第60話 攻略再開
日豪合同演習を無事終えて一週間が経過し、いよいよ日印亜連合の攻略解禁日となった。
最終的に国際救済連合は小世界の森フィールドを4つと山岳を4つ、海を2つ、砂漠を3つ攻略した。これで小世界での未攻略フィールドは草原と森が0、山岳が5、海が15、砂漠が14となった。
海と砂漠残り過ぎだろ。30あるうちの半分しか攻略できてないとはな。
最終週に海と砂漠に救済連合の魔法使いを全投入してなんとか一つずつ攻略したようだが、この三ヶ月で救済連合は犠牲者を多く出してしまい、魔法使いも減ったことによりしばらく攻略再開は難しそうだ。
特に米欧英連合は貢献度が一番高かったこともあり、その分兵士を多数失ってしまったらしい。
来年早々に攻略済みフィールドの再攻略戦があるから、ここは戦力を温存したいのだろう。その守りの姿勢が強い軍を作れない原因なんだけど、日本みたいにポーションをじゃぶじゃぶ使えないのもあるから仕方ないのかもしれないな。
この世界でもポーションの素材は森フィールドにある。中級ポーションの素材までなら小世界フィールドでなんとか集まる。ほとんど俺の持ち出しだけどな。あとで集金に必ずこないといけない。
この世界の森は手前と奥の二つのエリアに分かれていて、門を潜ってから一番手前にある森は地球産の植物が自生しており、奥に行くにつれて異世界産の植物になっていく。なので採取は必然的に奥地の強い魔物が出るエリアでする事になる。異世界産の木々は魔力の影響を受けているので、ダンジョンと同じく伐採してもすぐに生えてきて1~2ヶ月でもとの大きさの木になる。ものすっごい堅い木だからチェーンソウでも切り倒せないけどね。そこは黒鉄混じりの斧に魔力を流してDランク程度の戦士なら切ることができる。
色々な種類の木があるけどどれも堅いんだ。燃えやすい木とか燃えにくい木とか違いはあるのに共通して堅いという……
なので木を切り倒して住宅地にするのは手前の方の地球産の森か、途中に複数ある広場となる。草原に比べれば人が住める土地は少ないが、異世界産の森の恵みはそれ以上の恩恵を人類に与えてくれる。
俺が教えたレシピを元に薬を作れば製薬会社は倒産間違いなしだ。人類の平均寿命は間違いなく延びるだろう。さすがに末期ガンが一瞬で完治するレベルの物は上級錬金魔法と最上級ダンジョンレベルで採れる素材がないと無理だけどね。薬草だけじゃなくて竜の肝とか必要だし。
まあそんな感じで小世界森フィールドが全て攻略されたことにより解放された資源フィールドの中級レベルの森エリアと、中世界の森フィールドを見て回って素材を確認したりした。
そのあとは攻略を再開した方舟攻略師団の小世界海フィールドの攻略に同行することにした。
救済連合が苦戦したというからどれほどのものか見にきたというわけだ。
「なるほどね。話には聞いていたが余裕だろこのフィールド。なあ光一? 」
「今の俺ならな。光希に魔法をもらう前は結構大変だったんだ。初級魔法使いなら30人、中級魔法使いなら10人はいないとボスがなあ……」
「魔法が無くても橋という足場があるんだ。命綱つけてボスに特攻すれば倒せるだろ? 」
橋と言っても海面にかなり近い上に幅は20mほどで手すりどころか転落防止の柵も何も無いけどな。
「しねーよ! そんな神風特攻するやつなんかいねーから! 」
「ヌルいんだよな……よしっ! 見本を見せてやるか! 」
「やめとけって、光希がやっても光希だからってみんな思うだけだ」
「あ〜それもそうか……なら夏美さんならできそうだな。どう? 」
「え? あ、はい。た、多分できるとは思います……」
