第21話
――横浜上級ダンジョン壁入口 陸上自衛隊 第一ダンジョン攻略連隊 第一中隊長 玉田 学 一等陸尉――
『こちら壁南側第2小隊! トロールと交戦中! 5名負傷! 応援求む!』
『こちら壁東側誘導第1小隊! 2体のトロールが進路を外れ南東の建物を破壊して移動中! こちらはオーガと交戦中対応不可! 応援を求む!』
「各小隊現状にて奮戦せよ!」
「中隊長! トロールが西側のこちらに来ます! 命令を!」
「全員これより後ろは市街地ですここで食い止めますよ! 私に続け!」
「うおおおおおおお!」
無線で各地の小隊からの応援要請を私は切り捨てた。どこも兵員に余裕は無い。
探索者協会と共にこの西側は死守せねばならないのです。南側はまだ市街地には距離があります。西側のここを守れば、南側は応援部隊が間に合うかもしれない。
私はここを守る各小隊に玉砕を命じ、自らも先頭に立ち駆け出したその時……
『豪炎』
「グボオオオオ」
「「「グガァァ」」」
「「「ブギーーーー」」」
『こ、こちら第2小隊! 探索者らしき男女2人組の助勢を受けトロール討伐完了!』
「なっ!?」
私たちがトロールに駆け寄ろうとした瞬間、女性の声が聞こえたと思ったらトロールは業火に焼かれ一瞬で塵と化した。その後ジーンズに赤いジャケットと、今まで街を歩いていましたと言わんばかりの格好をした青年が現れ、40体以上いたオーガとオークへ恐らく闇魔法であろう魔法と剣を振るい、次から次へと一刀の下に斬り伏せていった。
そしてその青年の隣にいる女性が恐らく強力な火魔法を放った張本人であろう。昇り竜の刺繍がされた紫色のチャイナドレスを身に纏い、扇を手に持ち立っていた。
彼らが現れると同時に第2小隊からの無線が流れ、私は第2小隊を救ったのがこの2人組であることを理解した。
「よしっ! 蘭、次は東側に行くぞ」
「はいっ!」
「ちょ、ちょっと君……たち……」
私が声をかけようとするも彼等は気付かず、もの凄い速さで東側へと駆けていった。
ここにいる者たちも皆があまりの出来事に呆然としていたが、私は隊列を整えるよう指示を出した。そして数分後。
『こちら第1小隊! 南東に向かったトロールは何者かの火魔法にて消滅!』
予想通りの報告が入った。
「彼らはいったい? 探索者協会の応援部隊でしょうか? しかし、あれほどの人材の話は聞いていませんし……いえ、今は彼らの素性よりも、戦線を押し上げるチャンスですね。あの二人のことは後で確認しましょう」
私は戦線を押し上げ壁入口から出てくる魔獣に圧力をかけ、東側へ追いやる作戦に変更するよう指示を出した。
「西側の守りに1個小隊を残し、我々はこれより壁入口まで前進し壁から流出する魔獣に圧力をかける! 進め!」
部隊を進め車両を乗り入れさせ、時折効果は無くとも牽制に手榴弾を投擲するなどして、一度に接敵する魔獣の数を調整し交代で戦うことを繰り返した。我が中隊も探索者も死傷者が出たが、魔獣も壁の前に死体が重なりなんとか西側への侵攻を抑えていた。しかしそれでも未だ50体以上の魔獣と死闘を行なっていた。
そんな時に彼は再び我々の前に現れ魔法を放った。
『闇刃』
10枚以上の闇の刃が次々と魔獣の首を刈っていき、50体以上はいた魔獣を殲滅した。
そのあと彼は女性自衛官の前に立ち、一言二言話したと思ったら壁入口に向かい、雷でできた大きな鳥を壁内に放ち道を作った。
そのうえ大量の水を出し、まるで津波のように中の魔獣を押し流した。更に信じられないことに空から稲妻を降り注がせ……
壁内の魔獣を全滅させた。
「……な、なんですか今のは! 何がいったい何が起こって……彼は何者ですか!」
「じ、自分にもわかりません……まるで漫画やアニメの勇者のような……」
「そんなおとぎ話のような話を聞いていません!」
「ハッ! 申し訳ありません!」
「いえ、私こそ動揺していたようです……確かに雷魔法とあの圧倒的な武力は、学生の頃に読んだ小説の勇者のような……ふふ……そうですか……ええそうですね。いずれにしろ彼が勇者でもそうではなくても、彼が私たちの救世主であるのは間違いありませんね」
