第3話 一般公開






「こちらがヒーロー証明カードとなります。装備返却時にこちらのカードと後ほどお貸し致しますメモリースティックを係りの者にお渡し頂ければ、ステータス及び装備アイテム情報をカードと弊社サーバーに保存致します」


「という事は次来る時に、このカードをまた渡せばいいんだな。おっけー! 」


「カードは失くしても再発行可能みたいだから安心だな」


「ハイハイハイ! カードを受け取った人は装備貸し出しカウンターに行って装備を身に付けてね! 終わったら入場整理券をもらってから二階の休憩エリアに上がって待っててね! 二階にもショップ端末があるから無料ガチャを引いててもいいよ! 」


「お? 二階にもあるのか! 早く行かないと入場時間迄に引けなくなるな」


「そうだな急ごう! Sランク武器が当たるかもしれないしな!」


「さあ! 止まらないでドンドン登録してこー! ドーム前には事前登録して無かった人達が待っているからね! 」


「ミラ! ご苦労さん。受付の人数は足りてるか? 」


「あっ! 光魔王様! うん足りてるよ! ダークエルフ達のお陰でサイズ別に装備を用意する人や、装着の手伝いの人員に余裕ができたんだ」


「そうか、接客はまだ無理だが簡単な日本語は話せるしな。上手く使ってやってくれ」


「うん! ありがとう光魔王様! 」


ドーム内では受付カウンターでインターネットにて事前登録していた人達が、本人確認をした後にカードを受け取っていた。そしてカードを受け取った人はその隣の装備貸し出し及び返却カウンターに行き装備を受け取り装着していた。

受付カウンターはドーム中央のダンジョンの入口からかなり離れた場所に半円で囲むようあり、その隣に装備貸し出し及び返却カウンターが繋がっている。受付の上とダンジョン入口の上には大型モニターが設置してあり、字幕放送にて装備の付け方や使い方とダンジョン内の休憩所の使い方やその他注意事項が常時流されている。

そして二階のフードコーナーに上がるエスカレーターはダンジョン入口の四方にあり、人が上手く分散するようになっている。


俺は職員用の出入口からカウンターの裏に出てミラに声を掛け人員の増強が必要か確認したが、なんとか間に合っているようだ。しかしスタッフの皆は制服を着ているのに、ダークエルフだけが黒の忍者衣装にスタッフ腕章を付けてるだけとか……お客さんもギョッとした顔してるな。



冒険者学園の生徒達を招待した翌日。前日から壁の入口前に泊まり込みで並んでいた者達も含め、多くの人がこのHero of the Dungeon目当てでやって来た。オープン2時間前には車で来た人や、始発電車で来た人で壁の入口付近は溢れかえっていた。壁前の土地は俺が買った物だが公道は違う。うちの会社関係の車両しか通らないが、早めに門を開いて壁内に入ってもらう事にした。


そして壁内でインターネットにて事前登録した人としていない人に分け、事前登録をした人を先にドームに入れてカードの発行手続きと装備の貸し出しをした。事前登録をしていない人にはその場でスマホで出来る人にはしてもらい、順次ドーム内へと誘導している。ちなみにこの時点で既に1000人を超えていた。


俺の恋人達もシルフィを除き裏方として手伝っている。俺達が表に出ないのはテレビだなんだで顔が知られている為だ。サインだ握手だと人が群がってきたら収集が付かなくなるからな。シルフィは新規で冒険者連合加盟を希望している国を視察に行っていて今日もいない。


俺は後はミラに任せて3階へと上がった。3階はスタッフの休憩室と更衣室にシャワールーム、そして会議室とシステム管理室がある。システム管理室にはデビルバスターの技術者が詰めており、機器の異常などがあった場合の対応やフィールドが混雑している場合にモンスターの出現場所を操作して人をバラけさせたりしてくれる。


「おはようございます。藤井さん、今日は昨日の3倍の来場者数になりそうですがよろしくお願いします」


「あ、佐藤さんおはようございます。今日は私もここに詰めていますのでしっかり管理させて頂きます」


「助かります。正直予想を超えた来場者数で急遽スタッフを増員して大わらわなんですよ」


「ははは。ミラちゃんの声がここまで聞こえてきてます。私達が開発したシステムをこれ程多くの人が楽しみにしていてくれたのがとても嬉しいです。全ての人に楽しんでもらえるよう全力を尽くしますよ」


