第18話 特訓







「光希にみなさん。今日は色々とありがとう。最高の一日だったよ」


「本当にありがとうございました。命を助けてもらい更に火傷を治してもらえた上に、魔法や装備までいただいて……もうどうお礼をすればいいのか……」


「気にするな。明日以降はお礼を言いたくなくなるさ。俺と夏海のシゴキはキツイからな」


光一たちを拠点に招待して一緒に風呂に入り昼食を共にした後、光一や夏美とこの世界のことや俺たちの世界のことを話したり、他にも家族のことや二人の馴れ初めなんかを聞いているうちに夜になってしまった。そのまま夕食も一緒に食べようという事になり、結局夜遅くまで一緒に過ごした。その中で光一と夏美には俺のお古の装備と夏海の予備の装備をプレゼントした。

光一には俺がかなり前に使っていた中位黒竜の革鎧に即席で天使の護りを付与したものと、上級魔法の雷龍牙を付与したミスリルの剣をやった。夏美にも夏海の予備の装備である中位黒竜の革鎧に、水刃が付与されている黒刀を渡した。


俺は夏美にはドグの作ったミスリルの刀をあげようとしたんだけど、夏海曰く技量が足りないから折ってしまうだろうという事で、技量が上がるまでは夏海が使っていた頑丈な黒刀を貸すという形にしたらしい。

実は夏美の家族はもう誰も生き残っていないらしかった。戦時中夏美が幼いころに夏美と祖母の千歳さんを置いて一族全員と門下生たちが九州に合宿に行っていたらしい。当初戦争は日米南朝連合が優位で、本土は平和だったらしく庶民は普通に生活していたそうだ。


しかしその九州に北の朝鮮国から核ミサイルが降り注いだ。一族の安否は不明なままその後方舟が現れ、誰も帰ってこない事から恐らく皆死んでしまったのだろうと物心がついた時に千歳さんに言われたそうだ。

それからは祖父の弟子を名乗る人に抜刀術を教わり、祖母の千歳さんは資源フィールドで戦いながらなんとか夏美を育ててくれたらしい。その千歳さんも5年前に魔物に受けた傷が元で他界してしまったようだ。


その話を聞いて不謹慎にもまず最初に思ったのが、あの一族ってやっぱり死ぬんだということだった。夏美さんが寂しそうな顔をしている中、俺と恋人たちとセルシアは皆違う意味で驚いていた。

俺たちの世界では若返ってピンピンしてるからな。どうしてもあの人たちが死んだとか聞いても実感が湧かない。


そうそう、光一の家族だけどお袋だけ生きているようだ。親父は病死じゃなくて10年前にハンターとして攻略戦に出て戦死したらしい。でもどうやら不名誉な戦死と世間では認識されてるようだ。それもあって小さい頃にお袋が光一の身を案じて母方の名字に変えさせたようだ。内容はあえて聞かなかった。光一が強くなろうとした理由の一つでもあるらしかったからな。

そして弟だけど生まれていなかった。5つ歳が離れていたからそうかなとは思っていたけど、戦後食糧不足の中で二人目の子供は作れなかったようだ。お袋は元気かと聞いたら病気でもう何ヶ月も寝込んでるというから、慌てて俺はユニコーンの角や竜の肝などで作った霊薬と上級ポーションを渡して絶対に飲ませるように言ったよ。このセットならたとえ末期癌でも治るはずだと言ったら必ず飲ませると約束してくれた。俺としても今日光一に会えて良かった。数ヶ月後に会ってたとして、実はお袋は死んだんだとか言われたらやるせない気持ちになるからな。



「光希、そうやって脅さないでください。最悪でもちょっと腕や足が欠損するだけですよ。そうなっても光希が元にもどしてくれるから安心してください」


「え? あ、うん……お、お願いします」


「欠損がちょっと? あれ? 夏海は私よね? 凄く価値観の違いを感じるわ」


「夏美さんにはあの脳筋家族がいないから普通の感覚に育ったみたいね」


「あの人たちはね……上海では苦労させられたわ」


「あの気の良い奴らもこっちにいればな〜」


「十兵衛さんたちがいないのは残念でした……」


人って育った環境で変わるんだよな。夏海はあの一族の中では一番まともだけど、幼い頃からあの狂人に囲まれて育ったんだ、少なからず影響を受けているのは別に不思議なことじゃない。特に怪我に対しての感覚がおかしい。


「それじゃあ明日、渋谷でな。光一、お袋にちゃんと飲ませろよ?あと渡したアイテムポーチの中のものをたらふく食べさせてやってくれよ? お袋の好きな黒蜜きな粉と餅をたくさん入れてあるからな? いつでも食べれるように魔導コンロに魔石も入れてある。明日感想聞かせろよ? 」


「ああ、必ず飲ませる。ありがとな。お袋も喜ぶよ。そんなに心配なら光希も来てくれればいいのに」


「いきなり息子と同じ顔のやつが現れたら混乱するだろ? 幻術で姿変えて会うのもなんか違うしな。光一からそれとなく俺のこと話しておいてくれ。多分お袋は並行世界とか理解できないだろうけど」


