第19話 賢者の塔





《来たぞ! Light mareだ! 》


《凄えな、たった4日で4塔制覇しやがった。その上賢者の塔にまで挑戦するのかよ》


《ここの上層は最上級ダンジョンクラスらしいぜ? 俺は上級の更に上のダンジョンがあるなんて知らなかった》


《なんだそれ! 俺は今初めて知ったよ! どんな魔獣が出てくるんだ?》


《なんでも天使らしい。神の試練みたいだよな》


《ああ、我らが主の試練を受けられるなんて。私もいつか必ず試練を受けるわ》


《この塔を作ったのは異世界の神じゃ無かったか?》


《Light mare頑張れよ! あと食糧格安で譲ってくれてありがとうな!》


《あれは助かったよ! 俺達も後に続くからな!》


4塔制覇した翌日。俺達は中央にそびえ立つ賢者の塔へと向かって歩いていた。

途中冒険者達からの応援に手を上げて応え、他の4塔より一際大きくそして高い賢者の塔の入口の門を開けた。


俺は塔の中に入ってからすぐに探知を掛けて内部を確認した。


「他の塔より広いな。確か100階まであるんだったな。これは時間が掛かりそうだ」


「最初はエンジェルキッズて天使の子供が相手なのよね? 子供で上級ダンジョン下層クラスの強さって……」


「魔法を使ってくるからでしょうね。数も多いとか」


「早速来たぞ! 20体だ。空を飛びながら魔法をヒットアンドアウェイで撃ってくる。構えろ!」


「「「「はい!」」」」


俺達が塔に入ってから少しして探知に多くの魔力反応が出た。このエンジェルキッズは天使の悪戯で人間の子供が天使にされた者達で、その純真無垢な表情で初級クラスとはいえ魔法を絶え間なく撃ってくる。そして子供という事で精神的に非常に戦い難い。


「なっ!? 人間の子供……」


「あ……エンジェル……」


「アレに命は無い! 塔が作った紛い物だ! 『雷矢』」


「凛ちゃんなっちゃん! アレは敵です!『狐火』」


俺は動揺する凛と夏海に本物の子供では無いと伝え、まず攻撃して見せた。蘭も続いて炎の玉を複数放った。

俺と蘭の放った魔法に打たれたエンジェルキッズ達は墜落し地面に落ち消えていった。


「そ、そうよ! ゲームみたいなものよ! アレは敵、ダーリンの敵!『炎矢』」


「そうでした。光希の敵であれば例え神が相手でも……斬る!『黒涙飛斬』」


「よしいいぞ。天使ってのは悪魔の逆で、人間の良心を突いてくるんだ。俺からしたら天使も悪魔も命を奪いにくる敵だ」


「そうね、動揺してごめんなさい。命を奪いにくるのは全て敵。当たり前の事よね」


「事前に聞いていたのに申し訳ありません」


「聞くのと実際に目にするのとじゃ違うさ。さあ、どんどん進もう!」


俺は二人の意識が変わった事を確認して先へと進むよう促した。


それから俺達は数を増やし攻撃してくるエンジェルキッズを、結界を張りながら難なく撃ち落としていった。そして20階に上がった所で、今度は剣を持った天使とエンジェルキッズ達の混成部隊が現れた。


「夏海! しっかり防いで斬れよ? シルフィーナは天使達を地上に!」


「はい!」


「シルフお願い! 『シルフの鉄槌』」


『影縛り』『闇刃』


『狐火』


「私も!『豪炎』」


40体程の天使とエンジェルキッズ達はシルフィの精霊魔法で地上へと落とされ、俺の魔法で動きを封じられ切り刻まれた上に蘭と凛に焼かれた。そして討ち漏らしを夏海が斬り殲滅した。

