第11話 愚者の末路





俺はアメリカの冒険者達の方を向き最後の警告を行なった。


《アメリカの冒険者達よ! 最後に考えるチャンスをやる! 俺の冒険者証は本物だ! 調べればわかる事だ! そこの政治家の紐付きの理事と、大統領の馬鹿息子の言葉に乗せられるな! 俺が本物のSSSランク冒険者である可能性を考えろ! その上で今手に掛けている剣を抜くならそこから先は……殺し合いだ》


》》》


《そ、そうだ。サトーが操られてるかも、冒険者証が偽物かどうかもなんの確証もない》


《お、俺は抜ける! まだ偽物と決まった訳じゃないし、操られてるかも分からない。同じ冒険者を相手に剣は抜けない!》


《お、俺もだ! リチャード! 見損なったぞ! 冷静になれ!》


《わ、私も抜けるわ! こんなの強盗じゃない!誇り高きアメリカ人のする事じゃないわ!》



《なっ!? 待て! 全員でなら勝てる! アメリカ人がこの島を占領し、亡くなった人達の無念を晴らすんだ!》


《チッ……腰抜け共が!》


俺の殺気を込めた最後の警告に、頭が冷えたのかまともな思考を持つ者達は次々と船へと戻っていった。


《おいおい、随分お仲間が減ったな? お前の功名心には付いていけないってよ? どうする? 200はいた冒険者が30くらいか? それとお前のパーティも1人欠けて4人。やるなら大統領の子だろうが殺すぞ?》


《だ、黙れ悪魔! 皆やるぞ!アメリカの為に!》


《おうっ!その偽SSランクのたまんねえ身体をした狐の獣人は俺が教育してやるぜ……ククク》


《悪魔退治よ! 回復は任せて!》


《……俺が……守る》



ポーカー始め冒険者達は、俺の最後の警告を無視し武器を……抜いた。

俺は剣を抜き戦闘態勢に入り砦で待機させていたクオンを呼んだ。


《そうか……クオン! 来いっ!》


《クオン? なんだ?》


《ん? お、おいおいおいおい! ア、 アレはなんだ!》


俺がクオンを魔力を乗せた声で呼ぶと、砦で伏せていたクオンが起き上がりこちらへ向かって飛んで来た。


クォォォォン!

クォォォォン!


《ど、ドラゴン!? 本当にいたのか!》


《や、やべえなんだありゃ……》


《ヒッ!?……ああ……むり……あんなの》


《…………》



俺に呼ばれたクオンの姿を見た冒険者達は驚き、腰を抜かしていた。


「クオン! そこの冒険者達と遊んでやれ」


グォォォォォ!


《あ、熱い! 無理だ! こんなの無理だ!》



「凛! 夏海! クオンに乗れ! 無理しなくていいぞ! 戦闘不能にするだけでいい」


「わかったわ!」


「はい!」


俺は日本語なら分からないだろうと凛と夏海に殺さないように言った。クオンには以前から遊びと俺が言ったら、殺さないよう痛めつける事と教えてかるから大丈夫だろう。今もブレスを当てないように吐き、逃げ惑う冒険者達を追い掛けつつ爪で攻撃している。散々警告した上に俺達を殺す気で武器を抜いたんだ。その代償として、手足くらいは払ってもらわないとな。


俺と蘭は目の前で呆然としている今回の主犯格達と対峙した。


《情報収集が甘いんじゃないか? 桜島のドラゴンの動画見たんだろ? この島の占領に連れてこないとでも思ったか?》


《うふふふ、私の主様を侮辱した償いをしてもらいますよ?》


《し、CGだと……ドラゴンを飼いならす者かいるはずないと……ま、まさか…》


《クッ……ドラゴンがなんだってんだ! まとめてぶっ殺してやる!》


《…………》


《わ、わたしは抜けるわ……無理よあんなの無理よ……》


《俺達を偽物と言い、散々周りの冒険者を煽っておいて今更抜けますなんて通用するとでも?》


《み、認めるから! 本物のSSS冒険者だって認めるから……》


《黙れ! 》


《ヒッ!?》


《もう遅い! 死にたくなけりゃ戦え! 》


俺は信じたいものしか信じず、多くの冒険者を巻き込んだコイツらを今更許す気は無い。


今更後に引けず決死の覚悟を決めた金髪イケメンのポーカーに、半ばヤケになっている虎公。無言で盾を構える大男に、戦う前から泣きながら命乞いをするシスター姿のブリアンナ。

