2章 南九州の竜

プロローグ



ーー永田町 探索者協会本部ビル内 冒険者連合日本本部(仮) 風精霊の谷のシルフィーナーー




「まだ北海道に冒険者が集中してるのですか」


「はい、冒険者登録をした後もピチピチュの実を求めて以前と変わらず富良野上級ダンジョンに潜っています」


「ダンジョン攻略を目指しているから問題ないとでも?」


「はい、冒険者達はそう考えているようですがレイドを組む訳でも無く相変わらずパーティ単位でピチピチュの実を手に入れようとしています」


「レイドを組まずに上級ダンジョン攻略など佐藤様以外に出来るはずありません、過去ピチピチュの実を手に入れた者達も皆レイドを組んで手に入れてます」


「ええ、昔ピチピチュの実を手に入れその効果が世に知られてからは世界中の富豪が有能な者達を支援してるようで富豪同士の代理戦争になってるようです」


「つまりは攻略する気が無いと言う事ですね」


「はい、攻略してダンジョンコアを破壊すれば世界中の富豪から命を狙われる事になりますので」


「結局大人数で間引きをしてるだけですね、今の冒険者連合と冒険者の実力ではすぐに攻略をとはいきませんので間引きは必要ですがこれ程の人数はいりません。下層域に到達していない者は全て追い出しなさい、嫌なら下層に到達するか冒険者を辞めるよういいなさい。期限は5日です、攻略する気の無い者などこの組織には必要ありません。それと世界中の富豪の紐付き冒険者は関係を切らないのなら退会させると伝えなさい、富豪の指示で動く冒険者もいりません」


「はい、そのように申し伝えます」


「よろしい下がりなさい」


「失礼します」


パタンッ


「はぁ〜……なかなか思うようには行かないわね、邪魔な資源省が無くなっても人を動かすのは大変だわ、あ〜光希様は今頃沖縄で彼女達とイチャイチャしてるんだろうな〜なのに私は毎日毎日問題事ばかりで…はぁ〜」


光希様が資源省の高級官僚と警察の探索者課を一掃してから今日までの2ヶ月、探索者協会にとって過去最大の好機が訪れた。世論もマスコミも資源省と警察と前政権を叩きまくっており、私は光希様の指示通り現場の後始末をし警察官が関与していた組織犯罪として知り合いの公安職員に引き渡した。

翌日光希様が投稿した動画を見て資源省の解体は時間の問題だと確信した。


その後世間が混乱している隙に資源省の解体を予想した私と各国の探索者協会理事長達は、以前からの計画を実行に移す決断をした。過去幾度も資源省に外国政府を使って邪魔されてきた冒険者連合の設立。

ただ実行に移す段階になり私達が用意した冒険者になった場合の特典に魅力が無いと、これでは高ランクの探索者は集まらないよと光希様にダメ出しをされてしまった。


確かに探索者協会よりは稼げる仕組みにはしたけど探索者達が本当に求める物は用意したくてもできなかったのでイマイチな特典なのは自覚していた。けど、上級ダンジョンを攻略して世界を救う勇者になれる魅力や世間から称賛される名誉で人は集まると私達は思っていた。

それを話したらシルフィーナはやっぱりシルフィーナだなぁと光希様に笑われてしまった。私達各国理事長はやはり異世界人で勇者とか名誉とかそういう物の価値観がこの世界の人とは違うらしい、この世界がアトランのような末期世界になれば私の言う通りになるかもしれないが良くも悪くもこの世界には余裕があるのだと、ダンジョンを囲い魔獣が外に出ないようにし魔王もいないしねと。

言われてみれば確かに命をかけてやる程切羽詰まってないのかもしれないと私は思った。


私は落ち込んだ、やっと日本を世界を救える組織を作れるチャンスなのに人が集まらなければなんの意味もない。各国の理事長になんて言おうか…そう落ち込んでるいる私に光希様は微笑んでいいよ、俺が強力してあげるよ、だからシルフィーナは笑っていてくれシルフィーナの悲しそうな顔は見たくないんだ、俺がBランク以上の者全てとCランク以下の者が上を目指したくなるような特典を考えてあげるよと言ってくれた。

私は嬉しかった、勇者様が私を助けてくれる光希様が私に笑顔でって私の悲しい顔を見たくないって……濡れちゃった。


そして私が股をこすりモジモジしている間に光希様はアイテムボックスから次々と上級ポーションや魔力回復促進剤や上級解毒薬に見た事もない魔道具を出してこれを餌に釣ればいいと、素材さえ集めてくれれば俺が作れる。俺はレシピを知っているんだと。

私は驚愕した!上級ポーションや魔力回復促進剤や解毒薬のレシピは聖教会の秘匿事項だったからだ、それを知っているなんて流石勇者様だとキラキラした目で見ていたら、そんな凄い事じゃない俺は回復魔法使えないから命に関わることなので教会を襲撃して拷問して吐かせたと笑って言ってい……勇者様?