10個程残ったCランク魔石を回収し、俺達は上階を目指した。

それからは40階から鎧を着た天使の天騎士が現れ、倒す為に消費する魔力が増えていった。

そして中ボスがいるという50階に登った時。そこは今までの迷宮では無く、空に浮く島だった。

俺達はいつの間にか島の草木が生える場所に立っており、周囲を見ると多くの浮いている小島が見える。

そこには古代の石造りの神殿と思われる物や、住居と思われる物が建ち並んでいた。


「な、なにここ……天界?」


「こ、これはなんて神秘的な……」


「私も初めて来たけどこの光景は予想していなかったわ」


「そういう別次元の空間を作っただけだ。来るぞ! ボスの軍団だ!」


あまりの神秘的な風景に驚き固まっている蘭以外の恋人達に、俺は敵の来襲を告げた。

皆は俺の言葉に意識を切り替え、戦闘態勢に移った。

探知には50の反応があり、そこに一つ大きな魔力反応がある。俺はそれが視界に映った瞬間に鑑定を掛けた。



アークエンジェル


種族:天使


体力:B


神力:S


物攻撃:B


神攻撃:A


物防御:B


魔防御:A


素早さ:A


器用さ:S


種族魔法:第二階級 天罰



大天使。アークエンジェルか。権天使じゃないのか。


そのアークエンジェルは天騎士の軍団を引き連れ、俺達に向かって突撃をして来た。


「皆! アークエンジェルだ! ステータスはSランクに届かない程度だが、知能が高く軍の統率力が高い。俺とシルフィーナで動きを封じ数を減らす。蘭はアークエンジェルを牽制しろ。凛と夏海は地上に落ちた天使達を葬れ」


「「「「はい!」」」」


『スロー』『ヘイスト』『天雷』


「シルフ! 天使達を切り刻んで地上へ押さえ付けて!『シルフの暴刃』『シルフの鉄槌』」


俺はスローをアークエンジェルに、ヘイストをパーティ全員に掛け天雷を放った。そして続いてシルフィが強力な風の刃で敵軍団の隊列を乱し、空気の重圧で天騎士達を地上へ落とした。


『狐月炎弾』『狐月炎弾』


《天罰 Ⅱ 》


『女神の護り』


俺の横で上空にただ一人残ったアークエンジェルに、蘭が牽制の魔法を立て続けに放っていった。アークエンジェルは頭上に光の矢を複数出現させ放って来たが、俺の展開した結界に悉く防がれていった。そしてその隙に蘭の魔法が被弾し、堪らず地上に降りフラつきながらも光り輝く槍を構えた。


『転移』


《…………》


俺はアークエンジェルが地上に降り槍を構えた所で背後にへ転移し、ミスリルの剣に魔力を込め首を刎ねた。


「蘭! 掃討だ!」


「はい!」


俺はアークエンジェルを倒した後に、蘭に夏海達の加勢に行くよう指示した。蘭は純白に金の昇り竜が刺繍されたチャイナドレスを身に纏い、青白い光を放つ魔鉄扇を二つ構えて夏海達の加勢へと走って行った。


