第73話 バジリスク







「光一! ラミアとコカトリスだ! おいっ! いつまで寝てんだ立て! お前の後ろには神崎がいると思え! 」


「ハァハァ……うっ……くっ……クソがぁぁぁ! オラァ! 掛かってこい! 」


「いいか光一よく聞け! ラミアの槍には毒が塗られてる。それに捕まったら血ぃ吸われるぞ。コカトリスは蹴りとトサカから飛んでくる石化光線に気を付けろよ! 」


「石化!? わ、わかった! 」


俺が光一に初見の敵となるBランクのラミアとAランクのコカトリスの情報を伝えると、石化に驚きつつも森の奥へと走って行った。


ラミアは体長3mほどの下半身が蛇で上半身が人間の女の姿をしているが、口が裂けて牙もありとてもじゃないが目の保養にはならない魔物だ。

コカトリスは全長5mほどの巨大なニワトリだが、その巨大に似合わずとにかく動きが素早い。そしてその脚から繰り出される蹴りは強力で、木の後ろに隠れていても木ごとへし折られてしまう。なによりトサカから飛んでくる石化光線の速度も速く、少しでも避け損なうと魔法抵抗の低い者は光線が当たった場所が石化してしまう。

光一はAランクだから石化する確率はかなり低い。けどまあ0ではないし教えてやる必要もないので黙っておく。


基本的にはフィールドタイプのダンジョンであれば空を飛んで無視する相手だが、方舟ではそうもいかない。コカトリスは素材として使えるものが多いのでフィールドタイプのダンジョンなら狩ってもいいが、方舟だと一部の素材プラス魔石が落ちたり落ちなかったりなのでまったくおいしくないんだよな。




Light mare社と光一のパーティで10日ほどかけて10個ある大世界草原フィールドを攻略した翌日、俺は蘭と光一を連れて大世界森フィールドの攻略を開始した。

他の者たちは今回の攻略で上がった能力を馴染ませるために、各自が資源フィールドで訓練をするらしい。

居残り組とだいぶ能力に差がついてしまったな。元の世界に帰ったら留守番してた者たちも鍛えないと。

まあ今は光一を徹底的に鍛えるか。


「『天雷』 うおおおおお! くっ……『転移』 あぶなっ! 『転移』! 」


「光一! サイプロクスと同じだボケッ! 脚からトサカかいけるなら首だ! 」


「わ、わかってんだけどコイツ速……あがっ! 」


う〜んラミアは魔法で一掃できたようだが、コカトリスのスピードに翻弄されてるな。木々の合間を猛スピードで移動するコカトリスは確かに捕まえにくいが、蹴るために近付いてくるんだからそこを狙えばいいのに逆に蹴られて吹っ飛んでるんじゃ世話ないよな。


「光一風だ! 自分の魔法を忘れんな! 」


「あっ! 『空気圧壊』! って、ええ!? これも避けんのかよ! 」


「アホッ! 範囲が狭いんだよ! 魔法で押し潰すんじゃなくて、足を止めるくらいの威力ならもっと広範囲に撃てるだろ! 覚えたままの魔法をそのまま使ってんじゃねえ! 頭使え! 」


「うわっ! とと……わ、わかった! やってるみる! 広範囲……広範囲……『空気圧壊』 」


《 コケッ? 》


「くっ……これを維持して……うおおおお……らあっ! 」


《 コケーー!? 》


光一の魔法で足が止まったコカトリスは、頭上から掛かる空気の圧力を不思議に思っているのか首を傾げていた。そこへ光一が剣を持って背後から近付いてコカトリスの足を切断した。


ふう……なんとか足を斬れたな。本当は魔法を維持しながら転移ができたらいいんだが、まだ光一には難易度が高そうだ。


「よっしゃ! 耐性を崩した今なら……『転移』……喰らえっ! 」


《 ゴゲッ! 》


「ご苦労さん。コカトリスの背に転移してから首に突き刺すまでの動きは良かったな」


「ハァハァ……魔力がキツイな……」


「転移を多用し過ぎだな。次の群れが来るまで時間があるから休憩してろ。おっ! コカトリスは魔石落としたな。Aランク風属性魔石ゲット! それと鶏肉とトサカをドロップしたか。爪の方がよかったな〜」


トサカは石化解除薬の材料になるが、正直大量に持ってるのでいらない。爪は魔力が通りやすいから弓の鏃に使えるんだよな。黒鉄の鏃並みの素材のうえに大量に作れるからお得なんだよな。

俺は50kgほどはある鶏肉と魔石とトサカをアイテムボックスに入れ、ラミアの魔石と蛇なのに鹿の肉が落ちているのを不思議に思いながら回収していった。美味いからいいか。


