第43話 I ♡ America
『
ゴォォォォ……
ドゴオォォン!
「うんうんいい感じだ。さて、出発するかと言いたいところなんだが、アメリカの場所がわからん。GPS端末はもらってきてないしな。持ってきてたとしてもアメリカの衛星使ってるから居場所がバレバレか。確かシルフィはアメリカに行ったことあったよな? シルフに案内頼めそう? 」
土田のオヤジたちを救出して実行犯のクロウとかいう特殊部隊の連中をクオンの背に乗せ、蘭にグアム基地を破壊させた。その光景を見た特殊部隊員は全員が驚愕した表情で目を見開いていた。隕石が落ちるとこなんてそうそう見られないからな。
まあここまではよかったんだけど、俺はアメリカの場所を知らない……ここからだとハワイくらいまでしかわからん。
「何度も行ったことあるから大丈夫よ。シルフが下級精霊を使って案内してくれるって」
「おお〜よかったよ。それじゃあ限界まで高度を上げて全速力だな。クオン頼むぞ! ご褒美にお前のアイテムバッグに追加でトロールキングの肉を入れておいてやるからな」
クォォォォン! クォォォォン!
「うふふ。クオンちゃんが単純すぎて可愛いです」
「この子ほんとに食べ物に弱いわよね……」
「こういう所が扱いやすくていいんだけどな。これでヘタレじゃなかったらな〜」
俺は食い物に釣られてやる気になるクオンを可愛く思いながらも、少し強い相手が現れると途端にヘタレるクオンを残念に思っていた。
それから4時間ほどクオンを飛ばした頃、もうそろそろアメリカ大陸が見えてくるとシルフィが言うのでシルフィと蘭に風の隠蔽と幻術を解いてもらい高度を下げさせた。そしてカリフォルニア州の海岸が見えたところで8機の戦闘機のお出迎えがきた。
さすがアメリカだ。これだけの数をまだ飛ばせるのか……今までどんだけ日本から搾取してたんだって話だけどな。
俺たちはミサイルを放つ戦闘機と、狼狽する特殊部隊員たちを無視して真っ直ぐカリフォルニアへと向かうのだった。
カリフォルニア州上空に辿り着くと地上からの激しい対空砲火の出迎えも受けることになった。俺はそれを嘲笑うかのようにクオンに低空飛行をさせ、全て受けきりながら進んだ。当然クオンの魔法障壁は空と地上からの攻撃を全て防いでいた。
魔法を付与した弾頭じゃなければ当たる手前で弾けるロケット花火を撃ち込まれたようなもんだ。
それから更に二時間ほど進み、もうすぐアメリカ大陸を横断できるところまで来た。途中弾薬切れで戦闘機が引き返したり、新手の戦闘機が現れたりしたがクオンに傷一つ付けることはできなかった。効かないとわかってても撃つしかないよな。俺たちは首都ワシントンDCに向かってるんだからな。
「ここら辺がバージニア州か? それならもうすぐか……あっ! アレがペンタゴンてとこだろ? テレビであの特徴ある建物を見たことある。あそこに拉致した人を運ぼうとしてたのか……さすが対空砲火が激しいな。クオン! 手前の建物は無人ぽいから焼き払え!」
クォォォォン!
グオォォォオ!
「あ……ああ……国防総省が……」
「うん、いい感じだな。クオン! 次はホワイトハウス見学だ! 行くぞ! 」
クォォォォン クォン! クォォ!
「なんだって? ビルが建ち並ぶところに着陸してブレスを吐きたい? アホッ! 怪獣映画の見過ぎだ却下! 俺は民間人を虐殺する趣味はない。門のある大都市に人が集まってるみたいだから今回は警告だけだ。警告を無視して懲りずに敵対した時に気は進まないがやらせてやるよ」
クォォ……
「そんなに戦いたいなら元の世界に戻った時に、ダンジョンから上位竜を連れ出してきて戦わせてやるぞ? 」
クォォン! クォッ! クォッ!