この先はアークエンジェル大天使やアルケー権天使が率いる軍団との連戦になるな。

取り敢えずはこの連携で中位の天使が現れるまでは行ってみるか。

俺は凛と夏海の戦いぶりを見てそう判断した。


少しして天騎士達の殲滅を終えた恋人達と合流した。


「ドロップは風の上級魔法書とAランク魔石だったよ。ケチいが、こんなもんかな」


「一回で上級魔法書出るなら良い方よ」


「Aランクであの軍団を率いるのですか……」


「その辺はデビルなんかと一緒だな。ただ、天使はとにかく数を揃えてくる。そして中位以上になると強力な範囲攻撃をしてくる。この辺りになると凛達ではまだ無理だな」


「わかったわ。その辺で地上に降りるわ。正直あんなのがこれから普通に出てくるとか自信無いわ」


「今の時点で私はアークエンジェルの軍団にも勝つ自信はありません。それ以上の相手は、ただの足手まといになりますね」


「私も補助としてならば役に立つ自信はあるけど、身を守りながらは厳しいわね」


「強くなってまた挑戦すればいいさ。自分の成長を計る物差しになるしな」


「そうよね! 次くる時が楽しみだわ」


「所でこの階は中ボスなのにクリスタル部屋が無いんですね」


「賢者の塔は最上階のみらしいのよ。その代わり大幅に能力が上がるみたいなんだけど、どれ程上がるのかはわからないわ」


「正に試練の塔ですね」


「神の試練はこんなもんじゃ無いさ。死に掛けて無いしな。もう今日はもう遅いしここで休もう」


「やっと休めるのね……途中そんな余裕も場所も無くてもうクタクタよ」


「あれだけ絶え間無く襲われてはね、ゆっくりテントに入れないわよね」


ここに来るまでは結界を張って所々で休憩をしていたが、結界を攻撃する天使達が気になりゆっくり休めなかった。ここはボスのいる区画なので襲撃される事の無い唯一の安全地帯だ。

もう深夜になる時間に俺達はやっとテントで一息つけるようになるのだった。


テントに入ると皆でお風呂に入り軽く汗を流してから、明日からの激戦に備え早々に眠りにつく事にした。

俺はリビングで少し作業をしてから寝室に行くと、蘭とシルフィが仲良く同じベッドで寝ていた。蘭は昔を思い出しているのか、シルフィに抱き着いて穏やかな表情をしている。俺はその光景を見て、昔はよくああして二人で寝ていたなと思い出していた。

少し温かく懐かしい気持ちに浸りながら俺は眠りにつくのだった。



明けて翌日は朝食を皆で食べながら連携の確認をし、装備を整えテントの外に出た。

51階からは予想通り、アークエンジェル率いる天騎士20体程の部隊との連戦となった。

そして60階からはそこにアルケーが加わり、凛と夏海は時折被弾していった。結界を瞬時に張ったので無傷ではあるが、二人の疲弊具合からここらが限界だと俺は判断した。


「シルフィーナに凛に夏海。ここまでだ。次の時まで力をつけよう」


「わかったわ。流石にもう限界ね。シルフィーナさん、お姉ちゃん降りよっか」


「ハアハア……そうね。これ以上は足を引っ張るわね。降りるわ」


「流石にこの数の連戦は厳しいわ。一緒に降りましょう」


「みんなよく戦ったお疲れ様。新しい魔法を楽しみにしていてくれよ」


「うん! ダーリン寂しいから早く戻ってきてね。蘭ちゃんダーリンを頼んだわよ」


「帰りを待ってます。蘭ちゃん後はお願いね」


「コウキ。魔法楽しみにしているわ。蘭さんコウキをお願いね」


「後は蘭にお任せください。主様を守ります!」


「俺もみんなに会えないのは寂しいから早めに帰るよ。クオンを呼んで砦で待っていてくれ。魔導テントは渡しておく」


「うん待ってる。じゃあ敵が来る前に行くわ」


『エスケープ』


凛にテントを渡して帰りを待つように言うと、凛は離脱球を手に持ち夏海とシルフィーナに触れエスケープを発動した。

これで入口前に出れた筈だ。

俺は蘭を見て頷いた。その意図が伝わり蘭は神狐の姿となった。俺は蘭に乗り二人で上階へと一気に進んで行った。

途中現れる大天使や権天使の軍団は、蘭のジャンプしてからの噛み付きと前足による薙ぎ払いで蹴散らされ、俺の『天雷』で焼かれて消えていった。


蘭に騎乗してからは快進撃を続け80階へやって来た。ここからついにエクスシア能天使が現れた。この能天使、力天使、主天使は最上級ダンジョンの下層で現れる天使達だ。ステータスはSランクで天罰も第三階級を使って来る。第三階級とは、体感だが上級雷魔法程の威力がある。アークエンジェルの第二階級は四属性の上級魔法くらいだと思う。


エクスシアは50体程のアークエンジェルと天騎士を率いて俺達に向かって来た。


「蘭! 飛べ! 突っ込め!『スロー』『ヘイスト』『轟雷』」


コーーーーン!


