第13話 知らせ
《先日のコウキ神降臨を欧米では、主が復活祭のクリスマスに合わせて現世に遣わしたという説が信じられています。それにより各国にある教会に、コウキ神像を設置するという動きがあるようです。一方バチカンでもこの説に肯定的であり、法王がなんとしても再降臨をしていただくと意気込んでいるそうです》
《今回は教会やその関係者の元へは降臨されず、一般市民のもとへ降臨されましたからね……》
《はい。各財界や政界の方々がこぞって女神の島の視察を予定しているそうです》
《最近見かけるようになりました女神の島の天使と関係があるのでしょうか? 》
《はい。竜と天使と神の名を聞いて思うところがあるのだと思います》
《ふふふ、そうですね。直接行かないのは機嫌を損ねるのが怖いからでしょうか? 》
《はい。これ以上は当番組も危ないのでこの辺で……》
「あっははは! バレバレね! 幻術でせっかく姿を変えたのにね。竜と天使とダーリンの名前が揃ってバレないわけないわよね〜」
「やっぱ駄目だったか……まあいい、どうせここに来る度胸のある権力者はいないさ。凛にシルフィ、会社とギルドが営業再開したら電話が大量に来るだろう。一度否定してまだ言うようなら、取引もギルドの依頼も二度としないと言っておいてくれ」
「ピチピチュの実の時で懲りてるだろうから電話なんて来ないわよ。民間人は押し寄せてくるでしょうけどね」
「それもそうか。民間人は門の入口に像を建てて、欲深き者は神の加護は与えられないとでも書いておけばいいさ」
年が明け四日目の朝。
俺は婚約者たちと朝食を食べたあと、リビングでテレビを見ながらのんびりしていた。
ギルドもアミューズメント施設も休みにしてるから、みんな家族と共に過ごしてるところだろう。以蔵一家は日光に旅行に行ってるらしい。というか忍者村観光だな。そのまま見世物にならなきゃいいけど。
このあとリムたちも来るし、みんなでお風呂に入ったりして一家団らんをするつもりだ。
初詣は元旦に姿を変えて全員で済ませたしな。
昨年は年末まで布教で忙しくしていたから、正月くらいはゆっくりしたい。
まあそのおかげで昨日めでたく? 現人神になることに成功した。神力も3倍ほどになり、今までの比でなはないほどの速度で日々増え続けているのを感じている。
やっぱ人口差は凄えわ。方舟世界を周り終えた時点で既に神力が倍になってたからな。時間さえあれば、こっちの世界を周らなくても目標達成してたかもしれない。
それは今言っても仕方ないんだけどな。時間が無かったし。
でもこっちの世界での布教ではかなり入念に蘭の幻術で姿を変えたにもかかわらず、ネットでもテレビでも俺が関与しているのではないかとまことしやかに囁かれている。
俺も竜とコウキという名前と女神の島で目撃情報が出ていた天使のセットは、さすがにヒントが多すぎだろうとは思っていた。
それでも俺はとぼけ続けるつもりだ。
決定的な証拠がない時はとぼけ続けてればなんとかなるもんだ。
「それはいいかもね。欲深い人は神様からそっぽを向かれるというのは納得いくもの」
「あとは信仰心を煽って金儲けしようとする奴らに、定期的に『天罰』を与えていけば健全な信仰になるはずだ」
「昨日増えてた魔法ね。どんなものだったの? 試したんでしょ? 」
「そういえば私も気になってました。昨夜試すためにどこかに行ってましたよね? 」
「ああ、中華大陸でちょっと試してきた。雷を自在に操れる感じだな。まあなかなか使い勝手が良かったかなな」