「光希……あとどれくらいでボスが出そうだ? 」


「う〜ん……いま蘭が引き連れている鵺と王猿の群れを倒したら出そうかな? 」


「鵺か……やっぱり森は素早い魔物が多いな」


「草原よりは難易度が高いからな。まあこの森を全て攻略すればSランクにはなれるだろうよ」


「Sランク……Sランクになれば……やるさ、やってやる! 」


「ランクはあくまでも目安だ。魔物なんかより人間が一番怖い。油断してればBランクの奴にだって負ける。いいか? 近付いてくる奴らは全員敵と思え、誰も信用するな。武器を抜いた奴は確実に殺せ。弱いうちから情けなんか掛ければ恋人をまた失うぞ? 敵は確実に殺せ」


「近付いてくる奴らは敵……玲を守るために……敵対した者は殺す……俺は弱い……だから殺す……」


「そうだ。敵を殺せば恋人を傷付ける者はいない。守りたかったら守りたい者から離れるな。そして敵は確実に殺せ。そうすればお前はもう恋人を失うことはないだろう」


「そうだ……殺してしまえばいいんだ……生かしておいたら俺がいない時に玲が……イヤだ! もう何も失いたくない! 殺す! 敵は殺す! 」


「そうだ、殺せば全て解決だ。よしっ! 鵺が来たぞ!その調子で切り刻め! 」


「うおおおおお! 」


よしよし、これを攻略中に何回か繰り返せば大丈夫そうだな。師匠にやられたことをまさか俺が光一にやることになるとはな。まあ方舟を攻略したら今後は人間が敵になるのは確実だ。今のうちから洗脳……いや心構えをさせておかないとな。



それから光一と王猿の群れ、そして鵺との戦いを見届けたところで東方面に突然魔力反応が現れた。

ボスだ。これは……ああコカトリスがいたならいるよな。光一にはちょっとキツイか? やれるところまでやらせてみるか。


「光一! コカトリス10頭とバジリスクだ! トカゲのでっかい奴で目が少しでも合うと石化する! 動きは鈍いが皮膚は硬い! それに尾には猛毒があるから気を付けろ! 」


「ぐっ……ハァハァ……マジか……石化軍団かよ……」


「コカトリスは俺が片付けておく! 光一はバジリスクに集中しろ! 」


「ハァハァ……わかった……」


『蘭! コカトリスを間引きしといてくれ! 俺もそっちに行く! 』


『はい! 』


光一じゃ3回に1回はバジリスクの石化攻撃で石化するだろうな。さすがにコカトリスまでは相手できないだろう。


俺は遠方から聞こえてくる蘭の鳴き声と木が倒れる音のところへと転移した。

するとそこにはバジリスクに先行して走っていたコカトリスが蘭から逃げている最中で、残り5頭となっていた。


「『プレッシャー』 『闇刃』 」



俺はすかさず逃げ惑うコカトリスの動きを止め、闇刃で次々と首を狩っていった。


「主様! 」


「おうっ! 蘭お疲れ。バジリスクは光一のとこに向かっていってるな。一緒に戻るか」


「はい! 」


蘭は一日中神狐になって走り回ったり転移したりで動きっぱなしだったからな。疲れて……無さそうだな。むしろ思いっきり走り回ってスッキリした顔をしてるな。

俺はコカトリスのドロップ品を回収して蘭とともに光一のところへと戻った。

ドロップ品には風の中級魔法書と鶏肉に爪がたくさんあったよ。ラッキー♪


俺と蘭が戻るとちょうど光一とバジリスクがエンカウントしたところだった。

バジリスクは全長8mほどで全身を紫色に染めており、見るからに毒々しい風貌をしていた。

その目は光一を見ており、尻尾を振り毒の液体を光一に飛ばして光一の視線を少しでも自分に向けさせるようにしていた。

光一の視界にバジリスクの目が入ったら石化が発動するからな。光一は探知を頼りにバジリスクの位置を把握して、転移で位置を変えうまく毒を避けているようだ。

そしてバジリスクの後方に転移をして天雷を放ちバジリスクを硬直させ、そのままバジリスクの背に転移をして魔力を込めたミスリルの剣をその背に突き刺した。


《 グオオオオン 》


「くっ……硬い……でも刺さりさえすれば! 喰らえっ! 『雷竜……おわっ! 」


「刺したらすぐ発動しろ! 遅いんだよタコ! 」


「あああああ! 失敗した! イデッ! うわあっ! 毒! 毒! 」


「チッ……『プレッシャー』 光一! 今のうちに上級解毒薬を飲め! 」


「助かった! ハァハァ……んぐっんぐっ…… あっ! やべっ! 危ね! 『転移』 」


全然駄目だ……バジリスクの動きを止めて背に剣を突き刺したまでま良かったが、すぐに魔法を発動して体内を燃やせばいいのに魔法の発動が遅く、バジリスクが暴れてしまい振り落とされた。

そして光一は尻尾で殴られ毒を受けてしまった。見ていられなくなった俺がフォーローに入って動きを止め、解毒薬を飲ませる時間を稼いだら飲んでる時にバジリスクとうっかり視線を合わせたようだ。

運良くレジストできたみたいだが一人コントかなにかか?