「ええ、確かに彼は救世主です」
「でしたら私たちも助けられてばかりはいられません。東側に誘導した魔獣を追い立て、海上艦の的にしましょう」
「ハッ!」
「各部隊に伝達! 壁入口に2個小隊を残し探索者協会と共に全軍東側へ魔獣を追い立てよ!」
「ハッ!」
私たちはその後、東側海岸沿いまで魔獣を追い立てた。それにより魔獣は航空機からの爆撃と海上艦からの壮絶な砲撃で数を減らし、残った手負いのオーガを我々で殲滅した。その後施設中隊が到着し壁の入口を急ぎ塞いだ。また、各方面からの援軍も到着し攻撃ヘリや魔法使いに近接職などが多数増員され、万全の態勢を整えた。
ダンジョンに入った救世主は、未だダンジョンから出てきていなかった。そしてダンジョン入口には強固な結界のような物が張られており、魔獣が出てくることは無いとの報告を受けた。彼と話していた戸田二曹の話から、彼は西条一尉のパーティにいた女性探索者を救いにダンジョンへと潜っていったとのことだった。
「勇者……勇者ですか……」
我々は魔獣の氾濫を抑えきった。
勇者か救世主かそのどちらかもしれない彼のお陰で。
――横浜上級ダンジョン25層 倉木(佐藤) 光希――
「ハッ!」
『炎槍』
「グガァァ!」
「凛! 夏海! 次正面角からオーガ4体」
「「はいっ!」」
「お嬢様牽制を!」
「わかったわ。『炎壁』」
「ハァァァ!ハッ!」
「グガァァ」
『炎槍』
「「ガッ……グガァァ!!」」
「これで最後! ハアッ!……よしっ!」
テントで休息を終えた俺たちパーティは、2階層から25層まで進んだ。24層まではもう何度も往復しているので、片手で数える程度しか魔獣はいなかった。
ここ25層に着いてからは、凛と夏海が自分たちの戦い方を見てほしいと言うので、俺が索敵役とリーダー役をやることになった。そこで2人から戦闘時にさん付けで名前呼んでいたら、いざという時に指示が遅れてしまうと説明された。自衛隊パーティでもリーダーは呼び捨てで呼んでいたらしく、それもそうかと俺は皇、多田と呼んでいたら今度は名前呼びがいいと言われた。
少し照れ臭かったが名前で呼んだら、嬉しそうにもうそのまま普段も名前で呼び捨ててほしいとお願いされた。まあ本人がいいならいいかなと、俺もこんな美人2人と距離が縮んだ錯覚を覚え少し嬉しくなりそう呼ぶことにした。
すると今度は倉木さんのことも名前で呼んでいいですか? と聞かれた。どうせ倉木は偽名だし、たまに俺が呼ばれてるって気付かない時があるから名前の方がいいなと、心の中では是非にと、言葉では『べ、別に構わないよ』と少し上ずった声で言ってしまいクスクス笑われた。これがイケメンとフツメンの差かと思い知った。
フツメンは何をやってもカッコつかないんだよね。
そんなこんなで2人の戦闘をみていたけど、俺は違和感を感じたので聞いてみることにした。
「夏海はもしかして剣の前に何か武道やってなかった?」
「はい! よく分かりましたね。私の実家は刀術の道場をやっていまして、私も幼い頃から習っておりました」
「なるほどやっぱり刀か。動きが剣で叩き斬るじゃなくて斬るって感じなんだよね。繋ぎの動作もそう」
「やはりわかるんですね。確かにどうしても癖が抜けないですね」
「刀は持たないの?」
「最初は刀を装備してたんですが、ランクが上がったことで戦う魔獣も強くなって段々通用しなくなりすぐ折れてしまうんです」
「刀の材質は何を使ってたの?」
「ダンジョン産の鉱物を合金した特殊鋼です。科学的な素材を使うと魔力が通りにくくなるので、極力魔力を通しやすい材質を使ってました」
「特殊鋼か……今の剣は黒鉄と鋼を混ぜたものだよね?」
「ええ、そうです。こちらの方が魔力が通しやすいですね。ただ鋼と黒鉄を混ぜると粘りが無くなるので、刀に向かないんです。黒鉄は希少なので黒鉄だけだととても手が出ませんし」
「んん? 希少? そんなに希少なの? フィールド型の上級ダンジョン下層で、鉱山やボスの宝箱からとかからインゴット出るよね?」
