第8話 魔王となった勇者





倒れている13体のサキュバスを蘭に一ヶ所に集めさせ、俺は契約を持ちかける前に全員に鑑定を掛けた。


その中で名持ちの3体のステータスに俺は注目した。

そのうち一番高いステータスなのがこのサキュバスだ。



リム


種族:サキュバス族


体力:B


魔力:A


物攻撃:B


魔攻撃:A


物防御:C


魔防御:A


素早さ:B


器用さ:B


魔法:中級闇魔法


種族魔法: 魅了、催淫、幻術、夢淫、影忍


備考: サキュバスの純血種



このサキュバスと他2体は純血種だった。多種族との交配ではなくインキュバスとの交配のみで産まれた系統だ。

昔、俺の所に来た純血種よりもステータスが高い。

魔法特化でCランクが殆どのサキュバスが多い中、塔で上がった能力もあるのだろうけどそれでも頭一つ抜けている。

そしてここにいるサキュバス達は、純血種以外も全員Bランクだった。確かにサキュバスにしては強い。魔法系統だけでは無く物理系統がここまで塔で上がるとは……

これほどまで魔族を強くする塔を作るあの駄女神は、実は邪神なのではないかと思えてきた。


一通り鑑定した俺はさっきから魅了や催淫の魔法を俺に必死に掛け続け、全てレジストされているこのリムという純血種のサキュバスに話し掛けた。


《諦めろ。お前と俺ではステータスが圧倒的に違う。お前程度の魔法など効きはしない。デビルを瞬殺したのを見ていただろう?》


《クッ……私達をどうするつもりだ。犯しなぶり殺す気か》


《俺の支配下に入るなら生かしておいてやる。断るなら死ね》


《人間の下に付けと言うのか! 》


《お前達は過去に人間の魔王に隷属していただろう?》


《……ノブナガ様の事か……確かに人間だったと聞くが……しかし……》


《お前も気付いている筈だ。この世界はお前の故郷があるヴェール大陸のある世界とは、全く違う世界だと言う事を。この世界でサキュバス族は今のところお前達だけだ。滅びたくないなら俺の支配下に入れ》


《……やはりそうだったのか。未だに信じられないがあのアジム様を瞬殺した貴方は確かに強者だ。我々サキュバス族は戦闘能力が低い為に常に強者の支配下にいた。このまま種を途絶えさせる事はできない。貴様に降ろう。ミラ! ユリ! いいな?》


《姉さん……はい》


《お姉様がそうお決めになられたのなら……》


どうやら俺が話し掛けたこの長い黒髪のリムという子は、この中で一番上の立場のようだった。

過去上位魔族や魔王の庇護下に入り、常に使われてきた種族だから説得は難しいくは無いと思っていた。

それでも見せしめに何体か殺さないと人間の下には付かないだろうと思っていたが、こんなにスムーズにいくとは些か拍子抜けをした。


《随分物分かりがいいな》


《ドラゴンを従え更にそこにいる狐の獣人……ソレは恐らく先程門を破壊した大狐だろう? それにアジム様を圧倒した力。貴方はノブナガ様の再来かもしれないと思った。ならばその覇権の為に働くのも悪くないと思っただけだ》


《オイッ!俺は魔王じゃねえ! 勘違いするな! 世界なんか征服する気は無い! 俺は真逆の存在だ! いや、それももうお役御免だが……そうだな……これを見ろ》


変な勘違いをされたままでは裏でいつの間にか魔王にされそうなので、俺はアイテムボックスから聖剣を出し魔力を込めた。


《ぐっ……な、なんだその光は……聖属性? いや、それだけではない……これはまさか!》


《ね、姉さんなに? この光は……》


《お、お姉様この剣はまさか……》


《そうだ。魔王を滅ぼした剣と同じ物だ》


俺は理解してもらえたようなので聖剣をアイテムボックスへ戻した。


《あ……ああ……なんと言う事だ……》


《分かったか?俺は魔王と真逆の存在だ》


《あ……ああ……魔王……魔王様!》


《なんでだよ! 話聞いてたのかよ!》


《はい。貴方が勇者である事は理解しております。ご存知かと思いますが、ノブナガ様は元勇者でした。魔王を討ちそのまま自らが魔王となったのです》


《あっ……》


忘れていた……シルフィの話では確かにそうだった。ノブナガは元々は勇者として召喚され魔王を倒し、勝手に召喚した女神と王国に復讐する為にそのまま魔王になったんだった。

俺は日本での第六天魔王のイメージが強くて、最初から魔王だと思い込んでいた。


《俺は魔王になるつもりは無い、勘違いするな。 お前達は俺や俺の関係者に害を成そうとする者がいた時に情報を集める為に使う。世界を壊す為ではない。諜報や工作に身体を使えとは言わない。魔法だけでいい》


《わ、私達純血種は諜報に身体など使ったりしません! そのような事をしなくても魔法だけで虜にできるのです! インキュバスとも婚姻をしてからでは無いと子作りも許されておりません! 誤解しないでください》


《そうよ! 私達純血種は高貴な血統なのよ! 能力が低く、身体を使って弱らせてからじゃないと魅了できない他のサキュバスと一緒にしないで!》


《そうです。私達は純潔種なのです》


サキュバスは男と寝て虜にしているという印象を持っていたら猛反発が来た……おかしい……過去暗殺しようとして来たのは純血種だったと思うんだが……ベットで搾り取られたんだが? 世界が違うからか? 俺に魔法が効かず身体を使わざるを得なかったからか?

