第17話 告白





女神の島から一時帰宅した翌日の昼過ぎ。俺はシルフィとリムを1階のリビングに呼び、女神の島にそびえ立つ塔についての情報を聞く事にした。


「シルフィーナ。確か中央の塔が【賢者の塔】で、それを囲む4つの塔がそれぞれ【魔力の塔】、【魔法の塔】、【力の塔】、【戦士の塔】だったかな。それで各塔を攻略すると、その塔にちなんだステータスが上がる。中でも賢者の塔は魔法全般の能力が上がる上に【紋章】魔法が手に入る。こんな感じだったよな?」


「はいその通りです。魔力の塔は魔力と器用さ。魔法の塔は魔攻と魔防。力の塔は体力と物攻。戦士の塔は物防と素早さのステータスが上昇します。賢者の塔は魔力・魔攻・魔防・器用さ全てが大幅に上昇すると伝え聞いています。紋章魔法は攻略後に適性のある者のみ授かるようです」


「光魔王様。私達も賢者の塔を目指しあの島を占拠しましたが、デビルのアジムも攻めあぐねていました。なんでも上層階は最上級ダンジョンと同じ難易度だそうです」


「育成の塔とか言って最上級ダンジョンの難易度を置くのかよ……」


「中央の塔だけは、より高みを目指す為の目標の塔という位置付けでした。過去攻略に成功したのは勇者様だけでした」


俺は薄い白のワンピースから透けて見える、シルフィの青い下着を見つめながら納得した。

確かに塔をクリアして力を付けたルーキー達に、まだまだ強い敵がいて人類を救う魅力的な魔法があると見せるのは有効だとは思う。しかし、最上級ダンジョンの難易度と同じはやり過ぎだろ。ここでも駄女神の適当さが垣間見える。


「その紋章魔法は確か魔獣の皮に、魔石無しで魔法を付与できるんだよな? こっちの世界のファンタジーの物語に度々出てくるスクロールってのが作れる訳だ」


「はい。過去紋章魔法を手に入れた勇者様は上級魔法をスクロールにし、多くの者に渡しました。そのスクロールは魔王軍を押し返す際に、大きな助けとなったと聞いております。紋章魔法にはスクロール化する以外の効果もあったと言う記録もありましたが、勇者様が秘匿したようでそれがどう言うものかは後世には伝わっておりません」


「私達は冒険者協会に潜入して得た情報ですので、シルフィーナさんの知っている以上の情報はありません。申し訳ございません」


「いいんだリム。お前には実際に最近塔の中に入り戦った者としての情報が欲しくて呼んだからな。シルフィーナありがとう。スクロールは自衛隊の大きな助けになるだろう。しかし勇者が秘匿したもう一つの効果は気になるな……そう言えば魔法は何でもスクロール化できるのか?」


「いえ、勇者様が覚えた上級魔法以下の魔法のみだそうです。それも技術的な魔法はスクロール化できないようです」


「そうか。錬金や付与魔法は対象外と言う事だな。当然と言えば当然か。すると俺が覚えた魔法だと……時魔法が出来たとしてもこれはしないな。転移も悪用が怖いしこれも駄目だな。雷が一番強力でいいかな。軍事用に雷、一般用の為に火魔法覚えるかな」


俺はステータスには出ないが確実に存在すると言える魔法の熟練度を上げる為に、今まで覚えられたとしても覚えなかった魔法がある。俺が敵を相手にした際に多用する魔法は雷魔法だ。この魔法を活かす為に水は覚えたが、火と風は覚えなかった。土は横浜の自宅の土地を整地する為に覚えたが、殆ど使っていない。

しかしスクロール化できるなら話は別だ。闇に適性があった俺は聖魔法は適性が無いが、勇者はそれ以外の魔法全てに適性があるので覚えておいた方が日本の為にもなる。そして俺の財布の為にもなる。俺は上級の魔法書は沢山あるので覚えようと決めた。


