第8話 ヴリエーミア再臨







「エフィルちゃん! ララちゃん! 」


「ランラン! 」


「ランお姉ちゃん! 」


「蘭は帰ってきました! 主様の世界に行って、リアラ様からエフィルちゃんたちが危ないって聞いたので帰ってきました! 2人とも無事で良かったです! 」


「ランラン……ありがとう……本当にありがとう……」


「ランお姉ちゃんありがとう……私もエフィルももう駄目かと……あと少しで禁呪を放つところでした」


「ええ!? 禁呪を!? ダメです! それだけは絶対ダメです! 王国は蘭が滅ぼしてきますから! 今すぐ滅ぼしてくるので禁呪なんて使ったらダメです! 蘭はシル姉さんを失った時にとても悲しくて悔しかったんです。だから絶対ダメです! 少し待っててください! 1日あれば王国をこの世界から消せますいま神狐に……」


「こらっ! 蘭! 待て! 」


「ひゃっ! あ、主様……」


あぶねー! なんで神狐になって王都に行こうとしてんだよ。さすがに人族を皆殺しはまずいだろ。

リアラ怒らせて帰れなくなったらどうすんだよ。


俺はエフィルとララノアに抱きついて、あれよあれよとトントン拍子に王国を滅ぼすことが決まったことに驚き、四つん這いになって変身しようとしている蘭を慌てて止めた。

そりゃもう近いのに転移を発動して蘭の尻尾を鷲掴みにしたくらいだ。


「王国を滅ぼすのは確定している。だけど蘭だけで滅ぼしたら、人族は災害にあったことくらいにしか思わない。次の国が出来た時にまた同じことをやる。間引きしつつ徹底的に恐怖と、リアラからの神託が聞こえるよに信仰の大切さを教え込まないと駄目なんだ。だから急ぐな。助けたい人はもう助けた。ここからはゆっくりジワジワとだ。わかるな? 」


「うっ……申し訳ありませんでした主様」


「わかってくれたならいいさ。俺も禁呪を使うところだったと聞いて胸が痛くなったからな。蘭と同じ気持ちだよ。だからこそ徹底的に恐怖を植え付けて、誰を迫害して誰を敵に回したのか教えてやろうな? 」


シルフィを失った時に一番辛い思いをしたのは蘭だ。

側で支えてやるべき俺は腐っていて、蘭はたった一人で強くなろう。強くなってもう二度と大切な人を失わないようにしようと戦って重傷まで負った。


俺にこんなことを言う資格はないんだけどな。

それでもここで蘭一人を行かせるのは悪手だ。王国を滅ぼすのは簡単だ。以蔵とリムたちだけでもできる。

でもそれじゃあまた忘れた頃に迫害を始める。何百年経とうとも俺たちがやってくると思わせないといけない。


「はい。蘭は主様に従います」


「ありがとう。さて……エフィルにララノア。無事で良かった。それと……2人とも綺麗になったな」


特にララノアの胸の果実が……


「ゆ……ゆうしゃさま……わ、わたしは……ゆうしゃさまー! うわーーん! 」


「勇者様……うっ……うえーーん……」


「おっと! よしよし。2人とも辛かったんだな。よく仲間を守ったな。偉いぞ。よくやった」


俺と蘭とのやり取りを隣で目をウルウルさせて聞いていたエフィルとララノアに声を掛けたら、涙腺が決壊して2人して抱きついてきて泣きだした。


チッ……ララノアの胸当て邪魔だな。ん? いや……それでもチュニックの胸もとが押し上げられて……うおっ! すげっ! 谷間すげっ! 凛とセルシア超え!

絶対持ち帰る! なんとしてでも持ち帰るぞ!


