第29話 生中継 後編







《 皆の者! 我ら光魔忍軍の力を世界中の者たちへと見せつけよ! 刺突の陣! 》



ヴェロキラプトルの群れを先頭に黒鬼馬に鬼馬とおよそ1000体の魔物が迫る中、岩竜のガン子に乗る静音の号令とともに107名のダークエルフたちは紫音と桜を中央に置き、それぞれ5m間隔で横一列に並んだ。

そしてそのダークエルフの上空に静音はガン子を移動させ、ダークエルフたちはガン子の影にすっぽりと覆われたのだった。


「なるほどな。この遮蔽物のない平地で巨大な岩竜を利用して影を作ったのか」


「闇の精霊は日中は数が少ないから、こうやって集めないといけないのよ。その分夜はどの精霊よりも数が多いんだけどね」


「あれなら影の中にいるうちは闇の精霊を存分に扱えるというわけか」


「そういうことね」


俺はシルフィと話しながら納得していたが、エメラの背をあっこっちカメラマンと移動してレポートしている天城さんはよくわかっていないようだ。まあ精霊魔法とか使えるのはエルフだけだから、あんまり知らないんだろうな。



「お? やっと来たか」


「あら? 間に合ったのね」


俺がダークエルフの創意工夫に感心していると、パース市の方で見知った6つの魔力が現れた。


《 リチャード、間に合ったな》


《 え? こ、声!? こ、この声はサトウさん? 》


《 そうだ。心話というまあ魔法だな。それで話しかけている。それより同行している佐助から聞いてるぞ? 力と魔力と魔法の3つの塔を攻略したんだってな? たった五日間でたいしたもんだ 》


俺は早めに横浜に来たリチャードに装備をやって、その慣らしにリアラの塔を同行者を付けて挑ませていたが、あまりにも順調に攻略していっているようなのでキリの良いところまでやらせてやる事にしていたんだ。

今朝の時点で同行させていたダークエルフの佐助から、これから魔法の塔のボスに挑むと聞いていたからそれが終わったら来ればいいと伝えていた。


《 そ、そんな魔法が……あ、はい! なんとかギリギリですが攻略しました! 頂いた装備のおかげです。それよりも遅くなり申し訳ありません 》


《 いいさ、今朝の時点でもう少しで攻略できそうだと聞いたからな 》


《 ありがとうございます。それにしても転移のスクロールが存在するとは……ミスター・サスケに触れただけで一瞬で女神の島からここまで来ることができました 》


《 これは非売品だからどこにも流すつもりはないがな。それより南の狩場に来い。遅れた罰として最前列で戦わせてやる 》


《 は、はい! 私たちの成長した姿を見ていてください! 》


《 期待しているよ 》


俺がそう言うとリチャードたちはもの凄い速さで南の狩場へと走っていった。


《 佐助、ご苦労だったな。お前も静音たちに合流していいぞ 》


《 はっ! 》



「あの子たち強くなってるわね」


「ん? ああ、ステータスがSになってるのがあるな。あの5人が楽しそうなのは能力が上がったからかもな」


「AからSにはなかなか上がらないから、私も上がった時は嬉しかったわ。彼らならもう慢心はしないでしょうし成長が楽しみね」


「そうだな。俺なんかよりよほど勇者っぽいパーティだしな」


魔法剣士の上位職である英雄のリチャード。上級聖魔法と上級水魔法の使い手のブリアンナ。大楯使いのケビンに大剣使いの虎人族のガイル。そして盗賊職で猫人族のミリー。なんてバランスの良い勇者パーティなんだ。俺なんて蘭と二人だったんだぜ? よく魔王を倒せたと思うよホントに。


「ふふっ、コウの方が勇者してるわよ。それよりもう接敵するわ 」


「あ〜あ、ヴェロキラプトルに馬系の魔物はやっぱ馬鹿だな。ダークエルフに合わせて横いっぱいに広がってるよ。こりゃヴェロキラプトルも馬もすぐに退場だな」


リチャードたちが向かっている南の狩場を見ると、ダークエルフたちに合わせてヴェロキラプトルと黒鬼馬は横一列に広がり、それぞれが獲物であるダークエルフに襲い掛かかるところだった。


