第4話




「ん……んあ?……ああ夢か……」


 俺は瞼を開けもう既に記憶が朧げとなってきている先程の夢を思い出していた。


 それは学生時代家族や友人と過ごした夢で、毎日をとても楽しく過ごしていた。その数ヶ月後に異世界に召喚され、恐ろしい魔獣と戦う日々を送る事になるなど想像もつかない程に平和な日々だった。


 当時の俺は170センチほどの背丈で顔も可もなく不可もなくという外見で、スポーツをやっていた事もあり多少筋肉質だったように思える。召喚される数ヶ月前までは普通に恋人もいたし、本当にごく普通の生活を送っていた。


 それが今では激しい戦いの中でかなり筋肉が付き、魔力が増えたせいか背丈も数センチほど伸びた。

 魔法により老化すら止まっている。こんな俺が地球で普通に生活できるのか?


「いや、無理だろ」


 俺は地球での生活を想像し、これは無理だろと笑ってしまった。

  15年……恐らく失踪から行方不明となり、もう死亡扱いになっているはず。いくらなんでも俺の戸籍はもう無いだろう。小学校の時に親父を亡くしてるから、家にはお袋と弟だけだ。


 お袋と弟に会い戸籍を復活できるよう頼んでみるかな。あいつももう30代か……結婚しているだろうか? 魔獣が出てくるようになったこの地球で無事だろうか? こんな化け物になった俺と関わったら不幸になるのではないだろうか? などとツラツラと考えたが、まずはなぜ魔獣が地球にいるのか調べてからだなと思い考えるのをやめた。


「地球に戻ってきて色々ナーバスになってるのかもな」


「う……ん……ふふっ……ある……じさま」


「おう、蘭おはよ」


 昨晩肌を合わせてから、ずっと俺の身体に抱きついていた蘭が起きたようだ。

 布団をめくり全裸で横たわるその透き通る白い肌と豊満な胸。その先端にある桜色の蕾を視界に入れつつ、蘭の艶のある滑らかな黒髪を撫でる。


「うふっ……んん……」


 蘭は目を瞑り嬉しそうに俺の身体に回している腕と足に力を入れる。


「蘭、コーヒー(もどき)を淹れてくれ」


「はい、主様。朝食はいつものパンでよろしいですか?」


「ああ頼む」


 蘭は身を起こし俺に軽くキスをしてから、その大きく形の良いお尻を左右に揺らしリビングへと向かって行った。


「蘭に地球の下着や服を買ってあげないとな」


 異世界の下着はどれも野暮ったく、蘭が着けるにはどれも蘭の魅力を落とすようなものばかりだった。蘭も気に入らないのか着けてない時の方が多い。

 まあ、末期世界だったからお洒落云々なんてそんな産業が育つ余裕なんて無かったんだろ。


「そうだな。例え魔獣がいようと文明が進んでる分地球の方が楽しめるよな」


 そう考え出すと召喚前に読んでいた、漫画の続きやらゲームやらが気になって楽しみになってきた。


 魔獣がいる場所を隔離する事に成功してるなら、文明は進んでいなくとも15年前と同じ位ではあるだろう。もしかしたら異世界と同じように魔石をエネルギー転換する技術が科学と融合し、異世界より遥かに発展している可能性もある。


 ここに転移する際にキャンプ場横に駐車場があり、トラックやトレーラーも停まっていた。戦車っぽいのがあったのはきっと自衛隊が壁を管理してるんだろう。


 戦車程度の主砲では魔力により身体強化されている魔獣には、せいぜい灰狼かオーク程度までしかダメージを与える事はできない。だが弾頭に魔力を通しやすい黒鉄やミスリルを組み込み、付与魔法で火弾などを付与していれば大型魔獣とも戦えると思う。きっとそうして戦ってきたのだろう。


 魔獣がいた事には少しびっくりしたが、召喚前ならまだしも魔獣如きに俺達が怯えるはずも無い。考え方次第では、大量にある魔石やら魔獣や鉱物素材で悠々自適な生活を送れる。そう考えると将来が明るく思えてきた。


「主様〜朝食の用意ができました〜」


「ああ、今行く」


 俺はワクワクしつつ上機嫌でリビングへと向かった。


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