「光希様がスクロールを量産して頂けたなら、冒険者連合としても助かります」


「素晴らしいです。光魔王軍の戦力増強になりますね」


「世界征服なんかしないからな……」


俺はリム達が俺に何を期待しているのか考えると憂鬱になるので、いつも通り意思表示だけして流した。

沈黙は肯定と受け取られても嫌だしな。


「で? リムとシルフィーナは中央の塔に入った事があるのか?」


「はい。4つの塔全てを攻略し中央の塔に入る事ができました」


「私も下層ですが、入った事はあります」


「4つ全て攻略してからか、まあ最上階で上級ダンジョンの中層程度の敵なら可能か。それで中央の塔の魔獣は何だったんだ? やはり魔法を使う魔獣か?」


「いえ、天使達でした」


「天使でしたね」


「そっち系か……人型で知能の高い天使は厄介だな。その上最上級ダンジョンレベルとか、これ駄女神は紋章魔法渡す気無いだろ」


「確かに強くて全滅しました。ですがその1ヶ月の再入場不可期間に光魔王様と出会えました。全滅して良かったです」


「死ぬとペナルティがあるのか」


「はい。4塔は10日、賢者の塔は1ヶ月です」


「それもそうか、そんなに簡単に強くはなれないか」


「ですが、時間を掛ければ途中の経験値で能力は確実に上がります。安全に確実に上がりますので、通常のダンジョンよりは光魔王軍を育てるには適しています」


「そんな軍団持つ気も育てる気もないからな? まあ確かに安全に確実に力は付くな。ドロップ素材はどうなんだ?」


「通常のダンジョンのように魔獣の死体は残りません。倒すと消え、魔石は体感ですが3割の確率でその場に残ります。基本的には20.40.60階にいるボスを倒して、魔法書や武器や防具を手に入れる形になります。4塔は60階のボスを倒して中級魔法書が手に入りました」


「私は100年前なのでその辺は覚えていませんね。リムさんの情報は今後あの島を管理していく上でとても参考になります」


「そうだな、そんな昔の細かい事まで覚えていられないよな。しかしドロップ品は大した事無いんだな。そりゃリスク無いんだから当然か。駄女神め、こういう所はしっかりしてやがるな。ここを適当にしろよな」


俺はケチな癖にいい加減な駄女神に悪態をつきつつ、それでも凛の物理防御と夏海の魔力を上げられるなら攻略する価値があると考えていた。


「2人ともありがとう。明日には掃討作戦が終わる予定だと言っていたから、俺のパーティで一番乗りをしようと思う。シルフィーナ、塔の南の工房地域の土地はどうなった?」


「あそこは元々冒険者協会が賃貸で使わせていた土地なので、取り壊しには承諾して貰えました。その代わり新しい建物を建てた際にはその一区画を無償で貸す事になっています」


「そうか、彼らもあの島で商売をまたしたいと言うかもしれないからな。砦と周辺の山の方は行けそうか?」


「はい。島の番人的な立ち位置ではありますが、西側の海岸沿いと塔の北側の山は光希様の管理する土地と言う形になりました。所有権は海岸沿いの土地と砦がある山のみですが……」


「流石に土地を全部くれとは言わないさ、あの砦がある山に人が入らないならそれでいい。ここと砦でゲートを繋ごうと思っているからな。リムの部下達も鍛えに行かせたいしな」


「ありがとうございます。光魔王軍の戦力になれるよう最低でも4塔を制覇させます!」


「違う! 諜報活動の為だからな? 護身用的な意味合いだからな?」


「はい! 今は雌伏の時。いざという時に足手まといにならぬよう鍛えさせます」


「別に何も企んで無いし、いざという時も無いから……とりあえず2人ともありがとう参考になった。リムは下がってくれ」


「ハッ! 失礼します」


俺はリムの魔王への憧れみたいな物を、シルフィの勇者への憧れみたいなものだと思えてきた。きっと小さい頃から魔王に仕えて活躍する物語でも見て育ったんだろう。そんなのに付き合ってられるか。

