第18話 降伏






「あそこがブリスベンか。シドニーも近いしさっさと片付けるか」


「おかしいですね……警戒網に入ってるはずなのに戦闘機が飛んで来ませんね」


「さっきリムからケアンズの戦闘機を全滅させたと連絡があったからな。無駄だと思って飛ばしてないんじゃないかな? 」


蘭もケアンズに着いたみたいだしな。さすがに俺たちの飛ぶ速度には敵わなくて、途中転移を繰り返して追いついたみたいだ。今は絶賛港を破壊中らしい。


「それもそうですね。光希が付与したミサイル以外は、エメラとガンちゃんの障壁は破れないですしね」


ガンちゃんて名前は確定したのか……


「それだって10発は連続して叩き込まないと厳しいけどな。それにエメラには結界の足輪があるからたとえ魔法障壁を破られてもすぐ張り直せるし」


「たとえ魔法を付与したミサイルでも、大量に一気に撃ち込まないとエメラには勝てそうもありませんね。そうなるとエメラはクオンより強いですし世界最強の竜ですね」


《クオーーーン ! クオッ! クオオッ!》


「クオンは強いって? あ〜はいはい、恋は盲目ってやつだな」


「ふふふ、エメラは本当にクオンが好きなのね」


好きになったらなんでも良く見えるもんだな。しかし残念なことに中位竜のエメラの方が上位亜種のクオンより強いのは確かだ。単純な火力では圧倒的にクオンが強いが、精神面で圧倒的にエメラに負ける。聖剣を持ってても、抜いて戦う勇気が無ければ持ってないのと同じということだな。

それでもクオンは男だ。いざとなったらエメラを守りその力を存分に振るうだろう。多分……


「それより対空砲がうざいから俺たちは街中に転移して攻撃できないようにするか」


「そうですね。街中であればうてないでしょうしね」


《 ヤン! お前は壁と壁の間に滞空していろ! グリフォン隊には街中を好きに飛び回らせておけ! それと俺が指示をしたら外側の壁を内側から破壊しろ! 俺があとで直すから気にせずやっていい 》


《 ハッ! 配置につきます! 》


俺の指示を聞いたヤンは、グリフォン二頭を連れて街の西側に向かった。あの辺りは住居が少ないみたいだから壁を破壊した時の被害を抑えられると思ったのだろう。相変わらず優秀なやつだ。


このブリスベンは、ほかの都市に比べかなり大きい。壁が二重にあることから、恐らく途中で都市を拡張したのだろう。ヤンはその壁と壁の間に向かっていった。あそこなら下手に攻撃されないだろう。

しかし……


「パース市とは随分と街なみが違うんですね」


「道路も整備されているし、マンションやビルが多い。コンビニまであるな。恐らくほかの都市も似たようなものだろう。パース市の30万人を奴隷にして、正統オーストラリアとクイーンズランドの500万人が余裕ある生活をしてるわけだ。アトランの世界もそうだったし、俺の生まれた世界の中華国もそうだったな。1億の党員のために9億の民が馬車馬の如く働かされ貧困に喘いでいた。弱肉強食といえばそれまでだが、俺はそういうのは好きじゃない。だから平等にしてやろうと思う」


奴隷制度は個人的には好きじゃないが、アトランはそれが社会システムとして組み込まれ回っていた。奴隷には人権があり期間が決まっていて一生奴隷ではないところと、奴隷本人が仕方ないと納得して受け入れていた事で俺も受け入れることができた。もちろん性奴隷というのは公式には存在しなかった。存在していれば俺はもっと早く奴隷制度を受け入れただろう。


いや、正義感より性技感なのは仕方ないと思う。健康な男の子なら抗えないと思うんだ。だって自らを性奴隷として受け入れているすっごい可愛いウサミミ獣人がさ、檻の中で買って欲しそうに見つめてたら買うだろ?そこに奴隷制度はよくないとか考えるか? 合意だぜ? ウサミミだぜ?


あ〜この世界に来た獣人で兎獣人が少ないのが悔やまれるよ。いても男のウサミミだしな。誰得だよ!

