第72話 大世界フィールド






3月となりこの世界に来てから早くも10ヶ月が経過しようとしていた。


我が社は、俺が光一にホラを吹き込みやる気にさせた翌日から3週間ほどで、中世界フィールドの海と砂漠を全て攻略した。

途中バレンタインデーなどの楽しいイベントもあったが、恋人たちから手作りチョコを貰い、寝室で溶けたチョコまみれの大乱交パーティを楽しんだのは世界中で恐らく俺たちだけだろう。

あの時はマリーたちが愕然とした顔をしていたけどな。きっと新しい甘味の味わい方を見てカルチャーショックを受けたんだろう。

しかしあの子たちは段々表情が豊かになってきた。涙が出る機能が無いから泣くことができないけど、表情である程度感情の変化がわかるようになった。わかるのは今のところ俺だけのようだけど。


中世界フィールド攻略には凛と夏海は参加せず、日印亜連合と国際救済連合と賃貸契約を取りまとめてもらった。凛が本社社長と聞いて総理と真田大臣が驚いたらしく、凛が失礼しちゃうわってプンプンしてたけどね。まあ情け容赦なく笑いながら上級魔法ぶっ放している女の子が社長とは思わないよな普通。

あとクリキント大統領が何かの動物にまたがった人間の置物らしきものを握り、やたら俺と会いたがっていたらしい。旦那は早くに亡くしたそうだから、きっと知り合いも若返らせてくれとかそう言うお願いをしたいんだろう。やなこった。


俺たちが攻略した90フィールドほどの賃貸契約は、会社所有の草原と森と海のそれぞれ1フィールドずつを除き、日印亜連合が3割に国際救済連合が7割の割り当てで土地を借りることとなった。これは現時点では日印亜連合の人口は3億5千万、国際救済連合が7億と人口差があるからだ。

ちなみに新生オーストラリア連合にはうちの会社と傭兵契約を結び、その報酬として大世界の草原フィールドを一つ与えることになっている。アイツらは無償でいいとか言ってるけどタダ働きさせるつもりも無いし、それに世代が変わったらどうなるかわかんないからな。対価を払っておいた方が安心だ。


こうして中世界フィールドを全て攻略した俺たちは拠点にダークエルフを数名残し、Light mare軍団+光一パーティで大世界草原フィールドの攻略を開始した。

さすがに上級ダンジョンの中層から下層レベルのこのフィールドで、グリ子たちに乗って群れを連れてこさせるのは危険だ。だから俺が転移で、蘭が神狐となり誘導することにした。

俺たちが連れてきた魔物は、俺が魔法で設置した分厚く高い壁で囲まれ出入口が二つしかない陣地で皆が倒すことになっている。


光一と神崎には凛と夏海とダークエルフが数名付いて北の出入り口を、南側の出入り口にはシルフィとセルシアとダークエルフ20名が守ることになっている。サキュバスとインキュバスはグリ子たちに乗って飛行系魔物担当だ。



「光一! そっちにトロールキングとトロール50体が行くぞ! シルフィのところには蘭がもうすぐ白狼王と白狼40頭の群れが行く! リム! 魔誘香に誘われてパニックコンドルが50匹こっちに向かってきている! 精神系魔法はお前たちならレジストできるが念のため結界を張っておけ! 」


「おうっ! かかってこい! 」


「わかったわ! 」


「ハッ! 総員結界を展開しろ! 」


光一はまだまだ大丈夫そうだな。朝から結構連戦しているんだが、この大世界の魔物は強い代わりに再度ポップする間隔が長い。その上フィールドが北海道ほどあって広く、集めてくるのが大変で時間が掛かる分休憩も取りやすいからな。

