第12話 死の特訓再び







「わはははは! 次は死霊の軍団だ! いでよ! スケルトン! あ〜んどスケルトンナイト! 」


俺はそう言ってゲートを発動し、ヴェール大陸北の山岳地帯に待機させていたスケルトン置き場から元Dランクのスケルトンと元Cランクのスケルトンナイトを1000体ずつ召喚した。


「げっ! マジかよ勇者様!? やっとゴーレム300体倒し終わったばかりだってのに! クッ……熊隊は盾でスケルトンを防ぎ時間稼ぎをしろ! その間にゴーレム戦で負傷した者は下げろ! 以蔵さんたちの世話になるな! 自力で俺たちで戦線を立て直すぞ! 」


「「「「「おうっ! 」」」」」


「ゼルム! 私たちも援護するわ! 」


「エフィル! ララノア! 人の心配してる場合じゃないぞ! エルフにはこれだ! いでよ! バンシー! 」


俺は隣で元Cランクのキングゴーレム50体を処理し終えたエルフたちに、精神攻撃メインの元Cランクのバンシー100体を追加で召喚した。



「バ、バンシー!? ああ……弱い精霊が萎縮している……皆! 気を強く持って! 精霊ではだめ!レイピアに魔力をこめて対処しなさい! 」


「エフィル! ランクの低い者たちが発狂しそうです! ここは私たちが! 」


「駄目よ! 私とララノアは指揮だけって勇者様に言われてるでしょ! 私たちからお願いしたご褒美の夜のデートを諦めるの!? 」


「くっ……みんな……ごめんなさい……どうか耐えて! 気を強く持って黒鉄のレイピアで戦って! 」


「エフィル! 拙者たちももうすぐこのミノタウロスを倒しきるでござる! トータス殿はどうか! 」


「こっちもアイアンゴーレムの群れをもう少しじゃ。しかし懐かしいのう……昔、勇者様と蘭殿が引き連れてきたオーガの群れを思い出すのう」


「しかりしかり! 拙者たちはトロールの群れでござった。あの時は死ぬかと思ったでござる。今回は手を出せなくて口惜しいでござるよ」


「なんだ? ダークエルフと竜人は元Bランクの魔物を相手にしてまだ余裕あんのか? ならコイツを追加だ。いでよ! リッチー! 」



俺はまだまだ余裕そうな小太郎とトータスたちがいる戦場に、元Aランクのリッチ10体を召喚した。


「と、殿! Aランクはやり過ぎでござるよ! 皆死ぬな! 回避! 回避ー! 」


「ゆ、勇者様! 我らの竜人が苦手とするリッチを10体も出すのは殺しに来てますな? これは訓練ではないですぞ! 」


「ぬるいことを言ってんな! 俺が創造した魔物はワンランク弱くなる! それに創造した魔物にも生きる権利はある! 死ぬ気で戦え! ちなみに死神の鎌で魂を傷つけられたら蘇生は難しくなるかもしれん。期待するなよ? 」