》》》


ダークエルフたちが忍法と言う名の精霊魔法を発動すると、影の中から無数の黒く長大な槍がヴェロキラプトルと黒鬼馬に向けて斜めに生え、魔物たちは次々とその槍に自ら貫かれにいっていた。


「凄いわね。まるで剣山だわ。確かああいうのを槍衾やりぶすまって言うのよね? 地面から槍を生やすだけで勝手に刺さりにいってくれるなんて楽でいいわね」


「そうだね。ああいう突進力が売りの魔物には有効だね。お? リチャードたちが追い付いたな」


槍衾で先頭のヴェロキラプトルと黒鬼馬を刺し貫き足を止めたダークエルフたちは、直ぐにお互いの距離を詰め密集陣形となり遠距離の精霊魔法を一斉に放ち、立ち往生している討ち漏らした魔物たちを葬っていった。英作たちパーティは最後尾でまだ出番は無いのだが、大月さんだけ火矢を飛ばしているな。さっそく使いこなしているようだ。


ダークエルフたちが足の速い魔物の第一陣を殲滅したところでリチャードたちが追い付き、今度はリチャードたちをワントップにした『→』のような陣形へと変化した。中央にリチャードのパーティ、両翼に紫音と桜が配下の者を引き連れて展開し、リチャードたちの真後ろに以蔵が付き添っている英作たちのパーティがいる。


「ここからは肉弾戦だな。《 蘭に凛! サポート頼むぞ! 》 」


《 任せて! 空からくる魔物は撃ち落としてあげるわ! 》


《 はい! 子供たちは蘭が空から見守ります! 》


俺はグリフォンに乗る蘭と凛にダークエルフたちのサポートと英作たちのサポートを頼み、オークとオーガの群れの真ん中へと突撃していくリチャードとダークエルフたちを見送るのだった。









ーー 横浜市 私立 冒険者学園 横浜校 講堂 高等部1年 B組 佐々木 陽介 ーー





『ご覧ください! 忍び装束に身を包んだダークエルフの皆さんが等間隔に一列に並んび始めました! これであのヴェロキラプトルと黒鬼馬の群れをいったいどうするというのでしょうか!? 』


『 天城さーん! こちらスタジオです。後方にいる冒険者学園の生徒さんたちは大丈夫なのでしょうか? もしダークエルフの皆さんが抜かれたら大変なことになると思うのですが……』


『はい! 万が一の場合は上空にいる岩竜が対処し、その間にグリフォンが生徒さんたちを回収することになっているそうです。ですが佐藤さんが言うには絶対に大丈夫とのことです』




「ほ、本当かよ! 凄い大群だぜ? ダークエルフのお姉さんたちが抜かれたらあっという間に呑み込まれるんじゃないか? 」


「でもあの佐藤さんが大丈夫だって言うんだ。凛さんや蘭さんも上空にいるし、信じるしかないよね」


でも本当に大丈夫かな……ダークエルフの忍者集団と英作たちは20mも離れてないない。

うわぁ〜鈴木も戸田も新見さんも顔が青いのが画面越しにもわかるよ。僕がもしあの場にいたら……うん、絶対漏らしてる。


でもさすが英作だな。みんなの先頭に立って大きな盾をどっしりと構えている。大月さんはその後ろで槍を右手に持って左手を魔物のいる方向に向けている。あの二人だけはなんだか別格に見えるよ。




『接敵します! あっ! ダークエルフの皆さんが一斉に両手を胸の前で結びなにやら唱えています! え? ええーーーー!? 』


「な、なんだありゃあ!? 」


「す、凄い……魔物が次々と串刺しに……」


ダークエルフの人たちが忍者のように両手で印を結んだと思ったら、足元の影から20mはあろうかという黒い槍が無数に生え、その槍に向かって魔物たちが次々と串刺しにされにいった。

そしてすぐさま陣形を変えて黒い刃のようなものを次々と飛ばし、串刺しを逃れた魔物たちの首を次々と切り落としていった。

あっ! 大月さんの手からも火矢が! 大月さんいつのまに魔法を覚えたの!?