「ありがとうございます。どうしても最初だけ1階層に人が固まりますから調整をお願いします」


「お任せください。昨日よりも出現率を多くして難易度を下げてますので、サクサク倒して奥に行ってもらえると思います。それにガチャのR武器も出やすくしてありますしね」


「それなら大丈夫そうですね。あ、そうそう。昨日冒険者学園の校長がこのシステムの導入を検討したいと言ってましたよ。高等部になると初級ダンジョンで実地訓練をするらしいんですが、毎年怪我人が出るので学校内で事前に訓練したいそうです」


「本当ですか! 私達のシステムが将来の探索者達の役に……よかった……作って本当に良かったです」


「まだまだこんなの序の口ですよ。これから海外からも導入の話が来ると思います。このゲームを一人でも多くの人に知ってもらって体験してもらいましょう。そうすればいずれ軍からもお話が来ると思いますよ」


「は、はい! 頑張ってこのHero of the Dungeonを成功させます! 」


女神の島は遠い。ステータスは上がるし死なないが、死ぬと10日のペナルティがある。そうなると長期間滞在しなくてはいけなくなる。流石にそれは難しいので、死んだら国に戻らざるを得なくなる。女神の島が現れてから確かに各国の軍の能力の底上げはできたが、もっと効率良くできないかという問題が出て来ている筈だ。このシステムはリアラの塔に挑戦する為の訓練に使える。そういった方向からアプローチを掛ければ、軍も採用する可能性がある。リアラの塔で死ななければそれだけステータスが上がるスピードが速くなり、効率良く軍を強化できるからな。


その為には一人でも多くの人にプレイして貰って世界中に広めてもらわないと。


「それじゃあもう直ぐオープンするのでよろしくお願いします」


「はい、お任せください」


俺は藤井さんにそう言ってシステム管理室を出て3階の廊下からダンジョンの入口を見下ろした。

お? 一人摘み出されてる客がいる。黒服頑張ってるな。

ん? あそこで固まってるのは冒険者学園の生徒達か、気合い入ってるな〜。確か西条君のパーティが昨日5階層の中ボスを倒してたな。となると他のプレイヤーのいない6階層からスタートか。今日中に10階層のボスを倒しそうだ。なかなかやるな。

楽しんで勉強していってくれよ? 未来の冒険者達よ。


『あーあ〜テステス。よ〜し、それじゃあ今からダンジョンを開放するよ! 中に入ったらエレベーターに乗ってね!係りの者が一階層まで連れてってくれるから、そこで説明を受けてからゲームスタートだよ! 冒険者学園の皆はNo.10のエレベーターに乗ってね!』


