第21話 後始末






「これはまた蘭たちも思いっきりやったな……」


俺がヤンをはじめカイたちとケアンズの港に転移すると、そこは広い港のあちこちの地面が抉れてそこに溶けたクレーンが横たわっており、原型をほとんど留めていないコンテナがあちこちに散乱し、全焼した車両が複数ひっくり返った状態で置かれていた。

さらに港から採掘場までの道を囲む壁までが破壊され、そこから侵入したのか灰狼やパペットにヴェロキラプトルが徘徊していた。


「とりあえず港の中に侵入した魔物を一掃しろ。俺は壁を修復してくる」


「「「「「 ハッ! 」」」」」


俺がヤンたちに指示をすると五人は黒鉄の槍を手に一斉に飛び立ち、まずは動きの速い小型の恐竜のような見た目のヴェロキラプトルを狩り始めた。

ここにはCランク程度の魔物しかいないし、空を飛べるアドバンテージがあるからヤンたちに任せて大丈夫だろう。


俺はさっそく採掘場までの道を進み、あちこち破壊された壁を土魔法と時戻しで修復していった。

あー、この壁の上半分が溶けてるのは形からいって蘭の狐月炎弾ぽいな。誤爆したのかもな。これは時魔法で修復すればいいか。

次は……ここは消波ブロックが飛んできて壊されたのか……確か消波ブロックって一個20トンはあったよな? これはスーのブレスの余波だな。これは土魔法でいけそうだ。


俺は崩壊したり穴が空いたりしている壁を一つずつ修復していき、消波ブロックや車両などはそのまま地面に埋め、溶けたクレーンを元の状態に戻した。そして地形操作の魔法で海に面している部分に10mほどの高さの壁を作り、硬化の魔法で強化していった。

これでもうここへは船を接舷することはできないだろう。この状態の港を元に戻すには年単位の時間が掛かるはずだ。


しかしかなりの範囲に一気に壁を作ったのにまだまだ魔力に余裕があるな。正確には魔力が変化して神力になったので神力と呼ぶべきなのだが、俺は別に神になったわけじゃないからな。魔力のままでいいだろう。まあこの神力に格上げ?したおかげなのか、威力が上がって魔法を使ってもあまり魔力を消費しなくなったのは確かだ。


「光魔王様! 掃討完了いたしました! 」


「ご苦労さん、ちょっと地面を平らにするからあそこの上で見ていろ」


「ハッ! 」


俺はヤンたちを労い、壁の上で見ているように言ってから港全体のデコボコの地面を地形操作で一気に平らにした。そして港の中心部をこれでもかというくらいの魔力を込めた硬化の魔法で地面を固めたのだった。


「ふう……これならば大丈夫だろう。ヤン、ここに岩竜を着陸させるようにな? ここなら岩竜が着陸しても地面が陥没しないだろう」


「ハッ! 」


「カイたちもこの場所をよく覚えておけ。お前たちにはヤンの補佐をしてもらうから、岩竜に乗ることも多いはずだ。すぐに人員を募集するからそれまでは頼むぞ」


「「「「ハッ! 」」」」


「あ、あの……光魔王様。岩竜でここに来ることが今後あるのでしょうか? 」


あれ?ヤンからレムは聞いてないのか? 俺がカイやレムたちを補佐にすることを、ヤンに言ってなかったからかな?


「ああ、ヤンにしか言ってなかったな。うちの会社はこのオーストラリア大陸で竜を使った運送業をやることにしたんだ。竜の宅配便的な? 」


「ド、ドラゴンで宅配便……ですか? 」


「まあ個人宅に配送するわけじゃないから宅配便と言うのはおかしいか。パース市と各街間での資源や食糧などの輸送だな。ロットネスト島の港とこのケアンズに、次に行くブリスベンやシドニーなんかを往復するだけだ。岩竜の足にコンテナやら鉱物をぶら下げてな」


そう、俺が執拗に港を破壊させたのはこの事業のためだ。表向きはパース市を侵略させないためと言って大都市にある大きな港の使用を禁止させ、代わりに岩竜による空路での輸送業務を行う。え? 汚いって? 世の中には石油の価格を上げるために、産油国に戦争を仕掛けて滅ぼす国もあるんだ。それに比べれば良心的なもんだよ。

実際あのまま港を使わせると、またどっかの国の後ろ盾を得て野心が芽生えないとも限らないからな。


そうなればまたオーストラリア大陸内で戦争になるし、いつまでたってもダンジョンを攻略しようなんて思わないだろう。適度に飢えるくらいがちょうどいいんだよ。ソヴェートなんて魔石と食糧を得るために国民総出でダンジョンに潜ってるんだぜ?