こんなもんか、たかが中位の竜にこの醜態か……

俺は南九州を奪還する為に、ドラゴンを見ても勇ましく戦おうとした九州の戦士達を思い浮かべ、ここにいる自称アメリカのトップパーティと比べガッカリした。


「蘭! その虎公にどれだけ自分が弱いのか教えてやれ! 遊んでもいいぞ」


「はい。主様」


《なんだと! この俺を虎公だと! お前……グボアッ!》


「五月蝿い太った猫ですね。蘭が躾をしてあげます」


俺の物言いに激昂した虎公の顔に、蘭が魔鉄扇を閉じた状態で殴りつけ吹き飛ばした。

あまりに遠くに飛んだからか、虎公の身を案じて蘭が心配そうな顔をしていた。

俺にはわかっている。蘭は、え?まさか一撃で死んでないよね? もっと戦いたいから生きててねと心配しているのだと……


俺は虎公を蘭に任せ剣を構えるポーカーに魔法を放った。


『闇刃』


《なっ! は、速い! ぐっ!くあっ! ハァハァハァ『フレイムランス』》


『スロー』『影縛り』


《レジストされた!? あっ! ぐっ……ぐぁぁぁ! あ……ああ……》


俺が放った闇刃を、ポーカーは腕を切られながらも横に倒れて躱した。そしてお返しと言わんばかりに中級火魔法を放って来たが、魔力が大してこもっていなかったので受けてレジストした。

俺はスローを掛け影縛りで拘束し、ミスリルの剣でポーカーの剣を持つ左手首を切断した。

そして返す剣で今度は右腕の肘から先を切断した。


《魔法剣士ってのは器用貧乏なんだよな》


《があぁぁぁ!……腕が……ぐぅぅぅ》


《リチャード! 『ミドルヒール』》


『雷矢』


《守る……グッ……》


『闇刃』


《あぎゃっ!い、痛い……耳が……ゆ、指が……ミ、『ミドルヒール』》


俺はポーカーを戦闘不能にした後に、ポーカーに中級回復魔法を掛けているブリアンナに雷矢を撃ち込んだ。すると横で盾を構えていた大男が割って入り、盾で俺の魔法を受けたが全てを受けきれず身体に雷矢が当たり膝をついた。

そして闇刃を発動しブリアンナの斜め上から左耳と左頬肉、そして右手の指も巻き込み切断した。


『氷結世界』


《ぐおおお! 》


3人が動けない状態になった所で俺は氷結世界を放ち、膝まで凍らせて止めた。


《え? ……さ、寒……あ……ああ……足が凍って……もうやだ……死にたくない……》


《あ……ああ……足が……こんな一方的に……》


《…………ぐっ……》


《この程度でアメリカだなんだって吠えてたのか? あまりに弱過ぎて憐れになってきたな……さて、女神の島占領作戦の指揮官に剣を抜向け、冒険者連合とアメリカ政府との取り決めを無視し、島を占領しようとしたお前達はこれからどうなるんだろうな? 》


《クッ……》


《裏切り者として冒険者連合を追放され、国民からはアメリカの恥さらしと罵られもう外を歩けなくなる。もっともその凍った足は上級ポーションが無きゃ元には戻らないから、どうせ歩けないだろうがな。》