「おいっ! 夏美を巻き込むんじゃねえよ! 俺がやるよ! やればいいんだろ! 」
「そう言ってくれると思ってたよ光一。お前は転移あるから命綱無しな? 」
「はああ? マジかよ! 相変わらず鬼だな! 咄嗟に転移できなかったら死んじまうよ! 」
「それくらいの方が練習になる。大丈夫だ、いざとなったら天雷を撃ち込んで助けてやるから」
「俺にも当たるじゃねえか! 全然大丈夫じゃないだろそれ! 」
「なら転移を成功、いや転移を使わなくていいようにうまく戦えばいいんだ。神崎も見てるぞ? ここはカッコイイところ見せるチャンスじゃないか? 」
「ハッ!? や、やる! あともうひと押しなんだ。やってみせる! 」
「なら早くボス出してこい! 」
「ああ! さっさと出してくる! ……『転移』 」
あ〜あ、張り切っちゃって。今日も神崎が心配だからって付いてきたからな。心配性なのはやっぱり俺だよな。
「ふふっ、光一ったら」
「夏美さんは神崎ならオッケーなのか? 」
「はい、彼女なら仲良くやっていけそうです。光一なら平等に愛してくれますしそれに……体力的にもその……私一人だとちょっと……」
あ……なんかスマン。
夏海が夏美に避妊薬をたくさんあげてからは、できる日が増えたって光一が喜んでいたが……アイツは俺なだけに恥ずかしい。まあランクが上がると男も女もあっちが強くなるから、これは生理現象なんだ仕方ないことなんだ。
「そ、そうか……まだあいつも21だしな。それよりその……お袋はどうしてる? 」
「ふふっ、お義母様は若返ってから元気過ぎて……ちょくちょく私たちと資源フィールドに行って、病気の時にお世話になった町内会の人たちに食糧を配ってますよ」
「ええ!? お袋が戦ってるのか!? 」
「はい。光希さんが私たちにくれた四属性の初級魔法書を見せた時にウッカリ開いてしまって……水魔法の適性があったんです」
「お袋に魔法適性が!? 」
マジかよ! まさかお袋が……自分の親だから戦闘からは掛け離れた存在だと思って鑑定なんかしてなかったよ。
よく考えてみれば勇者適性がある俺の親だもんな。それならハンターをやっていた親父も魔法使いだったのか? なんか触れられたくない雰囲気だったから聞いてないんだよな……名前もお袋の旧姓に変えてるしな。
親父はいったい何をやったんだよ……
「私も光一もびっくりしました。お義母様は凄く喜んではしゃいでしまって、その場で魔法を試し撃ちしてリビングを破壊してしまいましたけど……」
「お袋……なにしてんだよ……」
「それから今までお世話になった人たちに自分の力で恩返ししたいって。戦い方を教えてほしいって。光一は反対したんですけど私はその気持ちがすごく良くわかったので、一緒に資源フィールドに行くことにしたんです。そしたら光一も渋々付いてきてくれて」
「まあ、付いていくしかないよな。お? 光一の殲滅速度上がったな。しっかり鍛錬していたみたいでなによりだ」
「この三ヶ月の間は資源フィールドの草原エリアの奥地で訓練してました。あ、この間はグアムまでお義母様と一緒に連れて行っていただきありがとうございました。とても楽しかったです。光一は疲れきってましたけど……ふふっ」
「まあ自分の母親のTバック水着なんて見たくないよな。俺も複雑な気分だったよ……」
この間俺と恋人たちにセルシアと光一たちを連れてグアムに海水浴に行ったんだけど、蘭が用意した水着の中で一番際どいやつをお袋が着たんだ。正直見ている俺が恥ずかしかった。光一はお袋に抱きつかれて、興奮した?ねえお母さんで興奮した? とか言われてて絶叫してたよ。気持ちはわかる。
「ふふっ、若返って自信が戻ってきたんだと思います。元気な姿をまた見れて私も嬉しいです」