俺的にはどうしても3年ぶりくらいの感覚だったので、330年振りの2人とは再会の温度差が激しかった。


それから5分ほど2人の頭を撫でて落ち着かせ、以蔵から心話が来たので2人の背中をポンポンの叩いた。


「ほらっ! 2人は指揮官的な立場だろ? 今回の戦いで亡くなった者たちを集めた。一緒に来い」


「ぐすっ……はい……仲間を弔います……」


「うっ……ううっ……はい……」


俺は2人の腰に手をやりそれとなくお尻を叩いて歩かせた。

とっても柔らかかった。


凛と夏海にも心話で付いてくるように言い、蘭もニコニコしながらエフィルたちを見ながら歩いていた。

ふと横を見ると、王国の偉そうな服を着てる奴は獣人たちに縛られながらなにか喚いていた。

まあいいか、どうせ死ぬんだし。


そして森の入口から少し中に入り木々が倒されて広場になっているところに、600人ほどの遺体が並べられていた。以蔵も静音もよくわかっているようで、欠損部位などはできるだけ集めて遺体の側に置いてあった。


「以蔵、静音。ご苦労さん。思ったより悪くないな。これなら全員いけそうだ」


「はっ! もったいなきお言葉。同胞をどうかお願いします」


「お褒めに授かり光栄です。お屋形様の神の御技で、どうか誇り高く戦った同胞をお願い致します」


「まかせておけ」


さて、数が多いな。ヴリエーミアにこき使ってって怒られそうだが、文句はリアラに言ってもらうとするか。それよりさすがに魔力が足らない。とりあえず50人やってみるか。

そういえば前は吸収の魔剣が無くて、魔力回復しながらで丸一日かかったな。

でも今なら……


「勇者様……いったい……埋葬しないのですか? 」


「……はっ!? もしかして! 祖父が言っていたあの……」


引きこもっていたエフィルは知らないか。ララノアは爺さんを蘇らせたから聞いているのだろう。


「ああ! そうでじゃった! 勇者様は神の御技を使えるのじゃった! ほれ! 小太郎に三太夫、魔王軍との戦いで、ほれっ! 」


「ハッ!? そうでござった! 」


「おお! そうでござった! これで孫六も! 」


俺は一番手前で下半身を吹き飛ばされて眠っている孫六から移動して、奥の方へと歩いて行った。


「と、殿! 孫六は目の前でござる! 殿! 」


「殿! いま孫六を見たでござるな? 見た上で移動したでござるな? なぜでござる! 我ら忠義の真宵の森の三傑をなぜ避けるのでござるかーーー! 」


うぜぇ……お前らが3人揃うとうるさくて集中できないからだよ!

しかし久々に聞いたが、まだ以蔵たちの喋り方の方がいい。殿殿殿殿とマジでうぜぇ。

なんでもっと前に死んでねーんだろーなー。若いダークエルフを先に死なせてんじねぇよ使えねえな。


「魔力の関係だ。年寄りは魂がすり減ってるからな。かなり魔力を使う。まずは若くして命を失った者が先だろう? 」


「おお……しかり……殿の言う通りでござるな。いや、拙者ともあろう者が長年の友を失い少し動揺していたようでござる」


「おお〜! そうでござったか! 殿を疑うような物言い……申し訳ございませぬ。拙者も動揺していたようでござる。ささっ、若いダークエルフから是非お願いするでござる。そこの者は名を蓮華といいましてな? この者は床上手で有名でござってな? 今は未亡人でして是非殿にと……」


俺は三太夫の言葉に歩みを止め、反対側にいる蓮華と呼ばれるくノ一をチラッと見た。

足を失い首に致命傷を受けていたが、とってもムチムチしてた。

この女性があの身体で床上手だと?