俺はリムをとっとと下がらせてシルフィと大事な話をする事にした。


シルフィはリムがいなくなると正面のソファから腰を上げ、俺の隣に移動し身体を寄せてきた。

俺はシルフィの肩を抱き寄せ、その金糸のようにサラサラで美しい髪を撫でた。


「あっ……光希様。寂しかったです。それに突然サキュバスをあんなに大勢迎え入れて……本当にびっくりしました」


「悪かったよ。今後俺達には世界中に目と耳が必要になると思ってな」


「確かに諜報活動にはこれ以上ないと言う程の適任者ですが、まさか勇者様が魔族を配下にするなんて……」


「大丈夫だ。俺はノブナガにはならない。利用できる物を利用しているだけだ。魔族でもなんでも、大切な恋人達の身の安全に役立つなら配下にでもなんにでもするさ」


「その……その中には私も入っていますか?」


「当然だ。シルフィーナ……今日から5階の部屋に移動してくれないか?」


「え!? それはその……そういう事ですか?」


「そうだ。俺はこの世界のシルフィーナが好きだ。ずっと一緒にいてくれ」


「あ……ああ……はい喜んで……嬉しい……ぐすっ……」


「いつまでもウジウジとハッキリしなくて悪かった。もう大丈夫だ。しっかりとお別れをしてきたよ」


「いいんです。光希様の愛したシルフィーナも私です。私はそんな光希様を好きになったんです。だからお別れなんてしなくていいんです。私をそのシルフィーナだと思ってもらってもいいんです」


「そんな事は出来ないよ。二人はどんなに似ていても別人だ。決してシルフィーナは死んだ彼女の代わりなんかじゃ無い」


「光希様……」


「シルフィーナ……」


俺はシルフィが、死んだシルフィを想う俺を好きになったと言ってくれた言葉が嬉しかった。けど、シルフィは代わりなんかじゃない。俺は真面目に一生懸命他人の為に頑張り、そして傷付いても前に進み続けるそんなシルフィに惚れたんだ。俺はこの世界のシルフィを愛している。


俺は嬉し泣きをするシルフィの涙を指で拭った。そしてお互いの名前を口にして見つめ合い、唇を重ねた。

シルフィの両腕は俺の首の後ろに回され、お互い舌を絡め合いながらお互いを求めた。俺の手は自然とシルフィのワンピースを脱がせ、下着の中に手を入れその手のひらにぴったりと収まる胸を優しく揉んでいた。