そう、昨日現人神になった時に使える魔法が増えていた。『天罰Ⅰ』というものなんだが、これは雷を自在に操ることができるというものだった。ちょっと威力が強すぎるから、ダンジョンではかなり抑えないと使えないけどな。まあなかなか使い勝手の良いものだったよ。
「雷を自在にですか。まさに神の力って感じですね」
「でもさぁ? 確かに旦那さまのオーラみたいなのは強くなった気がするけど、あんまり変わんないよな? 天使たちは平伏してたけどさ」
「半神を見慣れてたからじゃない? 後光でも差しだしたらどうしようかと思ったけど、見た目が変わらなくてよかったわ」
「ぷっ! シルフィ、布教中に聖剣を使ってセルフ後光をやってたの思い出したじゃない。あれは後ろから見ていて笑いを堪えるのが大変だったわ」
「ふふふ、確かに眩しかったわよね」
「演出だよ演出。まあこれでシーヴの召喚に対抗できる。現人神になったのは不本意だけど、何かが変わったわけじゃないしな」
それでも俺を無理やり魔王にして操ろうとした、シーヴの野郎だけはマジで許さねえ。上級神だろうがなんだろうがいつか必ず滅ぼしてやる。
「ほんと破壊神とかあり得ないわよね。ダーリンを隷属させて無理やり魔王にしようなんて許せないわ」
「いつか必ずこの落とし前はつけさせるさ。とりあえず今は目先の脅威は無くなったからな。これで心置きなく皆と家庭を持てるよ」
「はい! 蘭は春から主様の奥さんになります! 」
蘭は俺の左隣りの定位置で手を上げてそう言い、俺の腕へとしがみつきながら手をあげてそう言った。
俺がプロポーズしてからというもの、蘭はホビットのとこにウェディングドレスのデザインを頻繁に相談しにいったりしている。そういうのを見ると俺も幸せな気持ちになる。
「ふふふ、私は秋ね。この世界だと佐藤シルフィーナになるのかしら? 」
シルフィは夜の回数が増えた。ベッドで赤ちゃんが欲しいと頻繁に言うようになったな。
「わ、私も一年後に佐藤 夏海に……」
夏海の部屋は既に妊婦になった時の心構えや、子育て本でいっぱいだ。パソコンの中身も推して知るべしって感じだ。今からこれだと1年後にはどうなってるのか想像がつかない。もう一部屋必要かも。
「あーあ、私も一年半後には佐藤 凛になってすぐに妊娠しちゃうんだろうなぁ。残り少ない独身時代を今のうちから楽しんでおかなきゃ」
凛がソファーの向かいでやれやれって感じで言っているが、口もとはニヤけてる。こんなこと言ってる凛だけど、ベッドで先に子供作っちゃう? とかよく聞いてくる。自分より夏海との式を先に挙げさせようとしたのに、子供は早く欲しいみたいだ。
「あたしは避妊薬飲んでないからな! 先にできちゃうかもしれないけどな! えへへへ」
セルシアは毎日機嫌が良い。トータスたちも娘を見るようにセルシアを見ているようだ。
ただ、子供ができ難い蘭やシルフィにセルシアとは、ずっと避妊薬無しでしてるけど全然できない。まあどう頑張っても凛と夏海が先になると思う。それだって神とハイヒューマンだからできにくいと思う。まあそれでもいつかはできるだろうと楽観視してるけどな。
それにしても俺が父親か……俺の子供が召喚とかされないだろうな? 今の内から釘を刺しておかないとな。
リアラとアマテラス様以外の神に突然子供が召喚されたとかなったら、その世界に行って人族を滅ぼしてやりたくなるかも。勇者召喚したら魔神付きでしたとかなら召喚しようとは思わないだろう。うん、そうしよう。
でもその子供である俺が突然いなくなったんだもんな。お袋どうしてるかな。俺がいなくなって4年くらいか? 弟の悦司も19になったところかな。ちゃんとお袋を支えてるとは思うんだけど心配だ。
三が日が過ぎてもアマテラス様から連絡が無いって事は、今年も特定できなかったとかかな?
