第19話 正統オーストラリア共和国侵攻







「まあさすが大陸最大の国だな。先にこっちを攻めるべきだったか」


「時間を与えてしまいましたからね。ブリスベンとシドニーは近いですし」


《 蘭、正統オーストラリア艦隊が待ち受けているが、駆逐艦以外は後部スクリューを破壊して航行不能にしてくれ。あんな貧弱装備の艦隊じゃ脅威にならないから沈めなくてもいい 》


《 ええ!? ソヴェート艦隊の時のようにメテオを撃って一掃するつもりでした……》


《 アホか! そんなの港の近くで撃ったらいくら壁があるとはい津波に街が呑み込まれるかもしれないだろ! 俺は何十万人も溺死させる水攻めなんてするつもりはないぞ!》


《 あ……そうでした。申し訳ありません主様 》


恐ろしい……蘭はナチュラルに四天王の発想なんだよな。リムたちと気が合うわけだ……


《 今後うちの会社のお得意さんになる街だからな。必要以上に怖がられると商売がやり難くなる。悪いのは為政者だけだ。政権交代させて船を接収すれば逆らう気はなくなるさ 》


正統オーストラリア共和国は、クイーンズランドよりもちゃんと民主主義国家をしているらしい。

クイーンズランドは正統オーストラリアから独立した都市の市長がずっとトップだったからな。

それに比べて正統オーストラリアは5年毎に大統領が交代する。


今はシドニーを本拠地とする政権与党と、メルボルンを本拠地とする最大野党の二つの勢力に分かれているらしく、その議席数差は殆ど無いらしい。だから次の選挙のために現政権が色々と強行策をやって支持率を上げようとしたようだ。現に南部の鉱山地帯を確保したことでかなり支持率が上がったらしい。


魔誘香が手に入ったことで魔物に対して余裕が生まれ、南部の鉱山もあっさり手に入り欲が出たんだろうな。

メルボルンの野党は保守系らしく、ダンジョンを攻略して勢力圏を広げいずれはオーストラリア大陸を取り戻す考えらしい。それでも市長はパース市を奴隷のように扱うのは辞めなさそうだとは言ってたけどな。

国民を使えば不満が出るだろうから、パース市の住民を傭兵にでもして使うつもりだったのかね?


まあ両方ともロクでもないが、捕虜が言うには魔誘香の悪用に関しては大統領と防衛長官、それに外務長官の独断らしいから野党は関わっていない。

この国はシドニーとメルボルンだけ制圧すれば言うことを聞きそうだな。


大きな港を潰せば、遠洋航海ができる大型船でないと運べない鉱物や石炭の輸出ができなくなる。輸出ができなければ外貨を稼げないから、いくら小さな港が残っていても輸入もできなくなる。

今後は俺たちの用意した輸送手段を使い、今まで見下していたパース市に頭を下げて輸出入するしかないわけだ。爽快だな。



《 各隊長! 前方の艦隊はスーに任せて無視して街を包囲する! リムはヤンたちを引き連れてメルボルンへ向かえ! 他は俺についてこい! 前進! 》




《 スーちゃんいきますよー! 》


《 ミュオオオン! 》


《 また集中砲火の中に突っ込むのね……心臓に悪いわ 》


俺の各隊長に向けた心話による号令で、リムはヤンの乗る岩竜を引き連れて総勢4頭の岩竜でメルボルンへと向かい、俺のあとには4頭の創造で創られた岩竜とグリフォン隊が付いてきた。

スーは動く敵が相手なのに喜び、凛は艦隊の集中砲火の中に突っ込むことにゲンナリしていた。


スーの魔法障壁も中級魔導結界の首輪もある。蘭が凛に女神の護りを掛けるだろうし、凛も女神の護りを付与した女神のバングルを身に付けている。さらには白竜の革鎧にも結界が付与してある。正直ドラゴンの群れを相手にしたって無傷でいられる装備だから大丈夫なのはわかっているはずだが、視覚的にミサイルや砲弾が自分に向かってくるのが嫌なんだろう。

我ながら過保護過ぎる装備を恋人たちには与えている実感はあるが、これくらいしないと単独行動なんてさせられないからな。俺は心配性なんだ。


《 以蔵! 戦闘機20機がこっちへ向かっている! グリフォン隊で撃ち落とせ! 》


《 はっ! 寧々隊は戦闘機の翼を折るのだ! 》


《 ほかの者たちは街へと突っ込め! 俺が壁を破壊する! 》



俺は向かってくる戦闘機のミサイルを全て無視し街へと向かうよう指示をした。

戦闘中は常にリム、以蔵、俺を思い浮かべて心話をするように言ってある。今回が初使用で俺も上手くできていないが、何もしなくても遠く離れた場所の戦況がわかるのは便利だ。