けどここで進路を変えるのは凛と夏海の目が痛いからできない。

心情的には行きたいが……

俺はなるべく神妙な顔をして、後でなと言って魔法を放つ準備に取り掛かった。


「蘭、Aランク魔石を」


「はい! 」


俺は吸収の魔剣を出し、蘭にAランク魔石を出してもらうように言った。

蘭は俺の渾身の傑作であるアイテムバッグから、Aランク魔石を100個ほど取り出し俺の足もとに並べた。


《 な、なんと……Aランクの魔石があれほどの数…… 》


《 魔石なんて久しぶりに見たわ……あの色と形は死霊系のものね 》


《 しかしいったいなにをすると言うのだ? 》


《 蘇生じゃよ。黙って見ておるがいい。歴代最強の勇者様の神の御技をな……》



「さて、先ずは損傷を元に戻さないとな。『時戻し』 」


俺は時戻しの魔法を600人全ての遺体に掛けた。

さすがに数が数なだけにグングン魔力を取られるが、補充が必要なほどでも無かった。


そして歪な時計が大量に現れ、全ての遺体を包み込み一斉に時計の針が逆回転をはじめた。


《 と、時計!? 》


《 こ、これは…… 》


《 なんと神秘的な…… 》


そして3日ほど戻した頃に魔法を解除した。

遺体はどれも綺麗な顔をしており、まるで眠っているかのようだった。


俺は上級魔力回復薬を飲み魔力を即時回復させた。が、足らないので魔石を吸収の魔剣で少し叩き魔力を満タンにした。

魔力がEXだから回復薬じゃ足らないかったようだ。


それから続けて蘇生の魔法を放つ準備をした。


「ヴリエーミア! 仲間のためにその命を捧げた勇敢な者たちに、今一度家族と笑いあえる機会を与えてやってくれ! …………『蘇生』! 」


俺はまずは50人の遺体を指定して蘇生の魔法を発動した。

身体からグングンと魔力を吸い取られていくが、以前ほどキツくはない。これなら魔力補給無しでこの50人は行けそうだ。神力凄い!


《 な、なんだあれは! 》


《 辺りが暗く……闇の精霊が……喜んでいる? 》


《 なんという巨大な魔法陣……それに凄まじい魔力の渦だ……》


《 お、おい! トータスの爺さん! 本当に生き返るのか? あれは脚色された話じゃなかったのか!? 》


《静かにせい! 神聖な儀式の最中じゃ! 皆生き返る! 過去に死んだ者は無理じゃが、2~3日以内の者で損傷が激しくなければ生き返る! 》


俺が魔法を発動すると周囲は暗くなり、遺体の真上に巨大な魔法陣が現れた。

そしてその魔法陣からゆっくりと黒いローブに身を包み、フードの隙間から青白い肌と美しく整った顔を覗かせたヴリエーミアが現れた。


ヴリエーミアは足もとに並ぶ遺体の数を見て一瞬固まり、俺の顔をジッと見つめた。


《 ヴリエーミア悪いな。滅多にないことだ。ああ、それよりも今日も綺麗だ。何度も会えるから俺は嬉しいな 》


俺が心話でヴリエーミアにそう伝えると、ヴリエーミアは目を少しほころばせた後に遺体に手をかざした。

すると遺体の身体が白く輝き、その光が収まるとそこには血の気の良くなったエルフと獣人が胸を上下させて眠っていたのだった。


ヴリエーミアは蘇生が終わると俺の真横まで飛んで来て、そのまま俺の腕を抱き抱えてローブ越しにその豊満な胸をグイグイと押し付けてきた。


こ、これは……この感触は……ヴリエーミア……千人近くいるこの場所で……ローブの下は素っ裸とか……

誘っているのか? そういえば前回大量に蘇生させた時は、森の奥でご奉仕をしたな。

今回もご所望ということか。久々にこの巨乳を……


《 ヴリエーミア、今夜召喚するよ。久々に愛し合おう。だから残りも頼む 》


俺がそういうとヴリエーミアは口もとを少しだけほころばせ、俺の腕から離れて残りの遺体全てに手をかざした。


げっ! いっぺんにかよ!

