第32話 戦後処理




「これが創魔装置か……」


俺の目の前には台座に乗せられたひし形の深紅の魔結晶が、無数のコードに繋がれた姿で鎮座していた。

そしてそのコードの先は様々な大きさの容器に繋がっており、そこでは絶えず魔石が生成されているようだった。


「あの中央にあるのは魔結晶よね? 前にダーリンが見せてくれた最上級ダンジョンのコアと同じ大きさね 」


「5mはありますね。さすが最上級ダンジョンのコアなだけはあります」


凛と夏海がかなり前に見せた最上級ダンジョンの魔結晶を思い出しつつ、台座の上の魔結晶を見上げながら言う。


「すげー……でけーなー」


セルシアは初めてこれほど大きな魔結晶を見るからか、口を開けて驚いているな。


「まさかこういう使われ方をするとは思わなかったけどな。都市のインフラか魔導技術の発展にと思って置いていったものが、この世界を滅ぼす道具になるとは……」


王国に2つ、獣人族に1つ置いていった最上級ダンジョンのコアを、古代文明を滅ぼした一因と思われる創魔装置に使うとは……リアラはこの創魔装置のもっと強力な物が原因と言っていたが、あの魔砲やらを見ればなぜ滅んだのかだいたいわかる。恐らく創魔装置を連結させ、長距離砲を撃とうとした時に暴発して古代文明は滅んだんだろう。その跡地が奈落なんだと思う。


そしてその後、冥界から奈落を通して瘴気が流れ出て地上にいる生物を蝕んだんじゃないだろうか?

リアラや精霊神など力ある神々が地上から瘴気を取り除いた時には、あらゆる生物が滅ぶ寸前だったんじゃないか?


リアラも黙って見てたわけじゃないだろう。何度も教会に創魔装置の使用をやめるように言ったと思う。

しかし驕り高ぶった人種は耳を貸さなかったか、信仰を忘れ聞くことができなかったか。

現代と同じく物に溢れていて、信仰心も薄れリアラの力も弱かったのもあると思う。


あのリッチエンペラーの書庫にあった文献を見る限りでも、ダンジョンですら既に脅威に感じないほどの魔導文明を築いていたみたいだしな。むしろダンジョンを魔界から魔素や魔石を運んできてくれる装置として見てたような記述もあった。


遺跡の古さから、人種が自滅してからは世界を元に戻すのに相当な歳月を費やしたと思う。当時はダンジョンがあったから大地から魔力を抽出されても耐えられたが、ダンジョンの無くなったこの世界でこの装置は世界の崩壊を呼び起こす。だから俺に破壊してくれと頼んできたんだろうな。

まあ俺の勝手な推測だが、いい線いってると思うんだよね。




「主様の好意で譲った魔結晶を……あの時あんなに感謝されたのに……」


「300年以上経ってるんだ。仕方ないさ。いずれにしろこの魔結晶が無ければもう二度と作れない。魔結晶を回収して光一に破壊させよう」


俺は悔しそうにしている蘭の肩を抱き、そう言って創魔装置中央にある魔結晶を固定しているコードをミスリルの剣で切っていった。そして台座に飛び乗り魔結晶をアイテムボックスへと回収した。


俺たちはもうここには用はないと建物を出て、外で待機している光一と竜人族にこの建物を徹底的に破壊するように指示をした。


「俺が? この建物を破壊することになんか意味あんの? 」


「光一、この施設の破壊は女神が望んでいたことなんだ。お前を正式な勇者にするために必要なことなんだよ」


「光希と同じ勇者に……わかった! 俺が徹底的に破壊しておく! 待ってろよ光希! 勇者の称号を得ていつか必ず光希と肩を並べて戦える強さを手に入れてみせるからな!そして俺のことを認めさせてやる! 」


「もうとっくに認めてるさ」


俺の身代わり地蔵としてな。


「そこまで俺のことを評価してくれてたなんて……教祖の役割を押し付けられた時は恨みもしたが、あれは勇者になるために必要なことだったんだな。自分と夏美たちのことしか考えていなかった俺に、人々を救うという意識を植え付けるために……俺が馬鹿だったよ」


「え? あ、うん。わかってくれてよかった。何も言わず悪かったな。それじゃああとは頼んだ」


やっぱり光一は馬鹿だったよ。俺は若い時あんなにおめでたい頭だったのか……そりゃ召喚された時に師匠に甘い甘すぎるってしごかれた訳だ。ハニートラップにも引っ掛かりまくってたしな。落ち込むわ〜


俺は光一の残念さと自分の若い頃が重なり落ち込みつつも大聖堂へと向かった。


王城の方はギルセリオとエフィルとララノア、小太郎にゼルムが絶賛公開処刑中だ。


エフィルや小太郎たちエルフは、王都にある魔導技術研究施設から奪われた精霊石を回収したのちに光一とともに王城に乗り込んだ。獣人たちは貴族街を包囲し貴族を捕らえていっていた。

隠し通路から王都の外に逃げようとした者も多くいたが、その全員が外に待機していたサキュバスやハーピーたちに捕まった。


こうして王族と宰相など王城にいた者や、貴族街にいた貴族は全員捕らえられ王城前の広場で即時処刑されることになった。裁判などない。王都民を集め仲間の精霊石が見守る中、粛々と事務的にまるで屠殺するかのように殺していっている。