「まあ親孝行できてよかったよ。あっ! 光一面倒になったみたいだな。天雷で一掃しやがった! 」
「光一はあの魔法を凄く気に入ってますから……光一は光希さんを実のお兄さんのように思って凄く憧れてるんです。光希さんのように強くなって周囲の人に認められたいんです」
「認められたい……か……俺は魔王とか呼ばれてるんだけどな」
「光希さんは確かに過激ですけど、結果的に多くの人を助け尊敬されてます。光一はお義父様の名誉を回復したいんです。それはきっとお義母様も……」
「よくは知らないがハンターをしていたらしいな、それで不名誉な死に方をしたとか。そうか……それであれほど強くなろうと……」
「はい。本人以外の口からは言えませんが家族のために戦い続けたお義父様の名誉を回復して、自分は佐藤栄一の息子の佐藤光一だと堂々と名乗りたいそうなんです」
「そうか……その願いは叶えられるな。俺がいるからな」
目立つことを望み佐藤と名乗りたいなんて、影武者としてなんて適任な奴だ。これはみっちり鍛えてやらないとな。
「光希さん……光一をよろしくお願いします」
「何言ってんだ? 夏美さんもみっちり鍛えるって夏海が言ってたぞ? この間の山籠りで夏海がまだまだだって言ってたからな。夏美さんも一緒に鍛えてやるよ。そして光一を頼む」
「あ……はい! 光一は私が守ります! よろしくお願いします! 」
「任せろ! おっし!ボスが出たみたいだ。見学しにいくぞ」
「はい! 」
俺は夏美にそう言って光一が戦っている場所まで二人で転移した。
「倉木さん! ボスです! クラーケンとサハギンの群れが出ました! 」
「おうっ! 任せておけ! 今から魔法無しでボスを倒すから見ていてくれ! 」
「そ、そんな無茶です! 掴まれて海底に引きずり込まれます! 」
「こ、光一さん! 無理しないで! 私の魔法で援護するからその隙に! 」
「光希がやれって言うんだ。俺にならできるって言ったんだ。ならできるさ! 連隊長はサハギンを頼みます! 」
「きょ、教官が!? それなら仕方ないですね。サハギンは我々が! 」
「え? 教官が? そんじゃあ仕方ないわね……特魔隊はサハギンを! クラーケンは無視しなさい! 」
「え? あれ? みんな? 玲さんまでそんな呆気なく? あれ? 」
《 教官がやれと言ったなら仕方ないな。倉木さん南無…… 》
《 邪魔したら罰を受けそうだからな。弟の倉木さんに全て任せようぜ 》
《 あれ? 倉木さんは並行世界の教官だって話じゃなかったか? 》
《 それ紛らわしいから弟ってことにしたんだよ。並行世界の教官とかいちいち言うの紛らわしいからな 》
《 他国がいる時は変装して身分を隠すんだろ? 》
《 教官はずっとこの世界にはいれないみたいだからな。抑止力として倉木さんには教官になってもらうらしい 》
《 そうか、教官はいなくなるのか……残念だな……うん残念だ 》
《 ああ、凄く残念だ……とてもな……ククク…… 》
聞こえてんぞ……そうか、そんなに俺との別れが残念か……コイツらには毎晩俺が夢に出てくるほどのトラウマを植え付ける必要があるな。
「オラッ! サハギン程度にいつまで手こずってんだ! また特別訓練やるぞ! 」
「ヒッ!? きょ、教官! いつからこのフィールドに!? ま、魔法隊一斉斉射! その後に全軍突撃! 瞬殺せよ! 」
《 りょ、了解! 》
ったく! 小世界フィールドだからって余裕出しやがって! 早いとこ中世界フィールドにコイツらを行かせないと駄目だな。こんなヌルいフィールドじゃ緊張感が全然無いからな。
お? 光一いくのか!?