《こんなはずじゃ……なぜこんな……》


《うっ……ううっ……もうやだ……》


《…………》


《その姿で他国の冒険者達を出迎えるんだな。自分達が何をしたのかゆっくり思い返し、そして未来に絶望してろ》


《…………》


《うっ……うわぁぁぁぁあん! 》


俺は絶望した表情の3人をその場に残し、遠くで聞こえる悲鳴の元へと向かった。




《ぎゃあぁぁぁ! やめろ! もうやめてくれ!》


「うふふふ……えいご?では何を言ってるか蘭にはわかりませんね」


そこにはうつ伏せで倒れた虎公の足を、蘭が魔鉄扇で切断している姿があった。

痛みに叫び声を上げる虎公を、蘭は酷薄な笑みを浮かべ見下ろしていた。

虎公は両腕と両足が無い上に片目も潰され、全身血みどになっていた。


「蘭ご苦労様。コイツも口だけだったな」


「主様もお疲れ様です。あちらの世界の言葉も話せない、この世界産の獣人は弱いですね」


《う……ぐっ……あ、足が……腕……》


《この世界で生まれてもお前達虎公は脳筋なんだな。嫌な遺伝だ。相手の力量を測れないからこうなる。セルシアもお前と同じ姿になったしな》


《なっ……セ……セルシアさん……が……》


《お前はそういう人間を相手にしたって事だ。ほら、血止めをしてやる。これから一生その姿でお前が見下ろしてきた圧倒的弱者として、惨めな人生を送れ》


《ぐっ……く……こ、殺せ!》


《勝手に舌を噛みきり一人で死ね!》


《…………クソッ……クソッ!》


俺はなかなか自殺しない虎公を見るのに飽き、転がっている四肢をアイテムボックスに放り投げ蘭と共にその場を去った。


そして港の隅にある倒木に隠れて見ていた、理事の男の元へと向かった。


《どうだ? お前が引き起こした惨状は?》


《あ……ああ……こ、こんな……こんな事をしてただで済むと……》


《済むさ、俺は連合の定めた決まり通りに行動した。それを否定し冒険者達を扇動し、俺を殺させようとしたお前はどんな罪に問われるんだろうな? この惨状を作った責任は重いぞ?》


《わ、私は悪くはない! 扇動などしていない! 勝手にアイツらがやった事だ! お、お前はアメリカを敵に回した! アメリカはお前を許さない! これから一生暗殺に怯えて暮らせ!》


《だったらアメリカを滅ぼすさ。無くなれば気にしなくて済む》


《なっ!? そんな事!》


《できるさ。そうだな、あのドラゴンをあと2、3匹集めてアメリカに解き放ってみるか? お前の言うアメリカとやらは何日持つかな?》


《…………》


《お前さ、情報収集も認識も甘いんだよ。誰を相手にしてるか本当にわかってんのか? 今回の主犯は間違い無くお前だ。お前と背後にいる政治家には、この惨状を引き起こした責任を取ってもらう。楽に死ねると思うなよ? 取り敢えずその両脚はもらってく》


『氷結世界』


《さ、さむ……あ……ああ! 足が……寒い痛い!》


俺はポーカー達に掛けたように両脚を凍らせた所で止め、蹴り砕いた。


《ぎゃっ!……あああああ!私の足が! 足が!》


砕け散った自分の足を見て叫ぶ男を無視し、俺はシルフィに電話をした。



「シルフィーナ俺だ……」


俺はアメリカの冒険者達が、理事と大統領の息子パーティの扇動で島を占領しにきた事。冒険者証を見せても偽物と言われ、更に悪魔に操られてると言われ救出した米兵共々殺されそうになった事。説得により大半の冒険者は引いたが、ポーカー以下数十人が攻撃してきたので返り討ちにした事を説明した。


《そんな! まさか理事が……分かりました。今回は私達冒険者連合の不手際です。申し訳ございません。そちらに向かっている日本の冒険者連合職員には説明しておきます。お手数ですが拘束だけお願いします》


