第53話 国際会議







ーー 方舟特別エリア 国際会議場 内閣総理大臣 東堂 勇 ーー





『ではニホンはLight mareという集団を使って世界を征服するつもりはないと? 』


「我が日本国は世界を征服するなどという野望は一度も持ったことなどありません」


『ならば今現在我がロシアへ掛けている脅迫とも言える圧力に関してはどう説明されるつもりか? 』


「我が国が掛けているのではない。独立勢力であるLight mareが掛けているのです。その辺を誤解なきようお願いします」


『それは詭弁というものでは? 現実としてLight mareのリーダーはニホン人であり、ニホンを守るための行動をとっている。旧中華国を崩壊させ、我が国の重要拠点を破壊した挙句に米国にまで乗り込んだ。強力な力を持ったニホン人とニホン政府が繋がっていないと言い切るのは少々無理があるのでは? 』


「まずLight mareのリーダーである佐藤氏は日本人ではありますが日本国籍を有しておりません。Light mareと我が国は、過去に我が国の重大な過失により交戦し警察官に多くの犠牲を出しております。このことから彼らは同じ日本人だからといって無条件に味方するという考えはありません。その後、我が国の外務省の努力により和解をし今でこそ良好な関係を築くことができておりますが、再び我が国が彼らに危害を加えようとすれば彼らは躊躇うことなく反撃をしてくるでしょう。現に次は日本を滅ぼすと警告を受けております。まずLight mareにとっては、我が国も貴国や米国と同じレベルの存在でしかないことをご理解いただきたい。貴国による侵略を退けた行為は我が国が要請した事ではありますが、その後の行動は全てLight mareの自発的な行動であり、我が国は一切関与していないことをここに明言いたします」


まさかロシアに世界征服の意思云々を言われるとはな。オーストラリアと東南アジアを侵略し、ほか世界各国に食糧を略奪するために侵略しておいてよく言う。

しかしなんという茶番の会議だ。通常は年に一度行われる国際会議だが、今回は米欧英連合とロシア、南アメリカ連合を発起人として臨時で開催された。例年は各連合の代表と発言権のない10ヶ国程度が参加している程度なのだが、今回は発言権が無いにもかかわらず42ヶ国も参加している。


『……ではニホン国ではあの悪魔たちを制御できないと? 』


「我が国とLight mareとは対等な関係でありますので、進言やお願いという形でしかその行動に干渉することはできかねます」


会議が始まってからどうにかしてLight mareの行動を日本に制御させようという議題と質問ばかりだ。その他は日本の技術を世界平和のために共有するべきだとか、日本叩きのための会議になっているな。さすがに日本の技術に関しては過去に無償で提供している事をアラブとインドが取り上げ、日本の技術を手に入れるために痛い目にあった米欧英やロシアもLight mareを刺激するのを恐れ、対等な交易で解決すべきだと反対に回り採決にまではいかなかったが……


くだらん会議だな。しかしこんな会議でも参加しないわけにはいかない。陛下が世界平和と協調を望まれている以上、日本が孤立するわけにはいかない。


第二次大戦に第三次大戦と、戦後の混乱期に陛下がその御身をもって国民を導いてくださったからこそ今の日本があるのだ。そしてその陛下による民と世界を想う祈りを聞き入れた天照大神様が、Light mareという神の使いを日本へとお送りくださった。陛下が他国を無視し日本だけが助かる道を望まぬ以上、それは天照大神様の御意思でもあるということに違いない。

しかし各国は佐藤さんたちを危険視する発言ばかりが目立つ……


俺は後方で緊張した面持ちでカメラを持つ産恵新聞の女性記者と、PCに向かい合い同時通訳を聞きながら会議の進行を楽しそうに見ている者たちに目をやりため息を吐いた。



《 Light mareが一国と対等の立場だと? 》


《 あんな危険な集団を野放しにしていていいのか? 》


《 ニホンがその気になればあのドラゴンを差し向けてくるのではないか? 》



『一国と対等とはな……裏でニホンが糸を引いているとしか思えんな 』


「それは言い掛かりというものです。貴国はその言い掛かりで旧中華国と我が国に侵攻してきたことをお忘れか? それに貴国とは未だ戦争状態であることを認識していただきたい。我が国は貴国により侵攻されたことを忘れてはいません。よって我が国に言い掛かりをつけ他国を味方につけようとも、今後我が国が貴国とLight mareの間に入ることはありません」


『…………』


「貴国がする事は我が国に言い掛かりをつけることではなく、貴国により不当な扱いを受けている東南アジアの人々を解放し補償を行うことではないですか? その件は我が国は関与しておりませんが、Light mareの代表である佐藤氏は本気です。現在貴国は東南アジアの人々を攻略済みフィールドから追い出しているようですが、早々に解放を実施された方がよろしいのではないですかな? 」