兎獣人は力が弱いからな〜、盗賊職に稀にいる程度だから仕方ないんだけどさ。ウサミミのナイスバディの女の子を集めて兎の楽園を作る夢はもう叶えられそうにないな。


「光希……私の勇者様は勇者を辞めてもずっと勇者なのですね。尊敬します」


「え? お、おう……」


夏海が目をキラキラさせて尊敬するとか言ってるのを聞き、俺は自分の夢をそっと心の奥底にしまった。


「よ、よしっ! 転移するぞ! 『転移』 」


俺は夏海が一点の曇りもない目で俺を見るのに耐えられなくなり、街の中央にある役所っぽい20階建てのビルの上に転移した。



転移が終わり街中に突然現れたエメラを見て、地上にいた市民が一斉に逃げ出した。車はほかの車とぶつかり、そのまま近くのビルの一階に突っ込んでいった。

平和な日常に突然現れた脅威ってとこか? とりあえず今のところは攻撃の意思は無いと伝えないとな。


俺は恐らく市庁舎だろうと思われるすぐ下のビルから少し離れ、高度も下げてビルと向き合うようにエメラを滞空させた。

そしてエメラの両翼の付け根に取り付けておいたスピーカーの電源を入れ、マイクをアイテムボックスから取り出した。

うーん、めんどい。シルフィの便利さが身に染みる。



『あーあーテステス! ブリスベン市の皆さんおはよう! 俺はLight mareリーダーの佐藤光希だ』


《 しゃ、しゃべった! ドラゴンがしゃべったぞ! 》


《 バカ! 人が乗ってるだろよく見ろ! 》


《 Light mare? Light mareって確か冒険者よね? この間ニュースで見たわ。ニホンの救世主がなんで…… 》


《 そんなことはいいから早く逃げろ! もうこの街はお終いだ! ケアンズに逃げるんだ! 》


残念、逃げ場はないよ。

俺は地上で俺たちを見上げて騒ぐ住民を無視して続けた。


『今日は俺の作製した魔誘香を戦争に使った、クイーンズランド都市連合の議長及び各都市の市長であり議員でもある奴らにお仕置きをするために来た。おとなしく降伏して議長を差し出せば一般市民には危害を加えないことを約束しよう。議長もおとなしく降伏するなら別に殺しはしない。30分待つ。それまでに返答がない場合は30分後に壁を破壊する。降伏か市民を道連れに魔物によって死ぬか選べ ! 』


《 せ、戦争に魔誘香? どういうことだ? 魔誘香ってなんだ? 》


《 知らん! それより俺たちに危害をくわえるつもりはないようだ。市庁舎に行って市長に対応させよう! 》


《 そ、そうだ! 降伏すれば命が助かる! 市長のところへ行こう! 時間がない! 》


《 まさかドラゴン相手に戦うとか言わないだろうな。そしたら引きずってでも連れ出してやる! 》


そうそう、みんなで市庁舎に向かっていってくれ。

俺は目の前のビルに入っていく住民たちを見送り、蘭が作ってくれたコーヒーを取り出して夏海と一緒に30分待つことにした。

視界の端でグリフォンがゆっくりと街を旋回しているのを見ながら。




それから15分ほどして港の方にスーの魔力が現れると同時に、爆発音が街中に響き渡った。


ドーン ドーン


《 主様! スーちゃん参上です! 》


《 ダーリン来たわよ! ケアンズの港は徹底的に破壊してきたわ! もうね! 思いっきり魔法を撃てて気持ちよかった〜 》


《 そ、そうか……ここの港は広いからな。好きにやってくれ。船はなるべく残してくれよ? 》


《 はい! スーちゃんいきますよ! 》


《 わかったわ! ケアンズにあった船も港に閉じ込めてあるから安心して。軍艦と大型輸送船は高値で売れるからちゃんと無傷で残してあるわ 》


さすが凛だな。

俺はそれなら問題ないと言って心話を切った。

船はまとめてゲートでロットネスト島に移動させるとして、戦闘機もまるまる手に入りそうだ。

あとはとっとと降伏してくんないかな。この後は正統オーストラリアに行かないといけないんだ。時間掛けてらんないんだよな。


「30分経ったな」


「出てくる気配はないですね」


「仕方ない。《ヤン! やれ! 》 」


《 ハッ! 》


ドゴーーーン!


