第10話 冒険者商売





ガンゾとドグの所に寄り完成した夏海のミスリルの剣を受け取り、俺達はクオンとエメラの背にグリ子とグリ美とメイを乗せて家を出発した。そして一時間程で北海道の富良野市に到着した。

昨晩は全員で大浴場に入り全員でベッドに入った。シルフィは自分は仕事で行けないのに、皆をダンジョンに行かせる事への申し訳無さから、俺と共に蘭と凛と夏海にご奉仕に徹していた。シルフィと皆との絡みを目で見て楽しみ、そして身体で感じて楽しみで俺は大満足だった。凛も大きな声で大喜びして、最後は顔も身体もベトベトにして大股を開き幸せそうな笑顔で失神していた。



「流石にクオン達に乗ると北海道にもあっという間に着くわね」


「家の前に飛行場があるようなものだからそれは早いわよ」


「おっ! あれが十勝連峰か、あの中腹にあるあの壁が目的地だな」


「あそこね。壁の入口近くに人が沢山いるわ。標高500メートルの所までわざわざご苦労様よね。日当いくら貰ってるのかしら」


「旗とか横断幕とか結構お金掛かってますね」


「まあいいさ、クオン達は降りられないからグリ子達に乗って降りよう。クオン! エメラ! 俺達が降りたら山を降りる道の上空で旋回しろ!」


クォォォォン

クオーーーン


「俺はグリ子、凛と夏海はグリ美に! 蘭はメイと共に降りてくれ!」


「わかったわ! 最初が肝心だものね!」


「もう既に逃げていってますね……」


「メイちゃん行きますよ〜」


「ガウッ!」


俺がそう言いグリ子に乗りクオンの背から降りると皆が続いた。

富良野上級ダンジョンは、山の中腹にトンネルを掘ったかのように大きな穴が空いている場所が入口だ。

そのダンジョンを山の地形を利用して半円状で囲んでいる壁の入口に、俺達はグリフォンと冥虎で降りたった。


《ど、ドラゴンの襲撃だ! グリフォンまで!》


《な、なんだあの黒いデカイ虎は! あんなの見た事もないぞ!》


《み、道が塞がれてる! 逃げられないぞ!》


《おいっ!冒険者! 俺達は民間人だぞ! 守れ!》


《ま、待て! グリフォンに人が乗ってる! 降りてくるぞ!》


俺達が壁の入口近くに降り立つと、入口の斜向かいにある冒険者連合支店前でデモをしていた人達がパニックになっていた。俺はその中で冒険者の格好をして剣を構えている日本人やら白人やらの集団の前に立った。


「俺達はLight mareだ! 富良野上級ダンジョンを攻略しに来た! 」


《ら、Light mareだって!?》


《あのSSSランクパーティの? お、おいっ!剣をしまえ! アイツらは容赦ねえぞ!》


《アメリカが返り討ちにあった女神の島を占領したパーティだろ? このダンジョン潰されるんじゃないか?》


《流石にこんな金になるダンジョンは潰さねえだろ》


《どうだかな。アイツら横浜のダンジョンの攻略報酬で金に困ってないぞ?》


《でもこのダンジョンはコアの破壊は禁止されてたはずだ。大丈夫だ》


「おい! 冒険者! ここには民間人がいるんだぞ! 魔獣を連れてくるとは何事だ!」


キュオォォン!


「ひっ!」


俺が冒険者達に警告をすると全員が一斉に武器を収めた。そこへ冒険者連合の横暴を許すなとか書かれたのぼりを持っているおっさんが腰が引けた状態で文句を言っていたが、グリ子の鳴き声一つで尻餅をついていた。

冒険者達も俺達がここに来た事の目的を勘付いているようだ。確かに資源豊富なフィールドダンジョンのコアは、なるべく残すよう言われている。でも別に禁止されている訳ではない。上級ダンジョンが20以上あり、毎年ダンジョンが増え続けているこの日本でダンジョンの選り好みなどしている余裕など無い。当然コアを破壊すれば攻略報酬も出る。この富良野ダンジョンが過去に攻略された時にコアが破壊されなかったのは、攻略した者達がピチピチュの実が貴重だと思ったからだ。このダンジョンを潰したら世界中から命を狙われる可能性も考えたのかもしれない。


俺にはそんなもの関係ないけどね。


「勘違いしているようだから言っておくが、富良野上級ダンジョンのコアの破壊は別に禁止などされていない。なるべく残すように言われているだけだ。冒険者連合はこの富良野上級ダンジョンへの冒険者の偏りと、今回の騒ぎを憂慮し俺達に攻略依頼を出した。壊すも残すも俺達次第だ。今回はそれがいつでも出来る事を証明しに来た」


《冒険者連合が!? このダンジョンを潰すのを許可したのか!?》


《不味いぞどうする? 止めるにもSSSにドラゴンだ。勝ち目は無いぞ?》


《セルシアにボコられた次にはLight mareとドラゴンかよ……》


《おいっ! カメラこっち向けんな!》


「ミスターサトウ! 私はイギリスの冒険者でクリスと言う。このダンジョンを潰すのはどうかやめて頂きたい」


「イギリスの冒険者か、わざわざ日本にまで来てご苦労な事だな。冒険者の目的は上級ダンジョンの攻略と破壊だ。その意思の無い者は追放される。貴方は冒険者か? それとも商売人か?」