『クッ……現在調整中だ。誤解があるようだから言っておくが、我が国は東南アジアの人々を保護している。旧中華国のような奴隷として扱ってなどいない』


「ではなぜ攻略済みフィールドから退去させているのでしょう? 反乱を恐れているとしか思えませんな」


『…………』


都合が悪くなるとダンマリなのは中露も南朝鮮も同じだな。我が国にも少数だがロシアから逃げてきた東南アジアの人々がいる。彼らを佐藤さんは鍛える気満々だ。ロシアは前大統領が管理者でその大統領は他界している。いくら東南アジアの人々をフィールドから出そうとも、再び彼らは中に入ることができる。ロシアが考えてることなど手に取るようにわかる。反乱の芽は早めに摘むつもりだな。ジェノサイドか……



『ロシア連邦プリーチン大統領。質問は以上でよろしいですか? ……はい。ではLight mareに関してのロシア連邦による議題はここまでとします。Light mareと呼称される集団はニホン国とは別の勢力であり、特に刺激をしない限りは世界の脅威になりえないというニホン国の発言を本会議にて記録いたします。残念ながらここで私たちがどれほど彼らを危険視しても対抗する術はありません。各国はくれぐれも彼らを刺激しないようお願いします」


米国はさすがに学習したようだ。その通り、刺激さえしなければ彼らが敵対することは無い。もともと中露は世界の嫌われ者だ。どこもロシアをフォローなどする気は無いようだ。ジェノサイドなんて馬鹿なことを考えず、佐藤さんの言う通りに早いとこ東南アジアの人々を解放するんだな。


《 本当に大丈夫なのか? 我が国に突然ドラゴンで現れたりしないか? 》


《 わかりません。しかし議長の言うように刺激をした国だけが報復を受けており、その他の国は特に被害はありませんし…… 》


《 彼らはオーストラリア人を解放したという話も聞きます。自衛と善意から行動をしている可能性もあります。今はその善意に賭けるしかないですね 》


《 神にでもなったつもりか? しかし通常兵器が通用しないとなるとどうすれば…… 》



『では本日の最後の議題をアメリカ合衆国より提示させていただきます』


きたか……これまでの日本の技術を世界共有にしようやら、Light mareが日本の部隊であることの有無などと言うのは前フリに過ぎない。ここからが本番だな。頼むから無茶な提案をして採決なんてとらないでくれよ?


『先日の大規模な方舟攻略戦においてニホン国は多くのスモールワールドのフィールドを手に入れました。その他にもミドルワールドの草原フィールドを二つ攻略したとも聞いています。これは我が国の試算ですが、今後開拓を行った際にニホン国の人口のおよそ半分にあたる2000万人近くの食糧を得ることができる規模です。このままスモールワールドをニホン単独で攻略をし続け、ミドルワールドのみとなってしまいますと他の国が攻略戦から脱落してしまいます。確かに方舟の攻略は国際会議で決められたルールに従ってさえいれば、攻略するフィールドの数に制限はございません。しかし短期間で多くのフィールドを攻略が可能な戦力を保持し、国民を養うのに十分な食糧を得られたのであれば話は別です。以上のことから、世界のバランスを取るために我が合衆国はニホン国へ方舟攻略を5年間休止することを求めます』


「なっ!? 5年!? そんな提案など呑めるはずがありません! 我が国は強く拒否いたします! 」


《 確かニホンはスモールワールドの森を4つに山岳を3つ、そして海を3つ手に入れたのだったな。さらにミドルワールドの草原まで手に入れているなら妥当ではないか? 》


《 スモールワールドで草原の次に比較的攻略難易度の低い森フィールドは残り4つ、次に難易度の低い山岳が9つに魔法使いがいないと難易度が高い海が17。ニホンに全てを攻略されては我々ではもう手が出せなくなる》


《 5年では短い。10年にすべきだ。その間ニホンには世界貢献として兵と装備?供給させることも決めるべきだ! 》


『ニホンはもう十分な数のフィールドを手に入れたはずです。人口に対して所有するフィールドの比率は米欧英連合よりも高いのにまだ必要ですか? ニホン国は自国だけが方舟に移住し多くの資源を得て、自国民だけが裕福な生活を送れれば他の国の国民は飢えてもいいとお考えなのでしょうか? 』


