第59話 日豪合同演習








「リム! 第二連隊の後方にオークをぶつけろ! 」


《 ハッ! オークの群れ500を誘導します! 》


「静音は風切鳥の群れをオーストラリア第1軍側方に奇襲する形でぶつけろ! 黒死鳥付きでかまわない! 」


《 はっ! 迂回誘導しオーストラリア第1軍の側方から奇襲させます! 》


「ミラ! ユリ! 魔法部隊が熱くなって威力を抑えられなくなったら遠慮なく潰せ! 」


《 うん! まかせて! 》


《 お任せください光魔王様 》


「さて、日本軍も新生オーストラリア軍も対応できるかな」



国際会議からもうすぐ三ヶ月が経とうという頃。俺はインドとアラブ神国に東南アジアの人々への訓練を終えた第一方舟攻略師団を引き連れ、中世界草原フィールドへとやってきていた。

突然俺に呼び出された師団の者たちは、他国への訓練のノルマは達成したのになぜ召集が掛かったのか理解できない様子で皆が震えていた。


そこで俺はフィールドに整列する攻略師団に対し、他国軍の妨害を受けながら攻略する訓練を行うとだけ伝え部隊を展開させた。

師団の者たちは他国軍と聞いて頭にはてなマークを浮かべながらも、リムにケツを叩かれてそれぞれ連隊ごとに車両に乗り込み移動していった。


そして俺は事前にフィールドで待機させていた新生オーストラリア軍に無線で連絡を入れ、日本軍を襲撃するように指示をした。

一応対人戦の際は寸止めか鎧で守られている部分を切るように言ってあり、魔法部隊にも威力を極限まで落とすように伝えてある。弓隊は調整が難しいので対人戦には参加させないようにした。

審判としてインキュバスとサキュバスを上空に飛ばし、攻撃が当たった者を退場させる予定だ。それでも熱くなった者がうっかり寸止めできなかったり、魔法の威力を抑えられなかったりとあると思うので、ダークエルフたちと恋人たちを救護班として随所に配置してある。


俺はマリーとベリーと一緒に安全地帯の指揮所で広範囲に探知魔法を掛け、戦況を見ながら指示をしている。一応部隊の配置や現在地は無線で各部隊から連絡が来ることになっており、ベリーが戦況表示板に各部隊の駒を置いていってくれている。



「第二連隊とオークが接敵しそうだな……ん? オーストラリアの第二軍が近付いてるのに気付いて無さそうだな。あの辺は確か林があったとはいえ、やっぱ訓練の時から魔物だけを相手にさせていたからな。対人警戒が甘いな……」


日本軍は強くなった。フィールドに他国軍がいない状態で師団で挑めば、恐らく中世界も攻略は可能だろう。しかし俺たちがいなくなった後も他国がおとなしいくしてる保証はない。そうなった時に小世界よりも強い魔物がいるこの中世界で、魔物と戦いながら対人戦もこなさないとならない。今回はそのための訓練だ。

ただ相手は日本軍に匹敵する強さを持つ新生オーストラリア軍だけどな。


「ジェフリー! 日本軍はお前たちより良い装備を身に付けている。ヒットアンドアウェイでやれ! お前たちの任務は日本軍の邪魔をすることだ。倒すことじゃないからな? それとお前たちにも遠慮なく魔物をぶつけるから警戒を怠るなよ? 」


《 イエッサー! 日本軍の胸を借ります! 》


「そうだな。日本軍の戦い方を参考にしろ。森フィールドを手に入れる時のためにな」


《 イエッサー! 森の恵みを我が祖国に! 》


「マリー、第二連隊の無線をオープンにしてくれ 」


「はい、マスター」


《……あり! こちら魔力探知分隊! 後方からオークの反応あり! 》


《 了解! 第二、第三中隊は南側へ! 無人偵察機も飛ばせ! 》




《 こちら第三中隊! オーク500! 内オークアーチャー50、オークウィザード30! 》


《 魔法中隊先制攻撃! 》


《 魔法中隊先制攻撃構え……撃て! 》


《 こちら第三中隊! 魔法攻撃命中! オークアーチャー残20、オークウィザード10! 》


《 続いて盾隊前へ! オークの突進を受け止めろ! 弓隊はウィザードを狙え! 》



《 連隊長! 奇襲です! 第一中隊側方の林から敵軍1000! 距離500! 》


《 なっ!? なぜそこまで近付かれるまで気付かなかった! 》


《 索敵部隊応答ありません! 敵は人間です! 見たこともない旗を持って突撃してきます! 》


お? いいタイミングで奇襲を掛けたな。あの位置は第二軍かな。それにしても旗? 国旗か軍旗か? いつ作ったんだ?


