第11話 転移準備
リアラとの邂逅によりアトランの世界の現状を教えられた俺たちは、リアラとアトランへ行く約束をした後に急いで紫音と桜にガンゾとヨハンさんを連れて砦に来るように心話を送った。
白い空間では時が止まっていたようで、泉にいた凛と夏海にリムたちは何がなんだかわからない様子だった。
凛たちには詳しい話は後でまとめて話と言って砦へと急いでもらった。
そしてガンゾとヨハンを連れてきた紫音と桜にリムたちと以蔵夫婦を混じえ、リアラから聞いたことを砦の食堂で説明した。
ガンゾにヨハンたちは異世界と時の流れが違うことに驚いてはいたが、俺に助けられなければ一生魔族の奴隷だったからいずれにしろ里の者たちとは会うことはできなかったと言ってくれた。それに家族がいるから問題ないとも。
まあ、ここまでは良かったんだが、その後にあっちの世界の人族の愚行を話したらリムたち以外の皆が憤慨した。
「なんてこと……我らの同族が……」
「ワシたちの同族は恐らく人族側だろうな。獣人たちに付いている者もいるとは思うが……」
「私たちの同族も恐らくそうでしょう……」
「人族至上主義だなんて……ダーリンと蘭ちゃんが命懸けで守った世界で……」
「光希をはじめ人族もほかの種族も一丸となって魔王軍と戦ったはずなのに、なぜそんなことが平気でできるのでしょう……」
「魔王様が倒されダンジョンが無くなった後は、我らがいた世界でも人族は戦争ばかりしていました。そしてエルフの精霊魔法と獣人種の身体能力に脅威を感じ、女神の島に多くの人族が経験値と魔法書を求め塔の攻略に精を出していました」
「そこをボクたちが占領しちゃったんだよね〜」
「光魔王様がお救いになった世界も似たようなことになっていたんですね」
「どの世界も同じだな。人族は寿命が短い。世代が変われば魔王との戦いは次第におとぎ話になっていく。そして愚王が誕生し歴史の書物を廃棄し教育方針を変え、それに教会が同調すれば民衆は自分が体験し見たわけでもない昔のことなど簡単に考え方を変える。そんなことはいけない事だと声を上げる者もいただろう。しかし多くの人がそれに賛同しなければ、誰もその人たちの言葉に耳を傾けない。こうして人族は他種族排斥という愚かな歴史を繰り返してきた。今回も同じ歴史を繰り返している。規模は大きいがな」
これは大国で数代連続で愚王が生まれたな。教会の腐敗はまあそういう奴らだから納得できる。愚王と教会が協力すれば、100年も掛からず人族至上主義の国の誕生だな。
これは過去にも何度かあったとエルフたちに聞いている。しかしたいていが時の勇者か、エルフや竜人族やドワーフたちが協力した人族の国によって滅ぼされている。しかし今回は過去最大規模のようだ。
アトランとムーアン大陸から追い出される勢いの亜人種排斥なんて過去に無かった。詳しい国家情勢はリアラもわからないそうだが、人族の半分はリアラへの信仰をやめたことは確実だ。
恐らくそういった国が亜人種排斥をし、リアラへの信仰が残っている国でも教会が人族至上主義にお墨付きを与えたんだろう。
「リアラからの願いはアトランとムーアン大陸にある、魔脈から強制的に魔力を抽出する装置の破壊と人族による他種族排斥の阻止。精霊神と龍神や獣神からはそれぞれの子の絶滅の阻止。創造神の試練が無くなった世界だ。リアラも多少の人族の減少はやむなしと思ってくれている。報酬はリアラの加護だ。だがこれは人族にしか授けられないそうだ。あとはそれぞれの神が判断するそうだ」
リアラの話ではある時一人の天才によって古代遺跡から出土した、魔脈から魔力を吸い上げる装置の仕組みが解明され製造された。ただこれには最上級ダンジョンのコアである魔結晶が必要らしく、二つしか作れなかったそうだ。
3つの最上級ダンジョンの魔結晶……これは俺があの世界に残していったものだ。復興の役に立ててもらうように人族に2つと、いつか国家を作りたいと言っていた獣人族に1つ贈与した。
