第21話 攻略依頼





《主様! スーちゃんがペットの仲間入りしました! 》


《お疲れ様。早かったなさすが蘭だ。水竜はエメラに東京湾まで誘導させて蘭は転移で帰っておいで。エメラにはハイオークの肉をご褒美にあげると伝えておいてくれ》


《うふふ。主様に褒められました。はい! 蘭は帰ります!》


「シルフィ。無事水竜は討伐というかペット化したよ」


「ありがとう助かるわ。ランちゃんには後でお礼しなくちゃね」


「一緒に買い物にでも付き合ってやってくれ。喜ぶと思うよ」


「ふふふ、それはいいわね。服でも一緒に買いに行くわ」


俺は今、冒険者連合の理事長室でシルフィと一緒に蘭から念話で報告を受けている。

上海ダンジョンの氾濫鎮圧から2週間程経過し、年末に向けて世間が慌ただしくなった頃に水竜が浙江省沖に現れた。

内陸の川をゆっくり下ってきたようで、海に出てからは南下し香港を目指しているようだった。

水竜は立ち塞がる軍艦をことごとく沈め、ゆっくりとしかし真っ直ぐ南へと進んで行った。

俺はこれを予想していたので予め日本と台湾にはシルフィを通し、一切攻撃をしないよう通達を出していた。水竜は執念深い竜だ。一度自分を攻撃し傷を負わせた相手は何処までも追いかけて報復をする。水竜と戦うなら圧倒的な強さで倒すか、海や大きな川の無い内陸に逃げないと駄目だ。中華広東共和国は海に面しており川も多い国だ、水竜が見逃すはずがない。


中華広東共和国政府は慌てた。自分達が手を出した水竜が追いかけて来たのだ。国民に言い訳の仕様が無い。海軍を差し向け全力で水竜を倒そうと試みたが、差し向けた軍艦は一隻残らず沈められてしまった。そして冒険者連合へ泣きついてきた。しかしシルフィはこれを断った。

すると中華広東共和国は冒険者連合に加盟している国が魔獣により危機に陥った場合、加盟国を助ける義務があると言う条約を掲げ国際会議の場でシルフィを糾弾した。

それに対しシルフィはこう反論したそうだ。


『中華広東共和国政府は冒険者連合はおろか連合国の台湾共和国にも無断で領土拡大の為に湖南に侵攻をし、水竜により壊滅しました。その事で同時に発生した上海ダンジョンの氾濫に軍を出動させる事ができず、何の支援もせず50万の死霊を冒険者連合のみに対応させました。この時点で条約違反をしているのは中華広東共和国です。そして犠牲者を出しつつも冒険者連合で鎮圧したこの氾濫を、軍と冒険者連合により氾濫を収めたと国内には触れ回っています。更に今回の水竜です。この水竜は湖南侵攻で刺激した結果、その報復に来ているとしか思えません。冒険者連合は身勝手な政府のお助け組織ではありませんので、水竜討伐の依頼はお断りしました』


この国際会議はB6ビーシックスと言われる冒険者連合加盟国である、日本・アメリカ・イギリス・ドイツ・インド・中台連合が集まる国際テレビ会議だ。今回は日本が別の議題で緊急開催した物だった。

シルフィの発言に他の加盟国は賛同し、中華広東共和国は窮地に立たされた。

そこで本来の議題である中華広東共和国を連合から脱退させる話し合いが行われた。

シルフィは中華広東共和国政府及び野党により、冒険者連合職員が他国への政治に利用され物として扱われた事。今回の上海の氾濫で共同で対処すべく政府が一切軍を差し向けなかった条約違反。責任者である大統領が真っ先に国外退去した事や、不当な魔石の購入権利の主張などを脱退させる理由として挙げた。