『 す、凄い……』


『あ、天城さん? これは魔法なのですよね? 』


『 は、はい……ダークエルフの皆さんは闇の精霊魔法を使えると聞きました。恐らくこの槍衾のようなものはその精霊魔法だと思われます。私も初めて見るのですが、これほどとは……』




「すげー! ダークエルフ強えぇ! 圧倒的じゃんか! やべえ! 」


「僕たちの知る魔法と違って柔軟性がありそうだよね。なるほど。佐藤さんが大丈夫だというわけだね」



『あっ! アメリカのAランク冒険者パーティのアヴァロンが参戦しました! 彼らは以前女神の島で佐藤さんたちとトラブルを起こしたのですが、現在では和解をして今回のLight mareの呼び掛けに一番最初に応じたんですよ』


『ええ、あの事件は記憶に新しいです。改心した彼らがその後に、償いの日々を送っていた事も聞き及んでいます。佐藤氏が若い彼らにチャンスを与えてあげたこともです』


『はい! そうなんです。佐藤さんは、彼らの更生した姿を見て竜革の装備やミスリルの剣などをあげたそうなんです。素敵ですよね』




「アヴァロンって去年女神の島を佐藤さんたちから横取りしようとして、返り討ちにあった人たちだよな? 」


「テレビでそう言ってたね。でも更生したとはいえ、元は敵だった彼らに竜革の装備やミスリルの剣をあげるなんて凄いなぁ」


僕だったら自分を傷つけようとした人間がいくら更生しても、そこまでしてあげようなんて思わないな。

その装備でまた傷つけようとしてくるかもしれないし……きっと佐藤さんはそうなってもまた返り討ちにする自信があるんだろうな。強者の余裕とかカッコイイよね。


スクリーンには遠距離魔法を放ったダークエルフたちがまたすぐに陣形を変え、今度は弓矢の鏃のような形になった。

あっ、英作たちは中央にいるアヴァロンのすぐ後ろにいる。Aランク冒険者パーティの戦いをすぐ後ろから見れるのは羨ましいな。


「ああいうのアロー陣形とかって言うんだよな? 確か大群を分断するために突撃専用の陣形だったような……てことは、まだ4千はいる魔物の群れに突撃するつもりってことか? 」


「そうみたいだね。あっ、動いた! …………す、凄い……」


スクリーンには魔物の群れに突撃したアヴァロンほかダークエルフたちが、魔物なんて鎧袖一触で薙ぎ払いながら進んでいく姿が映し出され、講堂にいる誰もが言葉を失っていた。

これが魔物の大群との戦い……いつかまた大氾濫が起こった時に、僕たちが直面する未来の映像。




『ご、ご覧ください! アヴァロンを先頭に密集していた魔物の群れがどんどん分断されていっています! もの凄い突破力です! 』


「あっ! サブ画面の北側の戦場にも魔物が到達したみたいだ……ってなんだあれ!? 」


「円陣に鶴翼の陣? 」


『ここで北の戦場でも接敵した様子ですので切り替えます! 南の戦場はサブ画面でご確認ください。北には牛人にワームにスコーピオンと手強い魔物が多いようですが、竜を狩るものたちとその美しい純白の翼を持つ光魔族の皆さんはいったいどのように戦うのでしょうか』


レポーターのお姉さんがそう言った瞬間に、円陣を組んでいた竜を狩るものたちと牛人の群れが接敵した。

光魔族の女性たちは空から迫る風切り鳥やガーゴイルの群れに突撃していっていた。


「回ってる? 」


「うん、回転してるね。まるで戦国時代に上杉謙信が使っていたという車懸かりの陣のようだね」


確か円陣を組んで車輪のように回転しながら敵の集団に突っ込んでいくんだったかな? 本来はこれを馬に乗りながらやるんだけど、竜を狩るものたちは徒歩で凄い速さで回転して次々と牛人に斬りかかっている。


牛人は代わる代わる現れる敵に翻弄されつつも殴りかかろうとするけど、刀で受け止められ弾かれ、次に現れた人に斬りつけられていった。そしてこの攻守に優れた陣を前に動きを止め後方で攻めあぐねている牛人は、背後から翼のように広がった陣形を狭め迫ってきた薙刀を持った女性たちに斬り伏せられていった。