もしかしてお袋が病気になったとか? それで参拝に来れないという可能性もある。方舟世界のお袋も末期癌だったしな。心配だ……
《コウキ神よ……聞こえますか? 》
「あ、アマテラス様!? はい、聞こえます」
俺がお袋と弟のことを考えていると、アマテラス様が呼ぶ声が聞こえてきた。
俺はまさかと思いつつもそれに応答した。
《
「お袋が!? あ……ああ……ありがとうございます……ありがとう……ございます」
俺はお袋を見つけられたこと、お袋に俺が無事であることを知らせることができたことに胸がいっぱいになり目頭が熱くなっていくのを感じていた。
「主様……」
「ダーリン……」
「お袋が見つかった……俺の生まれた世界が……見つかったよ」
俺は話の内容を察して集まり俺を抱きしめる婚約者たちに、目に涙を浮かべながらそう伝えた。
「ああ……主様……主様……」
「コウのお母様が……よかった……本当に……」
「ぐすっ……ダーリン……よかった」
「光希……やっと……やっと……」
「旦那さま……」
「結婚前にみんなに本当のお袋と弟を紹介できそうだ」
俺は泣きながら喜んでくれる婚約者たちの涙を拭いながらそう言った。
《私も肩の荷が降りた気分です。神宮は年明けということもあり人が多いので、夜がいいでしょう。今夜行きますか? 》
「はい。今夜にでも行きます。22時に伊勢神宮へお伺いします」
《わかりました。それでは待っています》
アマテラス様はそう言って気配を消していった。
「今夜結婚の報告にみんなで行こう。方舟世界で会ってるから初対面じゃないけど、俺のいた世界のお袋はみんなのことを知らないからな。ああ、でもお袋の中身は一緒だ。魔法を覚えさせるなよ? 」
俺は抱きついたままの婚約者たちの手を握り、みんなで俺の生まれた世界に行こうと笑いながら誘った。
「あはっ、陽子さん方舟フィールドで戦ってたものね。仲良くなれる自信があるわ。あ〜何を着ていこうかしら? 迷うわ〜」
凛はお袋に魔法を教えてたからな。要注意だな。
「うふふ、お義母様とまた会えるのは楽しみです。蘭はまた一緒に海で遊びたいです 」
蘭は若返ったお袋と、方舟フィールドの海で遊んだのを思い出しているようだ。
「コウのことだからまた若返りさせそうよね。ふふっ、私も何を着ていこうか迷うわ。あ、でもダンジョンも無くてエルフもいない平和な世界だったわね。ランちゃんに幻術掛けてもらえばいいわね」
まあいつ創造神に目を付けられるかわからない世界だけどな。今のところは平和らしい。火星とか行ってないだろうな?
「あたしも角を隠さなきゃだな! 服は白のワンピースでいいかな? 清純にみえるよな? 」
セルシアは昔はデニムにTシャツオンリーだったが、蘭の影響でクローゼットが溢れるくらい服が増えた。靴もコレクションが凄くて、それらは割と清純系のデザインが多い。喋ったら全てが台無しになるけどな。そんなギャップもまたいいんだよな。
「二度目とはいえ緊張しますね。確か一夫一妻制の世界でしたよね? 反対されたらどうしたら……」
「そんなことあるはずないだろ? 俺たちの家はここだ。文句言われたらこの世界に連れてきてこの世界の常識を教えてやればいいんだよ。まあでも反対はないよ。たぶん大笑いしながら認めてくれるよ。俺は相当いじられるけどな」
俺は夏海がネガティブ思考になっていくのを手を握って止め、反対されることはないと言い聞かせた。
まあよくこれだけの子を落としたわねと、感心されるんじゃないかな? 相当からかわれるだろうけどな。悦司はどうだろう? アイツは真面目だけどムッツリだからな。兄さん羨ましいって思うくらいかな? あ、でも悦司はファンタジー物の小説やアニメ好きだったな。こっちに来たいとか言うかも。
「あはは! 陽子さんなら笑いそうね。こんな美女たちを射止めたダーリンにでかしたって! だから大丈夫よお姉ちゃん。いざとなったら駆け落ちよ! ここに戻ってくるだけだけどね」
「ふふふ、凛ちゃんたらそうね。陽子さんならそう言いそうよね。それなら準備しないと、何を着ていこうかしら……」
「まあまだ時間はあるよ。リムたちももうすぐ来るし、ゆっくりしよう」
俺は皆にそう言いながらも、お袋や悦司がこの世界に来た時用の部屋を確保しなきゃなと考えていたのだった。
今夜やっと……俺は20年近く振りにあの世界に戻れる。そしてお袋と弟に会える。
やっと……やっと……
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