「ええ、ですから希少なのです。下層に行ける人は限られてますので」
「ああ、なるほど」
夏海の動きが剣術のそれとは少し違ったので聞いてみたらやはり刀術だった。斬る動きを剣でしてたからもしやとは思ってたんだよね。しかし黒鉄は希少なのか……探索者のレベルが低いから、アトランとこっちではモノの価値が大分違うんだよな。このままじゃ俺が何を言っても嫌味になるな。凛にも聞いてみよう。
「凛はいつもその装備なの?」
「ええ、いつもこの装備よ? 何かマズかった?」
「今の装備は特に何も付与魔法の付いてない中層辺りの魔獣の革でしょ? オーガに吹き飛ばされて骨折したとか言ってたよね? その割には戦闘時前に出過ぎじゃない?」
「うっ……それは確かに……」
「自覚あるなら前には出たらダメだよ。防具は大事なんだ。俺のこの街歩きしてそうな装備も、一応付与魔法付いてるんだよ」
「ええ!? ずっと普通の服だと思ってた」
「わ、私もです」
「このジャケットは火竜の皮で上級結界の付与が付いていて、自身の魔力を使わないで自動で発動するんだよ」
「「え? 」」
「まあそういう装備ってことだ。魔法使いは打たれ弱いから、ちゃんとした付与魔法の付いた装備にしないとダメってこと」
「い、いやそういう装備って言うけど、火竜って今九州にいるあの竜と同じよ? その皮って……それにレアな付与魔法使える人なんて数えるくらいしかいないし……しかも初級だし」
「こ、こう、光希様は謎が多すぎです……こうきさま」
付与魔法が聖魔法、闇魔法、錬金魔法、結界魔法と同じくレアな魔法なのはアトランと同じか。これらの魔法書ま取得できるダンジョンが少ないのと、通常の地水火風の初級魔法書は初級ダンジョン下層で稀に、中級ダンジョン下層でたまに、上級ダンジョン中層でちょくちょくって体感で手に入れることができたと思う。
中級魔法書は中級ダンジョン下層で稀にとなり、上級ダンジョン中層ボスや下層でたまに程度となる。
それがレア魔法の初級魔法書になると初級ダンジョンでは全く手に入らず、中級ダンジョン下層で稀に、上級ダンジョン下層でたまに手に入る程度になる。中級魔法書となればもっと手に入りにくくなる。
そのうえ手に入れても覚えることができる属性持ちが非常に少ない。聖と闇以外の全属性に適性がある勇者は例外として、ドワーフなどは種族特性で錬金と付与を始め、他の魔法の属性を多く持っている。その代わり魔力量が獣人並みに少ないので戦闘には役に立たない。このことからドワーフは生産特化種族と言われることが多い。
つまり人間でレア魔法の適性がある者は非常に少ないということだ。だが魔法使いから魔導師、賢者と職業ランクが上がると時々属性が増えるので、そこでレア魔法属性を手に入れることもある。
そんなアトランとこっちの魔法書取得難易度を擦り合わせつつ、夏海が俺の名前を恥ずかしながら呼ぶのに萌えたりしていた。
「というわけでだ凛にはこれを貸しておく」
「え? なにこれ綺麗……」
俺はアイテムバッグから取り出したように白いローブを出した。このローブは昔付与魔法の練習で作ったものだ。
「そのローブはデビルスパイダーの糸で、魔力をよく通す素材なうえに強度が高くしかも軽いという逸品だ。さらに中級結界魔法の『天使の護り』が付与されていて、その魔法の発動に必要な魔力は肩口に縫い付けられている魔結晶が補うから凛の魔力は使わない。更にその魔結晶は大気中の魔素を取り込み結晶に蓄えるから、結界を使いたい放題となる」
「ええ!? 中級結界!? デビルスパイダーなんて聞いたことない魔獣だし魔結晶? なにそれ?」
「魔結晶はダンジョンコアのことだよ」
「「えええ!?」」
「ダンジョンコアは大気中の魔素と、地下の魔脈と言われる濃い魔素のマグマみたいなとこから魔素を吸収して、ダンジョンを維持したり魔獣を召喚したり産み出したりしてるんだよ」
「……ごめんなさい光希さん。理解が付いていけてないわ。ダンジョンコアが魔結晶て……」