そして今後は台湾共和国を単国でB6に加盟させる提案も同時に行った。

当然中華広東共和国は反発したが、ダークエルフがその全能力を駆使して集めた情報と証人の自白映像及び書類が提出され黙らざるを得なかった。


俺は脱退させるには理由がまだ弱いなと思っていたが、そこは今飛ぶ鳥を落とす勢いの日本冒険者連合理事長の神通力。採決は満場一致で中華広東共和国の脱退が決まった。但し、救済措置として3年は冒険者連合が守る義務の発生しない準冒険者連合加盟国として残す事となった。これは中華広東共和国の冒険者への配慮であり、政府に対しての最後通牒である。中華広東共和国大統領は意気消沈していたとシルフィはとても晴れやかな笑顔で言っていた。


その後はまあ、お金の話だな。シルフィはかなり吹っ掛けた依頼料を中華広東共和国に呑ませた。そして表向きは台湾共和国の依頼と言う事で水竜を討伐する事になった。丁度水竜は台湾沖にいたしね。

そして俺は蘭にゴーサインを出し討伐に行かせたら、3時間で終わらせて来たという訳だ。


「次は、水竜は冒険者連合の差し向けた魔獣だったんだとか言い出しそうだけどな」


「それならそれで3年を待たずに撤退するだけよ。後はあの国がどうなろうと知った事じゃないわ」


「それもそうだな。恐らく政府は国民に総叩きにあって解散するだろう。次の選挙でまともな政治家を選べなかったらあの国は終わりだな。それは国民の所為でもある」


「民主政治って王権国家の愚王よりは良いけど、賢王には遥かに劣るわよね」


「全ての国民の知能やモラルが高くないと成立しない高度な政治システムだからな。まだ人類はそのシステムに挑戦している段階なんだ。失敗を重ねて少しずつマシになっていくものだと信じている。王権国家よりは遥かに良い政治体制だよ」


「人数が多い種族って大変なのね」


「そうだな。色んな考えの人がいるから大変だな」


俺は政治の事はよく分からないが、アトランのクソ貴族や王族よりは民主主義国家の方がマシだと思っている。民主国家なら繁栄するのも滅ぶのも国民の責任だ。独裁者に国を好きにされ滅ぶよりは良い。


「あっ、そうだったわ。上海ダンジョンの瘴気の件で総理が相談したいらしいのよ」


「来たか……瘴気の広がり方がちょっと異常だからな。そろそろ来ると思っていたよ」


「やっぱりおかしいわよね? アトランには衛星なんて無かったから、瘴気の範囲を上から見た事ないけど変だとは思ってたのよ」


「まず普通はダンジョンを中心に円状に広がるんだよ。それがキッチリ人がいない海を避けて南と北と西に向かって少しずつ広がっている。これは何者かの意思が関与しているとしか思えないな」


「確かに海には瘴気は無いわね。でもこのまま行くと台湾と沖縄が範囲に入るのよね」


「ああ、多分福建省辺りまで伸びたら海に広がって台湾と沖縄を呑み込むと思う。総理の心配もそこなんだろう」


「総理に頼まれたら上海ダンジョン攻略するの?」


「さあ、どうだろうな。個人的には古代魔道具があったし、あまり関わりたく無いダンジョンだな」


「そう……実は以蔵さんと静音さんが攻略をするつもりでいるのよ。その為に冒険者を育ててるのよね」


「あの二人が? 仇はもう取ったんだろ?」


「それがどうもエルダーリッチはダークエルフを捕らえる動きをしてたみたいで、もしかしたら二人の子供や里の人が死後その身体を弄ばれてるんじゃないかって。解放して弔ってあげたいって」


「ダークエルフを? 目的は分からないが二人がそうだと言うならその可能性もあるんだろうな。そうか、死者を弔ってあげたいか……」


「コウ……もしもあの時私が禁呪を使わず死霊の軍団に殺されて、死後ゾンビとかにされていたらどうしていた?」


「それは……弔ってやりに行ったな……わかったよ。ダンジョンコアの所有権と報酬次第で、上海ダンジョンの完全攻略を受けるよ。但し、毎回こんなのが来たら嫌だから高く依頼を受けてくれ」


