第16話 警告
ーーソヴェート共和国連邦 首都モスクワ 大統領官邸 第12代大統領 ヨセフ・バルチザムーー
「一体どうなっているんだ国防相! 被害状況とドラゴンの現在地を報告しろ!」
「ハッ! 我が国の第5及び第3艦隊が壊滅し、東部方面軍の海軍港及び空軍基地が全て破壊されました。いずれも隕石によるものです。ドラゴンは現在中華大陸を横断し中東諸国上空を飛行中です」
「基地が全てだと……? 隕石がそう何度も基地や艦隊にのみ落る訳が無いだろう! どういう事なんだ」
「おっしゃる通りです。隕石が基地や艦隊のみ連続して落ちるなど有り得ません。これはもう魔法としか言いようがありません」
俺は緊急対策室に各省の長を集め、今回の悪魔の乗ったドラゴンによる被害状況を報告させた。
隕石を落とす魔法など聞いた事が無い。そんな戦略兵器となりうる魔法の存在など、異世界人は言ってなかった。しかし現に我が国の艦隊と基地にのみ隕石が落ちている。信じたくは無いが、信じざるを得ない。
「大統領。情報によりますとドラゴンは二頭に増え、グリフォンも二頭いるようです」
「なんだそれは! どこで増えた! 」
「旧中華国にいるあのウィンドドラゴンのようです」
「なっ!?……ま、まさか手懐けたのか?」
「はい。そうとしか思えません」
「ちゅ、中東の国々はどうなった! 特殊魔法弾も効かないドラゴンにどう対処している!」
「それがドラゴンは中東の国々を素通りしているようです」
「素通りだと? なぜ……や、奴らの目的はまさか……」
「失礼します。大統領地下のシェルターの指揮所へご移動お願いします」
「チェルノ……それはどういう意味だ?」
「ドラゴンの目的はどうやら首都モスクワのようです。黒海から急に北上を始めました」
俺はチェルノの言葉に目の前が暗くなった。我々が一体悪魔に何をしたと言うのだ。何故執拗に我が国を狙うのか?特殊魔法弾も効かないドラゴン二頭にどうやって対抗しろと言うのか……しかも悪魔は隕石を落としてくる。この歴史ある宮殿が、ソヴェート連邦の首都が消滅してしまう。こうなれば核を……いや駄目だ、我が国の上空で核など使ったら電磁パルスでそれこそ国が崩壊する……ああ、忘れていた。そう言えば旧中華国がドラゴンに核を撃ち込んだが、それでもドラゴンは生きていたな。何か……何かないのか他に打つ手が……
「何か無いのか! 我が祖国をドラゴンと悪魔から守る術は!」
「…………」
「あらゆる手を尽くしております。首都防衛隊には玉砕すら指示を致しました。大統領はシェルターへご同行ください」
「くっ……わかった」
俺は首脳陣を連れ、地下シェルター内の指揮所へと向かった。
指揮所では多くの者が戦闘指揮と情報収集を行っていた。
「首都防空隊被害甚大! あらゆるミサイルが通用しません。機体による体当たりも効果ありません!」
「対空砲火はどうか!」
「全て魔法障壁で防がれております!」
「打つ手なしだな。住民の避難状況はどうなっている」
「モスクワ全域でパニックとなっており、避難が遅れております!」
「引き続き避難を呼びかけよ」
俺が席に着くなり首都防衛司令官と参謀の絶望的な報告のやり取りが聞こえてきた。人間はここまで無力なのか? ドラゴン一匹すら追い返せないのか? 魔獣には通用していた攻撃が、ドラゴン相手だとここまで無力化されるものなのか?
