第6話





「ここが探索者協会か」


 探索者協会の建物は倉庫みたいな外装の2階建で、入口にある施設MAPを見ると1階が探索者の受付や素材買い取り窓口に喫茶店や小会議室などがあり、2階に新規探索者加入受付窓口と会議室、探索者協会の所長室、資料センターがあるようだ。

 パッと見施設の大きさは街のスーパー程があり、異世界の王都にある冒険者ギルドより広そうだった。


 俺は探索者協会入口に入りすぐ横にある階段で2階に上がった。

 2階に上がるとすぐに新規探索者受付窓口があり、その隣に資料センターがあるので受付の人に挨拶してから入った。


「おっ! 新聞があるな。取り敢えず見てみるか……ん? んん?」


 全く聞いたことない新聞社が発行している新聞を見てみると、まずは日付けを見て固まった。


「2019年3月2日? 安成3年? はああ?」


 どう言うことだこれ? 俺が召喚されたのは2019年2月だったと思う。それから1ヶ月も経過してない?いや、そもそも安成て元号ってなんだよ! 平成じゃなくて? それに俺がいた時に魔獣やら探索者なんていなかったぞ?


「埼北、安成か……これはやっぱりパラレルワールドに来ちゃったのかなぁ」


 もしかしてとは思った、王城にいた時に過去に召喚された勇者の日記を読んだことがある。

 そこには魔獣がいる日本で探索者をやっていたとか言う人もいれば、日本皇国から来たとか言ってる人もいた。その時はきっと平行世界から来たんだろうなぁとは思って読んでいたが、まさか自分が体験する事になるとは……


「召喚する際に送還の魔法陣を刻んだ奴が、過去の勇者の送還陣と間違えたか?」


 いや、召喚時に座標はしっかり分かってる筈だ。召喚時に刻んだなら間違える筈がない。

 事故か? 魔力が足りなかったとか? これじゃあ過去の勇者も本当に自分がいた世界に帰れたか微妙だな。


「あ〜これじゃ弟や友人に会っても誰? ってなるのか。それともこの世界で大学生の俺がいるのか?」


 同姓同名で顔も同じとかヤバイよなぁ。名前変えとくか? 少し寂しいが俺には蘭がいるしな。まあ何とかなるだろ。


「よしっ! わかった! 切り替えよう」


 俺は両手で左右のほっぺをピシャリと叩き、気持ちを切り替えた。

 中世の異世界に、それも末期世界に召喚されたあの絶望より遥かにマシだ。

 ここは末期でも中世でも無い。何とかなるさ。俺が不安に思ったら蘭なんてもっと不安になる……かな? あいつは俺がいるならいいとか言いそうだな。

 そんな事を考えて資料室にある書籍を見て回ると、『ダンジョンの歴史』という今知りたいものがあったので読んでみた。


 これによるとダンジョンは今からおよそ40年前に突如として世界各地に発生したそうだ。それも地下鉄が突然ダンジョン化したり、山や森の中に洞窟が突然できるなどなんとも迷惑な場所に現れたらしい。

 そしてそのダンジョンから異様な風体をした人間が現れた。

 地球の人と同じ姿形の人もいれば耳の長い人であったり、犬や猫や兎の耳と尻尾がついている人間そっくりな人であったり様々な風体をしていた。言葉は通じ無かったが根気よく聞いて解読していくと、彼らは皆一様にダンジョン内で探索していたら大きな地震があり、気が付いたらこの世界に来ていたと口を揃えて言っていた。


「へえ……日本にもエルフや獣人が来ているのか」


 日本やアメリカなど先進国は彼らを保護し、情報の収集に努めた。

 しかし隣の大陸にある大国は違った。

 ダンジョンができたのは異世界人の彼らの責任だと政府が言い出した。全ての異世界人を捕らえ拷問や処刑をしようとしたが、彼らは強かった。銃火器が通用せず戦車ですら大剣で真っ二つにされ、東へ東へと逃げながら他の異世界人と合流を果たした。

