第17話 帰宅
「それじゃあみんな準備はいいか? 」
「「「「「「は〜い♪ 」」」」」
「まったく、まさか一週間もいることになるとは思わなかったよ」
俺は伊勢神宮の正宮前で来た時とは違い、こっちで買った流行りの服を着てニコニコしている婚約者たちを見ながらそうボヤいた。
婚約者たちに囲まれ、蘭と凛に腕を組まれたお袋も元気よく返事してるし。
お袋はこの一週間ずっと上機嫌だったな。蘭たちとも一瞬で仲良くなった。お袋は人懐っこくて話題が合う蘭たちを凄く気に入ってくれているみたいだ。まあ二度目だからな。蘭たちはお袋のことをよく知ってるし。
なんか義母と義娘というより友達同士みたいなんだよな。帰ったらHero of the Dungeonで練習してから、リアラの塔にみんなで行く約束をしたとも言ってたし。
仲が良いのはいい事だし、お袋には自己防衛のためにある程度のランクになっては欲しいんだけど、平和な日本で育ったお袋に魔物を殺せるのか心配だ。
それにしてもこの一週間はあっちこっち連れ回されて疲れたな……
お袋と悦司と再会した翌日は、朝からご近所と警察に頭を下げて回った。小さい頃から良くしてくれて、お袋を支えてくれていた町内会長の爺さんには思いっきり頭を叩かれたよ。俺はただひたすら頭を下げて謝ってた。好きでいなくなったわけじゃないんだけど、それでも目に涙を浮かべて怒ってくれている爺さんには感謝の気持ちしかなかったな。心配してくれてありがとうってね。
それで爺さんには海外のお土産ですと言って、こっちにはない銘柄の酒とおつまみ用にと木の実を3つ箱詰めした物を渡して別れた。長生きしてくれよってね。
警察はまあ、失踪届けを取り下げて終わり。毎年何千人も失踪してるみたいだしな。そんなもんだ。
それから役所に行って身分証の更新をして、夕方から悦司と俺で東京と大阪の貴金属買取店をハシゴして持ってきた金やダイヤを換金した。何十店舗も回ったよ。それで1000万ほど作って蘭たちに100万ずつとりあえず渡した。残りはお袋と悦司の分だ。お袋はいらないとか言ってたけど、俺の資産額を凛から聞いてビックリしてたよ。俺もビックリした。うちの会社アホみたいに儲かってたんだな……
換金したのはいいけど来年あたり納税が大変になりそうだから、お袋にはもっと渡しておかないとな。まあいくらでも換金するものは用意できるからいいさ。
そして翌日からみんなで渋谷に買い物に出掛けた。職質とかされたら面倒だから、全員が幻術で日本人になってる。それで買い物を始めたんだけど、俺と悦司はあっちこっち引きずり回されて大変だったよ。
その翌日も新宿に行き、凛とミラとシルフィは換金要員の悦司を連れて秋葉原に買い物しに行った。帰ってきた時は三人ともホクホク顔で、対照的に悦司は疲れ果ててたよ。何度換金させに行かされたんだろうな。
そして転移で大阪にみんなで食い倒れ旅行にも行った。お袋も悦司も突然大阪に着いたから驚いてたな。そのあと魔法凄いってお袋は目をキラキラさせてたよ。
大阪にはあっちの世界の大阪になかった食い物屋がたくさんあって蘭は上機嫌だった。その翌日も大阪で有名な遊園地に行って一日中遊び、夜は小さい頃に親父と家族4人で行った九州の温泉にも転移で行った。
まあそんな旅行三昧買い物三昧の一週間を終えて、今日やっと俺たちの住む世界に帰ることになったわけだ。
俺はさんざん楽しんだ婚約者と恋人たちを見回した。
お袋は並行世界に行くのが楽しみなようだし、俺の隣では色々期待している悦司がずっとソワソワしている。そのお袋と悦司は腰に真新しいアイテムポーチをぶら下げていた。これは必要な荷物を入れるように昨日俺が渡しておいたものだ。
「兄さん。いよいよ異世界人の国に行けるんだね」
「ああ、まずは横浜のうちに案内するよ。そこから女神の島は繋がってていつでも行けるから安心しろ。モテなくても拗ねるなよ? 」
俺は楽しみで仕方ないという感じの悦司にそう言って肩を叩いた。この一週間、婚約者たちの使いっ走りとして頑張ってくれたからな。兄ちゃんはお前にエルフの恋人ができるように手助けしてやるよ。シルフィには見た目は可もなく不可もなくとか言われてたけどな。わはははは!