女性と16歳未満の男子は見逃すが、それ以外は全員処刑される。

王族や貴族であることが既に罪なのだ。俺が増やしたエルフをさんざん減らしてくれたんだ。当然の報いだろう。


俺としては光一のおかげで不完全燃焼だが、まあそこは帝国との戦いで発散させてもらうさ。

先に帝国に放った吸血鬼部隊と以蔵たちによる段取りはうまくいっている。帝国は一撃で滅ぼす。


俺は大聖堂に向かう途中、王城方面から感じるエルフや獣人や竜人たちの荒ぶる魔力反応と、それに呼応するかのように聞こえてくる悲鳴や断末魔を聞き流しつつそんなことを考えていた。




「これがダーリンを召喚した召喚陣……」


「この召喚陣のせいで光希は苦しむことに……」


「私も初めて見るわ。この召喚陣が代々の勇者様を召喚した女神様に与えられた召喚陣なのね。綺麗な表向きの話しか知らなかった時は、この召喚陣を一目見たいと憧れたものだわ。今はコウを苦しめた忌まわしい物にさえ思えるわ」


「違うよみんな。この召喚陣があったから蘭やシルフィ、そして凛に夏海にセルシアと出会えたんだ。この召喚陣は俺たちにとって運命の召喚陣だよ」


確かに死ぬほど辛い思いをしたのは事実だ。けどそれは愛する彼女たちと出会うために必要な試練だった。

そう思えばこの召喚陣に感謝の気持ちさえ湧いてくる。

不思議だよな。召喚された時はこの召喚陣を憎み恨み、いつか必ず破壊してやろうと思っていたのにな。


「そんな風に想ってくれるなんてダーリン……私たちと出会うために苦難を乗り越えてくれてありがとう。ダーリンと出会えて私は幸せよ」


「コウ……平和な日常を壊した召喚陣を、私たちと出会うためのものと思ってくれるなんて……」


「運命……あたしと出会うために旦那さまは召喚されたんだな! これ持って帰るか? 」


「うふふ、セルちゃんこの召喚陣は持って帰れませんよ」


持って帰って誰かが召喚されてきたらどうすんだよ。リアラに魔王を送るから討伐しといてねとか言われそうだ。ある日家の近くに魔王が現れましたとか悪夢だろ。


まあしかし人生不幸だと思ってたことが、いつ最高の幸運に変わるかわからないもんだな。

頑張ってきてよかった。この召喚陣のおかげで最高の恋人たちと出会えた。


でも……


「これは破壊する。もう二度と勇者という世界の奴隷を召喚できないように」


召喚された勇者全員が俺のように幸せになった訳じゃない。

多くの者が魔王を倒す前に、もしくは魔王に敗れ死んでいった。魔王になった者さえいる。


だから、俺はこの召喚陣を破壊する。


「そうね。ダーリンと出会えたことには感謝しているけど、こんな誘拐装置は壊すべきよね」


「魔王を倒したあとに破壊する予定でした。やっと壊すことができます」


「この世界にはいらないものね。コウ、思いっきりやっちゃって」


思いっきりやりたいが、今の俺が魔法を放ったりしたら大聖堂が崩壊しかねない。帰還する時にここは使わないとはいえ、さすがにリアラに怒られるだろう。


帰還に必要なものはリアラの言う通り、ムーアン大陸の最南端の獣王国跡地にあるのは確認済みだ。浮遊島にあった教会が島の一部と共に大地に突き刺さっていたらしいからな。

砲撃を受けた痕があったことから、恐らく帝国が破壊しようとしたんだろう。まあ無駄だろうな。浮遊島の教会はリアラの神力で守られてるから壊せるはずがない。帰還する時はあの教会と共にリアラの島に転移する予定だ。


「まあ神力を使った地形操作にしておくよ。召喚陣さえ機能しなくなればいいからな」


俺はそう言って両手を召喚陣に置き、神力を乗せた土の上級魔法の地形操作を発動した。


俺が魔法を発動するとかなり強い抵抗があった。しかしそれを力でねじ伏せ、無理やり召喚陣が描かれている床ごと崩壊させ混ぜ込み地中深くに埋めた。

そして地表に出た土を錬金魔法と硬化の魔法でガッチリ固めた。


「これでいいだろう。もうこの世界に勇者が召喚されることはないだろうな。リアラももう必要ないと思ってるだろうし」


「そうね。世界の召喚陣はもうないわね」


「あはは、シルフィの言う通りね。セルシアや以蔵さんのいた世界にはまだあるのよね〜」


「その辺は光一に頼むさ。ちょっとリアラ像のとこ行って中間報告してくる。なにげにリアラ像に祈るの初めてなんだけどな」


「うふふ、主様は司教さんが何度言っても頑なに祈りませんでしたね」


あの時はリアラにムカついてたからな。


俺は恋人たちに先に外に出てもらい、大聖堂の一階にあるデカイリアラ像に向かって祈った。

すると微かにリアラの声が聞こえてきて、よくやってくれましたという言葉と信仰をと言う言葉を残して消えていった。


どうやら力がさらに弱まっているようだ。

まあ兵士という信者を大量に殺したからな。

早いとこ獣人たちと帝国民に信仰を始めさせないとマズイかも。帰れなくなったら大変だ。


俺は処刑を無理やり見学させられている司祭やシスターたちに、とっとと隷属魔法を掛けて大陸に解き放とうと決意するのだった。





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