「それもそうか。確かにお袋に難しい話は無理だな。男がごちゃごちゃ小難しいこと言ってんじゃないないよって言われるだけだろうな。それでもそこまで元気を取り戻してくれればいいんだけどな」


「大丈夫だ。聞いた感じだとその霊薬で十分治る。最悪エリクサーもあるし時戻しもある。すぐ元気を取り戻すさ」


「わかった。帰ったらすぐ飲ませるよ」


「そうしてくれ。夏美さんも光一とお袋と一緒に暮らしてるんだろ? お袋のこと頼むよ」


「はい。お義母様のことはおまかせください。また以前のような元気な姿が見れるのを楽しみにしてます」


「んじゃ帰るわ。光希、ゲートっての頼むよ。また明日な! 」


「ああ、また明日な。『ゲート』」


俺は光一と夏美にお袋のことを頼んだ後、テントの前で明日の待ち合わせ場所に指定した渋谷駅近くにゲートを繋げた。現れたゲートを光一は手を振りながら、夏美は見送る俺たちに深く頭を下げてから潜っていった。




「さて、明日から俺と蘭と夏海であの二人のパワーレベリングを中世界フィールドでやる事になったんだけど、その間に政府から連絡があったらシルフィと凛で対応してくれ。2~3日であの二人のランクを上げてくるよ」


「わかったわ。政府から連絡がきたら私と凛で対応しておくけど、そんな短期間でBランクをAランクにするの? 大丈夫かしら」


「何をやるかだいたい想像つくわ……きっと桜島で私とお姉ちゃんが経験したやつね……」


「うふふ。蘭が魔誘香で魔物を集めることになってます」


「まあ大丈夫だろう。本人がやる気だしな。俺と夏海と同じ顔なんだ。これから俺たちがフィールドを攻略していけば、俺と勘違いされるか双子か何かかと思われ必ず他国に狙われる。とっとと力をつけてもららわいとな」


「 あっ! そうよ! ダーリンにそっくりなんだから絶対狙われるわよ。装備あげたり魔法を付与してあげたりしてたのは、自分だからって理由だけじゃなかったのね」


「他にもSランクくらいになってくれれば、この世界の見張り役として使えるしな。そうなればまたこの世界に行けとアマテラス様に言われなくて済むかもしれないという狙いもある。アイツには長生きしてもらわないとな」


「コウ……自分が相手だと容赦ないわね……」


「ダーリン……そんな事も考えてたのね」


「風呂に入ってる時に強くなりたいって光一が言ったんだ。俺はそれに最大限応えるだけだよ。その後のことに関しては同じ俺なんだから負担を分かち合おうとしてるだけさ。俺たちはそう言う星の下に生まれたんだ。これはしょうがない事なんだ」


俺がそう言うとシルフィと凛は光一さんかわいそうにとか言ってたけど、俺は光一の願いを叶えてやる側だからな。当然対価はもらうさ。ランクを上げさせて転移を付与してやればそうそう死ぬことは無いだろう。ピチピチュの実も渡しておけば完璧だな。

俺は良い人材に出会えたことに心から喜びながら恋人たちとテントへに戻り、その日はシルフィと凛と一緒にベッドに入り二人を並べて楽しんだ。

積極的なシルフィに、基本受けだけど責めると大きな声で乱れる凛の組み合わせは、必然的に連戦せざるを得なくてなかなかにハードだったよ。





明けて翌日。


朝食を食べた俺と蘭と夏海は、シルフィと凛に拠点にいる皆の見送りを受けてゲート発動し待ち合わせ場所へと向かった。

俺たちがゲートから出てくると既に光一と夏美が待っていた。お互いに挨拶をして俺は気になっていたお袋のことを聞いてみると、ちゃんと霊薬の効果があったみたいですっかり治ったらしい。それどころか上級ポーションを飲ませたら歩き回り、光一に渡したお袋の大好物セットを見せたら大喜びしながら食べていたそうだ。良かった、少しは親孝行できたみたいだ。

そして落ち着いた頃に怪我がどうして治ったのかという事と、俺のことを話したらやっぱりよくわかってなくて、双子の息子がいたと思えばいっかとか言ってたらしい。産んだ覚えもないのに双子とか……さすがお袋だ。

俺たちはそんな雑談をした後に蘭に欧米人に見えるように幻術を掛けてもらい、その場で再度ゲートを発動してフィリピンの門の近くへと繋いだ。


ルソン島の門の近くに出ると探知に複数の反応があったが、俺たちはそれを全て無視してさっさと門を潜り資源フィールドへと出た後に一気に転移で攻略フィールドへと繋がる5つの門の前に来た。


「さて、それじゃあ行こうか」


「お、おい! さっきはどこの門からここに入って来たんだ? 誰もいなかったぞ? それにその門は中世界草原フィールドに繋がる門だぞ? この資源フィールドで訓練するんだよな? 」


「え? こんな雑魚ばかりのとこでランク上げなんかしたら何ヶ月掛かるかわかんないだろ。当然中世界フィールドで訓練するに決まってる。ここは俺たちが攻略済みだからボス軍団は多分まだ出ないしな」