俺は40年前に魔獣に滅ぼされたかつての大国を思い浮かべた。
「大統領。衛星画像の分析が終わりました」
「情報省か……それで? 何かわかったのか?」
「あの黒いドラゴンが現れたと同時に、女神の島にいたレッドドラゴンが消えていた事がわかりました」
「サトウのレッドドラゴンが消えた?それはどういう事だ?」
「ま、まさか!?」
「どうしたチェルノ?」
「だ、大統領! 何故悪魔が乗るドラゴンが我が艦隊と基地を襲い、今正に他の国を無視してこちらに向かっているのか? 答えは隕石です!」
「隕石? 」
「半年前ニホンの資源省ビルが隕石衝突により崩壊しました。当時サトウがやったのではと言う声もあったようですが証拠は無く、隕石を落とせる者など存在するはずがないと一笑に付されておりました。結果、非常に低い確率ですが偶然と言う事で収まりました。同日にサトウが資源省と揉めていたしてもです。ですがもしサトウが隕石を指定した場所に落とす事ができ、あの黒いドラゴンが色を変えたサトウのドラゴンだとしたら……これまでの我が国への攻撃が、恋人の家族を襲撃した我が国への報復行為という事になり全て辻褄が合います」
「馬鹿な!? 悪魔ならまだしも、一国を相手に個人が戦争を仕掛けているというのか! そんな事があるはずが無い!」
「しかし! では何故ニホンや中東を無視して、ここモスクワに攻撃を仕掛けているのです? 悪魔なら無差別に攻撃してもおかしくは無いはずです。しかし我が国を、しかも悪魔などが知るはずも無い基地をピンポイントで攻撃し、我が国の他地域には目もくれずこの首都モスクワに来ております。なんらかの意思があるとしか考えられません」
「ぐっ……確かにチェルノの言う通り、あのドラゴンに乗る者がサトウなら辻褄は合う。しかし現に乗っているのは悪魔だ。姿を変える魔法など聞いた事がないぞ」
「隕石を落とす魔法も聞いた事がありませんでした。ですが現に魔法としか思えない隕石が、連続して基地にのみ落とされております。我々が知らないだけで、姿を変える魔法があるのかもしれません」
俺はチェルノの言う言葉に納得してしまった。我々が知らないだけで、姿を変える魔法があるのかもしれない。
確かにあの隕石落下は偶然ではなく人為的な物だ。ニホンの資源省もサトウの恋人を拉致をした結果崩壊したと聞く。あの資源省ビルへの隕石落下をサトウがやったとしたら、各基地に落とされた隕石もサトウの仕業なのだろう。個人がこの大国に戦争を仕掛け圧倒している。あり得ない。どんな悪夢だ。
甘かった……どれ程強くとも一個人である以上、国を相手に刃向かう事などしないと思っていた。だがサトウは国を相手に出来る程の強さを持っていた。
我々は絶対に敵に回してはいけない存在を敵に回してしまった。
「どうすればいい? ニホン政府に抗議……いや、証拠が無いな。それにそんな事で止まるなら最初から国を相手に戦かわないだろう。しかし首都には多くの国民が……このままでは……」
「それは恐らく大丈夫では無いかと思います。彼はここまで軍に関わる物しか攻撃しておりません。民家などは被害を受けておりません。基地で働いていた民間人は別ですが、積極的に民間人を攻撃はしておりません。ここモスクワでの彼の目的は、我々への警告では無いかと思います」
「警告か……確かに軍や基地以外には攻撃をしていないが……希望的観測ではある。しかし現状打つ手がない……今はその希望にすがるしかないな」
「我々は触れてはならない存在に触れてしまいました。彼を我々の価値観の範囲で判断してしまいました」
「まさかこれ程危険な存在だと誰がわかるものか。俺は失敗した。それは認めよう」
俺はあの時、女神の島の占領を画策した事を後悔した。リスク無く手に入れるどころか、我が国だけ大きな被害を出してしまった。今後極東及び太平洋方面の防衛力が落ちてしまうのは避けられない。
幸いスラーガ以外の陸軍を主とするダンジョン攻略軍は健在だ。厳しいがダンジョンの氾濫になんとか対応はできる。
最悪ニホンから奪った島の返還を交換条件に、Aランクが多くいると言う自衛隊の協力を得るしかない。
アメリカに頭を下げるよりはマシだ。
俺が後悔の念にさいなまれていると、突然地下シェルターが揺れた。
「どうした! 何があった! まさか隕石を落とされたのか!」
「だ、大統領! 官邸に落とされたようです」
「クッ……その他の被害は! 至急情報を集めろ! 国民の被害もだ!」
