〜」


「アレは激戦だったからな〜」


僕達は今レベル上げと宝箱探しの為に14階層を彷徨っている。ここより下層の15階層の中ボスである灰狼王とその取り巻きは既に倒した。けれど10階層のボスのゴブリンキング戦より苦戦して、四郎と新見さんが死んでしまった。僕達は火力とレベル不足を痛感して16階層に行きつつも14階層へ戻って来た。ここ二日はずっと14階層から15階層を往復して、宝箱探しとレベル上げをしている。


「あっ!キタッ! スキルの巻物だわ! しかも槍スキルよ!」


「え? ホント!? やったー! 三連撃スキルを覚えられる〜」


「新見は予知能力者だったのか……」


「いいな〜俺もスラッシュ覚えたいな」


「次に剣のスキルの巻物が出たら戸田君の番だからすぐ覚えられるわよ」


「これでスキル覚えてないの俺だけかぁ〜。でもSランク防具が手に入ったしいっか! 」


新見さん嬉しそうだな。10階層からは宝箱にスキルの巻物が入ってくるようになった。無料ガチャも10階層以上の休憩所にあるショップ端末はラインナップが違うようで、スキルの巻物が出るようになっていた。

ここまで僕達が引いたガチャで当たりだったのが、大月さんの三連撃スキルに四郎のSランク防具と僕のシールドバッシュスキルだ。宝箱からは剣のスラッシュという斬撃を飛ばすスキルと、今手に入れた槍の三連撃スキルが出た。今のところ10個宝箱を開けて一つスキルが入ってる確率かな。その他は小ポーションとゴールドとR装備だった。


「今日は予定通り宝探しとレベル上げをして、明日からの春休みで一気に上を目指そう!」


「「お〜! 」」


「まさか学園が平日割引の交渉してくれるとは思って無かったわ。凄く助かるわよね〜」


「校長がこのダンジョンでプレイしてみて、これはいい訓練になるからってお願いしてくれたらしいよ? 冒険者学園の生徒だけ平日は千円でプレイできるようになって助かるよ」


「ナイス校長だな! 学校にこのシステムを導入するって話も聞いたぜ? 高等部の体育館と旧校舎に設置するかもしれないってさ」


「それは初耳ね。いつも長話しするだけの仕事じゃ無かったのね。校長やるじゃない」


「ははは。確かに話が長いよね。それじゃあ次は15階層に行こうか」


「そうね。この階層も先輩達がだいぶ増えて来たものね。15階層でレベル上げと宝箱探しをしましょう」


宝箱は完全なランダム配置で、一定の時間が過ぎると消えてしまうらしい。それでも他のプレイヤーがいない方が見つかる確率は高いから、僕達はプレイヤーの数が比較的少ない15階層へと向かった。


今このダンジョンのトップパーティは大学生のパーティで、既に21階層に到達している。その次が老人だけのパーティが19階層に到達している。同じ学生でも成人していて僕達よりも休みが多い大学生にはプレイ時間で敵わないのは仕方ないけど、老人パーティに負けているのはちょっとショックだった。なんでも40年前の混乱期に前線で戦っていた人達ばかりだとか……でもウッカリ魔法を放ってしまい退場させられたらしい。幸い他のプレイヤーが到達してない階層だったから警告二回分で見逃してもらえたみたいだ。本来なら即3ヶ月の出入り禁止になるんだけどね。悲しげに謝る魔法を撃ったおばあちゃんに、佐藤さんが情けをかけたって巡回のお姉さんが言ってた。

それにしても60代後半から70代の人達がこの距離を歩いたり走ったりして19階層まで行くなんて、もう電車で席を譲るのやめようかな。


「早くレベルを上げてせめてあの『40年前の英雄』って老人パーティより下層に行きたいわ」


「知ってるか? あの爺さん達M-tubeに動画あげてたぜ? 俺あの人達に勝てる気がしねーわ」


「あっ! それ見た! あんまり動いて無いのに何故か黒狼が倒されてたよね! スッゴイ不思議だった」


「やっぱり実戦を経験している人は動きが違うよな〜」


「そうなの? 帰ったら見てみようかしら。自分の動画を編集してアップするのに忙しくて、他のプレイヤーのは見てなかったわ」


「大月さんアップしてたんだ……」


「私がいずれ魔法槍士になるプロローグ的な物よ。折角火の適性があるんだから炎の魔槍士になるわ! 」


「そ、そう……」


僕は魔法使い志望だった大月さんの心の変化に、ただ返事をするのがやっとだった。

委員長やってて美人で魔法適性あって、完全に後方タイプだと思っていたのに意外だったよ。













ーー Light mare CO. LTD.ビル 地下一階 特殊調合室 佐藤 光希 ーー





「うん出来てる! 凄いなニーチェ! 中級ポーションの調合に成功するまで俺は一年掛かったぞ? 」


「蘭も半年掛かりました。それを4ヶ月で……ニーチェちゃん凄いです」


「…………蘭さんの教え方が良かったから」


「謙遜するな。例え才能があったとしても、この短期間で繊細な魔力操作が要求されるポーションを作るのには相当な努力をしていないと無理だ。頑張ったんだな。偉いぞ」


「…………少しだけ頑張りました」


「うふふ。ニーチェちゃん赤くなって可愛い」


俺は蘭からニーチェが中級ポーションの製作に成功したと聞き、このできたばかりの会社ビルの地下に用意した錬金室にやって来た。ここは地下だが窓の外は庭になっており、庭からは空が見え太陽の光も入る作りになっている。しかし外からここに入るには高い壁と上級結界を破らないと不可能だ。ビル内からもセキュリティカードと網膜認証に警備員を突破しないとこの地下には来れない。俺と恋人達だけが転移室を使い出入り自由になっている。


