第1話 拠点構築






天照大神様の力により俺達はまばゆい光に包まれ、一瞬の浮遊感を感じた後にその光は徐々に収まっていった。俺は経験から転移が終わったんだなと思い、光に目を焼かれないよう瞑っていた瞼をゆっくりと開いた。


「空港……よね? 」


「正確には空港だった場所かしら」


「見事に破壊されてますね」


俺達が転移させられた場所は空港だった場所のようだった。そこは滑走路から管制塔から見事に破壊されていた。戦闘機の残骸は無く綺麗に破壊されている事から、この島を放棄する際に敵に使われないように爆破したという感じだった。


「空港を放棄する時に敵に使われないように破壊したんだろう。ここは一応東京都だ。もしも敵をこの島まで近付けていたなら日本は負けて占領されてるよ。でもアマテラス様はそんな事言ってなかったから放棄しただけだろう」


「それもそうね。この島は都心に一番近い島だものね」


「シルフがこの島には生物がいないと言っているわ。本当に無人島みたいね」


「俺達には都合がいいな。今後の為にもちょっと飛行機の駐機場を平らにしてくるよ。建物もあの倉庫っぽい所はなんとか戻せそうだな。あそこを拠点にしよう」


俺はそう言って吸収の魔剣を取り出し魔石をサクサクと斬り、転移で失った魔力を回復してから大地に手を当て上級土魔法と錬金魔法を発動した。後ろでシルフィが、そこは両手をパンッて合わせてから地面に手をつくのよ! とか言っていたが無視だ。俺は錬金魔法は使うが鋼の腕でもなんでもないと言いたい。


『地形操作 』『 分解』 『結合』『固定』『硬化』


俺が魔法を発動すると、そこら中に穴が空いてデコボコだった駐機場のアスファルトの瓦礫が、その穴を埋めるように均等に置かれた。そして続けて発動した中級錬金魔法の分解でアスファルトを粉々に分解し、それを平らになるように結合させ最後にその状態を固定させた。そして最後に土魔法の硬化で地面を固めた。


「いつ見ても圧巻だわ」


「凄いわコウ……両手を地面に付けなかったのに何百メートルもの範囲を一瞬でなんて」


「旦那さま凄いな! あっという間に地面が平らになったぞ!? 」


「横浜の壁内の整備で練習したからな。蘭、衛星が生きているかも知れないから幻術でクオンを上手く隠して、グリ子達をあの屋根だけ残っている大きな倉庫に入れておいてくれ。セルシアは蘭を手伝ってやってくれ」


「はい! わかりました主様」


「わかった! 蘭行こう! 」


「あ、ちょっとせるちゃん! 幻術が先ですよ」


「さて、俺はあそこの倉庫に行ってくる」


蘭に指示をした俺は、先走ってグリ子達の手綱を引っ張るセルシアを横目に倉庫へと向かった。

その倉庫は屋根と横壁が破壊されているだけだったので、時戻しの魔法でサクッと元に戻した。

どうやらこの空港は15年ほど前に放棄されたみたいだな。

俺が元に戻した倉庫は高さが10mはあり、中には整備道具がそこかしこにあった。広さはそれ程でもない事から恐らく小型機の格納庫のように思える。


俺はこの倉庫に皆を呼び倉庫の中にそれぞれの魔導テントを張らせ、テントの前に大きな長テーブルと椅子を複数設置した。

そしてそのテーブルに恋人達とリムと以蔵に、ドワーフのゾルとニーチェの父親であるヨセフを座らせ今後の話をする事になった。


「取り敢えず並行世界の日本にやって来た訳だが、転移する直前にアマテラス様と話す機会があってな。この世界は方舟が現れてから20年後の世界だそうだ。西暦は同じなはずだから2020年となる。そしてこれが一番大事な事だが、この転移にアマテラス様はかなりの力を消費したようで、次に転移ができるのはこちらの世界で一年後となるようだ」


「え!? 一年以内には帰れないの!? 流石に人数が多過ぎたかしら? 」


「そうよね。クオンが特に大きいものね。凛ちゃん、でも仕方ないわよみんな一緒に来たかったんだもの」


「それもそうね。私もたくさん仲間がいて安心だしまあいっか」


「それにしても森や大地などの資源を失ってから20年後ですか……お屋形様が仰ってたように15億もの人族が残っているのは奇跡ですな」


「それでも元は70億いたのに20年で15億まで減ったのだから相当厳しい環境よ。まあ、先ずは情報よね。一年もいなくちゃいけないんだから、しっかりこの世界の事を調べておかないと。コウもそう考えてるんでしょ? 」


「ああ、夜になったらリム達と以蔵達には幻術で日本人に成りすましてもらい、小型と大型の無線機を持って本土に侵入して情報収集をしてもらう。だが以蔵と静音以外の者は発音がまだまだだから現地の者と絶対に喋るな。精霊魔法で闇からの情報収集に徹しろ。俺の予想では中華国は戦争で敵になった可能性が高い。見た目が日本人と中華国の人間は似てるから、誤解されて余計なトラブルの元になるかもしれないからな」


ダークエルフ達は日本語の読み書きは最初からある程度できていた。それは先祖代々日本語を伝えて来たらしいからだ。漢字に関しては古い漢字ばかりだが、かなりの数を知っていた。この辺はアトランのダークエルフ達と同じだな。しかし里には日本人がいないから、ヒアリングと発音は壊滅的だった。日本の学校の英語教育みたいな感じだ。それでも全く知らない者よりは覚えるのは早かったけどね。皆の努力の甲斐あって今では10年くらい日本にいた中華国の人間くらいの会話力はある。うん、日本人じゃないってバレるね。