それに3人の中で一番下っぽいユリと呼ばれていた濃い茶色の髪の子が、純血と純潔を掛けて上手いこと言ったつもりなのか得意げな表情をしてる。俺はそれをスルーし、これ以上この話題を引っ張るのは良くないと思い話を先に進める事にした。


《そうか、それは悪かったな。いずれにしろそこまでは求めていない。ただ、裏切りの保険は掛けさせてもらう。契約魔法は知っているな? それをしてもらう》


《元々アジム様の魔法で魂を縛られていた身。死ぬ契約で無いなら受け入れます》


《分かった。お前達全員の命を取らない事と、治療を条件に契約を行う。契約内容は俺とここにいるパーティ全員への絶対服従と俺達に魔法を使う事、危害を加えなる事を禁止する。そして俺の情報を漏らす事も禁じる。罰則は心臓を握り潰される程の痛みと苦しみを味わってもらう》


《待ってください。魔王様以外の命令など受けたくはありません! 私達が降るのは魔王様にです! それだけは呑めません! 強者以外には従えません!》


《魔王じゃないと言ってるだろ……しかしクオンのようにはいかないか……分かった。俺とそこにいる蘭には服従しろ。お前達より圧倒的に強いから問題無いだろ。これが呑めないならお前達はもういらない。ここで死ね!》


『雷矢』


俺は妥協をしたが、甘く見られないよう雷矢を50程頭上に出現させた。


《ヒッ!? い、一瞬で……お、お姉様……》


《ね、姉さん……》


《うっ……わ、分かりました。彼女になら……貴方と蘭殿への絶対服従に、情報を漏らさない事。貴方とそこにいるパーティメンバーへの魔法の使用不可及び危害を加えない事を受け入れます》


《わ、私も受け入れます魔王様》


《わ、私もです魔王様》


《だから魔王では……もういい。では『契約』の魔法を発動する》


俺は彼女達が魔王呼ばわりするのを、このままでは話が進まないのでもういいやと訂正するのを諦めた。そして発動していた魔法を消し、リムから順に契約魔法を発動した。


どうやらこの純血種の3人は姉妹なんだそうだ。黒髪ロングのしっかり者の長女リムに、ピンク髪でウェーブボブの気の強そうな目をした次女ミラ。濃い茶髪ロングで口元にホクロがあり、やたらと色っぽい三女ユリ。取り敢えずそう覚えておく事にした。


そして純血種と俺とのやり取りと契約したのを見ていた他の10人のサキュバスは、何も言わず契約を素直に承諾していった。純血種だけ押さえておけば管理は楽そうだ。


「凛に夏海。無事契約は終わったよ。あの黒髪の子がリムと言ってここのサキュバス達の代表になる。俺達に危害を加えない事を契約に盛り込んだし、寝室には入れないから安心してよ」


「わかったわ! 寝室に入って来たら燃やしてやるわ!」


「光希の精気を吸おうとしたら切り刻みます!」


「大丈夫だよ。寝室は俺達だけの場所だ。隠し部屋もね」


「ちょ、ダーリンこんなとこでなにを言うのよ! もうっ!」


「こ、光希……アレはその……あそこは……私が全てを捧げる場所なので……」


「ははは、悪かったよ。それじゃお宝を探しに行こうか」


「もうっ! でもここはダンジョンじゃないから期待薄よね〜」


「良い素材があればいいのですが……」


「塔の戦利品があるかもしれないよ? ミスリルの装備も稀に出るらしいし、魔法書も出るらしい」


「え? そうなの!? それは期待しちゃうわ! 早く行こうよ!」


「ミスリルの装備が!?私達には光希のくれた装備があるから必要ありませんが、市場に流せば冒険者達も喜びますね」


俺達はサキュバス達をこの場所で待機させ、デビルの部屋にあるらしい宝物庫へ向かった。


宝物庫へ入るとアイテムバッグと薬草類に魔法書、黒鉄の武器や防具が所狭しと並んでいた。

鉱物は殆どなく、この島で取れた魔力回復促進剤やポーションに解毒薬の素材が殆どだった。

しかし塔で入手したのであろう4属性の魔法書はかなりあり、殆ど初級だが中級魔法書がいくつかあった。

俺はレア素材にホクホク顔になり、凛と夏海は魔法書と武器に目を輝かせていた。蘭は尻尾を振りながらアイテムバッグを漁っていた。こういう何が出てくるかわからないお楽しみ箱みたいなの蘭は好きだよな。