「おお〜いよいよか! メモースティックも買ったし今夜M-tubeに動画を流すぞ!」


「あなた!期待してるわよ!健二と二人で私を守ってね!」


「ガチャでR武器当てたんだからおまえも戦えよ……」


「任せて! お母さんは僕が守るよ! あ〜ドキドキして来た」


『それじゃあ整理番号順に中に入って〜』


ミラが館内放送でダンジョンへ入場するようプレイヤー達に言い、プレイヤー達は若干興奮気味に係員の後を付いてダンジョン内に入って行った。


こうしてHero of the Dungeonの一般公開初日がスタートしたのだった。










ーー Hero of the Dungeon エレベーターホール 西条 英作 ーー





「英作、俺達は機器の説明パスでこのままエレベーターで6階層に行けるんだよな?」


「そうだよ。あのNo.10と書かれているエレベーターが、今日だけ冒険者学園専用のエレベーターらしいからあれに乗ればいいんだ」


「それじゃあ行きましょう。今日中に10階層のボス倒すわよ」


「優子やる気マンマン〜。私は昨日の中ボスのゴブリンナイトは結構キツかったから不安なのよね〜」


「ゴブリンナイトだけかと思ったらゴブリンも5体いたからね。結構いっぱいいっぱいだったね」


昨日はなんとか5階層の中ボスを倒す事ができた。けど、小ポーションを4本も使ってしまい結構ギリギリだった。


「大丈夫だって! 今日のガチャで奇跡的に2人もR武器当たったし、小ポーションも3つ出ただろ? 昨日より強くなってるから大丈夫だろ」


「そうね。剣士の鈴木君と盾職の西条君がR武器と盾が当たったから、昨日よりは楽に行けるわよね」


「今日も俺は武器が当たらなかった……」


「戸田っち私も同じだって! 元気出しなよ〜その内当たるよ」


「新見……そうだな。まだ2日目だしな。宝箱からガチャチケットや武器出るかもしれないしな!」


「昨日の中ボスはゴールドだけだったから、ボスには期待しちゃう!」


「まだまだ6階層よ、さあエレベーター乗りましょう」


今日は運良くガチャでR盾が当たった。これで耐久力が上がったから、強い攻撃を受けた時に減るHPは少なくなるはず。宝箱を見つけたら先ずは全員の装備のランクアップを狙った方がいいかもね。ゴールドを貯めて装備を買ってもいいかもしれない。僕はそんな事を考えながら満員のエレベーターに乗り、6階のボタンを押した。それを同じエレベーターに乗っている先輩達がギョッとした目で見ていた。


「お? お前らもう中ボス倒したのか? 早いな!」


「僕がテストプレイヤーなので少し有利だっただけです」


「マジか! テストプレイヤーだったのか! まあすぐ追い付くから待ってろよ」


「はい!」


先輩達は僕達にそう言って5階層で降りていった。そして6階層に着き僕達は早速地図を見ながら最短距離を進んだ。すると急に照明が薄暗くなった。エンカウントの前兆だ!


「げっ! ゴブリンアーチャーがいる! ゴブリンも棍棒じゃなくてナイフを持ってるぞ!」


「英作前頼む!」


「わかった! みんなぼくの後ろに! 弓の攻撃を盾で受けたら勝と四郎でゴブリンアーチャーを! 大月さんと新見さんでゴブリンを!」


「「おうっ!」」


「「わかった」」


照明が暗くなった途端に前方にゴブリンアーチャー二体とゴブリン4体が現れた。僕は皆に指示をして前に出た。するとゴブリンアーチャーが一斉に矢を放って来た。本物みたいで怖いな。

僕が盾でその矢を受けると、後ろから勝と四郎が飛び出しゴブリンアーチャーを斬り捨てた。そして遅れて大月さんと新見さんが飛び出し、それぞれがゴブリンを槍で突き刺した。僕は残り二体のゴブリンに盾を持って突進し、一体を盾で殴った後に剣で突き刺した。そして残り一体のゴブリンのナイフ攻撃を盾で受けた所に、大月さんが側面から槍を突き刺しゴブリンを倒した。


「ふぅ……飛び道具は厄介だね」


「盾がいなかったら一撃を受ける覚悟で突撃するしかないよな。実戦だったら絶対やりたくねーな」


「ゲームならできるけど、それはそれでそのうちHP回復が間に合わなくなって死ぬよな」


「この先は西条君が頼りね」


「西条くんたのんだよ!」


「わかったよ。ちょっと連携の打ち合わせをしよう。アーチャーがいるという事はウィザードも出てくる可能性があるからね」


「ウィザードもかよ……避ける練習した方がいいかもな」


「それもそうね。基本は西条君の盾で攻撃を受けないで倒せるよう連携をして、自分のHPを見ながら避けるようにしましょう」


確かに矢の速度は避けれない程じゃなかった。見た目がリアルだから恐怖心さえ克服できれば避けれると思う。

僕達はそれからゴブリンアーチャーを連携して倒しながら、なるべく避ける練習もするようにした。勝はムキになってやり過ぎて死んだ。僕達のパーティの初の戦死者は鈴木 勝だった。

デスペナでレベルか下がって凄く落ち込んでいたけど、レベル7が6になっただけ。まだまだ低レベルだからいくらでも挽回可能だと思う。


でも実戦だと本物の矢と魔法が飛んで来るのか。

その中を父さんは一歩も退かず……なら僕も退く訳にはいかない。


僕は父さんのようになるんだ。必ず。




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