《 第一中隊応戦せよ! 第二と第三はオークと交戦中だ! 時間を稼げ! 通信手! 魔法中隊を呼び戻し第三連隊へ応援を要請しろ! 》



《 こ、こちら第一中隊! 敵の魔法先制攻撃にて第二小隊壊滅判定を受けました! 》


《 魔法だと! くっ……第一中隊は防御陣を崩すな! 耐えよ! 通信手! 第三連隊は応答あったか!? 》


《 第三連隊も現在黒狼の群れと、青地に黄色の放射線で中央に赤い竜に乗って剣をかざす人間が描かれている旗を持った軍と交戦中だそうです! 敵は国籍不明の白人! 》


おい……なんだその旗……聞いてないぞ?


《 国籍不明の白人? ハッ!? まさか! 第二第三中隊へ命令! オークを引き連れつつ西へ後退せよ! 第一中隊へ命令! その正体不明の軍は新生オーストラリア軍の可能性あり! 教官が鍛え、我々よりも強いと言わしめた軍だ! 防御へ徹しろ! オークをぶつける! 》


《 りょ、了解! 》


あら? 気付いたか……第二連隊長は戦闘能力は低いが勘がいいよな。

オークをオーストラリア軍にぶつけつつ体制を整えるつもりか。だが間違いなく混戦になるぞ?


「さて、どうなるかね」


「マスター、第三連隊が壊滅したそうです」


「早っ! 確か第三軍と戦ってたよな。うーん、黒狼と戦っている時に1000人と戦うのは厳しいか……でも実際起こり得るしな〜」


「さすがに1000人全員がBランク相当の軍を相手にするのは厳しかったようです。審判をしていたリム様よりそう報告がありました」


「それでも米国ほか国際救済軍は力をつけてきているからな。もう少し粘ってもらわないとな。魔物はオーストラリア軍が掃討したんだろ? 治療が終わったらもう一度全員戦線復帰させてくれ」


「はい、マスター」


国際救済軍はこの二ヶ月半ほどで残りの森を4つ全てと山岳を4つに海が1つと砂漠を2つ攻略した。途中米欧英連合の精鋭が抜けたが、10日ほどで米欧英連合所有の期限切れフィールドを再攻略して救済軍に復帰した。それから更に攻略が加速したようだ。

まあ他国の邪魔が入らない再攻略戦だからな。楽だっただろう。それでも着々と実力を付けてきている。


国家間では日印亜連合と国際救済連合で政治的な話し合いが行われているが、不戦協定を結ぶための取り決めでモメているようだ。一応三ヶ月以内に締結できなかったら俺が出てくると思っているのか、国際救済連合側の方が焦っているらしい。まあ国同士で決めたなら文句は言わないさ。

別に大世界なんか攻略する気ないし、日本はあと数個の中世界フィールドを攻略すれば、あとはインドとアラブの手伝いで終わりだしな。あと半年以上もあるんだ余裕だろ。


「お? 第二連隊はうまくオーストラリア軍にオークをぶつけたな。けどやっぱり混戦になったか……あ〜駄目だな。オークは殲滅できたけど連隊は500しか残ってない。オーストラリア軍は800がまだいる上に日本得意の陣形を組む時間がない。マリー、停戦させてやり直しと伝えてくれ」


「はい、マスター」


さて、今日と明日はみっちり演習だな。夜襲もさせなきゃな。蘭に野営地の近くにメテオを落とさせてパニックになってるところにオーストラリア軍に総攻撃させるのも面白いな。いや、オーガの群れも突っ込ませようかな。


まったく、世界最強の軍を目指すのも大変だな。がんばれ日本軍!












ーー 永田町 首相官邸 内閣総理大臣 東堂 勇 ーー







「いよいよ明日から攻略再開だな」


「はい。この三ヶ月間は忙しかったですね」


「議員をしながら資源フィールドで狩りをしてた時が懐かしいな。あの時の俺たちは国民のためにと法案を考え、ひたすら魔物を狩る日々だった」


「ははは、確かに法案を考えながら狩りをしてましたね。狩りに忙しく党の会合をすっぽかして当時の総理に叱られたのが懐かしいです」


20年前、戦後の混乱期に食糧を求め誰もが門へと向かっていた。俺もただのサラリーマンだったが、昔やっていた剣道の腕を活かして資源フィールドで狩りをして家族を食わすための食糧を手に入れていた。