「うっ……ぼ、冒険者だ。だが、このダンジョンで入手できるピチピチュの実は人類の宝だ。決して潰してはならないダンジョンなんだ」


「ここは日本だ。貴方はこのダンジョンが氾濫した時に責任が取れるのか? 先日氾濫した横浜上級ダンジョンは間引きをしていたにも関わらず大規模な氾濫を起こした。それがこのダンジョンで起こらない保証があるのか?」


「そ、それは……」


「まあいい。今日はいつでもコアを破壊できる事を証明しに来ただけだ。パトロンに言っておけ、敵対するならドラゴンで遊びに行くとな」


「パ、パトロンなど……」


《やべえぞ色々バレてるぞ》


《流石に民間人連れてきたらバレるよな》


《あ〜あ、ピチピチュの実を取りに行くフリだけで悠々自適に過ごせていた生活も終わりかよ》


《噂じゃアメリカですら頭が上がらない相手だと聞いたぞ? うちの雇い主程度でどうにかできないだろ》


《俺はアイツらと敵対なんかしたら福岡戻れなくなるからここを離れるわ》


《Light mareが出てきたんだ引き時だろ。理事長から絶対に敵対するなと言われてるしな。俺はリャード達のようにはなるのはゴメンだ》


《そうだな、そろそろ潮時だな。毎日ここで立ってるだけで飽きてきたしな》


《このまま攻略されて毎月ガーディアンが復活する度にLight mareに来られたら、雇い主も諦めてどうせ俺達もクビだろ。チッ……セルシアにボコられて損したぜ》


《あ〜それな〜運良く下層行ってもガーディアンがいないんじゃ意味ねえよな。コアの必死の防衛で死ぬだけだな》


《それもそうだな。富山県のダンジョンがオイシイって言ってたな。次はユニコーン狩りでもするかな》


《ユニコーンの角で難病が治るってやつか。そっちの方がまだ狩れそうだな》


《俺は女神の島にでも行くかな。ルーキーのパワレベやらなんやらで稼げるらしいぜ?》


《マジかよ。可愛い子がいたらAランクの俺が守ってやって……へへへ》


《それいいな! 連合に依頼出てたよな確か! 俺は探索者の育成に全てを注ぐ! そしてハーレムを作る!》


俺はカメラも向いていたので、結構カッコいい事言ったつもりで彼等に背を向け歩き出した。すると後方から冒険者達の会話が聞こえ脱力した。

何というか諦めるの早過ぎじゃないか? 俺達が来た事で将来起こるであろう事を予想して、あっさり雇い主を見限って次の狩場の話とかさ。 ある意味冒険者らしいんだが、もっと揉めると思ってたんだけどな……

まあ動機は不純でも他のダンジョンに分散したり、探索者の育成をしてくれるならいいか。


後はこのダンジョンを攻略した時に毎月来ると言えば解決するな。ガーディアンが倒されて復活する迄の一ヶ月は、最下層はコアによりモンスターハウスのように魔獣で溢れる。そんな所にピチピチュの実も手に入らないのに行く奴はいないしな。

そして動画では、手に入れたピチピチュの実は全て自分達で使うと言っておけばいいだろう。奪いに来るなら反撃するだけだ。


俺は最初に話しかけたイギリスの冒険者が、信じられないような顔で他の冒険者達を見ているのを横目に蘭達と合流した。クリス……きっと君が一番まともだよ。



「ダーリンなんだか拍子抜けしちゃったわ」


「なんて言ってたんです?」


「俺達が来た以上もうピチピチュの実は手に入らないから、富山のダンジョンに行くってさ。他にも女神の島でルーキーの護衛をして稼いで、あわよくば可愛い子といい仲になるって言ってる奴もいたな」


