第38話 海水浴







「行くぞーーーー! 『小津波』 」


「ドグ! 来たぞ! ビッグウェーブだ! 」


「ゾルさん! 俺はこの波を乗り越えてみせる! 」


「よしっ! 乗ったぞ! こりゃ気持ちいい! チロル〜! 見てるか〜! 」


「イケる! このまま陸まで乗り切ってやる! 」


「え? え? キャーー! ムリ! 怖い! 『氷河期』 」


「だあぁぁぁぁぁ! 凛嬢ちゃんやめろーーーー! グハッ! 」


「ぎゃーーーー! ぶつかるぶつかる! ぶべっ! 」


「凛ちゃんなにやってるのよ! ゾルさん!ドグさん! 『飛翔』 」


「あはははは! ゾルのおっさんもアニキも血だらけでやんの! 」


「なにやってんだよ凛……」


中露への報復を終えてからオージーたちの装備の手配やアイテム作製などに二日ほど掛け、ひと通り終わり暇になった俺は拠点の皆を連れて沖縄の離島へとやって来ていた。

まずは俺とクオンで福岡まで転移して元の世界で過ごした無人島まで行き、ゲートを拠点前に繋げて技術を教え終わり戻ってきていたドワーフとホビットたちを連れてきた。

ゲートは繋ぎっぱなしにするつもりなのでマリーたちも全員呼び、この世界に来る前に用意させておいた水着に全員を着替えさせた。


恋人たちは俺以外の男もいるのでTバックなどの際どい水着ではなく皆がおとなしめの水着をつけ、マリーたちとニーチェはなぜかスク水だった。誰だよ選んだの……

浜辺では拠点からマリーたちが次々と運び込んでくる飲み物や料理をテーブルに並べ、パラソルにチェアーも複数並べて皆がくつろぎ夏を満喫していた。

ゾルとドグはこっちの世界に来る前に買っておいたサーフボードを持ってサーフィンを楽しみ、凛と夏海もボディボードに挑戦していた。

しかし波が低くてつまらないと言うので俺が魔力を抑えた大津波を放つことになったのだが……

ゾルとドグが波に上手く乗ったところで凛がビビって波を凍らせてしまい、ゾルとドグが凍った波に激突してしまった。それを見た夏海が二人を救出したが、二人は血だらけになっていた。


「ご、ごめんなさいゾルさんにドグさん……思ってたより大きい波だったから心の準備ができてなかったの」


「り、凛嬢ちゃん勘弁してくれ……ぐふっ! 」


「凛さん……痛てえ……がはっ! 」


「ちょっと二人とも動かないでください。ほら、早くポーションを飲んで」


「あれでも魔力を極力抑えたんだけどね。初心者にはちょっと厳しかったかな? ゾルとドグはほっとけば治るさ。それよりあっちで蘭とシルフィとセルシアがセルフ飛び込みしてるから行ってみようよ」


「佐藤の旦那ひでえ……」


「佐藤さん俺、鼻が折れてるんだけど……」


「あははは! アニキ大丈夫だって! ニーチェの作った中級ポーションならすぐ治るって! 」


「二人ともほんとごめんね〜。私には波乗りは無理だわ。ダーリン、蘭ちゃんのやってるの面白そうね。水着がズレそうだからもっと沖でやりましょ」


「ふふっ、飛翔のネックレスで飛んでから飛び込むなんて、確かにセルフ飛び込みですね」


「じゃあ行こうか! チロルにイスラ! 二人を頼むよ」


俺はゾルに駆け寄って心配そうにしている幼妻のチロルと、怪我をした二人を笑っているイスラにゾルとドグを頼み、凛と夏海を連れ蘭たちのもとへ向かった。


それから皆で数十メートルの高さから飛び込んで遊びつつ、たまにビキニタイプの水着を付けている凛と蘭の水着がめくれるのを見て楽しんだりした。しかし海に飛び込んでも魚もいなければ珊瑚もないので飽きるのは早かった。