《そうだな。理事さえまともだったなら、こんな事にはならなかっただろうな。この男を選出したアメリカ冒険者連合の責任は重いな》


《おっしゃる通りです。申し訳ございません》


《シルフィーナは頑張ってるさ。大きな組織だ、これくらいの事は起こる。悪いのはアメリカ冒険者連合だ》


《光希様……》


《取り敢えずあまりに弱かったから殺しはしていない。 虎公とポーカーとブリアンナの欠損部位は俺が預かっている。今後の本人達の態度次第で燃やすか返すか決める》


《ありがとうございます。その事も伝えておきます》


今回の件でシルフィはアメリカ冒険者連合及びアメリカに対し、今後影響力を強くするだろう。

大統領の子の欠損部位は取引きの手札に使えるはずだ。俺も迷惑料としてこの島の西側の海岸だけでは無く砦がある北の山も要求しておこう。


シルフィとの会話を終えた俺はクオンを呼び戻し凛達と合流する事にした。


クォォォォン


「凛、夏海おかえり」


「ダーリン冒険者達は全滅したわ、止血だけして一ヶ所にまてめておいたわ」


「3名ほど危険な状態の者がいたので中級ポーションを使いました」


「いいさ、後で請求するさ。取り敢えず港にコイツらを並べておくかな」


「戦闘に参加しなかった冒険者は、クオンを見て船で遠くに逃げたわね」


「危機には近づかない。良い冒険者の証さ」


「それもそうね。この腕や足が千切られた冒険者達よりは、賢いし長生きできるわね」


「今後俺達に戦いを挑んだ者の末路として、よい宣伝をしてくれるさ。できればこういう事はこれっきりにしたいからね」


「ほんとそうよね。クオンに乗って追いかけ回してたら私達が悪役の気分になったわ」


「誰も一矢報いようと戦いを挑んで来ませんでしたからね。いじめてる気がして……」


「俺達のパーティ名は光の悪魔だからね」


「ぷっ! あはははは! そうだったわね。パーティ名に恥じない行動をしただけだったわ」


「ふふふ、確かにそうでしたね」


「さて、他の国の冒険者達が来るまで休むとするか。クオン! その辺の倒れてる冒険者達を港に運んでおけ! 殺すなよ?」


クォォォォン


「クオンは従順で可愛いわよね〜」


「なんなら今度福岡ダンジョンの最下層の竜をペットにしに行こうか? 確か風竜がいると聞いたしね」


「それいいかも! メスだったらクオンのお嫁さんにできるしね! どっちだろ〜」


「どうやって外に……あっ! 離脱の魔法を使えば……ダンジョン入口は突然竜が現れてパニックになりそうですが。ふふふ」


「風竜はドラちゃんと同じですね。とても速いんですよ? 蘭も欲しいです」


「クオンの3倍位は速く飛べたからな。この世界の戦闘機じゃ追い付けないだろうな」


「そんなに速いの!? 」


「それは凄いですね」


俺たちは風竜の他にも水竜やレアな黒竜に白竜など、各属性竜の特徴を話したりして日本他の冒険者達が来るまで時間を潰していた。




そして3時間程経過し皆で昼食を食べ終えた所で、探知に3隻の船の反応があった。

俺達が港に行き待っていると、日本の国旗を掲げた商船と中台連合とイギリスの国旗を掲げた船がこちらに向かっているのが見えた。

そして更に1時間程して各国の冒険者達が船から降りてきた。船で話を聞いていたのだろう。どの国の冒険者達も、港に転がされているアメリカの冒険者達を馬鹿にした表情で見下ろしていた。

縛られ転がされているアメリカの冒険者達は皆項垂れていた。

まあ、冒険者連合の裏切り者だからな。


「佐藤さん! お久しぶりです!」


「大須賀さんご無沙汰してます。大須賀さんが責任者だったんですね」


船から降りてくる日本の冒険者達を眺めていたら、探索者協会横浜上級ダンジョン支店長だった大須賀さんが駆け寄ってきた。


「はいそうです。お陰様で出世しまして、冒険者連合で働けるようになりました」


「それはおめでとうございます」


「ありがとうございます。今回の事は理事長より移動中に聞きました。アメリカの理事とAランクパーティが島の占領を画策したとかで、佐藤さんには冒険者連合として申し訳なく思っております」