「それは……ドライと言うか変わり身が早いと言うか」


「俺はアイツらが冒険者じゃなくてビジネスマンに見えてきたよ。アレでも半分近くはAランクなんだよな」


「あの中の10人以上もAランクなんですか!? 確かに皆30代位に見えますがAランクのビジネスマン……」


「多国籍だし富豪に囲われるくらいだから、若い時から効率よくランク上げてたんだろ。まあ色んな冒険者がいるって事だな」


「年を取って限界が見えてきたから、今のうちに稼げるだけ稼ごうとしてるだけじゃないの? どうせ氾濫の時には役に立たないんだから放っておけばいいのよ」


「そうだね。俺達はとっととこのダンジョン攻略して帰ろう」


俺はそう言ってグリ子とメイを呼び、凛達と壁の入口を潜りダンジョンへと向かった。

入口にいた自衛隊の人はギョッとしてたけど、シルフィから連絡がいっているからかメイをチラチラ見ながら通してくれた。

そして高さが10メートルはありそうなトンネルのような見た目の入口からダンジョンに入ると、そこは一面に木が生い茂る薄暗い森の中だった。


「みんなインカムは装着したな? 俺はグリ子に、蘭はメイに凛と夏海はグリ美に乗って飛ぶぞ! 」


「「「はい!」」」


「グリ子達とメイは飛行系魔獣が来たら好きに攻撃しろ! その代わり速度は落とすな! 中層まで一気に行くぞ!」


キュオォォン

キュオォォン

ガウッ


俺がそう指示するとグリ子達は空を蹴って階段を登るように上昇し、100メートルほど上昇した所で前方へと進んだ。森から抜けるととても明るく視界は良好だった。

この辺は上層部なので飛行系魔獣もグリ子達に怯えて攻撃して来ないな。静かなものだ。暇なのでインカムの調子を確かめる為に皆でしりとりをして遊んだ。

そうして一時間ほど飛ぶと前方に50メートル程の高さと幅の空間の歪みが見えてきた。俺はそのままグリ子達に高度を下げさせながら空間の歪みに突っ込ませ、次の階層を目指した。

歪みを抜けるとその先もまた森だったが、視界の先には川がありそこでは冒険者達が釣りをしていた。


「野営の準備かしら?」


「採取組っぽいね。森系のフィールドダンジョンの木の実や果物は人気があるし、2層ならすぐ帰れるから鮮度も維持できるからね」


「冒険者も色々よね〜Bランクになってまで上層で採取とか私は嫌だわ」


「ふふふ。凛ちゃんが良く買ってるカリュナッツはこの富良野ダンジョン産よ? 無いと困るでしょ?」


「え? そうだったの? あれはお酒に合うから好きなのよね。うん、こういう冒険者達も必要よね!」


「ふふふ、調子いいんだから」


「下層にはもっと貴重な木の実や果物があるから取れるだけ採っていこう。そういうのは蘭が詳しいんだ」


「はーい!さんせー! 蘭ちゃん美味しいやつ教えてね」


「うふふ。蘭にお任せください」


「流石光希の胃袋を長年掴んで来た蘭ちゃんだわ。勉強させてもらわないと」


下層には魔力を多く含んだ甘い果物が沢山あるからな、凛達の喜ぶ顔を見るのが楽しみだ。

俺達は和やかな雰囲気のまま10層迄何事もなく進んで行った。



「来たな……グリ子! グリ美! メイ! 風切り鳥だ! 遊んでやれ!」


キュオォォン

キュオォォン!

ガウッ!


俺達が10層に入るとそこは森と山があるフィールドで、山の谷間から30羽程のDランクの飛行系魔獣である風切り鳥が飛んで来た。

俺がグリ子達に指示をするとグリ子とグリ美は翼を羽ばたき風魔法を放ち、メイは即死魔法を放った。

魔法を放たれた風切り鳥達は、俺達に近付きその鋭利な翼で攻撃する間もなくバタバタと森へと落ちていった。


「何もする事が無いわね〜」


「こんなもんだろDランク魔獣だし。こっちはBランクグリフォン二頭にAランクの冥虎だしね」


「それもそうね。でもここにはボスがいるでしょ? そこでは戦えるかしら」


「CランクのキングトレントにDランクのトレントの群れだからね。燃やせるよ」


「豪炎で終わりそうね。中層に期待するわ」


「そうだね。地上ならもっと戦う機会あったけどね。中層からは空も忙しくなるよ」


俺と凛がそんな事を話している時も風切り鳥の群れが立て続けに襲い掛かって来たが、ペット達に全て一蹴されていた。即死魔法はこういう時便利だよね。


そして10層も終わりが見えた頃、進行方向には森の切れ間がありそこには高さ5メートルほどの太い木が一本と、3メートル程の高さの木が10本不自然に並んでいた。その木の後ろには空間の歪みがあった。


「あれが中ボスだね。凛と夏海で行ってきていいよ」


「やったー! 早く撃ちたかったのよね。お姉ちゃんいこっ!」


「はいはい、燃やし過ぎないようにね」


「拓けてるから大丈夫でしょ。私はキングトレント貰うわ! そーれ行くわよ〜『豪炎』」


「それじゃあ私はトレントに……闇の紋章よ!『闇刃』」


キュオォォン!


もう俺はツッコまないぞ……何故だか夏海の魔法を放つ所を見ると胸が痛くなる。これもある意味フレンドリーファイアだよな。


グリ美で上空からキングトレントに突撃した凛達が放った魔法は、キングトレントを激しく焼きトレント達を切り刻んだ。グリ美もトレントの頭上を掠める時に風の魔法を放ち、夏海の魔法と一緒にトレントへダメージを与えた。


「やっぱり一撃ね。トレントが二体残ってるわね。必死に枝を振り回しているけど空って有利よね〜」


「そうね、トレントの攻撃はこっちには届かないものね。グリ美もう一回よ! トドメを刺しましょう!」


キュオォォン!


俺はインカムのスイッチを切り夏海の再突撃を見守った。

再突撃した夏海とグリ美に残っていたトレントは切り刻まれ、中ボス戦は呆気なく終了した。

そしてキングトレントの背後にあった宝箱を開け、中級ポーション5つと初級土魔法書を手に入れ11層へと向かったのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る