第6章 ー光の悪魔 彼の地にて 斯く戦えりー

プロローグ







天照大神様との約束の日のまだ夜が明けきらない時刻。俺は蘭、シルフィ、凛、夏海とマリー達を連れ俺以外完全装備でドラゴンポートへと向かっていた。


「いよいよね。この世界とは違う世界に行くなんて、ドキドキしてあまり眠れなかったわ」


「私もコウとの冒険の旅に出れるのが嬉しくて眠れなかったわ」


「ふふふ。私もです。荒廃した世界に光と共に現れる勇者様に付き従う剣士……ドキドキしてきました」


「私達もマスターに頂いたバッグにスイーツが入りきらず、選別に悩みあまり寝ておりません」


「それはもう悩みました」


「悩みましたが」


「選別しながら食べてましたら」


「選別の必要が無くなりました」


入りきらなかった分全部食べたんだな。一晩中食ってたのかよ。


「蘭は憂鬱でした」


「俺も憂鬱で眠れなかったよ」


「経験の違いよね。なんだかんだ私達はダンジョンに入らなければ安全な環境で生まれ育ったから、末期世界とかイメージしにくいのよね」


「この世界も滅んだ国もありますしその国があった土地も見ましたが、やはり私が生まれる前のしかも他国の事で実感としては湧かないんですよね」


「40年前の悲劇を体験した身としては、凛と夏海は最初はショックを受けると思うわよ? この世界よりもっと命が軽いもの。恐らく北○の拳の世界よ」


「シルフィ……一応国として残っているらしいからそこまでじゃないとは思うんだけどな。皇室が頑張ってるって言ってたから意外と纏まってるかもな」


シルフィがアニメ脳でなんか言ってるが、モヒカンがヒャッハーしてる世界なんか行きたくねーよ。

15億も生き残ってるんだからそれなりに国として機能してるだろうよ。


「そうよね〜食べ物が実らない所でよく生き延びてるわよね。国民総出で方舟に食料取りに行ってるのかしら? 」


「最初の1~2年は備蓄食料で生き長らえそうだけど、その後は特に輸入に頼っている日本は厳しいわよね。一体何人生き残ってるのかしら」


「さてな、そこまでは聞いてないな。どうせサクッと片付けてすぐ戻って来るつもりだからな。用意した物はあくまで保険だよ。こっちの時間で数日で戻るつもりだよ」


方舟が現れて何年後の世界なのか日本国民が何人生き残っているかも分からないが、サクッと方舟のフィールドを攻略して移住させて依頼クリアして終わらせる。人間同士いがみ合ってる地上になんかいつまでもいたくないしな。



「あっ!旦那さま! 遅いぞ! あたしはちゃんと早起きして来てたぞ! 」


「光魔王様! 光魔王軍15名ここに! 」


「お屋形様! 光魔忍軍30名参上致しました! 」


「佐藤さん! 補給隊ドワーフ4名にホビット5名揃っています!」


「こうき! オレとアニキに中級錬金魔法書くれてありがとなっ! あっちに行ったらしっかり働くぜ! 」


「…………私もポーションいっぱい作ります」


「お、おう……」


俺達がドラゴンポートに到着すると、今回連れて行く者達が整列していた。

セルシアがやたら元気に早起きしたとか言ってるけど、あの顔は絶対寝てないよな。可愛い奴だ。


何故補給隊なんぞがいるかと言うと、最初はサキュバスとダークエルフだけのつもりだったんだけど、何処からか話を聞きつけてきたドワーフとホビット達が全員付いてきたいとか言い出して大変だった。

全員連れて行くと会社が大変になるし女神の島の店もオープンできなくなるから、今回は俺の独断と偏見で連れて行く者を決めた。正直ホビット達をあまり多く連れて行っても守るのが大変だからな。女神の島で最低限力を付けた者とその家族だけ連れて行く事にした。

ゾルとドグとイスラは幼い頃からダンジョンに潜っていたから、自分の身は自分で守れるくらいの強さはあるし問題無い。ゾルの幼妻のチロルだけ不安だが、ゾルが必ず守ると言っていたしまあ大丈夫だろ。そしてこのドグとイスラの二人には中級錬金魔法書をあげた。腕は良いからこれでより良い物を作れるようになるだろう。


それにしても光魔忍軍てなんだよ……最近ダークエルフ達はやたらサキュバス達に対抗意識燃やしてるから影響されたのか? そこは張り合わなくていい所なんだけどな……


「以蔵さん……とうとう忍軍を名乗ってしまったのね。ええ、こうなる事は上海で救出された里の人達を見た時にわかっていた事よ」


「ぷっ……ダーリンが忍者軍団のボスとか」


「以蔵さん達はこの現代日本で一体何処に向かっているのでしょうか? 」


「うふふふ。せるちゃんもみんなも主様と一緒に冒険に行くのが楽しそうです」


「戦国時代に行くんじゃ無いんだけどな。まあ揃ってるようだし行くか。その前にみんなに言っておく。これから行く世界は、アトランやムーランがあった世界並みに危険だ。この世界で人間に対しての危機意識が薄れているだろうが、前にいた世界の感覚を思い出してくれ。そしてそれぞれに渡した魔石交換式の中級結界の腕輪は肌身離さず身に付けておく事」