リムは興奮すると俺への熱い想いを心に浮かべてしまいだだ漏れになっているけどな。それは嬉しいが、心話の練習がもっと必要だな。以蔵は聞かなかったことにしているらしい。相変わらず紳士な忍者だよ。


そしてグリフォンが次々と戦闘機を撃墜していくのを横目に俺たちはシドニーの街へとたどり着いた。

中級結界持ちのグリフォンとかパイロットからしたら悪夢だろう。グリフォンは飛行中に空気を蹴って直角に曲がったりできるし、俺が取り付けた結界の足輪は飛竜の魔法障壁よりも強力だからな。そのうえ風の魔法を放つし、騎乗しているダークエルフからも闇魔法が飛んでくる。案の定、戦闘機は何もできずことごとく撃墜されていってたよ。


「エメラ! 東だ! あそこは門だから内側から飛び蹴りで二枚抜きするぞ! 」


《 クオーーーン! 》


俺はブリスベンと同じく高さ10mほどの二重の壁に守られている街の東にある大きな門を、内側から破壊してそのまま一番外側にある壁の門も破壊するようにエメラに言った。東側は工業地帯らしく、民家が一切無かったからだ。


ドゴオォォン!


ドゴオォォン!


大きく街を旋回して加速したエメラはそのままの勢いで東の内壁ごと門を破壊し、続けてその先にある外壁も破壊した。エメラが通った場所には幅30mほど壁が崩壊し瓦礫の山となっていた。


ドンッ! ドンッ! ドンッ!


パシーン! パシーン! パシーン!


街の外に飛び出た俺たちには怒りの対空砲火が降り注いできた。

周囲を見ると街を包囲している以蔵たちにも、壁の上に設置された砲台から攻撃を受けていた。

俺はブリスベンの時と同じく街の中央付近の上空に転移をし、マイク片手に警告を行なった。


『 攻撃をやめさせろ! 1分以内にやめさせられなければこの街を覆う壁を全て破壊する! 国民が魔物に喰われるぞ!』


俺が数度そう警告してカウントダウンを始めると、30秒ほどで全ての砲撃が止まった。

それからはブリスベンの時と同じく高度を落とし、魔誘香を悪用した大統領と防衛長官に外務長官を差し出し、与党の解散宣言をするように要求した。

俺はエメラの背にクイーンズランドの議員一同と、正統オーストラリアの捕虜にした特殊部隊員を並ばせて降伏するのをじっと待っていた。


30分ほどで300mほど北の、拓けた土地にある三階建ての建物へ市民が集まり騒いでいた。俺はそこが大統領府かと思い移動した。

そこでは軍が出動し建物を守っていて、市民に銃を向けていた。俺はブリスベンと同じく、民間人に危害を加えたなら軍も一人残らず殺すと警告した。その警告を聞いた兵士たちは銃を下ろした。


それから15分ほどして俺に向かって両手をあげながら軍の部隊が大統領府の中に入っていき、中で銃声が聞こえたと思ったら60歳くらいの肥え太った金髪デブと、元はインテリ風の見た目だったんだろうが、兵士に殴られたのか顔を腫らし、鼻血を出した背の高い50歳くらいの男が兵士に引きずられて建物から出てきた。

そして遅れて壮年のガタイの良い男が自ら歩いて出てきて、俺はこの男が防衛長官で最初の二人が大統領と外務長官なんだろうと思った。


これは軍のクーデターになるのか?