「拗ねたりなんかしないよ。エルフやダークエルフに獣人やドワーフの女の子たちに囲まれて、生活できるだけでも幸せさ」
「またそうやって聖人振りやがって。俺が性人みたいに思われるじゃねえか。血は争えないことを思い知らせてやる」
本当はムッツリなくせに昔っからコイツはこうなんだよな。俺は知ってるだぜ? お前の部屋には二次元のエロ本だらけだってのをよ。
「お嫁さん6人に恋人3人いる兄さんが性人じゃなくてなんなのさ。僕は一人の女性がいれば十分だよ」
この野郎……いいだろう。悦司には『水に溶ける水着を着ている子を探せ! ポロリもあるよ! 大会』に招待してやろう。そしてその化けの皮を剥いでやる。
俺はあの弟に比べて兄はという目で見られないよう、悦司の秘められたエロを引き出すことを決意した。
「光希〜お姉ちゃん準備はオッケーよ! 早く行きましょ♪ 着いたら蘭ちゃんたちと予定があるの。楽しみだわぁ」
お姉ちゃん? 四十路のお姉ちゃん? 痛い……シルフィの年を聞いて開き直ったなこりゃ。
「うふふ、陽子ちゃんにクオンちゃんたちを紹介します」
「あははは。陽子さんが驚く姿が楽しみだわ。ダーリン早く帰りましょ♪ 」
「へいへい……それじゃあ帰るぞ。アマテラス様お願いします」
《……ふふふ、見てましたよ。家族と再会できてよかったです。コーキ神も幸せそうでなによりです》
「ははは、まあずっと気になってましたから。スッキリしました」
《私も胸のつかえが取れた思いです。それではあちらの世界に送ります……》
「はい。お願いします」
俺がそういうと正宮前が白い光に包まれた。俺は横で狼狽える悦司の腕を掴み大丈夫だといい、大量に抜けていく神力を感じながら、一瞬の浮遊感の後に俺たちの家がある世界へと戻ったのだった。
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「あらあら……ここ横浜駅があった場所よね? ずいぶんとまぁ変わり果てちゃって……」
「話には聞いていたけど、本当に横浜駅は壊滅しちゃったんだね……これだけでここが別世界だと信じられるよ」
「横浜駅だけじゃないさ。主要都市の大きな駅はみんなダンジョン化したんだ。その中で横浜駅を俺が攻略して、ダンジョンごともらい受けたってわけだ。さあ、中に入ろう」
俺は伊勢神宮から転移した後に、うちの敷地の入口の壁を見上げ口を開けて驚いているお袋と悦司の背中を叩き壁内に入るよう促した。
そして住民用入口から壁内に入ると、どこかのテーマパークのように人でごった返している光景が目に入った。そして目の前でエメラが背中に乗客を乗せ飛び立つ姿を見て、お袋たちはこれでもかってほど驚いていた。
その二人の反応が予想通りだったのか、蘭たちは皆が笑っていた。
「ま、まるで怪獣ランドね……あの遠くでこっちを見てるのはキングギ○ラかしら? 」
「陽子ちゃん。あの子がクオンちゃんです。隣で白銀の鎧を着ている子がドラちゃんです 」
「それといま乗客を乗せて飛び立ったエメラルドグリーン色の子がエメラね。海には水竜のスーもいて、どの子もコウに従属しているから安全よ」
「こんなに大きなドラゴンが光希に……なんだか息子がウルト○マンになった気分だわ」
「あははは! あたしそれ知ってるぜ! だったら陽子さんはウルト○の母だな! 」
「あらやだ! それじゃあ私も強くならなくちゃね! 確か私は水属性だって言ってたわよね? 氷の美魔女として世界に名を知らしめないと! きっと世界中の御曹司たちからデートの誘いが来るわ! 」
「まかせて陽子さん。炎と氷の魔女の私がしっかり教えてあげるわ! 有名になったら親娘でLight mareコロシアムでデビューして、そのまま芸能界に進出しましょう! 」
「きゃー! それいいわね! 私の第二の人生は薔薇色ね! あ、光希! お姉ちゃんに豊胸の秘薬よろしくね! 凛ちゃんと巨乳姉妹でデビューするから」
「オイオイ勘弁してくれよ……」
俺は敷地を見て周りながら、お袋と婚約者たちの会話を聞いてゲンナリとしていた。
「兄さん、グリフォンが子供を咥えてるんだけど……」
「ん? ああ、あれはグリ子だな。大丈夫だ、食べたりしないから。子供たちも楽しそうだろ? 」
「う、うん……この世界の子供ってたくましいんだね……」
「お前も魔物と戦って鍛えてたくましくなるんだ。人ごとみたいに言ってんなよ」
「ええ!? 僕が魔物と!? む、無理だよ! 」