「ん……んん……はあはあ……ああっ……」


「シルフィーナ……」


「……はい……光希様のものにしてください」


俺はシルフィをお姫様抱っこし、エレベーターに乗り5階の俺の部屋へと向かった。


部屋に入りベッドにシルフィを寝かせ、俺は服を脱ぎ捨ててシルフィに覆い被さりキスをした。


「ん……光希様……私の初めてを……あなたに……」


俺は目をつむり少し震えているシルフィの下着に手を掛け、舌を絡め合いながら脱がしていった。そしてショーツに手を掛けた時、シルフィの準備が整っている事がわかった。

俺は顔を真っ赤にして恥ずかしがるシルフィの乳房を揉み、その先端にある桜色の突起を口に含み舌で転がした。


「ふ……ふあっ……ああ……も、もう……お願い」


俺は懇願するシルフィが可愛くて、その両足に手を掛け左右に押し開き身体を重ねた。


そして俺達は初めて結ばれた。


不思議な感じだった。シルフィは双子で、その両方の初めてをもらった気分だった。

初めてなのにポーションを飲んで、二回も三回も求めて来た所まで同じだった。

やっぱりシルフィはエロフだった。



愛し合った俺とシルフィは一緒に部屋にある浴室でシャワーを浴び、その途中でシルフィが口でしたいと言い出しそのまま愛し合いった。

もうすぐ夕食の時間と言う事で、蘭達と夕食を作るためにシルフィは部屋を出て行った。

俺は心地良い脱力感からかベッドに横になり、しばらくボーッとしていた。




「ダーリンご飯よ。今日はお祝いだからお赤飯にしたわよ」


「お祝い?」


「ぷっ! シルフィーナさん歩き方が変だったわよ?」


「いやははは。夕食の時に話そうと思ってたんだけどね」


「あの話を聞いてから時間の問題だと皆思ってたわよ。蘭ちゃんなんて大喜びしてたわよ?」


「蘭はシルフィに懐いていたからな」


俺がベッドでダラダラしていたら凛が夕食ができたと呼びに来た。どうやらバレていたようだ。


「ねえダーリン」


「ん?」


「私の事好き?」


「当然だ。大好きだよ」


「んふっ……ならいいわ。シルフィーナさんなら仕方ないわ」


「凛に寂しい想いなんてさせないさ。実家に行った時に約束したろ?」


「ふふっ……そうね。二人でいられる時間が減ったら承知しないからね」


「当たり前だ。減る訳が無い」


「ならいいわ。ご飯冷めちゃうから早く来てね」


「ああ、今行くよ。凛……」


「あっ……んんっ……もうっ……大好きよ」


「俺の方が大好きだよ」


「またその流れするの? ふふふ」


「何回でもするさ。ははは」


俺は恋人が増えて少し不安になっている凛が可愛くて愛おしくて、エプロン姿の凛を抱き寄せキスをした。

そして二人で手を繋いでリビングへと向かった。

リビングでは顔を真っ赤にして俯いているシルフィと、それをニコニコ見ている蘭。そして慈愛の目でみている夏海がいた。

俺はテーブルにつき恋人達に言った。


「シルフィーナが俺達の群れに今日から入る事になった。受け入れてくれると嬉しい」


「皆さんと同じくらい光希様が好きです。私を受け入れてください。お願いします」


「うふふふ。群れが大きくなるのは蘭は歓迎です。シルフィーナさんならもっと歓迎です」


「シルフィーナさんがダーリンを利用しようとかじゃなくて、本気で好きなのはずっと見ていたからわかるわ。ダーリンを大切に想っている人なら歓迎するわ」


「私も光希を真剣に愛している方なら歓迎します」


「蘭さんに凛さんに夏海さん。ありがとうございます。私は光希様を勇者としてでは無く、一人の男性として好きです」


「みんなありがとう。気の多い男だと呆れられても仕方ない俺だけど、蘭も凛も夏海もシルフィーナも俺は愛してる。その気持ちに偽りは無い。5人で沢山の思い出を作っていきたいと思ってる」


「蘭はたくさん赤ちゃんができるのが楽しみです」


「惚れた弱みだから仕方ないわ。寂しい想いはさせないって約束してくれたしね」


「私は光希が何人愛したとしても、私を変わらず愛してくれるならいいです」


「ありがとう。寂しい想いはさせないよ」


俺は皆にシルフィを受け入れてくれるよう話し、皆は快く受け入れてくれた。こんなに美しく性格の良い子ばかりなんだ、好きにならない方がおかしい。好きになったら自分のものにしたい。そうしたら人数が増えてしまった。元の世界なら許される事では無いが、幸か不幸かここは魔獣のいる世界。高ランク冒険者には複数婚が認められている。後は俺がしっかり全員を愛し続ければ問題は無い。夜だって俺には強力なアイテムがある。全員を満足させる自信がある。うん、問題無い。


そして夕食を和やかに皆で取り、遊戯室でビリヤードとカラオケをやり皆で盛り上がった。蘭のダンスチームに新たにシルフィが加わり、恥ずかしそうにお尻を振るシルフィが堪らなく可愛くて俺はすぐさま動画を撮った。

今日はシルフィの思い出になる日と言う事で皆が気を使ってくれ、夜はシルフィと二人で過ごす事になった。

今は二人で4階の大浴場に入り、シルフィに全身と口を使って洗ってもらった。俺もお返しにその細い腰と柔らかく弾力のあるお尻を重点的に洗ってあげて、最後は中までゴシゴシと洗ってあげた。そして浴槽に入りイチャイチャしながら色々と話をし、今はラウンジでお酒を飲んでいる。