「ダ、ダークエルフエルフを滅ぼす気でござるか!? しかもなぜ男の方ばかり!? 」


「こっちもじゃ! 女の竜人の前を普通に通り過ぎおったぞ!? 」


「女を守るのが男だろ! 身体を張って守れ! ほら『エリアヒール』 どんどん行け! 」


俺はそう言って戦場全体に回復魔法を放ちつつも、リッチたちに本気を出すように指示をした。



ここは魔王城から北東に行った山岳地帯の盆地。

今日はこの世界の獣人とダークエルフ、そして竜人の戦闘訓練の初日だ。


ここ1週間で俺が丹精を込めて創造した、1万3千体の魔物たちの大放出の日でもある。


訓練の内容としては、盆地の真ん中に各種族ごとに陣を構えさせ、四方から俺がゲートで創造した魔物たちを出現させ戦わせている。

その周囲をリムたちサキュバスが空から見張り、恋人たちも飛翔のネックレスを使って空から見守っている。

地上では以蔵率いるベテランダークエルフ80名が、負傷者の救出や援護を行なうという方舟の時と同じ方式だ。


ドーラは上空で滞空していて、その背には魔導テントが張ってあり、恋人たちやリムたちの休憩場所となっている。トイレや食事とかだな。


盆地の中央にも魔導テントを各種族ごとに用意したので、24時間戦っても大丈夫だ。

魔物にも押し切られたら使えなくなるがな。


一応創造した魔物は死霊やゴーレムなどの魔法生物と、知能の低い魔物がメインだ。魔族がいる手前その辺は気を使っている。


まだ始まって6時間程度なので、これからどんどん魔物のランクを上げてギリギリの戦いを経験してもらおうと思う。

これに比べれば人族との戦いなんて遊戯みたいなもんと思えるようにな。


「ゼルム遅いぞ! 罰として追加で元Bランクのデスナイトを30体だ! ほらほら! 早くしないと元Aランクのデュラハン呼ぶぞ! 急げ急げ! 」


「じょ、冗談じゃねえ! 狼人と猫人部隊はスケルトンナイトの処理を急げ! 虎人部隊! デスナイトに突撃しろ! 」


「ゆ、勇者様! まだバンシーが!? 」


「エフィル、無駄ですよ。勇者様楽しそうですもの。早く倒しましょう。私たちは手を出せなくて辛いですが、皆には頑張ってもらいましょう」


「鬼でござる鬼でござる! 昔よりエグいでござるよ! 」


「ぐぬぬぬ……拙者らが加勢できれば……おお……また一人リッチの魔法で倒された……悔しいのぅ」


「これ! 竜化をするな! 怒られるぞ! ほれ! 上を見てみよ! セルシア殿が見てるぞ! また半殺しにされるぞ! 」


「獣人たちよ! お前らには黒鉄の武器や高ランクの革鎧を渡した! 今までの装備の遥か上の装備だ! 十分戦える! 一番戦果をあげた者には魔法が付与された装備をやるぞ! 剣から風刃を出してみたくはないか!? 欲しいなら戦え! 次の獣王はお前だ! 」


「「「「「うおおおおお! 」」」」」


俺は一番数の多い獣人たちを鼓舞し、エルフたちにはそれとなく魔力が即回復するポーションをチラつかせた。この世界の魔力の自然回復は地球の1.5倍時間が掛かるからな。魔力を使うエルフからしたら、喉から手が出るほど欲しいポーションだろう。


そしてダークエルフには黒鉄の手裏剣とクナイをチラつかせ、巻物風にした各属性のスクロールを使って見せた。

以蔵たちも食い付いたのは予想外だったが、小太郎たちダークエルフは目の色が変わって戦っていたな。


竜人たちには探知の魔法を付与してやると言った。あいつらには武器よりも、戦いに役に立つ魔法の方が嬉しいのはセルシアが証明済みだ。

竜魔法という強力な種族魔法の代償として、滅多に魔法適正者が出ない竜人たちは大発奮してたな。


「さあ次はボス戦だ! 全員であたれ! いでよ元Aランクスフィンクス5体! あ〜んどサイプロクスも5体! おまけに撹乱要員にドッペルゲンガー300体! ゴーー! 」


「「「「「ぎゃーーー! 」」」」」


「小太郎が3人!? うざいでござるうざいでござる! 」


「なにを言うか!? 孫六が3人の方がうざいでござるよ! ほれ! 孫六が殺されたぞ! 」


「なっ!? 権兵衛! 今まったく躊躇わなかったでござるな!? お主が日頃から拙者をどう思っているかわかったでござるぞ! 」


「なぜ偽物が竜化できるのじゃ! 惑わされるな! それはドッペルゲンガーじゃ! サイプロクスに集中せい! 」


「みんな惑わされないで! とにかくスフィンクスに集中して! えっ!? ララノアがなんで戦場にいるのよ! 戻って! 」


「エフィル! 私はずっとここにいますよ! 惑わされてますよ! 」


「ええ!? 」



う〜ん、いい感じに混乱しているな。


さあ! じゃんじゃんいってみよー!



それから二日間、休憩など与えず俺はところどころでボスクラスを出して皆を鍛えた。

後半はスクロールを持たせたこの世界のドワーフとホビットも参加させ、魔力値の底上げを行なった。


その結果、方舟の時と同じようにドワーフとホビットはCランクに、その他の全種族をBランクに底上げすることができた。


頑張って創造した甲斐があったよ。


そして全てが終わった戦場ではいつもの見慣れた光景が広がっていた。


《 しくしくしく……腕が生えてくるの……なくなった腕が突然…… 》


《 ん? 飯か? 俺は胃が無くなったから遠慮するよ。消化できねえからな……え? あるって? なに言ってんだよ、俺は確かに胃が腹から出るのを見たんだからあるわけねえだろ。ガハハハ……ハハ……」


《 拙者は夢を見たでござる。女房の夜華にクナイで首を刺された夢を…… 》


《 お前様なにを言っているのです。あれはドッペルゲンガーですよ。私じゃありません 》


《 お、俺たち竜人族は全滅したのに……最後の岩竜に踏み潰されたはずなのに…… 》


《 竜人族ばんざーい! アヒャヒャヒャ! ゆうしゃさまばんざーい! イヒャヒャヒャヒャ! 》



「ゆ、勇者様……エルフの皆が心に傷を負ったようでして……」


「勇者様、俺たちなんで生きてんだ? なあ、俺はさっき砂漠の魔物のセルトに引き千切られたはずだったんだが……」


「殿! エグいでぞざるよエグいでござるよ! 皆が戦意喪失しているでござるよ! 」


「ぐぬぬ……我ら竜人族までもが錯乱し膝をついているとは情けない……」


「なんだ? こんなので心折れてんのか? お前らのどんなことでもするってのはその程度の気持ちだったのか? 散っていった仲間の仇はいいのか? だったら後を追わせてやるぞ? あの世で仲間に謝ってこいよ。 あと1分以内に整列しなければSランクのバジリスク5体で石化させてやる! 60.59.58……」