「なにしてんの光一? ネタか? 」


「見事でした」


「ちげーよ! 必死だよ! 」


「そ、そうか。ならさっさと倒してこい! 援護してやる。『スロー』 『ヘイスト』 」


「お? おお? なんだこれ時間の流れが……」


「バジリスクは時間の流れが遅くなってる。行け! 」


「すげー! なんだこれ! これなら! サンキュー光希! 」


俺はバジリスクと光一に時魔法を掛けてさっさと終わらせるように言った。

光一は一気にバジリスクと間合いを詰め背後からその尾を斬り飛ばし、そのまま背に乗り駆け上がり、振り向こうとするバジリスクよりも早くに剣を首の辺りに突き刺した。


「遅い! 喰らえっ! 全力の『雷竜牙』! 」


《 グオオオォォ…… 》


「こんなもんかな。魔石はSに近いな。そういえば体力と物防がSだったな。まあ石化さえなければ大したことないな」


「ハァハァハァハァ……今までで一番強かった……石化怖え……」


「何言ってんだ、竜に比べれば皮膚は柔らかいし魔法障壁も無いからまだ戦いやすい方だ」


「竜ってクオンだろ? まったく勝てる気がしねえ……」


「それまでには剣ができてるから大丈夫だ。Sランクになれば戦えるさ。それより風の上級魔法書ドロップしたぞ! 草原といいさすが大世界は豪華だよな」


草原では中級鑑定魔法書が6冊と土の中級魔法書が10冊に上級魔法書が6冊手に入った。上級ダンジョンより上級魔法書のドロップ確率が高い。大世界は100年に一度だからか? 資源フィールドならどうなんだろ? ボスとかいないからここまで良くはないのかね?


方舟は草原が土魔法書で森が風魔法書、山岳が錬金と火魔法書で海が水魔法書をドロップする。砂漠は四属性がランダムだった。鑑定の魔法書はどのフィールドでも出たな。

聖魔法書が無いのはキツイが、その分ポーションの素材は攻略したフィールドから集めやすいからな。死霊系の魔物もいないしバランスは取れてるかな。


「この剣より良い剣なんてあるのか? 光希だってミスリルの剣じゃないか」


「ん? ああ、これはサブ武器だよ。聖剣がメイン武器なんだが強力過ぎてな。使う機会が無いだけだ。光一には蘭の扇と同じ魔鉄を芯にして作った剣を用意してある。もう少し待ってろ」


完全なる魔鉄の剣はまだ光一には使いこなせないから、半分は黒鉄になる。

魔力を通しやすく重く硬い剣が今の光一には合っていると思うんだ。


「サブだったのかよ! それに魔鉄って蘭さんのあの青く光る扇は魔鉄製だったのか……あの斬れ味は凄いと思ってたんだ。あの武器を俺に……」


「完全な魔鉄製じゃないが強力な武器だ。竜だって斬れる。けどだからといって剣の力に溺れたら……」


「わかってる。同じ過ちはもう犯さない。俺は弱い。どんなに強力な武器を手にしたって俺自身は弱いんだ。だからもう調子に乗らない」


「わかってるならいいさ。光一に似合うとっておきの魔法を剣に付与してやるから楽しみにしておけ。さあ、さっさと神殿に行って帰ろう。明日もまた森フィールドだ」


「おお〜! 俺に似合う魔法か! 楽しみだな! よし! 行ってくる! 」


こうして大世界森フィールドの攻略を終え、神殿にて管理者登録を行った。


そして次の日から毎日三人で攻略を繰り返し、光一は晴れて全てのステータスがSランクとなった。

魔法剣士は全てのステータスを上げないといけないから、後半は魔法禁止にしたりしてステータスを上げるのが大変だったよ。5回くらい光一が石化してさ、間に合わないかもと焦ったけどなんとかなった。

まあ蘇生する必要が無くて良かったよ。

さすがに剣だけでバジリスクとコカトリスの群れに行かせたのは失敗だったな。


だいぶ追い詰めたから人相がちょっと変わってしまい神崎がビックリしてたけど、まあ許容範囲だろう。

毎日夏美をまた死なせてもいいのかとか、神崎が後ろにいるぞとか言って追い込んだからな。多少人格が攻撃的なものに変わるのは仕方ない。

ただ、魔物を殺す時に薄く笑うのはちょっと気持ち悪かったかな。いったいなにが面白いんだ?


さて、光一には山岳フィールドは遠慮してもらって……というか神崎と夏美が泣きながらもう光一の心を休ませてあげてくださいってお願いしてきたからなんだけどね。確かに強行軍で連戦だったし休ませてやることにしたよ。光一の目もなんか怖かったし。


まあ別口で鍛えたい奴がいるからそいつを鍛えるとするかな。


光一大丈夫だよな?





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