俺は大統領と兵士たちの前に転移して兵士に向かって話し掛けた。


「軍の協力に感謝する。しかし今後軍政権は認めない。お前たちは国民のためにやむなく命令に背いただけだ。お前たちには決して権力は持たせない。不満なら全ての軍施設を破壊してお前たちを無力化する」


「軍は権力を欲していません! 国民の安全を守るため私が命令しました! 司法の罰は私が受けます! 」


俺が大統領らしき者を拘束している兵士に話しかけると、大統領府に突入した部隊の中から60代くらいの指揮官らしき軍服をまとった男が現れ、全て自分の命令だと言ってきた。


「あんたは? 」


「 私は首都防衛軍司令官 ニコラス・エモンズ大将です 」


「 ん? エモンズ? ……ロットネスト島の司令官とは? 」


「オリヴィアは私の妻です 」


「夫婦で司令官か。優秀なんだな。安心しろ、アンタの奥さんと娘は無事だ。素直に降伏したから犠牲者も少ないし、捕虜だからと特に拘束もしていない。建物内で軟禁しているだけだ 」


「そうですか。安心しました。捕虜への格別な配慮に感謝いたします」


この男はまともそうだな。


「俺たちの仲間がメルボルンを降伏させたのは知ってるな? 」


「はい。つい先ほど降伏したと連絡がありました 」


「あんたは選挙で次の大統領が決まるまでこの街を治めろ。クイーンズランドも同じ状態だから魔物以外に軍に仕事はない。それからこの国からアメリカと日本は手を引いた。今後この2国はパース市の後ろ盾となる。今までと立場が逆転だ。そしてお前たちがパース市に攻め込まないように大きな港は全て破壊するし、今後修復することは認めない。パース市に頭を下げて俺たちが提供する輸送手段を使うか中型船で貿易し、足りない分はダンジョンで食糧を手に入れろ。この大陸以外の国はどこもそうしている。それが嫌だというなら滅べ」


他国の船が港に来れないなら、近くの離島を開発して港を作るか中小型船でパース市に買い付けに行かないと食糧は手に入らない。港を作らせる気は無いし、軍艦も接収するから今のままだとパース市と貿易しつつ、ダンジョンに挑まなければ国民を食わせていくことは難しくなるだろう。


「…………わかりました。いつかこういう日がくるとは思っておりました。同胞から搾取し続けた報いを受ける時がくるのを」


「因果応報だな。まあそう悪いことにはならない。俺も商売がしたいからな。あんたみたいなのが大統領になったら少しは優遇してやるんだがな」


この男ならダンジョン攻略を進んでやってくれそうなんだよな。


「わ、私は軍人ですので……政治は向いておりません 」


「政治家に必要なのは国民の声に耳を傾けてそれを実行する能力だ。少なくともあんたは国民の味方だろ? ならできるさ。まああんたが選ばれた時の話だ。選ぶのは国民だ。精々また俺たちを敵に回す政府を誕生させないことだな」


「……け、検討します」


俺は悩みだした司令官の肩を叩き、兵士に拘束されて地面に顔を押し付けられている男に声を掛けた。


「うぐ……は、離せ! 私を誰だと思っている! この国の大統領だぞ! あ……Light mare……わ、私は貴方に反抗する気はありません! あ、あのアイテムは軍が勝手に使用し……うべっ! 」


「黙れクソデブ! 竜の背に乗ってる奴らが全部吐いたんだよ。魔誘香を戦争に使いやがって! 楽に死ねると思うなよ? 一生ダーリントンの鉱山で働かせてやるからな。オイッ! この豚が喋らないように口をふさいでおけ! 」


「ハッ! 」


俺はこの期に及んで責任を軍に押し付ける大統領の顎を蹴飛ばし、押さえ付けている兵士に布で口を塞がせた。

おいっ! お前! 鼻まで覆うな! 死んだらどうす……まあいいか。

俺は横で軍に責任を被せようとしていた大統領にイラついたのか、兵士が口だけではなく鼻も布で覆っていくのを止めようとしてやめた。


そしてその隣で震えている外務長官と、観念したのか目を瞑って立っている防衛長官を連れてエメラの背に転移をし、捕虜用テントに突っ込んだ。続けて外に出していた捕虜も全員テントに詰め込み、東側の壁へと移動した。

エメラアタックで崩壊した壁には、瓦礫を囲む兵士たちがおり外から魔物が侵入しないか警戒していたが、俺は兵士たちに退くように言って時戻しの魔法で壁を修復した。

何人か目をこすっていたな。土魔法とは言っておいたけど、時計は誤魔化せないよな。まあ勝手に納得するだろう。魔法の詳細さえ言わなければ、そんなことができるって認識をするだけだと思うしな。


そのあとは港で未だに暴れている蘭たちを回収してからリムの待つメルボルンへと向かった。

港の状況? 聞かないでくれ。今月中に復旧を終わらせないと女神の島の別荘でゆっくりできないし、飛空艇での旅ができなくなるからやるさ……


せめてメルボルンの港の破壊は監視しようと思う。




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