やはり落としてきた……長き歴史ある建造物に。そんなもの知らないとばかりにアッサリと落としてきた。
俺は都市への被害状況をすぐ様調べさせた。どれ程の大きさの隕石なのか、もし基地を襲った規模であるなら……
しばらくして街中のカメラ及び軍や治安部隊、警察や消防などから情報が集まって来た。
「官邸のみか……資源省ビルを崩壊させた規模のものか……」
「ええ、やはり警告のようですね」
「報告します! ドラゴンは隕石を落とした後に北へ飛び去って行きました。現在追撃を行なっております」
「追撃はいい。引き返させろ。敵の目的は分かった。念の為進行方向の基地に警戒させろ。こちらから手を出さないようにも言え」
「ハッ!」
その後北へ飛び去って行ったドラゴンが突然姿を消したと報告が入り、俺は一先ず危機は去ったと胸を撫で下ろした。
そしてしばらくの後、破壊された官邸前の広場に、凍らされた人間が複数倒れているという報告が来た。それは突然現れたそうだ。それがなんなのか調べさせたところ、サトウの恋人の家族を襲撃させた我が国の精鋭達だと言うことが判明した。
「大統領……間違いありません。あの悪魔はサトウです。精鋭達の遺体にニホン語で書き置きが置かれておりました」
「そうか……内容は?」
「次また手を出したらこの国を滅ぼす。そう書かれていたようです」
「……ドラゴンが突然消えて、精鋭達の遺体が突然現れたそうだな」
「監視カメラで広場にフードを深くかぶった者が突然現れ、遺体を置いた後にその場から消えたのが確認されています」
「テレポーテーションまで魔法でできるのか?」
「そうとしか思えない現象ではあります」
「同志チェルノ……つまりサトウはまたいつでもここに来れるという訳だな」
「その可能性は否定できません」
「……負けだ。いつでも何処でもドラゴンを連れて現れ、隕石を落とす事ができる存在になど勝てるはずがない。守る国土と国民が多い程勝ち目は無い。今後はニホンに領土返還交渉で歩み寄り、秘密裏にそこからサトウに渡りを付け今回の件の謝罪と今後一切敵対しない旨を伝えろ。今後は民間人も国内のダンジョン攻略に参加させ、いつかサトウに対抗できる者を育てるしかない」
「現時点ではそれが最善かと。我々には異世界人がいます。身体能力の高い彼等に、家族を人質にしてダンジョン攻略をさせましょう。この屈辱をいつか晴らすその日まで今は耐え忍びましょう」
「そうだな。我がソヴェートはいつまでも負けたままではいない。いつか必ずサトウに対抗できる力を手に入れてみせる。中台連盟にいるドワーフをこちらに誘致するのもいい。あんな小国にいるよりは我が国に来た方がいいだろう。勧誘をさせよう」
俺は国土を一方的に蹂躙され、多くの同志を失ったこの悔しさと屈辱をいつか晴らそうとチェルノと話し合ったのだった。
我が国の異世界人が突如消えたと報告が来たのはその翌日の事だった。
ーー女神の島 塔南 大港 佐藤 光希ーー
「サトウさんじゃあな! 我々ドワーフはこの恩は忘れねえ。必ず恩返しをするからよ」
「サトウ……お、俺も必ず恩返しするから! ニホンの言葉覚えて必ずサトウの役に立つように働くから」
「…………わたしも」
「んだ、あの牢獄から救い出してもらった恩はわすれねえだ。鍛治の仕事ならオラにやらせてぐれ」
「ははは。まずは日本での生活に慣れてください。そして余裕ができた時にでも仕事をお願いしに行きますよ。ここは異世界です。まずは自分と家族の生活を最優先に考えてください」
「カカカ! いい男じゃないか。あたしが後40年若かったら惚れてたよ」
「婆さん40年前は猫人族で一番の美人だったしな!今は干し柿だけどよ!」
「五月蝿いよ! あんたもただのジジイじゃないさね!」
「うふふ。皆さん元気な方ばかりですね」
「ダーリンと新しく作る会社で働いてもらおうかしら」
「これだけの数の異世界人が日本に来てくれれば、日本の冒険者業界も賑わいますね」
俺と恋人達は、女神の島とゾヴェートで囚われていた異世界人達に日本から迎えの船が来たので見送りに来ている。
しばらく会う事は無いだろうが、鍛治の仕事は落ち着いたらちょこちょこ頼もうかと思っている。ミスリルと魔鉄はドワーフじゃないと打てないからね。ホビットにも上位素材の加工をお願いしようとも思っている。凛と夏海に渡した竜の革鎧の調整もホビット達なら難なくできるだろう。凛の言うように、何人かうちで雇ってもいいかもな。