《天罰 Ⅲ 》


『転移』


《!?》


コーーーーン!


俺はエクシア率いる軍団に蘭をジャンプさせて突っ込ませ、スローをエクシアに蘭と俺にヘイストを掛けて轟雷を放った。

轟雷により殆どのアークエンジェルと天騎士は墜落していき、それを見たエクスシアは俺達の進行方向に30本程の光の槍を作り出し放って来た。

俺はギリギリまでその光の槍を引きつけ、空中で転移で躱しつつエクスシアの背後に蘭と共に現れた。

蘭はすぐさまエクスシアの頭に噛み付き、そして引き千切った。更に未だ上空にいるアークエンジェルに狐月炎弾を放った。その炎弾の直撃を受けたアークエンジェル達は燃えながら地上へ落下していった。


俺と蘭は地上に降り、エクスシアの魔石らしきSランクの魔石と少数のAランク魔石のみ回収した。次へと進む前に、ここから先は本気でやらないと厳しそうなので装備を変えることにした。


俺はアイテムボックスから魔王戦以降着けていなかった勇者の鎧を装備した。

その鎧は魔鉄で造られており、教会で女神の加護を得た鎧だ。

勇者の額当てを付け、胸当て、小手、膝当てと装備していく。

この鎧は聖剣程では無いが、加護の力で絶大な防御力を誇る。更に物防と魔防のステータスを1ランクアップさせる特殊能力がある。

ちなみに聖剣は物攻を2ランクアップさせるだけでは無く、聖剣を通して放った魔法を聖属性に変換した上に増幅するというとんでもない剣だ。


『主様のその姿は久しぶりですね』


『サクッと終わらせたいからな。凛達も待っているし』


『うふふ。蘭は主様と遠慮なく戦えて嬉しいです』


『遠慮なく? ……俺を背に乗せてるのを忘れるなよ?』


『うふふふふ』


あ、これ蘭は俺のこの装備なら大丈夫だと暴れる気だ……気を抜くと巻き込まれるな。

俺は蘭から念話を通して伝わる楽しげな感情から、これから暴れる気満々だと長年の付き合いで理解して覚悟を決めた。

そして81階に上がりエクスシアの軍団が現れたと同時に蘭は身をかがめて尻尾を立てた。


「ら、蘭! お前マジか! いきなりかよ!『女神の護り』」


『うふふふ……大狐嵐動』


俺はいきなり大技を放とうとする蘭の背で結界を張り、頭上に現れる炎の大狐達が発する高熱から身を守った。それでも熱い……もう蘭の好きにさせよう……


女神の島の時とは違い、蘭から放たれた炎の大狐は10頭。その大狐達は空を駆けエクスシアの軍団に突っ込み、その身に触れる天使達を焼いていった。そしてそのうち3頭がエクスシアに襲い掛かった。

エクスシアは天罰で迎撃し一頭を消滅させたが残り二頭に焼かれ、最後に爆発した二頭に巻き込まれ消滅した。残りの大狐達も天使達を巻き込み爆発し、この戦場にいた天使達は全て消えた。


『主様。あの子達弱いです』


『そうか……五頭でよかったんじゃないか? 熱かったぞ』


『敵の戦力を見誤りました。次からは五頭で行きます』


『次もやるのかよ……』


『うふふふ。蘭はノリノリです』


『さいですか』


俺は夜以外、蘭の育て方を間違えたのかも知れない……


その後90階からヴァーチュース力天使も加わったが、蘭の進撃を止める事は出来なかった。

久しぶりに装備した俺の勇者の鎧は、蘭から身を守るために使われたのだった。


もう俺いらなくね?





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