第69話 商談






―― 方舟特別エリア 国際会議場 アメリカ合衆国大統領 ヒスリー・クリキント ――








「それではこれより臨時国際会議を始めます。今回より新生オーストラリア国が会議に参加することになりました」



パチパチパチパチパチ



「では本日の議題ですが、最近のLight mareによる方舟フィールド攻略の目的についてお伺いしたいと思い、今回代表の方を召喚させて頂きました。ここはLight mareに対して抗議をする場ではなく、これまで半年近く日本の攻略戦に参加していなかったLight mareが、なぜ急に単独で攻略を開始したのかその理由をお聞きしたいがために用意した場であることを皆様もご了承ください」


今回国際救済連合を発起人として開いたこの臨時国際会議には、新生オーストラリア国も参加してもらいました。これは新生オーストラリアがLight mareの行動に深く関わっていると思われるからです。


そう、今から一ヶ月と少し前。Light mareが突然国際救済連合軍が攻略中のミドルワールドの草原フィールドに現れ、連合を追い出した後にたった一日で攻略をしてしまった。そしてその翌日から年末年始を除き毎日一日2フィールドを攻略していった。

その結果、17フィールド残っていた草原フィールドはたった一週間と少しで全て攻略されあげく、その後も日本軍が攻略中であった森フィールドまで全て攻略してしまいました。


突然のことで各国は混乱し急ぎ日本政府へ問い合わせましたが、日本政府もLight mareがなぜ急に攻略を始めたのか理由がわからないとの回答でした。年末にミスターサトウとミスタートウドウが会ったそうですが、理由を聞き出すことはできなかったそうです。ただ、世界にとって悪いことにはならないとだけ言っていたそうなのですが……


このままでは全てのフィールドがLight mareに攻略されてしまい、人類が生き残る術が無くなってしまうという恐怖から、急ぎ各国と調整して今回の臨時国際会議を開催したのですが、今日の時点で既に山岳フィールドも全て攻略されてしまったという情報を聞き愕然としてしまいました。


あまりに圧倒的過ぎる武力……今回嫌がる日本に頼み込み、会議場で何があっても日本を責めないという条件でLight mareを召喚することができました。ですが召喚したのは良いのですが果たして私たちで彼らを止めることができるのか全く自信がありません。

国際救済連合を設立し、期限が来たスモールワールドのフィールドを再攻略して年齢の壁を超えて大統領戦を勝ち抜き再選したばかりだというのに、とんでもない危機を迎えることになってしまいました……


それにしてもミスターサトウのあの姿……また私たちを馬鹿にしているのでしょうか?


「では、Light mare代表のミスターサトウ。なぜ方舟攻略を単独で行ったのか理由をお聞かせいただけませんか? 先に申し上げておきますが、我々は決して敵対するつもりはありません。ただ、人類の希望であるフィールドをなぜ攻略されているのか知りたいのです。その上で我々が協力できることがあれば全力で協力させていただきたいと考えています。どうか目的をお聞かせください」


私がそう呼びかけると、風邪をひいたらしく大きなマスクをしているトウドウ総理の隣に座っていた、黒のスーツに黒の大きな伊達眼鏡をしたミスターサトウが立ち上がった。そして深々とお辞儀をした後に眼鏡がズレたのか人差し指で眼鏡を元す仕草をして笑った。


なんなのでしょう……すごく不気味な雰囲気です。あの傲慢で悪魔のような男がスーツを着てニコニコと笑っています。

怖い……私はいま心底恐怖を感じています……もう70になる私の心臓は耐えられそうもありません……








―― 方舟特別エリア 国際会議場 佐藤 光希 ーー





お? 婆さんが呼んでるな。もっと早く国際会議が開かれると思ってたんだけどな。

あんまり遅いから山岳フィールドまで攻略しちゃったよ。まあお陰でドワーフやホビットだけじゃなく、恋人たちとサキュバスとダークエルフのランクも上がったからいいんだけどね。