そして根こそぎお宝を回収した俺達は、ここの塔に住む魔族の生活の場であったという4階へ向かった。

4階に降りると先程俺に気絶をさせられ、影縛りで縛られていた米兵達が目を覚まし必死に闇の手から抜け出そうとしていた。

サキュバスの魅了は解けているように見える。

俺は凛の助けを得て拙い英語で彼等に話し掛けた。


「米軍のみなさん! 俺は冒険者の佐藤 光希です。貴方達は悪魔の魔法で操られ、俺達に襲い掛かって来たので拘束しました。俺達を攻撃しないと約束するのなら拘束を解きます」


「私はこの隊の先任のマクレイン少尉だ。夢を見ていたと思っていたが、君達を襲った事は覚えている。すまなかった。そして殺さずに無力化してくれて感謝する」


「貴方達の意思ではないのは分かってます。気にしないでください」


「すまない……この島に上陸してすぐに味方が撃ってきた魔法特殊弾で部隊が壊滅し、悪魔に捕まり精気を抜かれた所まではハッキリと覚えていたんだが……ああレディがいたね、申し訳無い」


「マクレイン少尉気にしなくていいわ。私は彼のパーティの皇よ。貴方達はそうやってサキュパスに魅了されたのよ。でももう大丈夫そうね、ダーリン拘束を解いてあげて」


「ああ分かったよ」


俺は凛の言う通り拘束を解いた。拘束を解かれた米兵達は皆手にしていた武器などをしまい、攻撃の意思が無い事を示した後に立ち上がった。


「マクレイン少尉。貴方達は冒険者連合の船が到着するまで、この砦の地下の作業場にいてもらいます。この島は冒険者連合と、アメリカの冒険者達が占領します。貴方達は捕虜として捕らえられていた所を俺達に救出されました。いいですね?」


「悪魔に操られ君達を襲った事は無かった事にしてくれるのか?」


「説明が面倒くさいですからね。シンプルにいきましょう」


「……感謝する」


「では、地下に作業場があるのでそこでテントでも張っていてください。あとこれは返しておきます」


俺は宝物庫にあった米軍の補給品が入ったアイテムバッグを2つ渡した。後でごちゃごちゃ言われるのも面倒くさいからかな、殆どテントや食糧だったし返しておく。


「いいのか? 中身はともかくアイテムバッグは貴重だぞ?」


「日本で財布を落とすと、高確率で中身はそのままで見つかるのを知らないんですか?」


「……ククク……そうか、これは落し物か。ニホンジンは面白いな。ありがとう感謝する」


俺は落し物を届けただけだと伝え、驚く少尉以下米兵達を促し地下へと降りた。



俺達が地下の作業場に着くと、俺に子供を逃すよう頼んでいたドワーフのイスラと呼ばれていた子が声を上げた。


《あっ! 良かった! 無事に戻って来た! でもなんか大勢人を連れてるぞ!》


《まさか! デビルを倒したのかい!?》


《お待たせしました。デビルは倒しましたよ。これが証拠です》


《うわっ! デカイ魔石だ! A? いやSはあるんじゃないか!?じゃあ本当に……》


《この黒い魔石は!? 悪魔の!? な、なら本当にあのデビルを!?》


《ええ、デビルはもういません。今からご家族の所までお送りします》


《あ……ああ……ここから出れる……》


《だ、旦那の所に帰れる……》


《な、名前を! 勇者様の名前は! な、なんていうんだ……ですか?》


《勇者なんかじゃないよ。光希 佐藤です。さあ、皆さん移動の準備をしてください。荷物はこのアイテムバッグに入れてくださいね》


《コウキ様だな……ですね》


《コウキ サトウ……》


《ははは、無理して敬語で話さなくていいよ。勇者なんかじゃないしね》


《お……あ……ありがとう》


《気にしなくていいよ。それより外に出るから皆と一緒に準備してくるといい》


《お、おう! ほら、ニーチェ行くぞ!》


《……ありがとう》


結界の中で大人しくしていた11人の女性と男の子は、俺がデビルを倒した証拠の魔石を見せたら泣きながら喜んでいた。そしてイスラが俺を勇者と呼び名前を尋ねてきた。

俺が答えると顔を真っ赤にして使い慣れてない敬語を使い、お礼を言ってきた。その姿がなかなか可愛かった。

そのイスラの隣でニーチェと呼ばれていたホビット族のフランス人形みたいな顔立ちの子が、表情に乏しい顔で俺の名前を口にした後に同じくお礼を言ってくれた。この子もちっちゃくて可愛かった。


女性達が作業場に併設されている部屋に行くのを見届け、俺は少尉にここに冒険者連合が到着するまでいるように言った。


そして女性達が荷物をまとめ終え作業場に戻って来た所で米兵とは別れ、俺達は砦の外へと向かった。

外に出るとクオンが待っており、ドワーフとホビットの女性達はクオンを見るや否や悲鳴を上げ、その場は一瞬パニック状態となった。急遽俺がクオンに芸をさせ安全をアピールしてなんとか収まった。

そして砦は山の中腹にあり歩いて戻ると夜になるからと説明し、全員をクオンにほぼ無理矢理乗せて塔のある場所まで移動した。イスラとニーチェという子以外は皆目をつぶっており、この二人だけ目を輝かせてクオンの背から地上を見ていた。いい度胸をしている。


さて、感動の再会のお時間だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る