「「「ハッ! 」」」


「「「はっ! 仰せのままに! 」」」


「お屋形様との初の戦闘任務……紫音ご恩を返すチャンスよ! 」


「……桜は堅い……光希様はそういう暑苦しいの望んでない。そんなのじゃ主従関係から先に行けない」


「わかったぜ佐藤さん! ありがとよ! 」


「へへへ、コウキに貰った腕輪を手放すもんか」


「…………光希様からの初めてのプレゼント」


俺は今回の同行者達に、量産品の魔石交換式初級結界の腕輪をグレードアップさせた中級結界の腕輪を渡していた。Cランク魔石を嵌め込む関係上かなりゴツくなってしまったが、その辺は今後改良して行くつもりだ。これで補給隊の安全は確保できるだろう。


「それじゃあ伊勢神宮までゲートを繋ぐ! サキュバス達は光魔の姿になっておけ! 潜ったら補給隊の皆はグリ子達に乗ってクオンの背に!その他の者もクオンの背に乗るように! では出発! 『ゲート』 」


俺はサキュバス達に念の為天使もどきの姿になるように言い、転移漏れが出ないようゲートを潜ったら全員がクオンの背に乗るように指示した。これで神様の許可を得た大きなペット一匹になる。嘘は言ってない。


そして俺を先頭にまだ空が暗い伊勢神宮の御正堂へとゲートで移動したのだった。




俺達がゲートを潜りクオンの背に無理矢理乗り込むと辺りが急に明るくなり、気が付くと俺一人だけが白い空間に佇んでいた。


《 約束通り来て頂けたのですね。少し人が多い気がしますが……それにペットとは竜の事でしたか》


「アマテラス様。申し訳ありません。より確実に使命を全うする為に必要な者達なので、どうか同行をお許しください」


《 そうですか……わかりました。頼んだのは私ですからなんとか致します。少し貴方の力もお借りする事になりますがよろしいですか? 》


「はい。転移後に動けなくならない程度でお願いします」


《 ふふふ、そこまでは使いませんよ 》


「ありがとうございます。それとアマテラス様。旅立つ前に一つお聞きしてよろしいでしょうか? 」


《 ええ、なんでしょう? 》


「これから行く世界は方舟が現れて何年後の世界なのでしょうか? 」


《 もうすぐ20年となります 》


という事は1999年に創造神が怒るほど戦争で環境が破壊されたのか……まさか本当にシルフィが言っていたモヒカン達がいる世界じゃ無いだろうな? 俺は一子相伝の拳法の使い手に勝てるのか? 近付かれたら終わりだな……って違う! シルフィとのデートがアニメ映画やら古いアニメ鑑賞やらだからって俺までアニメ脳になってどうすんだ!


しかし20年か……社会構造が変わるには十分な時間だな。これは同じ日本人だからと言って油断していると思わぬ落とし穴に嵌りそうだな。


「ありがとうございます。最後に皇族の方々は全力でお守り致しますが、俺と仲間達の敵となる者には容赦はしないつもりです。例えそれが同じ日本人だとしてでもです。これだけはご了承ください」


《 ええそれはそうですとも。遥々別世界から日本を救う為に来て頂いた方に牙を剥く愚か者に容赦をする必要はありません。そういった者は方舟の中でもいらぬ争い事を起こすでしょう。女神リアラから貴方の事は聞きました。思うがままに振舞って頂いて結構です 》


「女神リアラから俺の事をですか?」


《 ええ。貴方と前回お会いしてから女神リアラに色々と聞かせて頂きました。女神リアラはたいそう感謝してましたよ? 私は貴方の良心を信じます 》


「女神が俺に感謝を……そうですか……」


感謝してるか……きっと女神の島をこっちに持って来たのは、俺への援護の為だったんだろう。

いや待て! 俺はそんな話に騙されないぞ! 女神の島は悪魔付きでしかもドワーフやホビット達が捕らわれていた。持ってくるならそれを何とかして持って来いよ! それに魔王が生まれるヴェール大陸のダンジョンはまだこっちに来てないんだぞ? 育成の島持ってきて大丈夫なのか?


ん? あれ? 確か創造神は試練をクリアした世界のダンジョンを移動させてるって言ってたよな? て事はこの世界にも海底ダンジョンとヴェール大陸のダンジョンが来るって事か!? おいおい、これは益々早く帰って来ないと留守中に何かあるかも知れない。


《 それではこれより転移を行います。転移先はここ伊勢神宮にしたいのですが、我が子達が長期の祭祀を行っておりますので大島に致しましょう。今は無人島となっておりますから民達の混乱を招く事は無いでしょう 》


「はい、確かに竜が突然現れては混乱を招きますね。お気遣いありがとうございます」


《 よいのです……それでは…… 》


人がいない場所に転移するならゆっくり情報を集める事ができるな。ただ衛星が生きてる可能性があるから、付いたら蘭にクオンが木か何かに見えるように幻術を掛けてもらうか。

俺がそう考えていると辺りが光り輝き始めた。それと同時に俺の中からゴッソリと魔力が減る感覚があり、俺はその脱力感にうめきながら耐えていた。


《 それと言い忘れていた事がひとつ。世界間の転移には多くの力を使う為、次に行えるのはひと月後になります。それではどうか我が子達を導いてください……》


「ぐっ……え? ……ちょ、それは聞いて……ない……くっ……魔力が……あ、アマテラスさま……ちょ、待って……」


俺が膨大な魔力の喪失に耐えていると、アマテラス様がとんでもない事を言って消えていった。

ひと月って向こうじゃ1年じゃねーか! サクッと終わらせて帰って来るつもりだったのに、末期世界に1年もいなきゃいけないのかよ……



俺はさっさと終わらせて早く帰ってのんびりする計画が早々に崩れ去り、急激な魔力の消費の脱力感と精神的な落ち込みで転移が終わるまで最悪の気分で過ごしていた。




こうして俺達Light mare一行は、並行世界の日本へと転移をしたのだった。








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