上級ダンジョンでもボスの再ポップに1ヶ月は掛かるんだ。さすがに1週間ではまだ出てこないだろう。鍵以外のドロップ品もあるしな。


「はああああ!? 攻略した!? 中世界フィールドを!? 」


「うそ……」


「大したことなかったよな? 」


「はい。魔物は弱かったです」


「そうですね。上級ダンジョンの中層程度でしたね」


「弱かったって、このフィールドには黒死鳥やオーガキングに白狼がいるんだぞ!? 」


「そ、そうです! この2年間世界中の精鋭部隊が挑んでいるのに、未だにボスを出現させることすらできていないんです」


「4時間くらいで白狼王が出て、それを倒して管理者になったけど? 」


俺がそう言うと光一は顎が外れんばかりに口を開けて目を見開いていた。

俺はいちいち説明するのが面倒になり、光一を掴み門の向こう側へと投げ捨てた。それを見た夏美は光一を追いかけて門を潜っていった。愛されてるな〜

そして俺と蘭と夏海も門を潜り中世界草原フィールドへと足を踏み入れた。


「今日はグリ子がいないから、とりあえず飛んで転移しながら真ん中辺りに行くか。俺は光一を夏海は夏美を抱えて飛んでくれ。蘭は打ち合わせ通り神狐になって魔誘香で適当な群れを誘導してくれ」


「わかりました。夏美、飛ぶわよ。しっかり掴まっててね 『飛翔』 」


「え? え? きゃっ! 」


「はい、主様」


コーーーーン


「おわっ! 蘭さんが! 蘭さんが! き、狐に!? おわっ!高い! ちょ、なんで俺はベルトを掴まれて! おいっ! 光希! 怖えよ! 」


夏美は夏海を抱き抱えて飛んでいったが、いくら俺とはいえ男と抱き合うのは嫌なので俺は光一のベルトを掴み吊るすようにして飛んだ。蘭の神狐姿に驚いていた光一が何か文句を言ってるが無視だ。どうせ光一も抱き合うのは嫌だと言うに決まってる。

そして俺と夏海は転移を幾度か繰り返しフィールド中央付近までたどり着いた。途中出会った風切鳥や夜魔切鳥は突然俺たちが消えてびっくりしてたが、俺たちの魔力を感知しているのか後ろから追ってきている。


「よしっ! ここらでいいか。まずは後ろから来ている雑魚鳥どもをやってみようか。武器に付与した魔法の発動方法は昨日教えた通りだ。光一は渡した中級の風魔法書は覚えたよな? それと天雷は魔力の消費が激しいから撃ち過ぎんなよ? それじゃあファイッ! 」


とっとと中級魔法に慣れてもらわないとな、上級も早く覚えさせたいしな。


「ちょ、え? いきなり!? Cランクは雑魚じゃ! あ、魔法、お、覚えたけどまだ使ったことない!ってそれどころじゃない! 『竜巻刃』 」


「夏美頑張ってね。見守ってるわ」


「な、夏海! 待って! いきなりCランクの群れ!? あ、来た! た、多田流抜刀術改『黒雫散斬』 」


え? この世界の夏美も!? なに? 遺伝なの!? 本能的な何かなのか? むしろ呪いか!?


「夏美! 出だしが遅いわよ! もっと右足を前に踏み込んで! 」


夏海は違和感を感じてないっと。オーケーそうだよな、そりゃそうだ。


「だああああ! 狙いが甘かった! 夏美! 来るぞ! 接近戦だ! 」


「そんな!? 私も外した!? わ、わかったわ! 光一の背後は私が守る! 」


コーーーン!


「ほらっ! 次が来たぞ! 黒狼の群れだ! 早くそいつら処理しないと詰むぞ! 」


やっぱぶっつけ本番は狙いが甘いな。なに、実戦で戦士は成長していくもんだ。奇襲されたときの訓練にもなる。きっと大丈夫だろう。

それにしても蘭は張り切ってるな。連れてくるのが早い。これはランクアップも早いかもな。


「マジかよ! 光希は鬼か! この状態で新手を連れてくるのかよ! 」


「光一! 文句言ってないで早く倒して! このままじゃ挟まれるわ! 」


「あちょ、ちょ、クソッ! 剣よ! 『雷竜牙』 」


「多田抜刀術『五月雨斬り』 」



「よしよし、鳥は処理できたな。やればできるもんだ。蘭! 次を連れてきてくれ! 」


コーーーン


「はああああ!? なにいってんの!? 」


「こ、光希さん! まだこれから黒狼が! 」


「大丈夫だ。死んでも生き返らせてやるから」


「全然大丈夫じゃねえ! 死にたくねえよっ! 」


「ちっとも安心できませんっ! 」


「ふふっ、二人とも楽しそう」


「「どうしたらそう見えるの!? 」」


二人とも余裕そうだな。本当にダメな時は喋る気力もなくなるもんだ。

他国の奴らは安全地帯と、俺を待ち伏せしてるのか神殿前から動かないから魔物は狩り放題だな。


よしっ! どんどんいってみよう!




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