凛なんて晴れてSランクになれて大喜びしてたしな。


さて、お仕事をしなきゃな。

俺はネクタイを少し緩め総理に一言いって席を立ち深々とお辞儀をし、用意されたマイクに向かい英語で挨拶をした。


「ただ今ご紹介に授かりましたLight mare CO. LTD.方舟支社長の佐藤 光希です。本日は我が社のためにこのような場を設けて頂き誠にありがとうございます。本題の前にクリキント大統領。大統領就任おめでとうございます。今後とも我が社を是非ご贔屓にお願い致します」


「は? え、ええ……ありがとうございます? 」


《 株式会社だと? それに支社? なんだ? 何かのショーか? 》


《 なんだあの話し方は……あれがあの傲慢な魔王なのか? 》


《 いったいなんの冗談だ? 企業がドラゴンに乗って我が国の港を破壊したとでもいうのか? 》


ん? なんだ? 大統領といいほかの国の代表の奴らといい、何を驚いた顔をしてるんだ? ロシアのハゲはこっちを睨んでやがるな。またアイアンクローしてやろうか……

いや、落ち着け。今日はビジネスで来たんだ。凛は常にクールに礼儀正しく接するのが基本て言っていた。凛とシルフィとで一生懸命プレゼンを練習したんだ。大丈夫だ。


「ははは、こんなにお美しい婆さんが大統領なんて米国人は羨ましいですね」


まずは相手を褒めること。これは基本だ。凛、シルフィ、俺はちゃんとできてるぞ。


「ば、婆さん……」


《 ミ、ミスターサトウはいったいどうしたんだ? 》


《 わからん……だが頭がおかしくなったとしか思えん 》


《 もともとあの男は頭がおかしい。でなきゃ世界を相手に脅すことなどできるものか 》


《 ま、まあ魔王のようになるよりはいいんじゃないか? 》


《 ワシはもの凄く気味悪く感じるぞ? 》


《 あの格好はビジネスマンのつもりなのか? あの外道にはまったく似合わん 》


「黙れ殺すぞ! 」



あっ、やべっ! 落ち着け……これはビジネスだ。感情的になったら負けだ。大丈夫だ。商品には自信があるんだ。外野は無視だ無視!


「あははは、失礼致しました。つい本音が……皆さん私が話し終えるまで少々お静かにお願いします」



「では仕切り直しということで。え〜まず我々Light mare CO. LTD.の業務ですが、主に不動産業となります。不動産業を営むには土地または建物が必要となります。つまり今回の方舟の攻略はその土地の仕入れのために行っておりました。今月は特に仕入れ強化月間ですので、海フィールドと砂漠フィールドもどんどん攻略していきたいと思っております」


「し、仕入れ……ですか? そ、その……仕入れた土地はどのように運用……いえ、誰に売るのでしょうか? 」


「誰にも売りませんよ。50年の期限がある土地なんて売ったらクレームになりますからね。弊社は主に賃貸業をメインに行うつもりですので、貸して管理をすることを事業とします」


「貸す……? 方舟の攻略したフィールドを? 人類の生存が懸かっているあの土地を貸す? 」


《 ど、どういう事だ? 誰に貸すのだ? 》


《 わ、我が国に貸してくれるのか? 》


《 企業から土地を借りてそこに国家を作るのか? 》


「ええ、もともと方舟自体が神から期限付きで借りている土地ですから。それをまた貸してもおかしくはないですよね? 詳しくはこれから配る資料に目を通していただければと思います。リムさんお願いします」


「ハッ! 今から資料を配布する。光魔王……いや、社長がお作りになられた資料だ。大切に扱え」


俺が合図をすると入口付近で待機していたスーツ姿のサキュバス10人が、資料と契約書を各国の首脳へ配布していった。スーツを着たリムもそそるな……あのブラウスを押し上げる胸が色々と想像を掻き立てる。