そんな時に大学の後輩である真田と再開し、共通の知り合いも誘いパーティを組んだ。

それから二年ほど経った頃、中露が東南アジアとオーストラリアに侵攻し、食糧と現地人を奴隷として連れ去ったという情報を耳にした。


俺たちはこのままではこの国は中露と裏切り者の南朝鮮に攻め滅ぼされると思い、政界への道を歩むことを決意した。俺と真田が国政選挙に立候補をし、ハンター仲間と門に避難していた地元の人たちが応援してくだおかげで政治家になることができた。


ちなみにその時の選挙は国会議員を大幅に削減した直後の選挙だったので、当初は激戦になると思われた。しかし日本を戦争に巻き込み、過去歴代の政府があれほど優遇していた南朝鮮に裏切られた当時の国会議員は、国民の支持を得ることはできなかった。毎日餓死をする国民がいた時代だったせいか、元ハンターの俺たちは多くの人からの支持を得られたというわけだ。


それからは魔石をエネルギーに変換する研究に予算を割くよう提案したり、科学者や刀鍛冶士を集めフィールドで入手した素材や鉱石の研究と加工を推進したりと着々と実績を積み上げていった。


「気が付けば50で総理大臣になっていたな」


「ええ、いつの間にか私も48で大臣になっていました」


「真田は30代にしか見えんがな。魔力が多いと老化が遅くなるとはな。羨ましいな」


「妻が私ばっかり老けていってズルいと嫉妬されてこれでも大変なんですよ」


「ははは、それはキツイな。女房とは一緒に歳をとりたいもんだ。だが二人目の女房は作らないのか? 」


「確かに10年前の法改正で魔力が高い者と高ランクの者は一夫多妻制が認められるようになりましたが、妻に側室が欲しいから賛成したと思われないよう自制してます」


「あ〜それはそうか。すでに結婚した者には厳しかったな。今の若い者はそれを目的でランクを上げているがな」


Bランクか魔法使いでCランク以上の者は資格があるのだが、すでに結婚していた者はいくら法で認められても伴侶が認めるとは限らないからな。


「理由はなんであれやる気になってくれたなら法改正した甲斐がありましたね。私も佐藤さんが羨ましいです。あれほどの美姫に囲まれるのは男の夢ですから」


「確かに美人ばかりだな、恐ろしいが……」


「見た目は絶世の美女ばかりですよね、恐ろしいですが……」


確かに蘭殿やシルフィーナ殿に皇殿に多田殿と美女ばかりだ。さらに竜人族のセルシア殿にダークエルフ、光魔と呼ばれる者たちも人間離れした美しさだった。ああ、人間ではなかったか。

だが方舟攻略師団の訓練風景の映像を見せてもらった時から、俺はあの美女たちが恐ろしくて仕方がない。


「魔物を笑いながら殲滅するのはたとえ美人でも無いな……」


「隊員を魔物の群れに放り投げる美人も無いですね……」


「佐藤殿は凄いな」


「さすが神の使いなだけありますね」


「その佐藤殿の手を煩わせないように救済連合との不戦協定を早くまとめないとな」


「そうですね。こちらはこれ以上譲歩はできませんので先方次第ですね。恐らく呑むとは思います」


国際救済連合とは不戦の締結まではスムーズに進んだ。いや、先方がかなり積極的だったというべきか。

だがそれに付随する今後の方舟の攻略ルールの制定で真っ向から対立した。

我々はフィールドで戦う者の人数上限の撤廃と、ボスが現れた時に邪魔をしないという条約を定めたかったが、救済連合は連合ごとに攻略するフィールドを分け、我々とはそれぞれ別のフィールドを攻略したいらしい。

そんなもの呑めるわけが無い。軍の実力がかけ離れているのにそんなことをしたら、我々は救済連合が攻略するまでその攻略中の草原なら草原フィールドをいつまで経っても攻略できなくなる。


一応こちらも譲歩をし、上限人数撤廃を引っ込めて中世界の上限1000人を3000人にすることを再提案した。あとはこれ以上譲れないと、これが駄目なら佐藤殿に決めてもらおうと言って会議場から退室した。

退室したあとの会議室では怒声や罵声が響き渡っていたが、俺としては全員敵対国家としか見てないからな。もう二度と奴らに呑まれる訳にはいかない。


実力だ、実力が物を言う世界になったのだ。日本を信じ連合を組んでくれたインドとアラブ神国、そして将来の仲間となる新生オーストラリア国のためにも敵を作ることを恐れてはならないのだ。

日本を侵略しようとした者と、日本に制裁をしたあげくに技術者を拉致した者たちに隙を見せてはならない。大国としての自覚を持ち、大国として振る舞わねば苦しむのは日本国民だ。


もう二度と他国の言いなりにはならない。そのためにも軍の育成と技術の発展に全力を注がねばならないのだ。佐藤殿がこの世界にいるうちに……







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