私は聞かなかった事にした。私が目を逸らしたのを見て光希様はシル…も一緒に襲撃…参…したんだけどなぁと何か小さな声で呟いていた。


光希様は次々と現在の探索者が求める特典を提案してくれた、私は全部採用した。冒険者ギルドのポイント制度をアイテムの交換に応用したのは凄い名案で私もノリノリだった。更に民間人からの安心と尊敬を獲得する為に契約の魔道具も貸与してくれるなんて私の為に……私は下着を交換しにトイレに向かったわ、黒のスーツで良かった。


そして政府に根回しをして各国の理事長とも調整をし冒険者連合発足となった、それはもの凄い反響だった!ほぼ全てのBランク以上の探索者が登録に来て大成功の滑り出しだった。

でもその分私は忙しくなりその間に蘭さん達が資源省子飼いの指名手配中の探索者の襲撃を受け大衆の面前でかなりエグイ殺し方をした上に新宿の雑居ビルの地階を燃やし尽くしあわや大火災になる所だった。

光希様が全て後始末したみたいでしたが警察から私の所にやり過ぎだ場所をもう少し考えてくれとクレームの嵐だった。彼等は光希様が怖くて直接言えないから私に来るのよね、私も嫌だったけど探索者協会の理事長として仕方なく光希様に苦言をしたわ。

でも私がなぜ蘭さんを止めなかったんですか?と聞いたら好きな女がやった事だ、男は黙って後始末をすればいい間違った事はしていないしな。なんて言うの!あの魅力的なお顔でこのカッコイイセリフ!惚れたわ!そして濡れたわ!


確かにアトランでは当たり前の事をしただけだけど、ここはアトランより人口が圧倒的に多く更に人が密集している世界で殺人事件もそうそう起きない国、また資源省の残党やそろそろ他国の諜報員も動き出すかもしれないと考えた私は離れるのは嫌だったけど横浜を離れる提案をした。私は光希様に協会が運営しており食糧や資材は別として人間はヘリでしか移動できない沖縄の離島へのバカンスを勧めた。

光希様は私に迷惑掛けれないしなと言ってくれ旅に出る準備をしてくるよと出て行った。

私は泣いた…しばらくまた会えないと。

ここ数日私は落ち込んだけど光希様が心配してメールをくれるから頑張れてる。

私も一緒に行きたかったな沖縄…



私が今日までの事を思い返しているとこの部屋に近付いてくる気配がした、と思ったらノックも無しに勢いよくドアが開いた。


「よう!シル!久しぶり!冒険者連合やっと発足したんだって?やったじゃん!」


「はぁ〜セルシア…ドアはノックしなさいと何度言えば、それと来るなら一言連絡しなさいとあれほど…」


「やははは相変わらず細かいね〜いいじゃないあたしとシルの仲なんだからよ」


「親しき仲にも礼儀ありって言葉がこの国にはあるのよ…て言っても無駄なんでしょうね」


「日本のことわざか?アトランは親しかったら何してもいいんだけどなシルもこの国に染まったな」


「アトランじゃなくて貴女の部族だけでしょ!一緒にしないで」


「んん〜?そうだったっけ?細かいなぁシルは」


「このっ…」


突然ドアを開けてズカズカ入って来てソファにドカッと座りその長い足をテーブルに乗せて偉そうにしているこの子はセルシア・ドラスといい40年前アトランで私とパーティを組んでダンジョンに潜りこの世界に一緒に来た私と同じくSランクの竜人族の女性。


身長が170程で燃えるような紅髪のショートボブで目も赤く吊り目がちでかなりキツめな印象だが顔は整っていて少し笑うと目尻が下がりかなり可愛い、けど大抵は下品に笑うから微笑は中々見れないのよね。

今日は白のパーカーにデニムショートを履いていてその白くて長い足をテーブルに乗せてる、パーカーを押し上げ主張する胸は確かHカップだとか言ってたわね、光希様に出会うまではCカップとか気にしてなかったけど彼の恋人達胸大きいのよね、多田さんは私と同じくらいだから大きいのが好きって訳じゃなさそうだけど最近少しセルシアの胸が羨ましく感じるわ。


そしてこの子の性格は兎に角攻撃的、もうこの種族は全部そう。そういう種族なのよ、自分より力が強いとか自分に出来ない事をできる人の言う事は聞く耳持つけど、それ以外の人の言葉は一切聞かない。あたしを倒せたら聞いてやるとか言う始末、正直組織では扱い辛い存在ね。

でもその圧倒的な近接格闘能力が扱い辛いとかを補って余りある程高いのよね、それでいて容姿が良いものだから色んな男性に声掛けられて…今でこそそんな命知らずはいないけど最初の頃は大変だったわ…ああ、歳は確か私より少し下で120歳位だけどエルフと同じ長命種だから見た目は10代後半位かしら?