俺と異世界人達でお互い一言二言投げ掛けた後に、ドワーフ達はじゃれ合いながらも船へと乗り込んで行った。
「佐藤様。お世話になりました。ニホンでの再会を楽しみにしています」
「リードリットはシルフィーナの所で働くんだったな。真面目で頑張り屋のシルフィーナを支えてやってくれ。大切な人なんだ」
「はい。佐藤様に大切な人と言われるなんて、シルフィーナは幸せ者ですね。昔からの夢が叶ったと言ったところでしょうか。羨ましい限りです」
「色々あったんだよ。リードリットも今まで同胞達をその細腕でよく守ったな、お疲れ様。これからは自分の事を第一に考えていいんだ。日本で困った事があれば俺に言え、必ず力になる」
「あ……佐藤様……ありがとうございます……の、乗り遅れてしましますからこれで失礼します」
リードリットはあのゾヴェート相手によく同胞達をまとめて頑張った。これからは自分の幸せを第一に考えて生きていって欲しいものだ。
俺の言葉に言葉を詰まらせ目に涙を浮かべたリードリットは、俺から顔を背けそそくさと船に向かって走って行った。エルフは本当に真面目で可愛らしい子が多いな。
俺は今回出会った異世界人達と港で別れた後に、恋人達と一旦横浜の家に帰る事にした。
早く塔を攻略したいが女神の島は未だ冒険者連合による掃討戦が続いており、そんな中で塔に入るなどできるはずが無い。異世界人達を助けた責任も船に乗せて果たしたし、ここの所連戦だったから少し羽を休める事にした。
ドラゴンとグリフォンの受け入れ準備もしないといけないしね。
俺と恋人達は5階に転移で戻ると、凛と夏海は外出中の荷物の整理や武具の手入れがあると部屋に行った。
俺と蘭は新堂さんに改めてサキュバス達の事を説明し、2階の清掃は全て彼女達にやらせるので仕事だけ教えておいて欲しいとお願いした。
新堂さんは突然家の中に外国人が大勢現れて驚いていたが、快く引き受けてくれた。
そう言えばシルフィにサキュバスを連れてきたと言った時は卒倒してたな。シルフィの部屋とは離れているからと言っても、勇者様が魔族を配下に……勇者って……とかブツブツ言ってて悪い事したなと反省したよ。もう気持ちは決まったしシルフィも5階の部屋に来てもらおうかな。
しかしそろそろ隠し通路だけで通すのは難しくなってきたな。新堂さんと警備責任者の宇佐美さんには、転移の話はしておいた方がいいかもしれない。二人は真面目に良くやってくれているし、人となりも問題無いから大丈夫だろう。
壁の入口も今はダンジョン調査の為に自衛隊が警備してくれているが、いずれはいなくなるしその為に警備員も増やさないとな。異世界人で仕事に就いていないのがいたら雇ってみるかな。
俺は蘭にサキュバス達の勉強を見るように言った後、建設会社にクオンを囲う塀の増築を発注した。それとは別にグリフォンの住まいもクオン達の近くに作る事も発注した。出来上がる迄はエメラは少し狭いがクオンと一緒にして、グリ子達は家の側で適当に放し飼いにしておく。その事も宇佐美さんに伝えに行った。
「ドラゴンが増えるのですか!? ぐ、グリフォンも二頭!?」
「中華大陸まあ旧中華国の事だけど、そこに行った時にペットにしました。クオン同様人を襲わないから大丈夫です。警備員の皆さんにも説明しておいてください」
「は、はあ……しかし佐藤さんはとんでもないですね」
「ドラゴンが二頭もいれば、宇佐美さんや他の警備員達のご家族が住む土地に魔獣が来ても安心ですよね」
「ははは。それは確かにそうですね。そう思うと頼もしい限りです。わかりました。しっかり皆には説明しておきます」
「宇佐美さんや警備員のご家族には、優先的にグリフォンやドラゴンの背に乗せてあげますから。よろしくお願いします」
「それはうちの子も皆も喜びます。楽しみになってきましたよ」
俺は喜ぶ宇佐美さんと雑談を交えながら留守中の事を聞いた。何度か家の周りで人影を見掛けたらしいが、そのどれも近づくと姿を消したそうだ。色々目立ったからね、各国の諜報員だろう。外に出ないように今は言っているサキュバス達に、次は捕まえさせてみるかな。
こうしてその日は色々な所との調整で1日を終えた。夜は恋人達と久しぶりに4階の大浴場に入り、大欲情した。寝るときは夏海の部屋に行き、イチャイチャしながら普通に愛し合い眠りについた。
やっぱり我が家が一番だよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。