それから五分ほどして資料を配り終えたリムたちは、また入口付近へと戻っていった。


「え〜お手元の資料に書かれている通り、私たちLight mare CO. LTD.は日印亜連合および国際救済連合へ攻略済みの土地を貸したいと考えています。借地料は穀物や鉱物および我々の指定する採取物などの資源を考えております。ああ、心配しないでください。みなさんが自力で得た資源に関してはそちらに書かれている通り、10%以上徴収するつもりはありません。食糧に関しては鉱物で支払っていただいても結構です。長く借りていただきたいので、決して無理な借地契約には致しません。あと、個別の国には貸すつもりはございません。あくまでも日印亜連合と国際救済連合に対してのみの事業です。いかがでしょうか? 」


「ご、50以上のミドルワールドのフィールドを? 我々連合に? み、みなさん! 我が合衆国はこのLight mare CO. LTD.の提案を検討したいと思います! 理由は言うまでもなく兵の損失が無くすぐにでも数億の民を移住させることができるからです」


《 し、しかしこの賃貸料は高過ぎではないか? 総生産量の10%とは膨大な……》


《 だが我々が拒否すれば日印亜連合に全て持っていかれるぞ? それに今我々が攻略中の残りのスモールワールドにあるフィールドも恐らく取られるだろう 》


《 なんという横暴な……人類の土地を一企業が私欲のために占拠するなど許されるものか! 》


《 なら貴国は連合を脱退してLight mareの進軍を止めればいい。我がアフリカ連合は神殿前で徹底的に殲滅させられた。もう逆らう気力が湧かないくらいにな 》


《 しかしここに書かれている再攻略に関しては、契約更新を望む場合に限りLight mareがやるというのはどうなんだ? 》


《 とりあえず50年契約でその後は我々で攻略すれば連合の物になるという事だな。それで攻略できなさそうならLight mareが攻略してくれるんだろう 》


《 50年……それだけあれはミドルワールドを攻略できる人材を育てることができるな 》


《 悪くはない……このままではミドルワールドを手に入れるのに何十年掛かるかわからんからな 》


《 ああ、その間に方舟が何処かの世界に出発してしまうかもしれない事を考えると、犠牲なしで移住と開拓を直ぐできるのはメリットしかない 》


うんうん、そうだろうそうだろう。我が社が攻略した草原と森だけでも上手く開拓して科学の力を使えば3億は養えるからな。大世界まで攻略すればプラス7億でもいけるだろう。一番人口の多かった旧中華国は内戦中らしいから数は減るだろうし、結果的にこの世界の民は余裕で食べさせられるだろうな。

最初の50年はサービスだ。その後再攻略に失敗すればまた我が社で攻略して借地料をもらう。

この話に乗らないならそれはそれでいい。俺はチャンスをやった。これで滅ぶなら陛下もアマテラス様も仕方ないと思ってくれるだろう。


「我がロシアは賛成する。とても素晴らしい提案だと思う」


「我がイギリスも賛成しよう」


「我らフランスもだ」 「うむ、ブラジルもだ」 「オランダも賛成する」


ん? ロシアのハゲ何をニヤニヤしてんだ? イギリスの首相も薄ら笑いしてやがるな……


「リム! あのハゲにそっと魅了を掛けて何を考えてるか聞いてこい」


「ハッ! 」


各国首脳が周囲の者たちと相談したりして会議場がざわついている中、俺はリムにロシアのハゲに何を企んでいるか聞いてくるように指示をした。

リムはトレイにペットボトルを載せて護衛をすり抜け、サッとロシアのハゲに近付いて跪き、飲み物の交換が来たのかと振り向いたハゲに魅了を一瞬で掛けた後にボソボソと話をしていた。