「まだ設立間もないですかね、各国政府の紐付きがいるのは仕方ない事です。ですがその紐付きを選任してここに送り込んだ責任は、しっかりとアメリカ冒険者連合には取ってもらいますよ。私が乗り込んで行きたいくらいです」


「あ、いやそれは勘弁してください。私達でしっかり責任の追及を致しますので」


「そうですか、それでしたら今は静観します。この島の事は聞いてると思いますが、あの塔の先にある山の中腹の砦には近づかないようお願いします。ドラゴンに留守番させてますので襲われても責任は取れません。それと、塔の南の工房に異世界人がいます。彼らの保護もお願いします」


「は、はい! 決して近付けさせません。その山以外の所で掃討戦を行います。異世界人の方の保護も理事長より聞いておりますのでお任せください」


「ありがとうございます。裏切り者のアメリカ冒険者連合の者の身柄も預けます。しっかり今回の島の利権で有利な条件を取る材料にしてください。彼らは自分の意思で悪魔に味方した世界の裏切り者ですからね。アメリカが庇うなら私がアメリカに行きます」


「わ、わかりました。必ずアメリカに責任を取らせますので。お気遣いありがとうございます」


「それでは俺達は別件で出掛けます。パーティメンバーを2人置いて行きますので、何かあれば彼女達に言ってください」


「はい。そのように致します」


俺は大須賀さんに連絡用衛星電話を追加で借り、港から離れて皆で砦へ転移した。


砦の最上階に転移すると、出迎えてくれたリムに衛星電話を渡し音が鳴ったら知らせるように言った。

そして俺達は奥の部屋に行きテントに入って休む事にした。


「あ〜疲れたわ〜やっと来たわね日本の冒険者達。アメリカももう全面謝罪しか無いわね」


「今回の黒幕が誰かってとこだけど、冒険者連合が占領するのを反対していた議員は多過ぎるからね。それでもこれは大失態だ、魔石か港かどちらかの利権は諦めてもらわないとね」


「今の大統領の人気が絶好調な時期に実の子が足を引っ張ったとか、大スキャンダルですね」


「シルフィーナがそこは上手くやるだろう。大きな見返りかあるなら今回のアメリカ冒険者連合の襲撃は悪魔に操られた事にしてもいいしね」


「あの人達あんな姿だしね。あの理事以外はそれでもいいかもね。見返り次第だけどね」


「何が貰えるか楽しみだな。それはそうと今夜出掛けるから凛と夏海は留守番していてくれ。2日か3日で帰って来れると思う」


「……わ、私も行くわ」


「私もお供します」


「これだけは駄目だ。俺と蘭がやるのは虐殺だ。これは連れて行けない」


「凛ちゃんとなっちゃんには今のままでいて欲しいの。蘭は同族相手では無いから平気ですが、きっと二人は狂います。ですから連れては行けません」


「……うん……わかったわ」


「……わかりました」


「無理に俺の罪を一緒に背負わなくていい。辛い顔の2人じゃ俺は癒されないしね。帰ってきたら甘えさせてくれよ」


「うん……正直怖かったわ。無理はしないようにする。私に出来る事をダーリンにしてあげる」


「光希……わかりました」


俺と蘭が何処に何をしに行くか悟った二人は、震えながらも付いてくると言ってくれた。その気持ちだけで俺は嬉しかった。でもこれだけは経験させたくない。俺のように狂って欲しくはないから。こんな人を殺す事になんの躊躇いも無い俺のように二人にはなって欲しくないから。


俺は時差や飛行時間を考え早めに出発する事にした。途中寄り道もするし、魔獣の巣窟となった中華大陸も横断する。凛と夏海と別れ、蘭に先にクオンの所に行ってもらい俺は凛の実家の庭に転移した。