「ありがとうコウ。あの二人をダンジョンに行かせて死なせたくなかったの。確かに危険なダンジョンは世界に沢山あるものね。その度に安易にコウに頼む事にならないよう、中華広東共和国とソヴェートと日本と台湾に吹っ掛けてやるわ」


「そこは任せたよ。確か以蔵が言うには洞窟タイプのダンジョンだって言ってたな……」


「ごめんなさい。私は瘴気の森へはシルフが嫌がって入った事も無いし、森の中にある奈落にも行った事がないからどんなダンジョンなのか知らないのよ」


「普通の精霊は嫌がるだろうな、闇精霊位だろうあの森の中に入れるのは。俺のいたアトラン世界には瘴気の森も奈落もあったが、ダンジョンは存在していなかった。まあ死霊系の最上級ダンジョンのつもりで行ってくるさ」


「最上級ダンジョン……今度は私も行きたいけど中華広東共和国の後始末で動けそうも無いわ」


「シルフィはシルフィにしか出来ない事をしてくれ。冒険者連合にシルフィがいるお陰で俺は助かってるんだ。寿命は長いんだし、連合が落ち着けばいくらでも昔のように一緒に冒険できるさ」


「ふふふ、そうね。どこかに古代竜いないかしら? 昔のリベンジを一緒にしたいわ」


「ははは、俺達に敗北を味合わせた古代竜はあの後倒してほら、このジャケットとズボンになったよ」


「え!? そのジャケットと革ズボンはあの古代竜のだったの!? 」


「シルフィとの思い出の竜だからな。常に身に付けて思い出していたんだ」


「コウ……私の事をそんなに……嬉しいわ」


シルフィはそう言ってソファから立ち上がり、執務室の入口まで歩いて行きドアの鍵を閉めた。

そして内線で重要な話をするのでしばらく誰も理事長室へ来ないようにと指示をしている。


「シルフィ? どうしたんだ?」


「その思い出の古代竜の革をよく見てみたくなったのよ。さあ脱いで見せて」


「はあ? ここでか? 家でゆっくり見せてやるよ。ここは職場だろ?」


「知ってるのよ? 家の二階のオフィスフロアで、深夜に凛や夏海にスーツを着せて色々してる事」


「あ、それは……いやははは」


「私もしてみたいわ〜。ね? いいでしょ? ほら早くその革のズボンを脱いでみ・せ・て♪ 」


シルフィは俺の正面のソファに座りそのベージュのスーツから覗く白のブラウスのボタンを外し赤いブラを見せ、ゆっくり脚を開いてスカートの中の同じく赤いショーツを湿らせながら俺にお願いをしていた。

俺はその仕草にドキドキしてしまい、さっさとズボンを脱いで座っているシルフィの前に立った。シルフィはズボンなど視野にも入れず、目の前の俺の下着を脱がせ頭を動かして奉仕を始めた。

俺はそっと遮音魔法を掛け、シルフィとの甘く激しい昼下がりの情事に没頭するのだった。




そんなエロフとのドキドキオフィスラブがあった数日後、俺達Light mare《ライト メア》に冒険者連合から正式な依頼が来た。その依頼とは上海最上級ダンジョンの完全攻略である。

その事を昼食時にリビングで皆に話し報酬の額を伝えると驚かれた。


「ええ!? 報酬が5千億円!? シルフィ随分吹っ掛けたわね」


「確かにダンジョン攻略報酬としては破格だけど、4ヶ国からの依頼だし日本とソヴェートの負担額が多かったようだよ?」


「ソヴェートは虎の子の精鋭部隊も無くなって後が無いらしいですね。また上海ダンジョンが氾濫したら次は国が滅ぶかも知れないと必死なのでは無いでしょうか」


「なるほどね〜瘴気も伸びて来ているし、大国からしたら大した金額でも無いものね。それにしても使い道が思い浮かばないわよこんな大金貰っても。金利だけで贅沢な生活ができちゃうわ」