「わ、私もです。こ、光希様」
「んん? 中級ダンジョンコアだとコアが魔脈から離れると魔素を取り込む力が無くなるうえに、大気中から取り込む力も弱いから、上級ダンジョンコアの魔結晶から使い物になるということも? その魔結晶を動力にエネルギーなどの永久機関ができることも?」
「永久機関!? 知らなかったわそんなこと……」
「私も初耳です」
「でも昔上級ダンジョン2つ攻略してるんだよな。そのコアはどこに行ったのやら。政府が独占してるのかもな」
「そうかもしれないわね……大きなエネルギーになるなら政府が欲しがるはず。どれほどのエネルギーかはわからないけど……」
「ダンジョンコアも成長具合で大きさもかなり差があるから一概には言えないけど、破損の無い魔結晶一つで原子力発電所一つぐらいのエネルギーは発生するんじゃないかな? 安全に低コストでエネルギーを得られる夢の永久機関だな」
「「そ、そんなに!?」」
「あくまでも破損の無い状態のダンジョンコアでということだ。ダンジョンコアというのは魔脈と繋がる台座に収まっているんだけど、この台座がもの凄く硬いんだ。なので殆どの場合コアを破壊してその破片を持ち帰り、こういった魔法の付与や魔道具に使うんだよ。まあ出回っている殆どの魔道具は魔石交換タイプだけどね。魔石が使い捨ての電池だとしたら魔結晶は何度も充電できる電池で、しかも充電を自動でやってくれて充電にかかる電気代はタダだと思ってくれればいいよ」
「そ、それなら分かりやすいわ。つまりその魔結晶の破片がこのシルクのように白いローブに付いてるのね」
「そういうこと。魔石でも魔法は発動するけど、交換が面倒だし維持コストが高くなるからね」
どうも魔結晶についての情報が表に出てないようだ。よく考えたら現代でエネルギーを永遠に生み出し続けて、しかもクリーンなエネルギーで維持コストが掛からないとなると奪い合いの戦争になるか。
あれ? 俺やばいな……破片じゃなくて完全体のやつをかなり持ってるんだけど……まあ言わなきゃバレないか、うんそうだな黙ってよう。
「でだ、その肩についてる赤いのが魔結晶で、魔結晶が蓄えている魔力が減ると色がどんどん薄くなるんだ。白っぽく透明感のある色になったら、魔法は発動しなくなるから気を付けて。再度魔力を満タンにするには外なら2日、ダンジョン内なら1日くらい掛かるかな」
「わかったわ。とにかく攻撃受ける時はこのローブで受けて、魔結晶の色が薄くなったら戦闘をなるべく避けるようにするのが安全なのね」
「まあ一番いいのは最初から攻撃を受けないことだよね。そのローブは緊急時に使うくらいに考えておかないと、ローブが無くなったらすぐ死ぬよ」
「それもそうね。装備はあくまで保険よね。ありがとう光希さん。この貴重なローブお借りするわね」
「ああ、遠慮なく使ってよ」
「もう、こんな貴重なローブを貸すなんてほんと優しいんだから」
「もう2度ボロボロの凛を見てるからな。もう見たくないだけだよ」
「光希さん……」
もう苦しそうな顔や泣いた顔は見たくないよな。笑ってる凛の方が可愛いしな。
さて、凛の防御力はこれで解決として次に夏海だな。刀か……やっぱアレ出すしかないよな……大丈夫。もう時効だろ。
「次に夏海の装備なんだけど」
「え? わ、私にもお貸しいただけるのですか?」
「あ、ああ……これなんだが……」
そう言って俺は鞘に収まった刀を出し夏海に渡した。蘭がピクッと反応した。あれ? まさか覚えてる?
「これは……」
「抜いてみてくれ」
「は、はいっ!」
その刀は黒い刀身に常に水が滴っており、なにがしかの妖刀を思わせる怪しい雰囲気を漂わせていた。
蘭が驚愕した顔で刀を見ている。マズイ、あの反応はまだ覚えてたか!?
「その刀の刀身は全て黒鉄でできていて、刀の銘は『
「こ、この刀を私に……あ、ありがとうございます! 必ず使いこなしてみせます! 」
「あ……ああ……その刀は……ああ……」
マズイ! 蘭が驚愕した顔で身体をプルプル震わせて手を口にあて涙目だ! 喋らせたらマズイ!
