第37話 誤算







北京にある方舟の特別エリアに繋がっている門の周囲を破壊し尽くした俺たちは、そのまま日本海に出るついでに半島にある南朝鮮国の港を破壊し、首都ソウルにある門の周囲と無人だったが大統領府にメテオを落として回った。門の周りですら無人だったからな、さすが南朝鮮だ逃げる時は全力だな。


そしてその後は北上し、日本海に面しているロシアのウラジオストクの港を襲撃した。ここはすぐ近くに資源フィールドに繋がっている門があるせいか多くの兵が俺たちを待ち構えており、凄まじい対空砲火の挨拶を受けた。さすがに中華国のように逃げるわけではないからか、そこには肉壁となる東南アジア系の兵はいなかった。俺たちは何の憂いもなくそこにメテオを落としたのだった。


ウラジオストクを広範囲で破壊し尽くした後は西へ6時間ほどクオンを全力で飛ばし、懐かしのモスクワへと向かった。モスクワでは俺たちの世界ほどの航空機の出迎えはなく、数機の戦闘機が来ただけだった。

俺たちは戦闘機をガン無視してモスクワ上空にたどり着き、宮殿前の広場にある方舟特別エリアの繋がっているであろう門を守る万単位の兵の真ん中にクオンを着地させ、ブレスを乱射させた。


クオンがブレスを吐いている最中は俺も恋人たちも全力で魔法攻撃を行い、数十分後には門の周りで動いているものは誰一人いなかった。凛と夏海はさすがに大量殺戮を前にして顔色が悪くなっていた。

二人には虐殺に等しいことになるからテントに入っているように言ったんだけど、自分たちもやると言って聞かなかったんだよな。俺と蘭とシルフィにセルシアが平然としているから、自分たちだってと思ったのかもしれない。本当はこんな殺伐とした生活じゃなくて、平和にいちゃいちゃしていたいだけなのに二人には申し訳ないよ。


こうしてひと通りの報復を済ませた俺たちはゲートで拠点へと戻ったのだった。


拠点に戻ってからは留守番をしていたマリーとダークエルフの居残り組を労い、ダークエルフたちには以蔵たちと同じように探知の魔法を刻印してフィリピンへゲートを開きリムの手伝いに行かせた。

それからみんなでお風呂に入る事にしたんだが、もう当たり前のように一緒に風呂に入るようになったセルシアはともかく、なぜかリムとベリーまでもが素っ裸で風呂に入ってきてびっくりしたよ。


お背中を流すのもメイドの務めですのでとか真顔で言われてもな……俺はせっかくの好意なので本当に背中だけ流してもらいそのあとは風呂から出てもらった。胸は無いし色々とツルペタだったけど、肌は凄く綺麗でその身体を俺の背中に擦り付けるのはなかなか気持ち良かった。いや、さすがに半生体とはいえオートマタに興奮したら駄目だろ。

ちなみにセルシアには手を出してないけど、なし崩し的に口と胸を使って恋人たちと一緒に俺の大事なところを重点的にマッサージをしてくれるようになってしまった。今は蘭の指導のもと特に口を使った奉仕の練習に余念がない。マッサージの後に口を使って後始末するところまで教えていた。これが蘭の目的だったのか……でも俺が恋人たちにお返しのマッサージをしている姿を顔を真っ赤にしてみているセルシアは可愛いし、それを見て俺も興奮しているのも事実だからなんだかんだで受け入れてる。夏海なんて特に見られて興奮してたしな。


そんなこんなでスッキリサッパリした後に、その日は色々あって少し暗い凛と夏海と一緒に寝たのだった。






「おはようございますマスター。真田大臣よりお電話が入っております」


「ん……おはようマリー……電話か……今行くよ」


俺はまだ寝ている恋人たちをベッドに残しテントを出て、衛星電話を受け取った。


「お待たせしました佐藤です」


《 佐藤さん、まだお休みでしたか申し訳ありません。昨日は迎撃に参加していただきありがとうございます。おかげさまで軽微な被害で済みました。まさか本当に壊滅させてしまうとは……あまりの大戦果に政府も軍も歓喜しております》


「それでも俺たちが到着するまでに駆逐艦が沈められたそうで……急いだつもりだったんですが残念です」


《 数が数でしたのでやむを得ません。それでも駆逐艦一隻で中露の大艦隊はおろか航空機まで壊滅させることができたのは大戦果には違いありません。中露もしばらくは再侵攻はできないでしょう》