「そこは戦いたくないとかじゃなくて進化するために戦いますって言えよ……経験値プラス自分より上位の存在を倒さないと上位竜になれないんだぞ? こりゃエメラの方が先に昇格するな……」
進化するには種族ごとに色々条件があり、魔獣や魔物系はたいていが必要経験値を得た上で上位の存在を倒すと進化する。ちなみに蘭のように魔獣ではなく聖獣に近い存在である火狐は、経験値と上位の存在を倒すことと別途アイテムや精神的に強い想いなどが必要になる。
ちなみに人種は進化はしない。古代にはハイエルフやハイヒューマンやらエルダードワーフがいたらしいが、進化の条件が失伝していて誰にもわからないんだ。一説には神の祝福が必要と言われているがその祝福がなんなのかもわからない。加護とは違うのかね? エルフの場合、契約した精霊が進化というか昇格するから他の人種よりはポテンシャルが高いと言えるかな。精霊の昇格には契約者のランクと精神的な成長が影響するらしい。シルフィの場合は例外中の例外だ。
クオンを上位竜にしてやりたいが弱いからな……どこかで鍛えないとな。大世界の門とか大きくならないかな? 中世界で15mだからあとちょっとなんだよな。20mの幅と高さがあれば、ほふく前進させて通れるんだけどな。でもコイツ最近太ったからな……最悪余分な肉を剣で削ぎ落とせば入れるかな?
クォッ!クォッ!
「ん? あれ? 念話で考えてたか? ははは、冗談だって。肉を削ぎ落としたりしないよ。多分」
クォォ! クォォ!
「主様、蘭にも念話届いてました。クオンちゃんがかわいそうです……蘭が頑張ってクオンちゃんを痩せさせます! 」
クォォォン……
なんか俺の多分て言った言葉にツッコミ入れた後に、蘭の言葉に元気を無くしたな。まずはこの楽をしようとするニート体質から改善しなきゃな。大世界の最奥で一週間狩り続けさせるかな……
俺がクオン再教育計画を考えているといつのまにかワシントンDCに辿り着き、ホワイトハウスが見えてきた。
「クオン! あのホワイトハウスの南側にある楕円形の広場に着陸しろ! 空にならブレスを吐いていいぞ! 」
クォォォォン! クォォォォン!
俺はホワイトハウスの周囲をガッチガチに守る戦車や万単位でいる兵士を見ながらその手前にある広場に着陸するようクオンに言うと、怪獣の真似ができると思ったのかクオンは急降下していった。
やっぱホワイトハウスを目指してるのわかったみたいだな。でも大統領なんてとっくに方舟に退避済みだと思うんだけどな。国の象徴的な建物だから守ろうとしてんのかね? 全てを捨てて方舟に逃げた中華軍とはえらい違いだよな。
しかし凄い弾幕だ……とりあえず挨拶をするかな。なんてったって初めてのUSAだからな。
あっ! 警告しに来たのにこの服は失敗したかも。今さら着替えるのもなぁ……ここに来る途中でシャワー浴びた時に蘭が用意してくれたのを何も考えず着てしまった……蘭は何を考えてんだよまったく。
ーー ワシントンD.C アメリカ防衛軍 第1軍 ミッキー・テイラー予備兵 ーー
俺は退役軍人だ。退役軍人といえどもこんな世の中だ。ワシントンD.Cにある門から資源フィールドに二日に一度は狩りにいって自分と家族の食い扶持を稼がなきゃならない。そして換金してドルを手に入れないと今はいいが子供が大きくなった時と老後が心配だ。まあ、Cランクの俺には奥地に行かなければたいした事じゃない。
軍にいた頃はよかった。食うものに困らないし給料も高かった。だからその分軍に入りたい奴はいっぱいいた。高い倍率をくぐり抜けてやっと軍に入りニホンに派遣され順調だったのに……あのクソ大統領が長年の盟友であるニホンを追い込んだおかげで、とうとうニホンも我慢の限界を迎えて連合を脱退しちまった。そしてニホンから撤退した俺は人員削減の対象となり、35を超えて階級も低い俺はお役御免となっちまった。
あの大統領になってニホンを攻略戦から外してから新規で攻略に成功したフィールドは無い。当たり前だ。ニホンのウィザード無しに攻略なんてできるはずがない。死亡率も上がったがそれでも若者はこぞって軍に入りたがる。
ニホンにいた頃はよかったな……最後の二年は制裁をしていたおかげで居心地が悪かったが、それまではほんとに良かった。100年近い同盟国だ。住民も信頼しきってくれていた。
はぁ……今日は狩りに行かずに政府に対してのデモに参加しよう。
俺は妻にデモに参加することを伝え、家を出て車でデモの集合地点に向かっていると街中にサイレンが鳴り響いた。
「なっ! ? 空襲警報だと! ありえない! 」
合衆国に戦争を仕掛けるのもだが、防衛網を突破してこの首都に到達するなんてありえない!
だがミサイルが飛来する警報じゃない。とにかくエイミーに電話を!