正直俺たちからしてみれば中世界より大世界の方が攻略しやすい。魔物が強い分、数が少ないからだ。

これは皆で数フィールド攻略した後は光一ひとりでやらせないとダメかもな。そうしないとAからSランクにできそうもないな。


「来たっ! 凛さんトロールをお願いします! キングは俺が! 」


「いいわよ、それじゃあいくわね! Sランクの魔法の威力を味わいなさい! 『火龍爪』『火龍爪』」


「す、すごい……わ、私も援護します!……『豪炎』 」


「あはははは! 私の火龍爪は逃げても追いかけるわよ! それっ! 」


《 グオォォ! 》


凛も随分と腕を上げたな。もともと器用だったうえにずっと練習をしてたしな。


「お、同じ上級魔法なのにこんなに威力も操作にも差があるなんて……これがSランクの賢者」


「玲さん、凛ちゃんは賢者の杖という魔法攻撃が1ランク上がるアイテムを使ってるからよ。普通のSランクじゃあそこまで威力は無いわ」


「そ、そんなアイテムがあるんですか!? でも、それでもあのまるで生きているように火龍の爪を操ることは私にはできそうもありません」


「凛ちゃんはこの世界に来てからずっと練習してたからね。玲さんもできるようになるわ。まずは覚えたばかりの上級魔法を使いこなすことからよ」


「はいっ! いただいたこの魔法を必ず使いこなしてみせます! 」


「ふふっ、それは砂漠を攻略した時に玲さんが見つけたものよ。あなたの運が良かったのよ」


どうやら神崎も凛に触発されてやる気になっているようだ。神崎に上級火魔法書をやろうと思ったら、運良くフィールドでドロップしたからな。彼女ならきっとすぐに使いこなすだろう。

しかし初めて会った時からこれほど変わるとはな……もともとは素直な子だったけど慢心して、そこで俺に鼻をへし折られて落ち込んでる時に光一に出会い恋をして変わったってところか? まあいい女になったよな。


「喰らえ! 『空気圧壊』からの……『雷竜牙』! 」


《 ガアァァァァ! 》


「トドメだ! うおおおおお! らあっ! 」


おお〜光一はコンボを覚えたか。俺のプレッシャーをヒントにしたのかね?

空気圧壊で動きを鈍らせて確実に剣に付与した魔法を当て、弱ったところに剣を突き刺してAランクのトロールキングを倒しやがった。

やっぱ目標があるやつは動きが違うな。


「光希! もっとだ! もっと連れてきてくれ! こんなフィールドとっとと攻略してやる! 」


「あんま気負うなよ? また同じ失敗するぞ? 神崎をよく見ておけよ? 」


「大丈夫だ! 無理はしない。玲は必ず守る! そして夏美を……夏美と必ずまた会うんだ! 」


「……光一」


お〜お〜青春してるねえ……ダークエルフに扮した夏美が目に涙を浮かべて感動してるよ。

南側も問題なく白狼王を処理したみたいだし、サキュバスたちもパニックコンドルの追撃に入ったようだ。

なら次はもっと大量に釣ってくるかな。


『蘭、フィールド全体から一気に集めるぞ! 』


『 はい! 』


俺は蘭に念話を送りフィールドの最奥まで転移をし、探知で魔物のいる場所をみつけ大量に魔誘香をばら撒いていった。


グリフォンで誘導してたら何日掛かったかわからない広さだよな。かと言って軍を展開させて攻略しようとすれば魔物もその分増えるしな。多分この大世界は、少数精鋭のパーティを複数広範囲に展開させて攻略しないとキツイ作りになっている。創造神もなかなか難易度の高いフィールドを用意したもんだ。




それから魔誘香に誘われて集まった魔物を追い立てたり、時にはゲートの魔法で光一の前に群れのリーダーだけを出現させたりして遊んでいると、突然西の方に300ほどの魔物の反応が現れた。


「出たっ! ボスだ! これは……サイクロプスか! それとトロールキングの反応が10!残りはトロールだ! サイクロプスは物理攻撃がSランクに雷の範囲魔法を使う! 光一! 転移でサイクロプスとタイマン張ってこい! 」