そして転移室から錬金室に入りホビットとダークエルフ達が作業をしている横でニーチェが作ったポーションを鑑定すると、しっかり中級ポーションと表示された。

俺に褒められたニーチェが謙遜しながらも、その無表情の顔を赤く染める姿はとても可愛かった。


「他の者はニーチェが作れたからといって焦る必要は無いぞ? 俺は初級ポーションを作るのに半年、中級は一年掛かった。戦いながらだったと言うのもあるが、それ位を目処に毎日少しずつ練習してくれ。ここにいる者は初級はもう作れるみたいだから俺よりは才能がある」


「「「はい! 」」」


「ニーチェは今後、豊胸の妙薬と魔誘香と中級ポーションをメインに作っくれ」


「…………わかりました。あの……」


「ん? どうかしたか? ちゃんと歩合は割増で出るぞ? 一緒に革加工をやってもいいぞ? 」


「……そうではないです……あの……私……光希様のお役に立ってますか?」


「ああ、凄く役に立っているよ」


「…………助けて良かったと……思ってもらえますか?」


「ニーチェ……俺は助けた皆がただ幸せに過ごしてくれるだけで、助けて良かったなと思えるんだ。仕事ができる出来ないは関係ない。だから無理をしなくていい」


「…………光希様」


「佐藤さん……」


「うふふ。主様ったら」


「お屋形様……我等はあの姿から元に戻して貰えただけで幸せです」


「そうです! もうずっと化物のままだと思っていたのに頭領にもまた会えて、精霊の多い森を管理させて貰えてこれ以上の幸せはありません」


「…………私も家族で過ごせて幸せです」


「そうか、それなら助けて良かったよ。だから皆も無理をするな。できる範囲でいい。家族と過ごす時間が減ったり、身体を壊したりされると俺は助けて良かったと思えないからな」


「…………光希様優しい」


「佐藤さん。私は全く無理などしてません。まだまだ作れます」


「私もまだまた魔力に余裕があります」


「お屋形様! 我等もまだまだ腕を上げますので見ていてくだされ! 」


「お屋形様から受けたご恩をお返しするのも我等の幸せでございます」


ダークエルフは相変わらず堅苦しいな……もっと気楽にやってくれればいいんたけどな。


「そうか、それなら良かったよ。どうやら凛は俺と蘭にだけ無理な発注を回してくるようだ。安心したよ」


「うふふふ。凛ちゃんたら……また感謝の気持ちを伝えないといけませんね」


凛は技術者達には無理難題を言ってないようだ。そうか、俺と蘭にだけか……そうか……

俺と蘭の心の中でこの間のマッサージの第2回戦のゴングが鳴り響いた。


「…………光希様大変なのですか? 手伝います?」


「いや、大丈夫だよ。スクロール製作の分野だからな。それじゃあ俺と蘭は家に戻るから、くれぐれも無理をしないようにな? 家族から元気が無いとか疲れてるとかそう言う声を聞いたら強制的に休ませるからな」


「…………大丈夫です。調合楽しい」


「「はい! 」」


「「ハッ! お気遣いありがとうございます」」


俺はそう言って蘭を連れ錬金室を出て家のリビングへと転移をした。




「あらコウにランちゃんお帰り」


「シルフィ帰ってたのか。もうオーストラリアはいいのか?」


「シル姉さん! お帰りなさい」


俺と蘭がリビングに着くとまだ15時だと言うのにシルフィがソファでくつろいでいた。

ずっとオーストラリア大陸へ視察に行っていてたまに転移で帰って来てはいたが、この時間にいるという事は視察と交渉が終わったのだろう。


「ただいまランちゃん。そうなのよ。結局正統オーストラリア共和国に冒険者連合を設立する話は見送ったわ」


「ん? そうなのか? 日本政府やアメリカ政府がかなり勧めていたよな? 何か問題があったのか?」


「軍も精強だし政府が運営している探索者協会的な物も機能してるんだけど、ダンジョン攻略と言うより領土奪還を目的としているのよね」


「う〜ん……確かオーストラリア大陸の都市は、中華広東共和国と違って各都市を壁で囲んで守っているんだろ? 先ずはある程度都市の近くから領土を広げてからじゃないと、既存の採掘場も守れないし安全にダンジョン攻略もできないんじゃないか?」