「飛び込むのは気持ちがいいんだけどさ〜なんだかモノ足りないよな〜」


「そうね、セルシアの言うようにカモメの一羽も飛んでないとなんだか物足りないわよね」


「ほんと静かすぎよね。魚も一匹もいないし」


「海から生気をまったく感じませんしね」


「確かに海の中はつまらない風景でした」


「全部方舟に持っていかれたからな。次は方舟の海で遊ぼうか。鯨とかはどれくらいのフィールドならいるんだろうな? 中世界か大世界か……」


「鯨か! 食ってみたいな! 」


「鯨は見てみたいわ」


「イルカと泳ぐのもいいわね」


「私はマグロを釣ってみたいです」


「はい! 蘭は鯨さんに乗ってみたいです! 」


「昨日から小世界の森と山と海フィールドを攻略開始しているけど、未攻略フィールドが多いから鯨にお目にかかるのはまだ先になりそうだよ。イルカなら中世界フィールドを手に入れればいそうだけどな」


「あっ! そうだったわ! 昨日から攻略開始してたんだったわ。私たちが鍛えた連隊のお披露目ね。小世界なんて余裕なんじゃないかしら? 」


「コウが魔誘香を大量に渡してたからね。森で魔物を探し回らなくて済むから楽に攻略できるんじゃない? 」


「中世界でのあの地獄を耐えたのですから余裕でしょうね」


「なあなあ、でも小世界は人数制限あるんだろ? 300人だっけ? 」


「ああ、単国の場合は一つのフィールドに300人までと国際条約で決まっている。中世界は1000人だな。連合とか組む場合は連合全体で何人とか決まってるらしい」


明らかに連合を組んだ方が有利なのは間違い無い。連合内で最強の部隊が作れるからな。分母が大きければそれだけ突出した能力を持つ者も多いということだ。体格的に日本人は白人やアフリカ人たちに比べてフィジカルが弱い。同じランクでも種族差のように民族差みたいなのが出るので不利だ。その分魔法を使える者が多いのでバランスは取れているが、やはり前衛が強い国は有利だ。

だが、俺たちの訓練と新装備でそんな差などひっくり返した。他国に邪魔されようがその全てを弾き返せるはずだ。いざという時のために離脱のスクロールも渡してあるしな。


「一個連隊で一つのフィールド攻略をする形になるのね。ノルマの10フィールドとか大丈夫かしら? 」


「アイツらなら大丈夫だって! 今頃小世界じゃ物足りないって言ってるさ」


「そうね、確かノルマ期限は二週間以内だったかしら? 余裕じゃない? 」


「小世界程度なら一つに三日もあれば大丈夫だと思います。三つを同時侵攻しているので余裕がありますね」


「うふふ。達成できなかったら再訓練ですから必死だと思います」


連合にいた時は年単位で攻略していたみたいだが、それは火力不足と他国の邪魔があったからだと思う。火力は俺たちが鍛えたし、邪魔をしそうな中露はフィールドや地上でだいぶ間引いたからそんな余裕も戦力も無いだろう。


「まあ、あいつらがノルマを達成できようができまいがどっちでもいいさ。駄目なら三個連隊全員を再訓練するだけだ。それよりそろそろ戻ってバーベキューしよう」


「さんせー! 」


「そういえば腹減ったかも。戻ろうぜ! 」


「確かにお腹が空いたわね。戻りましょう」


「ふふっ、みんなでバーベキューするのは楽しそうですね」


「蘭の狩ったとっておきのお肉出します! 」


「ははは、それは楽しみだな。それじゃあみんな戻るか……『転移』 」


俺はそう言って皆で浜辺へと戻り楽しいバーベキューをするのだった。

バーベキューはマリーたちや蘭が焼く肉や野菜をセルシアは片っ端から平らげ、凛と夏海は好きな具を串に刺してじっくりと焼いて食べていた。ゾルとドグたちはホビットのおっさんたちを混じえて酒盛りを始め、ニーチェは焼き終わると俺のところに毎回持ってきてくれる。俺はそれを受け取りニーチェを膝の上に乗せ一緒に食べていた。


ニーチェはホビットにしては大柄なんだよな。身長も140cmはありそうだし胸もホビットはみんなぺったんこなのにニーチェはBはありそうだ。確か先祖に人族がいて先祖返りだとか言ってたな。

それにしても金色に輝く髪に白磁のような白い肌、そしてお人形さんのような整った綺麗な顔にお人形さんのように無表情な顔だ。でも才能豊かな上に努力家で、褒められると少し表情が緩み嬉しそうにしているのがわかる。俺の頼みとなるとちょっと無理をする傾向があるのが心配だけど、こうやって無口ながらも純粋な好意をいつも向けてくれる。