「それは誤解です。我が国は世界で一番最初に魔石をエネルギーとして活用する技術を開発し、世界各国に無償でその技術を供与いたしました。かつての敵国に対してもです。そして黒鉄の加工にポーションの開発を行い、安全保障上の脅威となる国以外の多くの国と貿易を行っております。これほど世界に貢献している国は我が国以外にはいないと自負しております」


これは言わざるを得ない。たとえ米国の思惑に乗ることとわかっていても、これだけは言わねばならない。ここで主張しなければ、飢えと戦いながら世界のために研究開発に命を懸けた技術者たちにどんな顔をして会えばいいと言うのだ。そしてその技術を日本で独占せず、世界の人々と共有して欲しいと願った陛下のお言葉をもって世界に供給した事実を忘れられてはならない。


《 確かに魔石をエネルギーに変換する技術には助けられた 》


《 あれが無かったら我が国の人口はさらに減っていただろう 》


《 ニホンのエンペラーが世界に伝えるように言ったらしい。さすがニホンのエンペラーだ 》


《 やはりニホンは素晴らしい国だな。今後も是非とも世界のために貢献して欲しいものだ》


『ええ、ええ。ニホン国の貢献には世界中が感謝しております。私もその自己の利益を捨て他者を助ける思想は個人的に大変尊敬しております。であるならば、世界の平穏と協調をどの国よりも強く願うニホン国ならば、我が国の提案も受け入れていただけると信じております』


「くっ……し、しかし5年はあまりにも長過ぎます。現在の日本軍の練度を維持するためにも、長期に渡り実戦から離れることは戦力の低下を意味いたします。今後高難易度となる中世界フィールドを攻略する点から受け入れることはできません」


どこよりも国際貢献をしてきたというのに……国民が飢えに苦しみながらも身を切ってでも世界のためにと貢献してきたはずなのに、世界はもっともっと貢献しろと言ってくる。それは戦前からもそうだった。陛下が求める和を以て世界と協力していくことがこの世界では難しすぎる……

唯一日本の努力を認め感謝し、恩返しをしたいと言ってくれる国々はインドとアラブ神国だけだ。


『ええ、理解できます。そこで我が合衆国及び欧州連盟とイギリスは、ニホンが攻略を休止している間は、ニホン軍を主力とした世界救済軍を設立することを提案いたします。さらに各国軍に世界最強の軍であるニホン軍による教導もお願いできれば、世界の方舟攻略速度は加速することでしょう。そうなれば5年後のニホンによるミドルワールドの攻略も、その先にあると思われるラージワールドの攻略にも我々は協力できると思います』


「なっ!? 日本軍に傭兵となれと言うのですか!? 」


『とんでもありません! 傭兵ではなく世界を救済するための救世軍です。救世軍によって攻略されたフィールドは世界共有のフィールドとなります。世界が一つになれるのです。是非Light mareの皆さまにもご参加いただきたいです。そうしていただければLight mareの皆さまも世界の敵ではなく、救世主として勇者として世界中に受け入れられると思うのです』


《 おお〜! 世界救済軍! 良いアイデアだと思います 》


《 10日で10フィールドも攻略できる日本軍なら適任ですな! これで世界は安泰ですな! 》


《 あのLight mareという集団も参加するなら世界中の無辜の民が救われますね。まさに彼らは勇者と呼ばれることになるでしょう 》


《 世界が一つの土地で助け合い生活する。まるでバベルの塔のようで恐ろしくもありますが、方舟は神が与えたもうた新天地。今回は神がそう望んでいるのやも知れませんな 》


《 なるほど。世界中の人々が人種や宗教差別もなく一つの土地で共存する。主は人類をそう導いてくださっているのですね 》


なにを言っているのだこのクリキントという大統領に各国の首脳は……傭兵なら報酬を得られるが世界救済のための救世軍? 日本に攻略ができない期間、無償で救世軍として命を懸けて戦えと言うのか! しかも戦うのは日本軍だけだと? それで手に入れたフィールドを世界共有の物とする? 日本を世界の奴隷にするつもりか!

日本はここまで世界から見下されていたのか? 我々がこれまで世界のためにしてきたことは、して当たり前のことだったと言うのか? この者たちには言葉では感謝を口にしながら、次は自国が国際貢献をとか恩返しをしようなどとは思わないのか?

なんなのだこの今まで貢献してきたんだからもっとできるだろ? 当然やるよな? と言わんばかりのこの態度……

米国の提案といい各国の反応といい、これは予想していた以上に酷い……


陛下……申し訳ございません。私は……国民の世界の人々を救いたいという想いを当たり前のように受け取り、まだ足らないなどと踏みにじるこの者たちとは協力していくことはできません。


俺は世界を敵に回すことを覚悟し、後方に控える記者たちに目を向けるのだった。






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