「それはそうなんだけど、都市の近くからと言うよりは資源のある土地を奪還しに行ってるのよ。国民の安全よりも経済を優先させてるの。コウが作った魔誘香を使って都市から離れた場所にある南部の鉱床を取りに行った事を、誇らしげに話していたわ。日本とアメリカが後ろ盾に付いてるからって安心しきってるのよね」


「そっちに使ったか……話が違うな。もうオーストラリア大陸には魔誘香は売らないよ。あれは氾濫から都市を守るのと、ダンジョンを攻略する為に使用するのを条件に凛が売った筈だ。そういう使われ方をされるなら二度と売らない。他に困っている国は沢山あるからな」


まさか魔獣に囲まれているのに、新たな資源を得る為に魔誘香を使って進軍するとはな。馬鹿なんだろうな。せめて今ある採掘場の安全を確保する為と言うなら目を瞑ったが、都市から離れた新しい資源を得る為に使うのはアウトだ。国民の安全を守る為の生活圏を広げるのが先だろうに……発注すれば日本とアメリカ政府が圧力を掛けて売ってくれると思っているのかもな。今手元に残った魔誘香が最後だと分かればもう馬鹿な事はしないだろう。


「そういう事。そんな国に冒険者連合を設立したって、中華広東共和国みたいにいいように使われるだけよ。だから見送ったわ。日本政府は渋い顔をしてたけどね。アメリカみたいにオーストラリア大陸に自衛隊を派遣する余裕は無いし、国民の理解も得られないから私達が頼みの綱だったみたい」


「スクロールも国内の使用に限りという条件で売ってるからな。アメリカに転売したらもう作らないとも言ってあるし、日本はオーストラリア大陸から手を引くべきなんだけどな」


「どうしてもレアアース希土類元素が諦めきれないみたいね。オーストラリアのレアアース埋蔵量は世界一と言われているし、これまでの投資を無駄にできないんじゃない?」


「世界一ね……世界一上級ダンジョンが多い国なのに日本も余裕があるんだな」


レアアースは確かレアメタルの一つだったか? アメリカやインドや中東でも産出されてるし、東京の沖ノ鳥島の海底から鉱床が見つかったとテレビで言ってたな。採掘が軌道に乗るまでオーストラリアは大切な貿易相手という訳か。それでも外国に支援するなんて日本も随分余裕があるんだな。


「コウがいるからね。スクロールでかなり自衛隊は助かってるみたいだわ。離脱球と離脱のスクロールで生存率も跳ね上がっているそうよ。冒険者連合にも離脱のスクロールを販売してくれてるから助かってるわ」


「生存率が上がったのは嬉しいが、政府は俺達がいなくなった時の事とか考えてるのかな」


「考えているんじゃない? だから凛の所に大量に発注が来ているのよ。殆ど断っているみたいだけど」


「それであの量かよ……離脱のスクロール以外生産をしばらく停止しようかな」


「再開した時にまたいつ生産が止まるか分からないからって、今まで以上の発注が来るわよ。値上げしても効果が無いみたいだし、月の生産量を決めればいいのよ」


「それもそうだな。ある程度作り溜めして決まった数を納品すれば楽になるな」


確かにこれだけ需要があると全て応えるのは不可能だ。スクロール製作に忙しいから兵器への付与には行けないとかなんとか言って、生産数を余裕でこなせる数に減らす事は可能な筈だ。


「蘭もデスマーチはもう嫌です」


「ランちゃん可哀想に……いいわ! 私から凛に言っておくわ」


「それは助かるけど、凛もちゃんと考えて受けてくれている筈だ。経営していると色々しがらみも出てくるし、俺達もダンジョンに潜ったりして生産数が読めないんだろう。そういう事も踏まえて話してやってくれ」


「分かってるわよ。私も40年そんなしがらみの中で探索者協会の理事長やってたんだから。私が経験して得た事を凛に教えてあげるわ。自衛隊にもこのままじゃスクロール製作が嫌になって、日本から離れて作らなくなる可能性があるって少し脅しておくわ」


「シル姉さん。蘭は初めてシル姉さんを頼もしく感じています」


「初めてなの!? 」


「あははは。家にいる時はなかなかシルフィの頼もしさを感じる機会が無いからな」


「ちょっとショックだわ。昔はシルおねえちゃんすごい! とかよく言ってくれていたのに……何を間違えたのかしら」


「うふふふ。嘘です。シル姉さんは昔から蘭の憧れの人ですから」


「そう? そうよね! よーし! シル姉さんの凄いところ見せてあげるわ。ちょっと凛の所に行ってくるわね! え〜と、新社屋の転移室は……あっ、思い出したわ。 紋章『転移』 」


「あっ! シル……行っちゃったよ。融合してからどんどん昔みたいになっていくな〜」


「うふふふ。蘭は今のシル姉さんの方が好きです」


「まあ蘭の為に張り切ってるならいいか。スクロール製作減るといいな〜」


「とても切実な問題です」



俺と蘭は心の中でシルフィを応援するのだった。




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