俺がカウントダウンを始めるとそれまで膝をつき泣いていた者や、虚空を見つめていた者が一斉に立ち上がり各種族ごとに整列をした。


まだ余裕ありそうだな。

まあこの辺にしておくか。


「じゅ、獣人部隊整列完了! 」


「エ、エルフ隊整列完了しました! 」


「ま、真宵の森忍軍欠員なしでござる! 」


「りゅ、竜人部隊は戦意で溢れてますぞ! 」


「よしっ! 各種族の指揮官クラスは集まれ! 」


「「「はっ! 」」」


俺はエフィルにララノア、ダークエルフの3ござるたちとトータスにゼルムを呼びつけた。


「この二日間ロクに休まずによく指揮をした。お前たちにも力をやろう。『時戻し』 」


「え? 」


「ゆ、勇者様? 」


「こ、これはあの時の! 」


俺は予定通りゼルムは20年ほど、それ以外は300年ほど若返らせた。


「ゆ、勇者様私たちまでなぜ……」


「成長の過程を見れなかったからな。兄がわりとして、男としてもう一度しっかりエフィルとララノアの成長の過程を見ておきたいんだ。まあ20歳くらいの見た目からだけどな」


俺はロリコンじゃないからな。

それにしてもエフィルはあの日別れた時にチラッと見た時も思ったが、シルフィより凛としていて夜にどんな風に表情が変わるのか妄想しちゃう顔付きだよな。


ララノアもキリッとした優等生のような顔だったが、若返って少し隙ができた感じがする。肌の張りも胸の張りもまた一段と良くなっているな。

この2人はこの年齢で固定したいな。


「は、はい……勇者様に見て欲しい……です」


「ああ……夜の二つの月の光が照らす砂丘で勇者様に私の全てを見て欲しい……」


「ぬおおおおお! ま、孫六! わ、若返っておるぞ! 」


「小太郎もでござる! 昔の生意気な顔に戻っているでござるよ! 」


「おお……ち、力が……湧き上がってくる……精霊のネルも喜んでおるぞ! 」


「か、身体が……これは全盛期の……この身体なら昔のように竜化も思いのままに」


「お、俺の身体が全盛期の時の……」


「ゼルムは獣王としてなるべく長く統治をしろ。他の者はこれからコキ使うから前払いだ。それぞれ女房をあとで連れてこい。同じ歳にしてやる。トータスに小太郎たちは魔王軍と戦った時のような働きを期待してる。それじゃあ各部隊をまとめて解散しろ! 武具の手入れを忘れるなよ」


「「はい! 勇者様! 」」


「あ、ありがてえ勇者様! 俺はやるぜ! 獣人の王国をまた作ってみせる! 」


「クククク……殿は我ら真宵の森の三傑の力を御所望でござるか……」


「フフフ……そのようでござるなぁ」


「フッ……ならば我らの働きをとくとご覧いただこうではござらぬか」


「力が……力が湧いてくるぞ!竜人族最強のワシの力を再び見せる時が来たのじゃ! 」


うぜえ……小太郎たちが超絶イケメンなのがさらにムカつく……


トータスはせっかく丸くなったのにまた昔みたいに脳筋になりそうだな。

暴走しないようセルシアに叩き潰すように言っておくか。


いや、それでトータスがセルシアを気に入ったらやだな……俺が潰すか、昔みたいに四肢を斬ってダルマにして一晩放置しておけばいいだろう。うん、そうしよう。


俺は予定していてたとはいえ、ダークエルフのなんちゃって忍者と脳筋竜人のトータスを若返らせたことを少し後悔するのだった。




そして翌日からはリムの指揮している魔族の訓練に参加をし、余ったボスクラスの魔物を特別放出して心地良い悲鳴を聞いて過ごした。


魔族のランクは上げるつもりはなかったんだけどな。リムが実戦をとお願いしてきたから仕方なくだ。

そのあとはこの世界のサキュバスとインキュバスを水竜のシーの背に交代で乗せ、海の魔物を狩りに行かせた。

コイツらは俺たちの世界に付いてくるそうだからな。リムとミラとユリが鍛えたいというから水竜を貸し出したんだ。

最低でもBランクになってもらわないと使いにくいからな。


とにかく軍の戦闘力の底上げは成功した。

これでもうあの魔銃から出る魔力の塊はレジストできる。


調子に乗った人族よ震えて眠れ。


お前たちが長年虐げた者たちの逆襲の始まりだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る