数十秒ほどで会話は終わり、魅了を解いた後は何事も無かったかのようにテーブルのペットボトルを交換して帰ってきた。ハゲはいったい何があったのかわからない様子だった。

スゲー! リムスゲー! 俺が昔掛かった魅了の魔法より鮮やかだ。


「光魔王様戻りました」


「見事だったぞ。さすがリムだ。それでなんであのハゲは賛成してたんだ? 」


「あ、ありがとうございます。どうやら50年も我慢すればその頃には光魔王様の能力も落ちているだろうと。それまでに力を蓄えつつ連合を内部から骨抜きにしロシア主導の連合を作り、期限が近付いた時に一気に米国を駆逐し再攻略を行い、開発された土地を全て手に入れるつもりのようです。その後はほかのフィールドに侵攻するつもりのようです。老いた光魔王様にはロシアを止めることができないだろうと言っておりました」


「ぷっ! 浅はかすぎるし気が長い計画だな! さすが大昔にモンゴル帝国に200年支配されても耐えてた民族なだけはあるな。寒い土地の人間は気が長いんだな。しかし総理は話してないのか? だからマスクして髪も白く染めてたのか……別に話してもいいのにな。まあわかった。とりあえず採決させちゃおう」


俺はリムを下がらせてクリキントの婆さんに声を掛けた。


「いやいや、列強国からご支持をいただけて大変光栄です。では採決を取っていただいて、後日に連合を代表して日本国と米国に契約をしていただくということでいかがでしょうか? 」


「ええ、結構です。最後にお聞きしたいのですが、この禁止事項にある賃料の未払いと他フィールドへの侵略さえしなければ契約破棄とならないのは間違いありませんか? たとえ所有フィールドで争いが起こってもそれは問題無いと? 」


「ええ、肌の色や宗教の違いによって多少の争いは起きるでしょうしね。お貸ししたフィールドを破壊するような大規模なもので無ければ介入はしませんよ。ただ、子供が不幸になるのは見過ごせませんので、各国で面倒を見きれない孤児は私どもでお世話をさせていただきます。社会貢献の一環で孤児院を運営するつもりですので」


お前らが手に入れたフィールドで争うなんて想定済みだ。お前らは俺が与えた土地で永遠に争っていればいい。その間に日本とインドとアラブはどんどん繁栄していく。孤児たちはこっちで幸せいっぱいの子供時代を過ごさせて、大人になったら教育して我が社の社員として警備部で活躍してもらうさ。親を殺したお前たちを恨み、助け育ててくれた我が社に忠誠を誓う立派な兵士として活躍してもらう。そのための土地は確保済みだ。


「そうですか。素晴らしい心がけですね。私は少々貴方を誤解していたようです。世界のためにこれほど貢献していただけるとは……」


「ビジネスですので。無償ではありませんよ」


「それでも私たちには救世主に見えます。神はやはり我らを見捨ててはいなかったのですね」


ハイハイ。この婆さん今度はヨイショかよ。米国が覇権を狙ってるのはバレバレだろ。お前らはイギリスの財閥の操り人形だからな。世界が崩壊しようとも、そうそうそのくびきからは逃れられないだろうよ。

でもまあこの婆さんは前の大統領に比べればまだマトモな方か……ならもう少し頑張ってもらうか。


「ははは、買い被りすぎですよ。さあ、採決をお願いします」


「はい。それでは今回のLight mare CO. LTD.からの提案を、日印亜連合および国際救済連合で受けることに賛成の方はご起立お願いします……はい。ありがとうございます。では全会一致でLight mare CO. LTD.との賃貸契約を結ぶこととします。各国は契約内容を再度確認しておいてください」


「ありがとうございます。正式な契約は後日ということにして今回の商談はこれで一先ず終了ということでよろしいでしょうか? 」


「ええ。ここでの採決は拘束力がありますので、この契約内容が大幅に変更されない限りは契約をさせていただくことになると思います」


ふぅ〜やったぜ! 俺は商談をまとめた! とても紳士的でエレガントなプレゼンだったな! これは帰ったら凛とシルフィに自慢しなきゃな。



さて、契約関係は凛に任せることにして、ロシアのハゲに無駄なこと考えないように忠告しておかないとな。賃借した者たちが無駄に争わないようにするのも不動産管理業務の一つだしな。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る