俺は一瞬で蘭のもとに行き、すかさず抱きしめて頭をなでながら耳元で囁いた。
「蘭、大丈夫だ。あれは呪いの刀なんかじゃないよ。俺は平気だろ? なんともないだろ? あれは浄化したんだ。だからもう大丈夫だよ。ほら、どうした? 抱きしめ返してくれないのか?」
「あ……あ……主様……ほ、本当に大丈夫なんですね? もうあのようなことにはならないのですね? 蘭は……蘭はあの時とても悲しくて無力で……主様をお救いできなくて……うっ……ううっ……」
「おーよしよし大丈夫だよ。もうあんなことにはならないよ。心配させてごめんね? 蘭は無力なんかじゃないよ、愛してるよ蘭。いつもいてくれて、支えてくれてありがとうな」
「主様……私も愛してます……」
そう言って抱きしめ返してくれた蘭を見て、一先ず落ち着いたようで俺は胸をなでおろした。
あの刀……あれは呪いなど掛かっていた刀などではない。あれは俺が召喚されて5年目の時……
あの頃の俺は聖剣というとてつもない攻撃力を誇る剣に不満を抱いていた……そう、武器が強過ぎるんだ。 いつか本当の強敵に出会った時に、武器に頼って戦っている今のままでは地力の差で負けてしまうと不安になった。だから俺は自身の技量を上げるため、聖剣以外の武器を扱おうと考えた。
そして日本人なら刀だろ! と先ずは練習用にドワーフに刀の製作を依頼した。過去の勇者も使っていたため製法は受け継がれており、刀は直ぐに出来上がった。そう、俺の注文通りの能力を持って……
俺は興奮した。初めての刀、日本人なら誰もが見た漫画やアニメに高頻度で登場する刀!
俺は当時25歳……遅い厨二病の発病だった……
あの頃は『秘剣黒雨狼牙斬』『秘剣燕乱舞』『千刃撃滅龍爪連斬』『月華涙流の舞』『黒月が泣いている……この涙は貴様に虐げられた者たちの……』『ふっ……またつまらん奴を斬ってしまった』『黒雨よ! 全てを闇に還せ! 黒雨絶殺葬』 等、俺は思い出すのも恥ずかしい必殺技とセリフの練習を毎日毎日続けていた。
当時8才の蘭は最初は何やってるのだろう程度にしか見てなかったが、連日続く俺の病と凶行にいよいよ主様は頭がおかしくなってしまった。刀に呪われてしまったと心配するようになった。
蘭が周りの大人に相談しても苦笑されたり若い時にはよくあると言われたりで、誰も自分の主様を助けてくれない、私が助けなきゃと蘭は俺に主様は頭がおかしくなったと、その刀を早く手放さないといけないと連日俺を説得し始めた。
俺はその時、病の発症真っ最中! なぜ俺を馬鹿にする? 俺は強くなるためにこの刀で練習してるんだ、邪魔をするなと蘭を相手にしなかった。俺はその時自分が最高にカッコイイと思っていた。
そうした蘭の言葉を一切聞き入れず邪険にした結果……
蘭は心労が祟り倒れた……主様……早く正気に戻って……という言葉を残して。
俺は焦った! なぜ? なんで蘭が? 正気に戻れだって? なんのことだ? 俺は倒れた蘭を教会に連れていき、教皇に剣を向けてまで最高の回復魔法をかけさせた。
そこで街の者が教えてくれた。俺の黒歴史の数々と蘭がどれだけ心配していたのかを……冷静に客観的に自分がカッコイイと思ってやってたことを指摘され俺は正気に戻った。
俺は刀を封印し蘭に死ぬほど謝った。厨二病など蘭に理解できるはずないから、呪いから助けてくれてありがとう、蘭に助けられたと。もうあの刀は使わない。教会で浄化してもらい封印したと。
俺は厨二病という病から、この恐ろしい病から蘭に助けられたんだ……
いやだって刀だよ? 持ったらやるよねフツーさ。ちょっと興が乗り過ぎちゃったけどさ、蘭には悪いことしたと思ってるけど、もう忘れてると思ったんだよな〜10年前だよ? 普通時効だと思うじゃん?
危なく凛や夏海の前で色々バラされるのを防いだ俺は、蘭に軽くキスして2人の所へ戻った。
「どうしたの光希さん。蘭ちゃん様子変だったわよ?」
「この刀に何かあるんでしょうか? 呪いとか?」
「あーあー違う違う! 別の刀と間違えてね。俺が呪われたことあったからそれ思い出しちゃったみたいなんだよ。その刀は関係ないよ。蘭も当時8歳だったから記憶が曖昧になってるんだろうね……あははは」
「そうだったのね……蘭ちゃん光希さんにベタ惚れだからね。昔を思い出して動揺しちゃったのね」
「そういうことだったんですね。確かに愛する人が呪われたのを思い出したら動揺しますよね」
「うん、だからたまに蘭がその刀を見て何か反応しても気にしないでね。ちゃんと普通に使ってれば違う刀なんだってわかると思うから」
「はい、必ず使いこなしてみせます! では次の魔獣を見つけに行きましょう!」
うん、なんとか上手くまとまったな。焦ったわ……
それからは刀を早く振るいたくて仕方ない様子の夏海に引っ張られ、俺たちは次の階層へと移動するのだった。
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