「あと数十年は無理じゃないですかね? 門がある都市の港と首都を破壊してきましたから」


あそこまで徹底的に破壊した港を修復できるのかね? 別の港を作った方が早いんじゃないかな。


《 え? 今なんと? 》


「あれ? 軍から聞いてないんですか? 中華艦隊を壊滅させたあとに中華国に向かったんですけど……軍から中華とロシアと南朝鮮の門が近くにある港と、首都の特別エリアに繋がっていると思われる門の位置を聞いていたので中露艦隊を壊滅させた翌朝に警告も兼ねて破壊してきました」


曇り空だったから衛星で確認できなかったのかな? ロシアの方は晴れてたんだけどな。


《 なっ!? …………軍からは第三連隊が疲労で倒れたとしか……で、ですがたった一日でそれを? 》


「元いた世界でも似たようなことしていたので」


《 元いた世界でもですか……急ぎ衛星で確認させます。こちらから連絡しておいて申し訳ありませんがこれで……》


「ああそうだ、真田大臣。中露が和平だの話し合いだの言ってきても無視してください。特に中華は滅ぼすつもりでいま仕込みをしていますので。それと保護されているオーストラリア人の居場所を特定しておいてください」


《 ええ、あの国と和平や約束などしても無意味ですからずっと戦争状態でいるつもりでしたが……中華を滅ぼすために仕込みですか? それに保護したオーストラリア人? ……ハッ! まさか!? 》


「いま3000人ほど鍛えてるところです。一ヶ月もしたらあの国無くなってると思いますよ」


《 な……なんという……3000人ものオーストラリア人を第1師団のように鍛えたら……滅びますね……なにより復讐に燃え士気が高く、命を惜しまないのが恐ろしい……》


「成り行きで手助けする事になってしまいましたが、中華国は今までの報いを受ける事になるでしょうね。オーストラリア人は日本に敵対はしないはずですので、そのつもりで準備しておいてください」


もともと戦争とかから距離を置いていた民族だ。第三次大戦時もどこの国とも組まず争わなかったらしい。率先して他国のフィールドに侵攻しようとはしないだろう。人口も少ないしね。


《 とんでもない事になりますね……世界のパワーバランスが崩れます。いや、佐藤さんが現れた時から既に崩れてましたね。急ぎ総理と担当部署と会議を行い今後の対応を話し合います》


「ははは、日本が世界最強の国になるのは間違い無いですよ。第1方舟攻略師団にはゴーサインを出してください。日本のデビュー戦を華々しく飾るように各連隊長に伝えておいてください。あと、初戦のノルマは10フィールド攻略だとも伝えてくださいね。できなければ再訓練だとも」


《わ、わかりました。死に物狂いでやるでしょうね……それでは私はこれで。佐藤さん本当にありがとうございました。貴方のおかげで日本は救われました 》


「まだこれからですよ」


俺はそう言って電話を切った。

中露の侵攻は止めたから日本は今後なんの憂いもなく方舟攻略に集中できる。師団を育てるのは大変だったけど、今後は師団のみでフィールドを攻略する事になるから結果的に俺たちは楽ができるな。攻略に詰まったところで助っ人に入るくらいでいいだろう。オージーたちはリムが鍛えてるし四日はゆっくりできそうだ。久々に沖縄でもみんなで行こうかな。










ーー アメリカ合衆国 ワシントンD.C. ホワイトハウス 会議室 ミッキー・ローランド ーー







「それで国防総省からの緊急の報告とはなんだ? 」


「はい大統領。日本海を監視していた潜水艦部隊より先ほど連絡があり、日本時間の午前11時に中華国とロシアの艦隊が数隻を残し壊滅したと報告がありました」


「なっ!? 馬鹿な! 日本の15隻程度の艦隊であのロシア艦隊と旧式とはいえ50隻はある中華の艦隊をか!? そのほか数百隻にも及ぶ上陸用の船もいたのだぞ! 数時間でその全てを壊滅させるなど不可能だ! 」


何を言っているのだこの長官は! 中露が動いたというのを聞いてニホンからの援軍要請を待っていればその中露艦隊が壊滅しただと? 今のニホンの保有する燃料と武器弾薬では、たとえ旧式でもあの数の中華艦隊を退けることなど不可能だ。ニホンにずっと駐留していた我々がそれを一番よく知っている。