 その混乱に乗じ大国各地で独立運動が起こり、彼らはその中の一国に保護された。


「あはは。異世界人もやるなぁ」


 その後日本やアメリカなど先進国は異世界人の指示を仰ぎ、各ダンジョンで銃火器が通用する階層まで間引きを行なった。間引きを行わないとダンジョンから魔獣が溢れ出てくるという異世界人の警告から実行となった。間引きを行った隊員は少ない経験値とはいえ、魔獣の魂をその身に吸収し着実に強くなっていった。

 強くなったものは銃火器の通用しない深層へ行き、異世界人とともにダンジョンを攻略していった。


 しかし初級や中級ダンジョンはこの方法で通用したが、上級以上のダンジョンには1層目から銃火器は通用せず間引きが間に合わなかった。こういったダンジョンにはその山や森、地下鉄全体を封鎖する為の壁の建設も同時進行し、付近住民の避難も呼びかけていたが間に合わなかった。

 世界各地で上級ダンジョンの氾濫が起こった。


 上級以上のダンジョンから溢れ出た魔獣の は恐ろしく強く、自衛隊でも対応が全くできず地下鉄型ダンジョンだけで東京、大阪、北海道、福岡などの主要都市は壊滅した。

 世界各国でも起こったこの氾濫で、東南アジア諸国などは国が滅び魔獣しかいない土地もある。


 輸入に頼っていた日本などは更に追い討ちで、エネルギーと食糧難に陥った。

 ここに来てようやく政府は自衛隊のみならず、警察や民間人にもダンジョン攻略を義務付ける法律を可決した。

『国民総探索者制度』である。


 成人年齢を16歳まで引き下げ、16歳から50歳迄の健康な男子に3年間の探索者義務を課した。

『食べ物が無いならダンジョンの魔獣を狩って食べればいい』というキャッチフレーズのもと、多くの国民がダンジョンへ潜りその命と引き換えに高ランク探索者を生み出しつつ食料難を乗り越えた。

 ダンジョンの氾濫から土地の奪還、壁の建設迄の間に多くの若い男性が命を落とした。

 この時日本の人口は8千万人、男女比率は4:6にまで落ち込んだそうだ。


 その後先進国は自国のダンジョンを制御しつつ、資源国へ優先的に高ランク探索者を派遣した。20年の歳月と多くの命を犠牲にし世界は秩序を取り戻した。


「おいおい、戦争なんて比にならないほど人が死んでるじゃないか」


 その後日本は中級ダンジョン周辺にも壁を造ることにより、更なる安全を確保しつつ探索者の育成に国家規模で取り組んだ。

 国内のダンジョンが安定した所でダンジョン資源の研究が一通り終わり、人類は魔力という新エネルギーを手に入れた。人的資源と引き換えに枯渇する事のない無限のエネルギーがダンジョンと魔石から生まれる事で、ダンジョン出現以前より人々の暮らしは良くなっていった。


 この頃には『国民総探索者制度』も廃止された。

 更にその後の研究から、高ランクつまり魔力値の高い探索者からは魔力値の高い子供が生まれる事が分かった。政府はそれを積極的に支援する為に、魔力値がAランク以上の探索者には重婚を認める法案を可決した。

 上級探索者になれば年に数億稼ぐ事も可能になる事と同時に、これは多くの探索者に夢を与えた。


 世界一多くのダンジョンを抱える日本は、多くのエネルギーを自給自足し輸出すらできるようになった。その事により世界各国からはダンジョン超大国と呼ばれるようになり、ジャパンドリームを実現させる為に外国からも多くの探索者が来るようになった。これにより日本は更に安定した。


 上級ダンジョンができやすいという他国に無い爆弾を抱えながら、綱渡りをするようなバランス感覚での繁栄である。




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