4章 復讐の忍者と死霊の軍団
プロローグ
ーー中華台湾連合国 冒険者連合香港本部 理事長 霧隠れの
「Light mareか……彼はやはり……」
「以蔵……あの力は間違いないわ」
「そうだな。勇者の称号を持つ者。しかも既に成長を終えている。恐らくもう魔王を倒せる程の力を身に付けているだろう」
「でも勇者様にしてはちょっと破壊的な気が……」
「あのお方は日本の上級ダンジョンを攻略し潰している。そして長年日本を悩ませていた桜島のドラゴンも倒し、あまつさえペットにした。更に我々の同胞をソヴェートより救出し、賢者の塔まで攻略した。勇者様以外何者でも無いだろう?」
「それもそうね。ソヴェートへの攻撃も軍事施設と大統領官邸のみだったわね。必要以上の殺戮は行って無いわね」
「我々を受け入れてくれたこの国と、我々の魂のルーツである日本以外滅ぼうがどうでもいいがな」
「クスッ……私達ダークエルフは日本の忍者として生きることが夢でしたからね。残念ながら海を渡り日本には行けませんでしたが……」
「仕方ないさ。あの時代は旧中華国からの追撃が激しかったからな。日本を巻き込むわけにはいかなかった。そしてこの国に恩と義理ができてしまった。恩義を返す為にも私達は旧中華国から来る亡者供から、この国を守らなければならない」
「そうね。でも毎年日本各地にある忍者村に行くのは楽しいわ。今度は奥飛騨の忍者村に行きたいわ」
「フッ、そうだな。本物の忍者は絶滅してしまったらしいが、確かに忍者村にはソウルを感じる」
私はシルフィーナがひた隠しにしていた日本の佐藤 光希と言う人物について、妻の
彼は今から半年と少し前に突然日本に現れ上級ダンジョンを攻略し、ダンジョンコアをほぼそのままの状態で持ち帰った。最初は彼が何者なのかシルフィーナに問いただしたが、滅びた国で生まれ育った日本人の子だという説明をされただけだった。そんなもの信じられる訳が無い。彼が使う魔法はこの世界には無い、もしくはあっても手に入れられない物ばかりだ。それに使える属性魔法が多過ぎる。
私達は彼を徹底的に調べたが、過去の情報は一切分からなかった。その後桜島のドラゴン討伐に、中台連の分析で判明したソヴェートとの一件。そして女神の島の賢者の塔攻略をもって私達は確信した。
彼は勇者様だと。
「しかしサトウ様は何故ご自分が勇者であると名乗らないの?」
「わからない。しかし名乗らないのには理由があるのだろう。サトウ様が名乗らないのなら、私達はその意思に従うべきだろう」
「そうね。勇者様に過去幾度となく種の危機を救って頂いた私達は、あの方の意思に従うだけね」
「私達は里の掟通り、勇者という称号を持つ者が現れた時に全てを捧げお護りするだけだ。それが先祖代々救われた、我等ダークエルフのせめてもの恩返しだ」
そう私達ダークエルフはその浅黒い肌の色から、人族から魔族と言われ度々迫害を受けてきた。しかし私達は魔族では無い。魔王からの誘いも断った私達ダークエルフは、魔王軍と人族の軍に徹底的に狩られ過去幾度も種の危機を迎えた。しかし、その都度私達に救いの手を差し伸べてくれたのが勇者様だ。私達を魔王軍から守り、時には人族の国を滅ぼしてまで救ってくれた。
今でこそ人族とエルフと和解し平和に生きているが、それは全て勇者様のお陰である事は他の里のダークエルフも皆理解している。子が産まれると真っ先に勇者様への感謝の気持ちと日本語を教えるのだ。
そして勇者様の遺した『今後この世界に勇者の称号を持つ者が現れた時に助けてやって欲しい』と言うお言葉を、全ての里の掟とした。それが短い寿命の中で私達の為に、そして世界の為に必死に戦ってくれた勇者様へのせめてもの恩返しになると信じて。
「里……私達の里を襲ったエルダーリッチもこの世界にいるはずなのに」
「必ず見つけ出し
「うっ……ううっ……紫音……桜……」
紫音と桜……今は亡き私達の双子の子だ。
子供達の訃報は、私達より後にダンジョンに入り一緒にこの世界に来た者より聞いた。それによれば私と静音が長期のダンジョン攻略をしていた時に、隣国の死霊系ダンジョンが氾濫を起こした。そしてエルダーリッチの率いる不死の軍団は、何故か真っ直ぐ私達の里に侵攻したとの事だった。
里で生き残った者はおらず、全ての里の者の姿が消えたそうだ。恐らくゾンビかグールにされたのだろう。
不死の軍団はその後連合国により数を減らされ、元のダンジョンに戻って行ったとの事だった。
私と静音はこの世界に来てすぐに、その隣国にあったダンジョンとエルダーリッチを探そうとした。しかし旧中華国が私達を拘束し処分しようとした。私達は戦いこれを返り討ちにし、地図を手に入れ日本を目指した。しかし追撃が激しく、このままでは日本に迷惑が掛かってしまうと思いこの香港に留まり戦った。その時旧中華国各地で独立運動が起こった。我々がいる当時広東省だったこの地もそれに加わった。私達の戦力をあてにしたのもあるだろう。それでも我々は補給の面で助かったのは事実だ。それ以降海を渡った先にある台湾国と連合を組んだこの国に留まり、シルフィーナ達と連絡を取り合い国の助けもあり探索者協会を立ち上げた。
しかし探索者協会は国の影響力が強く、中々思うように動く事が出来なかった。そうこうしている内に当時のパーティメンバーが高齢の為引退していき、私と静音だけではもう上級ダンジョンの下層に到達する事が出来なくなってしまった。
それでも私達は諦めなかった。シルフィーナ他同胞達と、国から独立した冒険者連合の立ち上げを何度も画策した。そして最大の邪魔者であった日本の資源省が不祥事を起こし、やっと立ち上げる事ができた。これで冒険者達を思う存分育てる事ができると私と静音は喜んだ。更に天の恵みか女神の島まで現れた。リアラの塔さえあれば冒険者の実力は底上げされる。あと少しだ、あと少しでエルダーリッチのいるダンジョンを探しに行ける。
私はもう数え切れないほど子を想い泣き崩れる静音に寄り添い、そっと肩を抱き寄せその美しい白銀色の髪をゆっくりと撫でた。
この国とアメリカとヨーロッパ諸国にインド、日本、それに他小国家の死霊系上級ダンジョンは、元の世界にあった隣国のダンジョンでは無い事はこの40年で分かった。残るは滅びた国にあるダンジョンのみ。死霊系の上級ダンジョンには瘴気と呼ばれる黒い霧が掛かっており、衛星で何も確認できないので実際に行くしかない。恐らく旧大オーストリアか、東南アジア諸国、旧中華国にあるいづれかのダンジョンが私達の里を襲ったエルダーリッチのいるダンジョンだろう。先ずは年々瘴気の範囲が広くなっている旧上海のダンジョンを、手が付けられなくなる前に下層に行けるパーティを育てなくては……
冒険者達を育て必ず見つけ出す。我が一族と娘達の仇を必ず取る!
私は復讐の念を新たにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます