第39話 Avengers ー 復讐者 ー






中華国の奴隷となっていたオーストラリア人たち3000人の訓練を開始してから五日目の夕方。

最初にリムたちに言った期限のこの日、俺はフィリピンの資源フィールドへとやってきた。

俺がフィリピンの門から資源フィールドに入ると、リムを先頭にサキュバスとダークエルフ、そしてオージーたちが整列していた。


「光魔王様! オーストラリア兵3000名! 欠員なく初期訓練を終了致しました! 」


「ご苦労様……うん、Cランクになってるな。素早さまでしっかり上げてるとは良くやってくれた」


「ハッ! 以蔵殿をはじめとした光魔忍軍の者たちがよく補佐をしてくれました。我々だけではここまでの成果を出すことは難しかったと思います」


「そうか。以蔵、静音。それにダークエルフの皆もよくやってくれた! 」


「はっ! 勿体なきお言葉です」


「お褒めに授かりありがたき幸せです。リムさんの統率能力の高さと、お屋形様にいただいた探知の魔法でとても効率よく訓練を行うことができました」


「そうか、さすがリムだな。さて、ジェフリー? まだ訓練の序盤だが、まさかもうできませんなんて言わないよな? 」


Avengerアヴェンジャー! 我々の復讐の炎はより強く燃え盛っております! 」


「ん? Avenger? 復讐者? 」


「光魔王様。彼らは自分たちをAvengersと呼称しておりまして……訓練中に倒れそうになるとAvengerと叫び自らを奮い立たせていました。その流れで返事をするときにAvenger=yesと言う意味で使うようになりまして、それで士気が上がるのならと許容しておりました」


あ〜自衛隊のレンジャー部隊が返事する時にレンジャーとか言ってるのと同じか。復讐が終わったら元に戻るのかね?


「そうか、それで心が折れないならまあいいんじゃないか? わかった。それならお前らはアベンジャーズ軍団として死にゆく中華兵どもにその名を刻み込めばいい」


「「「「「Avenger! 」」」」」


「明日から本番の訓練を行う! 今日は俺の拠点の近くでゆっくり休め! リムと以蔵もご苦労だった。明日からまた手伝いを頼むことになるから今日はゆっくり休んでくれ」


「「「「「Avenger! 」」」」」


「ハッ! 」


「はっ! 」


「それじゃあ門を出たところに拠点までのゲートを繋ぐ」


俺はそう言って資源フィールドを出てすぐのところにゲートを発動し、リムたちとオージーたちを潜らせ最後にダークエルフたちと俺が続いた。


「この空港の中央付近に野営をしろ! 食事は材料は提供してやるから自分たちで作れ! フィールドで得たものより上等なものをくれてやる! 」


「「「「「おおおおお! 」」」」」


「それとこれを各人の装備と交換しろ! 」


俺は黒く塗った剣と槍、そして弓と革鎧をアイテムボックスから取り出し、喜ぶオージーたちの前に山積みにした。これは日本軍が使っていた、俺から見たら出来損ないの黒鉄混じりの武器と加工が未熟な革鎧だ。日本軍には俺が持ってきた武器と防具を渡しており、ゾルたちやホビットたちが教えた技術で日々新しい装備が生産されている。なのでこの旧装備を政府に言ってもらってきた。

しかし武器に関しては数が足りず俺が錬金魔法でのみ作ったものもあるが、それでも鉄の剣よりは遥かに耐久力もあるし魔力も通すから、中華兵の持つ武器と打ち合えば圧倒できるはずだ。


防具はホビットたちに頼んでサイズを大きめに加工してもらえたので、各人が調整すれば着けれないことは無いだろう。これからオージー兵たちはどんどん身体に肉が付いてくるから、いまの段階でオーダーメイドで作るのは無駄になるだけだ。


「使徒様……こ、これは……まさか黒鉄を? 」


「そうだ。日本には黒鉄と鉄の合金を作る技術がある。そこにあるのはまだ技術的に甘い時期に作られた物だ。だが、それでも今お前たちが持っている鉄の剣を軽く折ることができる。魔力の通りも段違いだ。よく馴染ませておけ」