はぁ〜可愛いし癒されるわ……確か16歳だったな……合法だな……ハッ!? これが合法ロリというやつか! いやいや、俺が好きなのはボンキュッボンで……いやマリーたちもアリっちゃアリなんだよな……


「…………こ、光希様……あの……んっ……う、嬉しいですが……皆が……いるので……恥ずかしいです……」


「ん? おおっ! なんだこの手は!? 俺の意思を無視して勝手に!? 」


俺が自分のストライクゾーンが広がっていっている事に気付き色々と驚いていたら、いつの間にか手がスク水をずらしてニーチェの小さくて可愛いお尻を撫でていた。無意識に……マジか〜これはゾルの事をロリコン野郎とはもう言えないな。


俺は今回の海水浴で合法ロリという新しい扉を開いたのだった。












ーー 小世界 森フィールド 第一連隊第一中隊長 田中 空 大尉 ーー






「中隊長! 九時の方向から来ます! 」


「わかった! 左翼盾構え! 来るぞ! 」


「確認! 魔猿50以上! 森熊10! 麻痺グモも5匹いると思われます! 」


「麻痺グモの糸が飛んでくるぞ! 魔法小隊及び弓隊は麻痺グモを狙い先制攻撃! 火系は広場まで引きつけてからだ! 」


『水刃』 『風刃』 『土弾』『ウインドカッター』


『炎壁』


よしっ! 厄介な麻痺グモを一掃できた! これなら盾士で押さえ込みながら槍と剣で処理できるだろう。

早くしなければ……この小世界森フィールドの攻略を開始してからもう二日が経つ。他国も狩っているのだろうが、未だにボスが出現しない。三日でここを攻略して次は海か山岳フィールドに行かなければならないのだ。でなければ二週間で10フィールドなど到底攻略できない。もしも攻略できなかったら……


「森熊の後方に火熊発見! 」


「中級魔法放て! 俺も撃つ! 剣士は近接戦闘準備! 」


「了解! 『氷槍』 」


「氷剣! 『アイススピア』 」


『グオオオオ! 』


「第一小隊突撃! 」


「「「おうっ! 」」」


『グガァッ! 』


「火熊討伐完了! 」


「残敵を掃討せよ! 」


「「「「「了解! 」」」」」


「中隊長! ハーピーの群れと交戦中の第二中隊から援軍の要請あり! 」


「なっ!? Cランクのハーピーが群れで来ているのか! ? くっ……魔法小隊と弓隊は後方の第二中隊へ援軍に向かえ! 」


「「「了解! 」」」


魔誘香の威力は凄まじいな……普段であればテリトリーに入って来る者にしか群れで襲い掛からないハーピーが向こうからやってくるとは……昨日より明らかに強い魔物が増えてきている。このまま行けば明日にはボスにお目にかかれそうだ。

今頃は第二連隊は山岳フィールドか……なんとしても先に攻略して休憩の時間を確保せねばならない。


「中隊長! 前方より魔猿とトレント! それにこれは……魔豹の反応です! 」


「魔法小隊がいないタイミングで嫌な相手だ……盾隊構えろ! 魔猿と魔豹を食い止めろ! 魔誘香を追加で炊け! いいか! あと一日でこのフィールドを攻略するぞ! そして次はここより難易度の高い山岳か海だ! こんなところでモタモタしている暇はない! ノルマクリアできなきゃまたあの地獄の訓練が待っているぞ! 気合いを入れろ! 」


「「「「「ひっ! りょ、了解!! 」」」」」


《 やってやる! 魔物が途切れたら探しに行ってでも殺ってやるんだ! 》


《 イヤだ……もうあんな地獄には行きたくない…… 》


《 そうだ、アレに比べればたかだか36時間の連戦がなんだ! 腕も足もついてる! 魔物の群れに投げ込まれることも無い! そうだ! ここは天国だ! 》


《 は、早くこんな雑魚処理して次を! 早く! 早くしなきゃ! 》


俺は隊員たちの目が怯えながら燃えているのを見て、恐怖が人を支配するというのを始めて実感した。

俺もあんな地獄はもう嫌だ。氷剣の魔石の魔力はまだ大丈夫そうだな……やってやる……殺ってやるさ。





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