「光希様!」


「旦那さま!」


「二人とも護衛ありがとう。無事で良かったよ」


俺が庭に転移をし玄関に移動すると、恐らく捕虜を置いているであろうガレージからシルフィとセルシアが出てきた。二人は俺を見つけるなり駆け寄ってきた。


「セルシア、ちゃんと言うこと聞いて戦ったんだってな。偉いぞ」


「えへへへ♪ なかなかの手練れがいたけど、旦那さまから貰った結界の指輪で楽勝だったよ!」


「そうか、セルシアが無事で良かったよ。よしよし良い子だ」


「えへへへ♪ 頑張って良かった。旦那さまちゅーしてもいいんだぞ?」


俺はセルシアを抱きしめて頭を撫でて、額にキスをした。シルフィは横で笑っている。


「嬉しいけど、おでこじゃなくてもいいんだぞ?」


「もっと良い子にしていたらな」


「わ、わかった!良い子にしてちゅーして種付けしてもらう!」


ちゅーからいきなり種付けかよ……


俺はその辺はスルーしシルフィに捕虜の場所に連れて行ってもらい、二人には外で待っていてもらった。


ガレージの中にはシートに包まれた死体が4つと、ギリギリ生かされている血だらけの捕虜が8人いた。

全員倒れていて俺に気付いていても、顔を上げる余裕も無いようだ。英語が通じるらしいので俺は話し掛けた。


《こんな民間人の家に魔法使い4人にBランク8人かよ。拐えなかった際は殺すつもりだったなお前ら》


《…………》


《まあいい、誰の家族を襲ったのかあの世で後悔しろ》


『氷結世界』



俺は捕虜を氷像に変えアイテムボックスへと放り込んだ。


「お待たせ終わったよ。二人とも本当にありがとう。助かった」


「えへへ、旦那さまに尽くすのは妻の務めだからな」


「光希様。今から?」


「ああ、政府には迷惑を掛けないようにする。それと異世界人を連れ帰る。取り敢えず女神の島に送り、あっちにいるドワーフと一緒にしておく。シルフィーナは受け入れ準備を頼む」


「ソヴェートにいる同胞まで……ありがとうございます。本当に貴方は私の理想の男性です」


「惚れ直したか?」


「ふふ……ええ毎日惚れ直してます」


「あたしもだぞ! 旦那さま一筋だから心配すんなって!」


「セルシア……」


「そ、そうか……」


取り敢えずセルシアがいる所でラブコメはやめようと思った。

そしてシルフィ達と別れ俺は砦へと戻った。

砦入口ではクオンに乗る蘭とサキュバスがいた。


「リム、ミラ、ユリ。どう言うつもりだ?」


「魔王様の遠征にお供させて頂こうかと思いまして」


「魔王様! ボク達も連れて行ってよ! この世界を知りたいんだ! そして魔王様の力も見てみたいんだ」


「魔王様お願い致します。私達の代わりはしっかり置いていきますので」


「蘭は主様の偉大さを見せておけば、今後愚かな事を考える事も無いかと思いました」


「うーん……まあいいか」


俺は新人研修みたいなもんだなと思い同行を許可した。


「蘭は幻術を掛けてくれ。クオンを黒竜に、俺をインキュバスに蘭はサキュバスに頼む」


「はい。主様をインキュバスにしますね。ふふふ、楽しいです」


「え? お妃様凄い! 自分以外に幻術を!? それも一瞬でドラゴンを!?」


「ぼく達の幻術とレベルが圧倒的に違うよ……」


「魔王様がインキュバス……ハァハァ……これでしたら決まりに違反していないから子作りを……」


「ユリ! 駄目だよお妃様に殺されるよ! 巻き添えにしないでよね!」


俺が蘭に幻術を頼むと蘭はクオンを漆黒の鱗の黒竜にし、俺を恐らくイケメンのインキュバスにした。そして蘭の頭からは少し曲がった60センチ程の角が生え、背中からは蝙蝠の翼を羽ばたかせ、先がハート型の尻尾を生やしていた。


いい……今夜はこのコスチュームで是非……


俺はそんな蘭に見惚れながら、クオンをここから見える島の北の海上へ転移させた。しばらく低空飛行をさせてから高度を上げ、一路北西へと進路を取った。


さて、まずは島に向かってくる艦隊からだな。


俺はシルフィに調べて貰った位置へと、GPSと探知を頼りにクオンを向かわせるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る