「あっそ、なら別に無理にとは言わねえよ。エルフや獣人は強い男じゃなきゃ見向きもしないけどな」
「え!? そうなの!? ううっ……頑張ってみるよ……」
「わははは! そうかそうか! しっかり鍛えてモテモテにしてやるからな! 兄ちゃんに全部任せとけ! 」
これは光一の予備になりそうだな。さすが俺の弟だ。魔力は多めだし、適性はあるだろう。これで三千世界は安泰だな! リアラも喜ぶに違いない。
俺は欲に負け勇者候補生入りした弟の肩を抱き、Hero of the Dungeonへと向かった。
Hero of the Dungeonは相変わらず忙しそうだったが、事務室で冬美さんとスタッフに生き別れていたお袋と弟が見つかったと言って紹介した。スタッフの皆は思いの外喜んでくれて、全員がお袋と悦司によかったですねと声を掛けてくれた。
悦司は初めてみるダークエルフや獣人の女の子を顔を真っ赤にして見ていて、中でもダークエルフと猫耳のインストラクターの女の子に目が釘付けだった。ムッツリめ。
そしてそのまま家へとゲートを繋ぎ、我が家を案内した。
お袋はアラブの富豪が住むようなおしゃれで豪華な家に興奮し、悦司はこんな豪邸を持ってる兄さん凄いとずっと連呼していた。
俺は弟からの尊敬の眼差しに気分が良くなり、当面二人が住むことになる二階の客室へと案内した。
なんかスポーツ選手とかミュージシャンがさ、成功して地元に帰ってきたらこんな気分なのかね? 家族に喜んでもらえるのってなんでこんなに嬉しいんだろうな。
そしてその日から俺とお袋と悦司。そして婚約者と恋人たちの生活が始まった。
翌日、お袋は蘭とシルフィたちとスーやドーラたちと遊覧して周り、一日中遊んでいたようだ。悦司はこの世界の勉強をすると言って凛と夏海から歴史を教わっていた。リムからは異世界の言語を教わる予定のだそうだ。お袋は遊び回ってるというのに相変わらず真面目な男だ。やっぱ俺がお袋似で、悦司は親父似なんだろうな。
そのお袋は遊びから帰ってくると俺に若返らせるように迫ってきて、25歳くらいに若返ったあとは痩せ薬と豊胸の妙薬を飲んで近所のグラマーなお姉さんに化けた。メイクもガッツリして、決して美人ではない顔が美人になっててもうあんた誰? って感じだったよ。もう元の世界に帰っても身分証は使い物にならないと思う。
そんなお袋と悦司をアンネットや紫音に桜。それにマリーたちや女神の島の住人に紹介をして回ったが、俺はお姉さんとして紹介しなさいとか言われて恥ずかしくて死にそうだったよ。
お袋の言いなりになって困ってる俺の姿を見てみんな笑ってたし。そのあとマリーたちと紫音はさっそくお袋の肩とか揉みだしていた。あの子たちは色々と抜け目ないよな。
そしてその翌日にはお袋はさっそく悦司を連れて、蘭と凛やミラと一緒にHero of the Dungeonに入っていってた。悦司には特別に猫耳の女の子をインストラクターで付けてあげた。悦司は嬉しそうだったな。もうあいつはこの世界から帰れないと思う。
まあそんな感じでお袋は毎日のように常に手の空いている蘭とミラに、その時々仕事の手が空いてる子を連れてHero of the Dungeonで遊びまわってた。
そんなある日のこと。お袋と悦司がリアラの塔に挑む用の装備をガンゾに頼んでいると、アマテラス様の気配がし声が聞こえてきた。
《コーキ神よ……勇者光一が戻りました。だいぶ弱っているようで、夏美からコーキ神に来てもらえるよう願いが届きました》
「あれ? もうですか? 」
確か日本を救って戦う術を伝えたあと、世界も救うとか言ってなかったか?
《はい。異星人に苦戦している各国を救い、戦う術を伝えた後に異星人の本隊と思える大規模侵攻がありました。それを防ぎ、世界を守りきってもう大丈夫だろうということで戻ってきたようです。本来なら日本を守るだけで帰ってきてもよかったのですが、かなり無理をしたようですね》
「なんというか苦手な蟲相手なのにサービス精神が旺盛なことで……わかりました。明日にでも見に行きます。伝言ありがとうございました」
《いえ、よいのです。勇者のこと、頼みましたよ》
「ええ、任せてください」
俺がそう返事をすると、アマテラス様はその気配を消した。
そうか、戻ってきたか。
まあ弱ってるのは必死に戦ってきた証拠だろう。だいたい察しがつく。
さて、あの激甘の光一がどれだけ成長しているのか楽しみだな。
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