金色の髪を後ろでまとめて浴衣姿でお酒を飲み、ほんのり赤くなっているシルフィがとても色っぽい。


「コウキ……今日は人生で一番幸せな日かも」


「それは子供が出来た時に言って欲しいかな」


「ふふっ……そうね。エルフは子供ができにくいけど、コウキとの子供は凄く欲しいわ」


「できるまで頑張ればいいだけだろ? 俺達には時間がたくさんあるんだ」


「そうね、コウキが死ぬまで作り続ければいいだけね。やだっ想像したらまたしたくなってきちゃった」


「今日が初めての子の言葉じゃないぞそれ……」


「私は180歳になるまで経験無かったのよ? あんなに良いものだったなんて……今まで知らなかった分損したわ。180年分取り返さなきゃ!」


「生まれた時からの計算かよ……」


「15歳からエルフはもう大人の身体になるんだから誤差よ誤差」


「エロフ誕生の日だな」


「コウキにだけね。貴方以外もう見えないもの」


「それなら嬉しいかな」


俺は一緒にお風呂に入っている時に、シルフィにもう恋人同士なんだから様付けで名前を呼ぶのはやめてくれと言った。そして家族に話すように、本当のシルフィの話し方で話して欲しいとお願いした。やはりどこかで勇者に対しての尊敬の念があるシルフィは最初拒否した。けどそれだと壁を感じると言ったら、それはとても嫌らしく渋々話し方を変えてくれた。名前を呼ぶ部分だけアトランの世界での発音なのは不思議だけど、俺としては今のシルフィの方がしっくりくる。それは別人とはいえシルフィと言う存在を知っているからなのかもしれない。


「ねえ、コウキ」


「ん?」


「もう一人の私の話を聞きたいわ」


「え? なんでだ?」


「だってその子も私だもの。コウキとどんな事をして、どういう子だったか知りたいわ」


「うーん。まあもう昔の事だしいいが……言っておくがもう一人のシルフィーナはとんでもないエロフだったからな? 聞いて後悔するなよ?」


「ええ!? 私が? 普通のはずよ……」


「170年分取り返さなきゃ」


「え? なに?」


「10年前にもう一人のシルフィーナが言った言葉だよ」


「うっ……え、エルフなら皆言う……ハズ」


俺は他の女性との馴れ初めを恋人に話すのはどうなんだろうと抵抗はあったが、シルフィが知りたいと言ってるしいいかと思い話し始めた。もう一人のシルフィと出会った所から付き合い始めた時の事。一緒に冒険した事や、外でシルフィに迫られ何度も愛し合った事などの話をした。


「……聞かなければよかったわ……やっぱり私ね、言動から行動まで全部やりそうな事ばかりだわ。エロフとか言われるのも納得だわ」


「だから言ったろ? 目覚めたシルフィーナは凄かったんだ。俺も嫌いじゃないから喜んでしたけどな」


「そうなの? それなら問題無いわね。子供を作るためですもの。自然な事よね」


「そして歴史は繰り返される訳か」


「いいのよ。コウキもしたいなら問題無いわ。それよりも私なら日記付けてるはずよね? それは見せてもらうのは駄目?」


「日記か……確かにあるし同じシルフィーナにならとは思うけど、見ない方がいい。その……最後の時の事も書かれている。もう一人の自分の壮絶な最後はショックを受けると思う。俺も一度見たきり辛くて二度と読めなかった」


「うっ……でも壮絶な最後?」


「ああ。禁呪を使ったんだ」


「禁呪を! そう……もう一人の私は魔王のいる世界にいたんですものね。それでも禁呪を使うなんて……魂すら消滅してしまうのに……」


「そこまでしないと守るべきものを守れなかったんだ。仲間の為に、そして俺の為に彼女は禁呪を使った。それにより多くの命が助かったのは事実だ。けど、俺はそんな物より彼女の命の方が大切だった。彼女だけ生き残っていて欲しかった」


「コウキごめんなさい。辛い事を思い出させてしまったわ。私は私が愛したコウキを、もう一人の私がどんな想いで愛したのか知りたかったの。でもごめんなさい。私が慰めてあげる。さあ、行きましょう。私をいっぱい愛して」


「シルフィーナ……」


俺はシルフィに連れられベッドに入った。けど今してしまうと、シルフィを彼女の代わりにしてしまいそうでできなかった。俺はシルフィが何処にもいかないよう、消えてしまわないようにただただ抱きしめた。そんな俺の胸元で、シルフィはずっと優しい眼差しで見つめていた。まるで私は大丈夫、いなくならないよと言っているように……俺はそれに安心しそのまま眠りについた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る