「Avenger! これがあの有名なニホンの武器……これで俺たちはまた強くなれる。使徒様! 感謝いたします! 」


「「「使徒様! ありがとうございます! 」」」


《 この武器があれば…… 》


《 中華の奴らを皆殺しに…… 》


《 俺の目の前で妹を弄んだあげくに攫った奴らを殺せる…… 》


《 早く奴らをこの手で…… 》


なんか最初会った時よりオージーたちの目が暗く狂気染みてるな。多少強くなった事で復讐をすることが現実味を帯びてきたからか? それが最終目的じゃないんだけどな……


「感謝する必要はない。その武器と防具が無ければ明日からの訓練で死ぬからな。それと……何か勘違いしているようだから言っておくが、中華兵を皆殺しにして復讐を果たして終わりじゃないぞ? お前たちはその後にオーストラリア国を再興して、中華国にいる300万に及ぶ同胞を救い守っていくことを忘れるなよ? 俺たちが与えるのはそのための力だ。決して復讐を完遂させるためだけの物じゃない」


「は? オーストラリアを? わ、我が祖国を再び再興する? 」


「なんだ? 俺は最初からそのつもりだったが? お前たちをこうして鍛えているのは将来日本の友好国にするためだ。だから俺に感謝などいらない。これは投資だ」


なんで俺がお前たちの個人的な復讐のためだけに手を貸すと思ったんだ? 確かに子供には不幸になってほしくないが、それなら俺が中華国を屈服させて奴隷解放をさせればいいだけだ。地上にドラゴンを置き、毎日攻略フィールドで中華国の精鋭を皆殺しにしていけば簡単に屈服するさ。でもそれじゃあ駄目なんだ。いつまでもこの世界にいれない俺は将来の不確定要素となる中華国を潰したいんだ。


「オーストラリアを……我が祖国を再び?……使徒様、私たちは復讐に囚われそこまでの事を考えていませんでした。我々が祖国を再興できるなどとは夢にも思っておりませんでした。戦争に負けた我々はあのまま鉱夫として生を終えるとばかり……」


「明日からの訓練を乗り越えることができれば可能だ。中華国を壊滅させることができたなら、オーストラリア大陸にお前たちオーストラリア人全員を送り届けてやってもいい。俺にそれができるのはゲートを見たならわかるだろ? 」


「オ、オーストラリア大陸に!? た、確かにあのゲートを繋げば全ての国民を移動させることが可能かもしれません。祖国に帰れる……祖国に…………おいっ! お前ら聞いたか! 中華の奴らと刺し違えてでもと考えてた奴はその考えを捨てろ! 復讐はついでだ! 俺たちの最終目的は祖国オーストラリアの再興! そのためにはまだまだ力が足りない! 俺たちは復讐を果たした上で祖国の再興のために生き残る! それを成すために明日から死に物狂いで訓練を受けろ! 」


「「「「う……うおおおおおおお!! 」」」」


《 祖国に帰れるのか! 生まれた土地に! 》


《 中華の奴らをぶっ殺して妹を助け祖国に帰る! やる! できる! 》


《 強くなればフィールドの攻略だって可能なはずだ。そうなればまた国として……》


《 使徒様のお告げだ! 必ずできる! オーストラリアを再び! 》


やっぱ日本軍とは目の輝きも志も違うな。これならかなり無茶しても大丈夫だろう。一週間と予備日として一日みてたけどいらなさそうだ。コイツらはいい感じの狂戦士バーサーカーになるな。身内にいたり俺に絡んでくる狂戦士は嫌だが、他人なら関係ない。キッチリ仕上げて世界に解き放ってやるさ。


俺は国を再興するという新たな目標を見つけ興奮しているオージーたちを見て、中華国が滅ぶ姿と米欧英連合がオージーたちを止められず苦戦する姿を幻視していた。







翌日の早朝。


昨夜はオージー兵たちに肉中心で食材を振る舞い、オージーたちが食事をしている間に空港の外れに地形操作で三ヶ所に穴を開け、水魔法で水を張って蘭と凛に火魔法でお湯にしてもらうことで作った即席温泉にオージーたちを放り込んだ。リムに渡した兵士用の即席の魔導テントには風呂が付いてなかったからな、もう臭くて臭くて同じ島にいるのも限界だったんだ。500人くらいなら持っている風呂付のテントでカバーできるが、さすがに3000人分は無いし作る時間も無い。

当然リムと以蔵たちが演習用に持っている魔導テントは俺とドワーフとホビットたちの自信作だ。大きなお風呂に魔石式発電機と各種電化製品が揃っているし、二段ベッドだけどふかふかの布団を配備してある。


オージーたちの着替えは無いが、石鹸を渡してあるし即席温泉に入ったあとに残り湯で洗濯するように言ってあったので朝起きたらテントの周りに干してあった。夏ということもあり一晩で乾いたようだ。



「Avengers きおつけー! 使……教官殿に敬礼! 」


「おはよう。今日からお前たちの教官をやる事になったが、まず約束しておこう。この訓練が終了する予定の一週間後には、全員が最低でも体力と物攻または魔力と魔攻がBランクになっている。そのつもりで俺は訓練を行うし、お前たちもそのつもりで訓練を受けろ。脱落した者は容赦なく魔物の群れに放り込んでやる。大丈夫だ、腕や足が無くなってもくっ付けてやる。俺にはそれができる。せいぜい即死しないように気を付けろ」