薙刀を持った女性たちには目の前の牛人を斬り伏せると、深追いせずにその狭めた陣形を元の位置まで広げ、また立ち往生する牛人がいれば狭めてを繰り返していた。


「なんかパチンコゲームのフィーバーみたいだ。羽が開いたり閉じたり凄い機動力と連携だなぁ」


「200人はいるのに全く乱れることなく動いてるよね。なんて統制力と練度なんだろ。とにかく凄い人たちだよ。なんで兄さんや先生は近付くなって言うんだろ? 学ぶべきことが多いと思うんだけどな」


『す、凄い……なんて統制力なのでしょう。あっ! 危ない! ワームです! ワームの群れが近付いて……キャーー! 』


「の、呑み込まれた……」


「……うん」


衝撃だった……鶴翼の陣を狭めたところに突然地中からキングワームが現れて、避け損なった女性が一人ワームに呑み込まれてしまった。

講堂内ではあちこちから悲鳴が響き渡っている。そうだ、ここはフィードタイプの戦場なんだ。奇襲一つで人間なんて呆気なく死んでしまうんだ。


「目をそらすな! これが戦場だ! 仲間がキングワームに呑み込まれた後の対応をよく見ておけ! 竜を狩るものたちは頭はイカレてるが決して仲間を見捨てないし諦めたりなどしない! 」


「せ、先生……」


そ、そうだ! まだ地中に潜られなければ救出できるチャンスはある! ワームの胃にたどり着く前なら、溶かされる前なら! 現に薙刀を持った100人以上の女性たちが一斉にワームに襲い掛かり地中に逃れるのを阻止している。


『天城さーん!天城さん! ちょっとショックが大きかったようですね。カメラマンの瀬田さん? 近付けますか? 音声を引き拾ってみてください! 』


『は、はい! ヤンさんお願いします』



《 明美ーーーー!! 待ってなさいよ! いま助けるから! 》


《 尾を縫い付けなさい! 頭を切り落とせば動きが止まります! たかだかキングワームです。落ち着いて対処しなさい! 》


《 明美! 余裕で避けれたはずなのになんで動きを止めたのよ! もうっ! 喰らいなさい! ハアッ! 》


え? 避けれた? 突然現れたから身体が硬直したのかな? いや、僕たちならそうかもしれないけどあの竜を狩るものたちが?


「陽介……なんだかワームの様子が変だぞ? 」


「苦しんでる? あっ、暴れ出した」


《 一旦離れなさい! 》


《 な、なに? 急に暴れ……ええ!? 》


「は? 」


「え? 」


こ、こんなことって……ワームが急に暴れ出したと思ったら、ワームの腹がいきなり爆発して中から女性が飛び出してきた。その女性は身体中をワームの粘液まみれにしながらも、なぜか達成感に満ちた顔をしていた。


《 明美! あんたこれがやりたくてわざと呑みこまれたのね! 》


《 フフフ……巨大生物を体内から倒すのを一度やってみたかったのよね》


《 やるなら前もって言いなさいよ! 助けようとして損したじゃない! スコーピオンを男どもに取られたわ! 》


《 明美? あの技は影心竜薙刀術『爆花繚乱』 ですね? 見事でした 》


《 はい! ついに成功しました! 》


《 今後も精進なさい。皆さん! 陣形を整えますよ! 皆さんも明美を見習ってより高みを目指し続けてください 》




『せ、瀬田さんもう音声は結構です。天城さーん? 北側のレポートはもう結構ですので南側をお願いします』


『は、はい……それがいいですね』


「なあ陽介……真似したり道場に入門したりするなって意味がわかった気がする」


「……うん。ちょっと頭おかしいんじゃないかなと僕も思った」


「いいか! みんなは絶対にマネするなよ? 普通は死ぬ! 良くて身体を溶かされて重傷だ! あの人たちは頭がイカレてるからできるんだ。お前たちは絶対にマネをするな! そして竜を狩るものたちには近付くな! 万が一人生に絶望して入門した奴がいたらこの学園の卒業名簿から除名するからな! 」


「「「はい! 」」」


僕たちは先生の注意事項を素直に受け入れ元気よく返事をした。

たとえ人生に絶望したとしても、絶対にあの人たちの仲間にはならないと強い意志を込めて……






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