それを壊滅させた? 耳を疑っているのは俺だけじゃない、ここに集まった各行政長官たちも信じられないといった顔をしている。


「そ、そうだ! なにかの間違いなんじゃないのか? 中露が動いたというのは誤報で、実はまだ侵攻していないだけなのでは? 」


「ニホンの戦闘機でまともに飛べるのは数機だろう? 弾薬だって少ない。とても二方向から侵攻してくる中露艦隊を撃退できるとは思えない」


「国防長官、本当に中露艦隊は壊滅したのかね? 既にニホンに上陸しているのではないのかね? 」


「皆さんが疑うのも無理はありません。私も信じられませんでした。しかしこれは現実です。中露艦隊はドラゴンとグリフォンを操る者たちにより壊滅いたしました」


「ドラゴンにグリフォンだと!? 」


ま……まさか……あのオオシマのドラゴンがニホンに味方した? それにグリフォンだと? オオシマの勢力とフィリピンの勢力は同じ勢力だったということなのか?


「ど、ドラゴンが艦隊を沈めたのですか? 」


「ドラゴンとはあのオオシマにいるあのドラゴンのことかね? 」


「はい。監視部隊の者が見たドラゴンはレッドドラゴン。あのオオシマにいるドラゴンです」


「ニホンめ! 我々を騙したな! なにが追い返されただ! 情報省! ニホン政府とオオシマの者たちは接触していないと言っていたな! どういう事だ! 」


「は、はい……監視は24時間体制でしております。ですがドラゴンが島を離れたことも、島から人が出た形跡もありませんでした。グリフォンもフィリピンから飛び立ったという形跡もなく……お、恐らくは連合軍とともに撤退をさせられた連絡員がいない隙に、なんらかの手段を持って和解ないし協力関係を築いたと思われます」


「sit! 連合軍の撤退をゆっくりやらせるべきだったか? いや、それなら中露は攻めなかっただろう。しかしまさかこんなに早く和解するとは……まずい……非常にまずいぞ……ニホンを助け国民を納得させるつもりだったのがこのままでは選挙が……」


ニホンが連合から脱退したことで、どこのメディアも信義を知らない大統領だの100年近く同盟を組んでいた盟友のニホンを連合から追い出しただのと報道し支持率は30%台まで落ち込んだ。デモの人数も一気に増えた。この中露の侵攻がチャンスだったのだ、それがドラゴンに壊滅させられるとは……


「大統領、それだけではありません。衛星からの情報では中華国の主要な港と南朝鮮国の港、それにロシアのウラジオストク港が完全に破壊されております。これもドラゴンの仕業かと思います」


「港までもか!? ……これで再侵攻の可能性は無くなったな」


クソッ! どいつもこいつもうつむきやがって! その伏せた顔の下は笑っているのだろう。もう終わりと見たか? 確かにこれからたとえ力づくでニホンを従える選択をしたとしても、神の使いを相手にして我々に勝ち目はない。ミサイルも何も効かないのだ、我が軍も何もできず壊滅させられるだろう。


「わかった。情報省は引き続きドラゴンとグリフォンを操る勢力の監視と接触を試みてくれ。国防総省は中露の残存戦力を調べるように。今日の会議はここまでとする」


私は会議を打ち切り執務室へと戻り次の手を考えていた。

なんとか起死回生の手を見つけなければ……選挙まではあと3カ月と少し……戦前であれば4年任期だったのが今は3年任期なのが痛いな……なにか大きな成果が必要だ。ちょうど10月に攻略済みフィールドの期限が来るが、これを攻略しただけではニホンを追い詰めた分の支持率は取り返せまい。


仕方ない、本来なら中露に攻められニホンが援軍要請をしなかった時のための保険だったが使うしか無いな。

私はドアの前に立つ補佐官に目を向けた。


「ジャン! チバに潜伏している者に作戦の発動を伝えろ。グアムに待機させている輸送機のパイロットにもだ」


「そうですね。それしか方法はありませんね。ドラゴンがあちらにいる以上、慎重に作戦を遂行させなければなりません。チャンスを伺うのに時間が掛かることはご承知ください。それと万が一我々がやったと発覚してしまえば……」


「わかっている。どうせこのままでは次の選挙で負けるのは確実だ。ここは賭けに出るしかない。時間は多少掛かってもいいが失敗の無いようにしろ」


「承知致しました」


我々の犯行だと知られる訳にはいかない。大丈夫だ、潜伏させている者は選りすぐりのエリートたちだ。全員Bランクで魔法も使える者もいる。失敗するはずが無い。

クソッ! まさかここまで追い込まれるとは……黄色い猿どもに異教の神の使いめ。


我らが神よ、どうか我々にも強大な力を持つ者をお与えください。それが叶わないのならせめてこの作戦を成功させるためにお力をお貸しください。





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