時間になっても議長が現れないので、俺はやむなくヤンに壁を破壊するように命令した。

そして数秒後に岩竜のブレスが街の内側から外に向かって放たれ、西側の壁が崩壊した。崩壊したと言っても火力を抑えたのだろう。幅20mくらいの範囲だ。だがこれで魔物が街に入ってこれるようになった。街には住宅地を挟んでもう一枚壁があるが、住民としては気が気でないだろう。


案の定ビルやマンションの上層階からその光景を見た住民が大騒ぎしだした。

そして多くの人が市庁舎へと向かってきている。その中には剣を手に持っている者も多くいた。


『市長に告ぐ! 住民に危害を加えたならお前もお前の家族も! そしてその命令に従った者全員を確実に殺す! 生きたままドラゴンに喰わせる! お前はもう詰んだんだ。いい加減観念して出てこい! 』


俺は軍の車両が市庁舎に向かってきているのを確認し、念のために警告をした。

そしてそれから20分後、住民に囲まれてグレーのスーツを見にまとった金髪をオールバックにした壮年の男が市庁舎から現れた。周囲の住民たちは白いタオルやカーテンを必死にこちらに振っていた。

俺は降伏の合図と認識して怒りに震えている市長らしき男の前に転移した。



「お前がこの街の市長兼クイーンズランド都市連合の議長か? 」


「……そうだ。冒険者の分際で一国に攻め込むとは貴様正気か! 」


「正気だ。この程度の都市国家など半日で滅ぼせる」


「なっ!? こ、この悪魔め! 」


「俺は今回は軍属の者しか殺してないさ。お前よりはマシだな。お前がダーリントンで使った魔誘香で米軍と正統オーストラリア軍以外に、逃げ遅れたパース市の鉱夫が犠牲になっているのを忘れてもらっては困るな」


船に乗り遅れ基地にもたどり着けずに命を失った鉱夫は多い。それはその前に起こった正統オーストラリアが魔誘香を使用した時も同じだ。

いつだって国家の愚行の犠牲になるのは力のない者たちだ。


「…………」


「トボけたって無駄だ。竜の背に実行犯がいるのはわかっているだろ? 全部吐いたよ。正統オーストラリアから横流ししてもらったってな。お前には議長と市長の地位を辞任してもらう。ここで宣言しろ。しないなら死んで辞めてもらう」


「……全ての職から辞する。街をこれ以上破壊しないでくれ」


そう思うならとっとと降伏しろって話だな。


「人聞きの悪いことを言うな。俺をこの街に呼び寄せたのはお前だ。お前とお仲間以外に用はない」


「わ、私をどうするつもりだ? 」


「お前はこれで民間人となった。アメリカがお怒りだ。実行犯と一緒に突き出すさ。米兵も多く死んだからな。懲役100年は覚悟するんだな。ああ、ソヴェートの助けは期待するなよ? アイツらはこの大陸から手を引くと俺と約束したからな」


「なっ!? クッ……お前さえいなければ……この大陸を統一できたというのに」


「お前がいなくてもこの大陸は近いうちに統一されるさ。夢が叶ってよかったな。それじゃあ付いてきてもらうぞ、『転移』 」


俺は悔しそうに、そして恨めしそうに俺を睨みつけるこのおっさんがうざくなったので、とっととエメラの背に転移で連れて行き捕虜のいるテントに投げ込んだ。中でモメそうだが、別にどうなろうがいいさ。


そして俺は改めてマイクを手に持ち、地上でこれからどうなるのか不安な顔でこちらを見上げている多くの住民に今後のことを説明した。


『騒がせたな。諸悪の根源の市長は確かに受け取った。安心しろ、俺は別にこの街や国を支配しようなどとは思っていない。お前たちは民主的に新しい街の代表を選び、独立国としてまた繁栄すればいい。だが今後パース市出身の者に不当な差別を行うことと、大型船が停泊できる港の使用は禁止する。これはまたお前たちがパース市に攻め込まないようにするための措置だ。貿易がしたかったら今後はパース市に頼め。食糧が欲しかったらダンジョンに挑め。この大陸以外の国はそうしている。今までのようにパース市の人間を搾取して呑気に生きていけると思うなよ? 生きたかったら戦え! 国の代表が決まったらパース市に連絡しろ。その時にパース市出身の者は迎えに来るから待っていろ。以上だ』


俺はそう一方的に言って街の西側へとエメラを向かわせた。

背後から悲鳴ともとれる叫び声が聞こえてきたが無視だ。

そして心話で各都市にいる者たちに俺が言ったことと同じことを伝えるように言い、各市長を捕らえてからブリスベンの沖合で合流するよう指示をした。


俺は街の西側の崩壊した壁を時戻しで元に戻し、ヤンとグリフォンに乗ったダークエルフたちを連れ港に行き、スッキリした表情の蘭と凛に疲れた顔をしているスーに声を掛けて沖へと向かったのだった。


港やばいなこれ……これはかなり直さないとスペースが取れないな。

俺は完全に破壊され瓦礫の山と化した港と、燃え上がる倉庫と車両、そしてドロドロに溶けたクレーンを見て、再利用するのには手間が掛かりそうだとゲンナリするのだった。






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