セルシアは私がパーティ解散してからずっとソロでダンジョンの間引きをしていてその他は自衛隊に出向して教練したりダンジョンで戦闘を教えたり、事務とか駄目な子だから戦闘関係で色々手伝って貰ってる。

今日は自衛隊の教練がひと段落したから東京に来たみたいね。


「でさあ、横浜とか東京とか随分と大変だったみたいじゃん!横浜上級ダンジョン攻略した奴がいるんだって?」


「そうよ、佐藤 光希さんと蘭さんの2人で横浜上級ダンジョンの氾濫鎮圧とダンジョン攻略をしてくれて最小限の被害で済んだわ」


「へぇ、自衛隊や他の探索者が魔獣を防いでるのを利用して魔法で上手く掃討して、チャンスとばかりに魔獣のいないダンジョンに入って上級になったばかりのダンジョンガーディアン倒したって聞いたぜ?運が良かったみたいだな」


「貴女もそんな噂を信じているのね、相変わらず携帯持ってても電話にしか使ってないようね。テレビは見てる?貴女と同じ事を言った女魔法使いは下半身氷漬けにされたわよ?」


「いんたーねっとって奴か?あんなの訳わかんねーよ、日本の文字は複雑だしな。テレビなんかくだらないもん見る訳ないじゃん!毎日毎日同じ内容言ってるだけ、オウムかよって。その佐藤って奴はアトランから来た奴から貰ったのか上級魔法複数覚えて上手いこと立ち回っただけだろ、そんなに強いなら今まで現れなかった理由がつかねーからな」


この脳筋はいつも感覚で人を判断するのよね、でも動画見ても直接見ないと駄目だとか言いそうね。


「竜人族は相変わらず情報音痴ね…だから人族にいいように利用されてきたのに」


「アイツらは数が多いだけだ!あたし達は世界一強い種族だから人族なんて怖くないからな、あたし達が利用してたんだよ」


そうして滅ぼされた部族もあったじゃないこの馬鹿!脳筋!


「はぁ〜確かにSランクで私よりも強いし世界一でしょうね、Sランクではだけど」


「なんだよだったらあたしが世界一じゃねーか」


確かに精霊使いの私と超近接職のセルシアでは彼女の方が圧倒的に有利だし勝てる気はしないわ、でも彼の事は言えないし冒険者連合は他人のランクも能力も全て見れないようにしてるしここは何を言っても無駄ね。


「どうでしょうね」


「どうも怪しいなぁシル何を隠してる?その佐藤って奴を何故沖縄のあのリゾートホテルに匿ってる?」


「噂だけは情報が早いのね貴女は…資源省の残党の襲撃を受けたからよ、また襲われたら大変だから沖縄まで行ってもらってるだけよ」


「ほらっ!やっぱり大したことないんじゃん!強いなら何故たかが資源省の残党相手に逃げる?戦えばいいだろ?弱いからじゃねーかあたしの言った通りだ!」


「違っ!そうじゃなくてここで暴れられると私が「もういいよシルまさかその男に惚れてんのか?」大変…え?」


「ほ、惚れてるとかそんな…その…」


「マジか!?あのシルがか?」


「せ、セルシアだって今まで男性と付き合った事ないじゃない!」


「こっちの世界に来てから成人したからな、あたしより強い男がこの世界にいないだけだ」


「う…くっ…それは…そうだけど」


「いや〜あの勇者一筋のシルがね〜騙されてる可能性もあるな〜横浜ダンジョン氾濫での行動がが勇者っぽいからか?上手いこと騙されたか?よしっ!あたしが見定めてきてやるよ!本物か偽物か、偽物だったらシルを騙した奴だ殺してやるよ」


「なっ!?ちょっとやめなさい!絶対光希様に手を出さないで!貴女死にたいの!?」


「へ?あたしが死ぬ?……クッ…クククク…あはははははは!これは本当に勇者だとか思わされてんな、光希様ねぇ〜いいよ殺してもらおうじゃねーかその詐欺師によ!シルもそいつが呆気なく死んだら眼が覚めるだろ。あたしが見てきてやる!じゃあな!」


「ちょっ!待ってセルシア!待ちなさい!貴女の為を思って……いっちゃった……ハッ!こうしてはいられないわ!」


セルシアは私が光希様に勇者だと思わされ騙されてると勝手に誤解して私が庇えば庇うほどどんどん興奮していって、セルシアが心配だから死んでほしく無いから止めたのに私が話せば話すほど誤解が深まり彼女は部屋を飛び出して行った。

私はこのままじゃマズイ光希様に怒られると沖縄のヘリ基地に連絡して絶対に離島にセルシアを行かせないよう手配しようとして…やめた。


「そうだったわ、あの子飛べるんだったわ……あーもうっ!忙しいのに!もうっ!あの馬鹿女!」


私はこの忙しい時期に問題を起こしに行ったセルシアに対応する為急いで各所に連絡をし準備をした。


あの馬鹿女絶対許さないから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る