「まあ、あって困るものじゃないしすぐ使わなくてもいいさ。なんなら女神の島の俺達の土地の開発に使ってもいいしね。あそこなら無駄にはならないだろ」


確かに冒険者連合が中間マージンを取っているにも関わらずこの依頼料は破格だ。だけど二つの大国が絡んでいるからな、大した出費じゃないだろう。しかし小国への牽制にはなる。簡単にポンと出せる額じゃないからな。


「それもそうね。開発でもして港と異世界人の居住施設でも作ろうかしら」


「ははは、それもいいけど先ずは上海ダンジョン攻略だな。瘴気が既に浙江省全てを覆っていて、ゾンビで溢れているらしい。台湾共和国も戦々恐々としているようだから少し急ごうと思う。新しいアクセサリーを作ったからこれを身に付けてくれ」


俺はそう言って少し太めのバングルを3つ出した。


「わあ〜綺麗〜このミスリルに彫られた女神の意匠なんて素敵ね」


「この女神が両手で持っているような位置にある赤い魔石は魔結晶ですよね。指輪の倍はある大きさですね」


「ああ、このバングルには上級結界の女神の護りを付与してある。デザインはホビット族のニーチェにしてもらったんだ。今回は死霊系のダンジョンで、また古代魔道具が出てこないとも限らないから念の為に作ったんだ。指輪と併用して使って欲しい」


「これ女神の護りが付与されてるの!? 凄いわ! ありがとうダーリン♪ 早速装備するわ」


「凄い……光希、こんなに素敵で強力なバングルありがとうございます」


「主様。とても綺麗なアクセサリーで嬉しいです♪ 」


蘭は結界魔法使えるけど一人だけ貰えないのは可哀想だしな。もちろんシルフィの分も作ってあるし、魔法障壁の無いグリ子とグリ美にメイの分も作った。

上級魔法付与という事でミスリルを使ってもごついバングルになったけど、戦闘時の装備として使えばいいだろう。普段は結界の指輪で十分だしな。


「それじゃあ明日出発するから、皆それぞれ装備の点検をしておいてくれ。俺は冒険者連合に呼ばれてるからちょっと行ってくる」


「わかったわ。最上級ダンジョンは初挑戦だから聖水も含めてしっかり準備しておくわ」


「光希から頂いたBランクのデスナイトとAランクのデュラハンの資料をしっかり読み込んでおきます」


「なっちゃん蘭が戦った事があるので訓練所で練習しましょう」


「蘭ちゃんありがとう助かるわ。それじゃあ行きましょう」


「うふふ。蘭はデュラハンになりますよ〜」


「ふふふ、お手柔らかにね」


蘭は昔デュラハンで遊んでたからな。神狐の蘭に追い掛けられて逃げ惑う、馬の戦車に乗ったデュラハンが懐かしいな。デュラハンは普通逆だよねって雰囲気出してたもんな。

俺も聖剣がある以上どのダンジョンよりも相性が良いダンジョンなんだけど、あの陰気臭い雰囲気が嫌いなんだよな。暗いし臭いし憂鬱だ。


俺はお金の為、魔結晶の為と自分に言い聞かせ、冒険者連合ビルにある俺とシルフィしか入れない転移専用部屋へと転移した。


さて、シルフィはわざわざ俺を呼んで一体どんな用なんだろう? まさかこの間オフィスでいちゃいちゃしたのに興奮したからもう一度って訳じゃないよな? まさか……いやシルフィならありえるか……


俺はしょうがないな〜あのエロフはと嘆息しつつも、少し早足でシルフィの執務室へと向かった。

ダンジョン潜ったらしばらく会えなくなるしな。

うん、まったくしょうがないな〜シルフィは。




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