ダンジョンが現れてから居住できるエリアが限られたうえに戦争ばっかりしているからか、このオーストラリア大陸の人口は増えていない。人口600万に満たない程度だ。しかし少ないからこそ資源が豊富なこの大陸では貿易だけで食べていける。でもそれじゃあずっとこのままだ。


このままではいずれ既存のダンジョン全てが上級ダンジョンになり増殖していく。そうなったらこの大陸にある都市は滅ぶほかない。この大陸に変化を与えるためにこれは仕方のないことなんだ。


今後ロットネスト島とパース市の港がこの大陸の玄関口となる。各都市で採掘した鉱物は全て岩竜によってロットネスト島に運ばれる。そこで世界各国の船に載せて輸出するわけだ。各都市の注文を受けてパース市が買い付けた食糧なんかも、ロットネスト島で受け取り各都市に岩竜で輸送する。小規模の都市へは小さな港は残してあるので、そこから中型船で輸送すればいい。


ロットネスト島の港の運営と管理は皇グループに丸投げをする。うちの会社は輸送業だけ管理すればいいからなんとかできるだろう。また引退した探索者や冒険者をかき集めないとな。支店はロットネスト島の兵舎と軍司令部のあったビルを支店として使うから設立費用もかからない。凛が大喜びするわけだな。


そしてこれが俺の一番の目的なんだが、いずれ海にダンジョンが現れ魔物が海に出現するようになった時に、このドラゴンによる輸送のノウハウは役に立つ。大型タンカーに高ランク冒険者を数パーティ乗せれば船での航行も可能だが、すべての国がそれをできるわけじゃない。飛空艇はそうそう量産できないし速度も遅い。

竜を生み出せる創造の魔法はこの世界を救う魔法だ。方舟に行って良かったよ。


この大陸での会社の名称はどうしようかな。名称はLight mare CO. LTD.ロットネストアイランド支店 ドラゴン事業部って感じになるかな。それならヤンは支店長兼部長か。給料上げないとな。


そんなわけで今後はパース市がこの大陸の世界の窓口となり、うちの会社が玄関口となる。そしてクイーンズランドや正統オーストラリアはパース市に依存しないと生きていけなくなる。

さすがにこの二つの都市国家は、リスクが高いからとダンジョンの攻略をして魔石を得ようとするだろう。魔石なら鉱物と違い軽いから中型船で他国と貿易ができる。

それならそれでいい。貿易ができる国はここからはどこも遠いし、中型船で運べる量は限られる。パース市が無ければ国民をまともに食わせていけないのは変わらない。それに魔物の間引きができるならそれはこの大陸の為にもなる。


まあそんな思惑も含めてカイやレムたちに説明した。そしてLight mare CO. LTD.ロットネストアイランド支店 ドラゴン事業部の初代支店長兼部長にヤンを抜擢することもね。カイたちにはヤンの補佐をしっかりやって欲しいと言ったらなんだかみんなやる気になってたよ。

輸送途中で飛竜との戦闘もあるだろうし、なにより竜に乗って大陸中を飛び回るのが楽しみらしい。


岩竜に近づく魔物はいないと思うんだけどな。たまに無鉄砲な飛竜もいるから可能性はゼロではないけど。

なにせ飛竜はバカだからな。今の俺の技量で創造魔法で飛竜を創ったらさらに馬鹿になるから、俺以外の言うことは聞かないと思う。俺が今後ヤンの指示に従えと言っても理解できないだろう。そんなの危なくて使えやしない。



竜の発着場を作った俺は、最後に港全体を最終チェックして次の街であるブリスベンへとヤンたちを連れて転移をした。



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「よしっ! こんなもんかな。魔力消費が減ったうえに強力になった分あんまり時間掛からなかったな」


ケアンズの港から始まりブリスベン、シドニー、メルボルンと竜の発着場を作っていったが、予定より早く終わった。ケアンズとシドニー以外は魔物の侵入も無く、ヤンたちは上空で飛行系魔物の警戒をずっとしていた。暇なら狩りをしてきていいぞと言ったんだけど、護衛ですので光魔王様からひと時も離れませんときたもんだ。


それならと昼時にヤンたちインキュバスにセルシアが作ってくれたサンドイッチを渡し、俺はレムとメイを両隣に置いて夏海の作ってくれたパスタを食べさせあいっこして楽しんだ。セクハラ付きで。

うっかりレムとメイの胸の谷間にベーコンが落ちちゃってさ、両手は二人のお尻から離れないし仕方なく口で取ってあげたんだ。これがなかなか取れなくて二人の大きなおっぱいのあちこちを噛んじゃってさ、突起を甘噛みした時やベーコンのあった場所を舐めて綺麗にしてあげた時は二人とも顔を赤くして嬉しそうな声を出してくれた。とっても楽しいランチタイムだったよ。


さて、まだ15時くらいか……リムや以蔵たちからはさっき終わったと連絡が来たし、蘭たちは昼頃にとっくに家に帰ると連絡が来てた。

俺はレムたちのためにもロットネスト島に行って、プライベートビーチにする場所を探そうかな。

俺はヤンたちに帰ることを告げてパース市へと転移をし、今日はご苦労さんと五人を労った。

それからヤンたちに横浜の家とパース市を登録した転移のスクロールを多めに渡し、今日はもう自由にしていいと言ったら岩竜に乗って今日行った港を回りたいと言いだした。


休めばいいのになぁと思いつつ、真面目な社員のやる気を削ぐのもアレなので街の上を飛ばず海側から遠目で確認するだけにするようにと言って許可した。

さすがに昨日の今日でまた竜が来たら街の人たちがかわいそうだ。


俺はヤンたちが岩竜にそれぞれ乗り込むのを見届けてロットネスト島へと転移をしたのだった。




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