俺は急いで魔石を叩き急いで減った魔力を補充した。


そして遺体が光り始めた頃、俺の魔力は隣にいるヴリエーミアへとグングン吸い取られていった。


「グッ……これはキツイな……ヴリエーミア尻を揉むぞ。意識が持ってかれそうだ……」


俺は吸収の魔剣で補充したそばから吸い取られ、ものすごい勢いで減っていく魔力に、自分の意識を保つのが……余裕だった。普通にまだまだいけた。

けどヴリエーミアの尻が横で突き出てるから触りたくなったので理由を付けた。


俺はそう言って少ししゃがんでから空いた手をヴリエーミアのローブの下から入れた。

そして直に尻を揉み始めるとヴリエーミアはビクンと震えたのちに、なにもなかったかのように蘇生の魔法を発動し続けていた。

俺は左手では吸収の魔剣で魔力を回復させ、右手ではヴリエーミアの尻を撫でて揉んで指を使って色々イタズラしたりしていた。


そして5分ほど経過してヴリエーミアがかざしていた手を下ろした。

俺もヴリエーミアの尻を揉む手を下ろした。


ヴリエーミアはその青白い顔を赤くしながら俺を見つめ、『待ってる』と念話を送ってきてそのまま頭上の魔法陣へと帰っていった。


今夜は蘭としようと思ってたけど、女神のお誘いじゃ仕方ないな。滅多にないしな。

しかしヴリエーミアもすっかり目覚めちゃったな。時の古代ダンジョンの時は、長い時を過ごしたせいで愛を忘れたヴリエーミアを一生懸命口説いて愛し合ったんだよな。あのダンジョンで天使たちや神獣と戦った時より難敵だったな。


基本喋らないからなあの女神。

何を言っても無表情でつまんなさそうな顔をしているヴリエーミアに、ずっと話のネタを提供し続けるあの戦いは壮絶だったな。

渾身のネタを外した時は心が折れそうだった。

凄いつまんない話なんだけど一応話してみるかと、やる気なく話した内容に食いついてきた時は気が狂いそうだった。

アレに比べれば打てば響く(物理的に)魔王との戦いは楽勝だった。


ヴリエーミアが話に食い付いてきて、お互い触れ合ってからはスムーズにいった。やっぱ人の温もりって大切だよな。

長い時を過ごして忘れていたんだろうな。


今後も夜に呼ぶようにするか。今なら魔力保つしな。

俺が死んだあとの嫁さんだし大切にしないとな。


俺は時の古代ダンジョンを攻略した時にヴリエーミアとした約束を思い出し、今の魔力ならヴリエーミアを数時間は顕現させられるからちょこちょこ呼び出すことにした。

あんまり放置して、俺がいつか死んだ時に機嫌を損ねられないようにしないとな。


俺はそんなことを考えながら目の前で次々と起き上がり仲間に抱きつかれ、なにがなんだかわからないといった表情をしている元死者たちを眺めていた。

蘭は大きな口を開けて驚き固まっているエフィルに得意げに説明していて、その隣ではララノアが熱っぽい表情で俺を見つめていた。


あれは昔よく俺に向けていた憧れの視線だな。

ララノアの夢を壊さなくてよかった。ヴリエーミアの尻は死角から揉んだからな。


あーあ、孫六が起き上がったよ。めんどくせえなぁ、げっ! こっち見んな!

皺くちゃの顔になりやがって! とっくにダークエルフの寿命超えてるくせにしぶとく生きてやがって!


あんなヨボヨボになってもダークエルフを導けという俺の命令をいつまでも守り続けやがって。

本当に……本当にうざいやつらだ。


俺は昔より緩慢な動きで、昔より背が縮んで、昔より涙もろくなったこの世界の忍者たちが駆け寄ってくるのを影縛りで縛り、雷矢で気絶させ蓮華のもとへ向かうのだった。



お近付きにならねば、是非ともお近付きにならねば。







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