「うおおおおお! イカ野郎が! うおらっ! 」
「そうそう、目の上の部分が物理の場合弱点だからな。イカ足を駆け上がっていくしかないよな」
「光一……」
光一は次々と襲いかかってくるイカ足をを斬り飛ばし、残った足に飛び乗ったあとに胴体へ向けて駆け上がった。
そしてそのままミスリルの剣に魔力を注ぎ、クラーケンの額に深々と突き刺した。
弱点の額に剣を突き刺されたクラーケンは、一瞬硬直したのちにその身体を消滅させた。
「よっしゃあ! 見たか! 魔法無しでボスを……え? あれ? うわあああ! て、『転移』! ふ、不発!? て、てん……」
ドボーーーン!
「光一! 」
「光一さん! 」
「……はぁ〜、大丈夫だそのうち転移してくる。それより海に浮いている鍵とドロップ品を回収しろ! 」
《 了解! 》
そりゃ魔物は倒したら消えるからな。海に落ちるよな。剣を突き刺してすぐ離れないからそうなるんだよ、馬鹿光一が。
面白いことに海フィールドのドロップ品は水に浮く。ボスを倒したあとの神殿の鍵もそうだ。手に持つとそれなりに重いのにとても不思議だ。
「ぶはっ! や、やべえ溺れ死ぬかと思った……」
「馬鹿かお前は……魔物は倒したら消滅するのは知ってんだろうが」
「面目ない……倒したことの嬉しさで忘れてたよ」
「その一瞬の気の緩みが反撃や奇襲を受けることに繋がるんだよ。倒した後も気を緩めるなボケ! 」
「うっ……わかったよ」
「今度手足を縛った状態で空中から海に落とすから転移の練習しておけ。まだまだなんだよ」
とっさの時に使えない転移なんてただの移動魔法だろう。戦闘時やピンチの時に使えてこその転移魔法だ。
そのためには訓練あるのみだな。
「げっ! でもさっきのアレの後じゃあ文句も言えないか……わかった、練習をもっとしておく」
「俺たちは不器用なんだ。だから人一倍反復練習をしないと技術を身に付けられない。これくらいでいいだろうなんて絶対に思うなよ? そこで成長が止まる。強くなりたいんだろ? 」
「ああ、俺は強くなりたい! 誰もが認める強者になりたい! 俺は親父の子なんだってみんなに自信を持って言いたい! 」
「してやるよ、世界最強の男にな。Sランクになれば汎用性の高い闇魔法を付与してやる。装備もいま作らせている。楽しみにしていろ」
闇魔法は汎用性が高いからな。影縛りなんかはよく使うし暗視も便利だ。それにドワーフとホビットたちに魔鉄の剣と上位竜の革鎧を作らせている。俺が日本の勇者にしてやるよ。世界からは魔王と呼ばれるけどな。
「光希……ありがとうな。お前がいなかったら俺と夏美はあの時死んでいた。たとえ生き残ったとしても未だに片目片腕で資源フィールドでくすぶっていた。お袋も愛する夏美も俺も今こうしていられるのは光希のおかげだ。本当にありがとう」
「お前が並行世界に行って俺を見付けたら同じことをするはずだ。俺は俺がしたいと思ったことをしただけで、たまたま俺にはそれができる能力があった。そんな俺に出会えたお前たちは運が良かった。それだけだ」
「運か……ちぇっ! カッコいいな俺はよ! 俺もあと15年もしたら光希みたいになれるのかな」
「なれるさ、お前は俺だろ? 能力だけじゃなく恋人の数もな」
「ゴクッ……ら、蘭さんや凛さんにシルフィーナさんにセルシアさんみたいな恋人が俺にも!? 」
「ああ、世界最強の男になれば向こうから寄ってくる」
「なっ!? む、向こうから!? ……なる!? 俺はハーレム王になる! 」
「まずは神崎からだな。安心しろ。何人増えようが満足させられる薬を大量に渡してやる。これは俺特製の精力剤でな? これを飲むと……」
それから俺たちは神殿に行くことも忘れ夢と希望に満ちた未来を心ゆくまで語り合った。
光一は目をキラキラさせて聞いており、その姿はまるで少年のようだった。
モチベーションを上げることがこんなに楽なやつはいないよな。
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