俺は妻に子供を連れてシェルターに行くように公衆電話から急いで伝え、予備兵としてマニュアル通りに基地へと向かった。
車に積んである装備を身に付けてから基地に着くと急いでトラックに乗るように言われ、しばらく乗っていると対空砲火の音が聞こえてきた。俺と周囲の奴らはなんで空襲の最中に陸軍が向かわされているのか怪訝に思いながらトラックに揺られ、そしてホワイトハウスの前にたどり着きトラックを降りたらそこにはドラゴンがいた……
「予備兵は槍を構えろ! 戦車による一斉砲撃の後に方舟攻略部隊が突撃する! その後に続け! 臆するな! 合衆国を守れ! 」
「おいおい……なんだよこれは……なぜドラゴンが? しかも砲撃がまったく効いてない…… 」
冗談じゃない! 砲撃がまったく効いてないどころか鱗にすら届いてない! バリアーみたいなもので防がれてる! アレは高ランク魔物と同じだ。魔法か魔力を込めたニホンの武器じゃないとダメージを与えられない! 予備兵の持つ武器じゃ攻撃するだけ無駄だ! 攻略部隊でだって勝てるとも思えない。
ん? 赤い竜? それに背に人が乗ってる? 弾幕でよく見えないがもしかしてニホンを襲った竜じゃないか? 確か新聞にニホンのポリス2000人を一瞬で殺したとか書いてあったな。その時の写真の竜じゃないか?
『盛大な出迎えありがとう。だが、今から攻撃をした者には死んでもらう』
グォォォォォ!
「うおっ! アチっ! な、なんだ! 急に耳元に声が! 」
なんだ? 突然声が耳元で……それよりあのブレス……空に向かって吐いたのにまるで火の中に入ったかのように顔が熱い! やばいぞ! アレはやばい!
恐らくドラゴンに乗っている者が喋ったんだろう。魔法か何かで声を届けてるのか? 周りのやつも聞こえたらしくキョロキョロと周囲を見渡していた。
ドラゴンがブレスを吐き砲撃が一瞬止んだが少しして無線で攻撃開始の号令が掛かり、広場の反対側に陣取っている戦車部隊が一斉にドラゴンに向かって砲撃を開始した。
『警告はしたぞ? 』
グォォォォォ!
「……………」
ドラゴンが戦車部隊に向かってブレスを吐いた……戦車部隊は盛大に爆発しつつ溶けて鉄の塊になった。
爆発の余波も破片が飛んでくることも無かった。全てが高熱により溶かされていた。
それを見た俺と周囲の奴らは目を見開き言葉を失っていた。無線も静かだった……
『攻撃をしなければ何もしない。この街を、国民を守りたいなら大人しくしていろ。次は後方にいる指揮官。お前のことだ。お前に向かってブレスを吐く』
《 そ、総員攻撃中止…… 》
『わかればいい。俺の名は佐藤光希。Light mareというパーティを率いる日本人だ。仲間にはこのドラゴンの他にグリフォンもいる。ここまで言えば方舟攻略部隊ならわかるな? 中世界草原フィールドを攻略したのは俺たちだ』
「おいおいグリフォンて……じゃあ、あのサトウとかいうやつがフィールドで中露の精鋭を一瞬で焼き殺したって奴か? そして数千いるボスの白狼が率いる群れを一瞬で殲滅したっていう? 」
確か雷の魔法を使うと言っていたな。ならあの男も雷の魔法を使うということか?
サトウという男の警告の後に砲撃が止み、ドラゴンの姿がよく見えるようになり、その背に乗っている男もここからよく見えた。
ん? あの耳の長い美人はエルフ? それにあのチャイナドレスを着た美女に、特殊部隊の戦闘服を着た奴らもチラッと見えるな。
間違いない。ニホンで暴れていた奴らだ。新聞の写真で見たことがある。しかしあの男……白いTシャツにジーンズとかとても合衆国の首都に乗り込んでくる服装じゃない。しかもTシャツにプリントされたあの文字……なにが『 I ♡ America 』 だ!馬鹿にしてんだよな? そうだよな?
俺はこのふざけてるんだかなんだかわからない男を見て、防御力なんて皆無のラフな服装でこの合衆国の首都に乗り込んでくる絶対的な自信をその姿から感じていた。
なんでこんな化け物を敵にしちまったんだこの国は……
司令官、頼むからこれ以上刺激するなよ? これは敵対したら駄目だ。ここにいる奴らは間違いなく全滅する。
おお神よ……どうか我らをこの災害からお守りください。
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