「サイクロプス? あれが……まかせろ! 必ず仕留める! 『転移』 」


「他の者は各出入り口で迎撃だ! 出し惜しみはするなよ? リム! ミラ! ユリ! 空から仕留めろ! 」


「「「ハッ! 」」」


「デカイ的キターー! リム姉さん! ボクたちはあのトロールキングをアレで殺ろうよ! 」


「そうだな。一番強いやつにアレを試すか……他の者はトロールを討ち取れ!」


「「「ハッ! 」」」


「ふふふ、とうとう新技のお披露目ですね」


ん? 新技? なんだ? 最近資源フィールドでグリ子たちを連れて何かしているとは聞いていたが……


「じゃあいっくよーーー! グリフォンナイトのミラ! 」


「グ、グリフォンナイトのリム……」


「グリフォンナイトのユリですわ! 」


「光魔王様に仇なす者に裁きを!」


「「裁きを!」」


「「「 トライアングルア○ック」」」


《 ガァァァア! 》


「やったーー! 一撃だったね! さすがミスリル! この槍凄いやー! 」


「ミラ……あの掛け声は必要なのか? 」


「なに言ってんのさリム姉さん! 当たり前田だよ! ああいうのを様式美って言うんだよ」


「そ、そうか……」


「ふふふ、それにしても光魔王様からいただいたこのミスリルの槍は素晴らしいですわ」


「そうだな。魔力のノリが全然違う。さあ、次だ! 光魔王様から下賜されたこの槍に恥じない働きをするぞ! 」


「おおーー! も一回いくよーーー! 」


「ふふふ、光魔王様に褒めてもらうために頑張りますわ」


………………ゲームネタか……ミラだしな。

シルフィと混ぜたら駄目な気がしてきた。


まあリムたちは大丈夫だろう……光一は……あ〜苦戦してるな〜



《 ウラアァァァ 》


「くっ……『転移』 チッ! 近付くと雷が……しかも雷魔法に耐性があるのか……」


全長10m近くあるダンジョン産より大きめのサイクロプスの首を狙っていた光一は、転移をして上空に飛んでもその度に雷の魔法を打たれなかなか近付けずにいるようだった。

陸上であまりデカイ魔物との戦闘経験が無いから仕方ないが……


「光一! あの一つ目だ! あの目を潰せば魔法は撃ってこなくなる! 足を潰して跪かせ目を潰してから首だ! 」


「あっ! そうか! わかった! サンキュー光希! ならヒットアンドアウェイだ! 『転移』……オラァッ! 」


《 ウガッ! 》


「もいっちょう! 『転移』…… ハッ! 」


《 ウガァッ! 》


「もらった! オラッ! これで……『転移』 うおおおおお! ダァッ! 」


《 ヴガアァァァァ!! 》


光一は俺のアドバイス通りに転移でサイクロプスの足元に移動し足の腱を斬り、また転移で斬りを繰り返してサイクロプスを跪かせることに成功した。

そして姿勢が低くなり狙いを定める動作が鈍くなったサイクロプスの目を剣で突き刺し、転移で上空に移動してそのまま落下する勢いを利用してその首を落とした。


「やった……Sランクの魔物を……俺が……」


「残念ながら魔石はAランクだ。物理攻撃がSランクなだけだ」


前に戦った吸血サイプロクスに比べればデカイが再生しない分弱い。まあ上級ダンジョンじゃこんなもんだろう。それでもドラゴンが出てきたら光一じゃまだ無理だな。


「そうか……まだまだだな。もっと……もっと強い敵と戦わないと」


「明日な。ほらっ、鍵だ。光一が管理者になってこい。 Light mare CO. LTD.方舟支社長代理だろ? 」


「あ……ああ。本当に俺でいいのか? 結構デカイ会社になるんだろ? 」


「大丈夫だ。集金は傭兵がやる。お前がやることは日印亜連合や救済連合が滞納や違反をした時に、軍相手に暴れて神殿まで行って管理者としてフィールドを取り上げるだけの簡単なお仕事だ。それ以外は資源の保管と孤児院の経営に兵を育成することかな」


「軍相手に戦って神殿まで行くのが簡単って……」


「そう思えるような強さをこれから身に付けるんだよ。森はお前一人でやらせるから」


「ひ、一人で!? いや、やるよ。それなら強くなれそうだ。そして攻略してみせる」


「全部はやらせねえよ。光一を鍛えながら攻略するのが目的だからな。さあ、さっさと登録してこい! 」


「わかった! 『転移』……『転移』 」


俺が急かすと光一は上空に転移をし、視界に入る一番遠くへと転移を繰り返し神殿へと向かっていった。


まずは一つ。

明日からも一日一つ攻略をしていけば余裕で間に合うな。


帰ったら魔誘香を増産しないとな。大世界の森には良い素材がいっぱいあったからやっぱこの方舟はオイシイわ。




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