「「「「「a、Avenger! 」」」」」


「既に俺は三個連隊のおよそ1000人をBランクにしている。死者は0だ。安心して訓練を受けてくれ」


「「「「「Avenger! 」」」」」


「それでは出発する! マリーに静音、留守を頼んだ」


「了解しましたマスター」


「はっ! 何かあればお借りした転移のスクロールにてご報告にあがります! 」


俺はゲートを発動し、マリーたちと静音とダークエルフ5名にドワーフとホビットたちの守りを任せフィリピンへと移動することにした。クオンはここ数日ずっと拠点の横に作ってやったクオン用屋外映画館の前で、プロジェクターで映し出された怪獣映画シリーズを観ながら寝転んでいる。放映される映画の入れ替えはホビットたちが担当しているらしい。そんなクオンの周りにはオークキングの肉と骨が散乱していた。

中華国を攻めたご褒美にクオンの爪で開けられるように作った特別製の大型マジックバッグをあげて、そこに大量の肉とクオンの好きな果物を入れたら見事に引きこもりになりやがった。何も無いとほんと動かないよなアイツ。


ちなみに静音に渡した転移のスクロールだが、拠点に戻れる用とフィリピンの門前に行ける用の二種類を複数渡してある。転移スクロールだけ特殊で、スクロールに付与する時にあらかじめ転移する場所をイメージして付与しないと発動しないんだ。エスケープは発動時にある程度のイメージが必要だが、転移は魔力を流すだけで付与した時に登録した場所に飛ぶことができる。静音なら敵に奪われることも無いだろうと渡しておくことにした。留守中に現在攻略戦を行っている方舟攻略師団に何か不測の事態が起こる可能性も無いとは言えないしな。せっかく育成したのに全滅でもされたら寝覚めが悪い。


静音に転移のスクロールを使ってもらいフィリピンの門から攻略フィールドに入ってきてくれれば、俺たちの世界から持ってきた高性能の無線が繋がるから連絡が取れるはずだ。クオンにも静音の言うことを聞くように言ってあるからこれで完璧なはずだ。



「ダーリンてなんだかんだで面倒見いいわよね。そういうところも好きなんだけど」


「旦那さまは優しいんだぞ? このオーストラリアの奴らにだって装備にメシにと結構面倒見てるしな」


「ふふっ、投資とか言ってて笑っちゃったわ。あの少女たちを救いたいだけの癖に」


「ふふふ、光希は照れ屋ですからね。いつもギブアンドテイクとか自分がそうしたかったからしたとか、運がいいだけだとか相手が恩を感じないように言いますよね」


「うふふ、主様は蘭を助けて育ててくれてる時もそう言ってました。蘭が頑張り過ぎないように、無理しないようにいつも……」


おいっ! やめろ! 以蔵たちやリムたちが笑ってるじゃないか! そんなんじゃないんだ!


「何言ってんだ? 俺たちがいなくなった後の日本のためだ。助けたあとに簡単に滅んだらアマテラス様にまた呼ばれるかもしれないからな。たまたまいい駒が見つかったから利用してるだけだ。ほらっ! そんなことより早く門に入るぞ! 以蔵!リム! オージーたちを攻略フィールドの門まで走らせろ! 」


「ハッ! ふふっ……」


「はっ! フフフ……」


「ぷっ! そういう事にしておくわ。私のダーリンはほんと素直じゃないんだから」


「さすが旦那さまだな! そんなことまで考えていたのか! あたしには優しいからなんでもいいんだけどな! 」


「あはは! コウったら昔獣人の村を救った時と同じこと言ってるわ。あの時は村を復興させるために全財産をあげちゃったのよね。しばらく貧乏生活してたのを思い出したわ。でもそういうコウが好きだったのよね。もちろん今もね♪ 」


「うふふ、あの時は蘭の節約術に磨きがかかりました。シル姉さんがいない間も同じことを何度もしてました。蘭はとっても誇らしかったです」


やめろ! 以蔵! リムにミラにユリも!他のサキュバスたちにダークエルフまで! 俺をそんなニヤついた目で見るんじゃない! あとシルフィ余計なこと言うな! あの獣人たちには貸しただけだ! 投資を回収するのを忘れてただけだ!


俺は周囲からの生温かい目に耐えながら、攻略フィールドに繋がる門までグリ子にまたがりオージーたちの後を付いていったのだった。






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