以蔵と静音は40年の間に日本にしょっ中来ていて日本人の友人もいたからか、それ程違和感の無い日本語を話せているので心配はしていない。戦国時代の喋り方が上手くカモフラージュしているようだ。何が役に立つかわからないもんだよな。


「「「はっ! 承知致しましたお屋形様! 」」」


「蘭は以蔵達が出掛ける前に長時間解けない幻術を掛けてやってくれ」


「はい、主様」


「次にゾルとドグとイスラはこの倉庫内に組み立て式の小屋と、移動型の鍛治セットを設置してくれ。今は特に作ってもらう物は無いから、ゾルはドグとイスラに中級錬金魔法のコツを教えてやってくれ」


「おうっ! 任せてくれサトウの旦那! キッチリ仕込んでやるぜ! 」


「ゾルさんお願いします」


「ゾルのおっさんよろしくな! 」


鍛治で多用する中級錬金魔法はゾルに任せておけばいいだろう。ロリコンだが魔法の腕は一級品だからな。


「ヨセフ達は持ってきた魔獣の皮の加工を頼む。ニーチェはポーション作りをしていてくれ。今のところ在庫は大量にあるからそんなに急がなくていい」


「はい。わかりました。私達は作業用テント内で加工をしております」


「…………光希様のお役に立ちます」


「いつもいい子にしているセルシアには専用の魔導テントを用意したからな。蘭やシルフィと一緒に遊べたりもできるぞ」


「え? 本当か!? えへへ、いい子にしていて良かった。旦那さまも来ていいんだからな? 」


俺はセルシアが俺達のテントで寝ないようにセルシア専用の魔導テントを用意した。上海ダンジョンで手に入れた、恐らくお姫様用と思われる4LDKのテントだ。内装を現代風に変えた部屋も広いしお風呂も大きいし、トイレは現代の物と交換したしで超特別待遇だ。これは日頃よく俺とシルフィの言う事を聞いてくれているご褒美と、蘭の友達でいてくれる感謝の気持ちだ。決して恋人達とのイチャイチャの邪魔をされたくないからでは無い。

まあ正直に言うと、蘭としょっ中買い物に出掛けるようになってからセルシアは本当に綺麗になった。元々顔立ちが良い所に色々なメイクとファッションを覚えて、喋らなければ活発な美女という感じで非常に魅力的だ。もしも恋人達との夜のお楽しみ中に紛れ込んで来たら、ウッカリ手を出してしましそうで怖いから俺は隔離する事にした。嫌いじゃないし可愛い奴だと思うんだけど、イマイチ恋愛感情が湧かないから仕方ない。手の掛かる可愛い妹くらいにしか思えないんだよな。


「女の子の部屋は緊張するから俺はまたの機会にな」


「ふふっ、セルシアと久々に一緒に寝ようかしら」


「うふふ。せるちゃんに新しいメイクを教えてあげます」


「そっか、旦那さまはシャイなんだな。あたしはいつでもいいからな。今日の所はシルフィと蘭の相手をしてやるか。えへへ」


「ほんとセルシアは可愛いわね」


「せるちゃん可愛いから好きです」


「なんだよ〜 女に可愛いとか言われても嬉しくねーぞ! えへへ」


セルシアは口ではシルフィと蘭に文句言っているが頬は緩みまくりだ。ほんと可愛い奴だ。

俺はそんなセルシアの姿に少し癒されて最後にマリー達に指示をした。


「マリー達は持ってきた無線機と長距離アンテナの設置をして、リムと以蔵達が本土に向かったら無線機の前で交代で一人待機していてくれ。それ以外の時は自宅と同様に俺達のテントで家事を頼む」


「了解しましたマスター」


「それじゃあ各人準備をしてくれ。解散! 」


「「「ハッ! 」」」


「「「はっ! 」」」


「よっしゃドグにイスラとっとと組み立てるぞ! 」


「はい! ゾルさん」


「ゾルのおっさん! さっさと組み立てて魔法教えてくれよな! 」


「おう! 任せとけ! 」


皆並行世界に来た事への不安は無さそうだな。さて、俺は恋人達とこの格納庫を要塞化するかな。


「蘭とシルフィは作っておいたスクロールをアイテムポーチに入れて皆に渡して回ってくれ。凛と夏海は格納庫にこの改良型魔導結界盤を設置するから手伝ってくれ」


「はい! シル姉さんと配ってきます! 」


「わかったわ。ランちゃん行きましょう」


「ダーリン改良型って何? 範囲が広くなったの? 」


「ハマーに取り付けていた物ですかね? 」


「ああ、ハマーを改造する時に作ったんだ。効果範囲を変えて三重まで同時に結界を張れるようにした。上級結界を三重で張ればクオンのブレス10発は耐えられる」


「なにそれ!? そんなドラゴン以上の耐久力核攻撃にも耐えられるじゃない? 」


「女神の護りを三重にですか!? しかも破られたら都度張り直せばこの格納庫は絶対安全ですね」


「そういう事だ。ドワーフとホビットは戦闘経験が浅いし、戦えない者もいるからな。平時は俺が人が出入り出来るように結界を張って、敵が来たら結界盤を作動させれば安心だ」


イメージ次第で応用の利く魔法の結界と違って、魔導結界盤は一度外に出たら中に入れないからな。

俺の結界魔法ならここにいる者達は出入りが自由だ。

俺は驚きと呆れのような顔をしている二人を連れ、結界盤の設置をしていくのだった。


先ずは足場を固めて情報収集だ。一体どんな世界なのやら。








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