その魔結晶を元に魔脈から魔力を吸い上げる装置が作られ、文明は飛躍的に発展したそうだ。
だが人族はやり過ぎた。魔脈から魔力を吸い上げ過ぎて大地に魔力が行き渡らなくなった。作物は育ちにくくなり、森も元気がなくなっていき精霊の力も弱まってしまった。このままでは世界が壊れてしまう。そうなれば創造神によって全ての生物は消滅させられてしまうという。
2度目のダンジョンという罰はないってことだな。2度目は滅びか……
そうなる前にその装置の破壊をリアラは俺にして欲しいと頼んできた。俺は古い友人を助けるついでにやるということでその頼みを受け入れた。
装置を破壊して魔結晶を回収すればダンジョンの無い世界じゃもう二度と作れないだろう。
「ダーリンが行くと決めたなら当然私たちは行くわ」
「ええ、光希が行くところならばたとえ冥界でも付いていきます」
「私は当然ね、自分の里の者たちが虐げられてるんですもの。きっちり報復してやるわ」
「よくもあたしの同胞を殺ってくれたよな! 皆殺しにしてやる! 」
「蘭もエフィルちゃんとララちゃんを必ず助けます。そして人族が二度とエフィルちゃんに手を出さないようにお仕置きします」
正直凛と夏海にはキツイ旅になると思う。敵は魔物ではなく人間だからな。
シルフィと蘭とセルシアはあまりの怒気にちょっと怖くて話しかけられないな。
「報酬などなくとも我らダークエルフは参加致します! たとえ違う世界の同胞なれど、長年人族に排斥されてきた我らには同胞の苦しみが痛いほどわかりますので」
静音も超怒ってるな。こんな静音を見るのは初めてだ。紫音と桜も目が怖い。以蔵は嫁と娘たちから一歩身を引いてるな。気持ちはわかる。俺もそうしている。
セルシアもそうだが、数の少ないエルフや竜人族は同胞に対する連帯意識が強い。だからたとえ並行世界の同胞だとしてもこれほどの怒りを感じるんだろう。
「サトウの旦那、ワシも行こう。人族についた同胞の償いをしなきゃならねえ」
「サトウさん。私たちも同行します。私たちも虐げられてきた種族ですから」
ドワーフやホビットは人族と繋がりが深いから仕方ないと思うんだよな。人族もいくら人族至上主義になろうとも、ドワーフとホビットは手放さないだろう。それなりの自治を与えてるはずだ。
彼らがいなければ戦争の道具や生活を豊かにする道具を作れないからな。ドワーフは魔法書が無くても土精霊が手を貸してくれるから、人族よりも良い物を作れる。ドワーフには精霊は見えないけどな。
エルダードワーフになると契約できるとかなんとか古代書に書いてあったがどうなんだろ?
ホビットは種族魔法が特殊だからドワーフとセットでいるだろう。でもガンゾもヨハンもそこまで責任を感じる必要ないと思うんだけどな。彼らのいた世界の並行世界のことだし。
それでもガンゾやヨハンが、そんな人族に手を貸している同胞の償いをしたいというなら好きにさせてやるか。
「我らは光魔王様が行く所なればどこまでも付いていきます」
「とーぜんだね! あっちの人族を皆殺しにしちゃおうよ! 」
「ふふふ、聖魔人としての私たちの力を人族に見せてあげますわ」
リムたちにはまあ関係のない話だけど、泉に付いてきた時点でこうなると思った。だからこの場に呼んだんだしな。
「わかった。リアラが言うには人間くらいならまとめて送れるが、この世界からあちらの世界にドラゴンのような質量の大きいものを送るのは厳しいみたいだ。逆ならできるとは言っていたがな。だから今回はクオンやグリ子たちは連れていけない。俺たちだけでアトランの世界の人族と戦うことになる。こちらの2日があっちでは1年だ。だからここは思い切って数名だけ残してほとんどの者を連れて行こうと思う。明日の早朝出発する。それまでに方舟に行けなかった者を優先して行く人間を決めておいてくれ」
「「「「 はっ! 」」」」
「 ハッ! ロットネスト島のカイとレムたちを呼び寄せます」
「わかったぜ、サトウの旦那」
「私もすぐにホビットの皆と相談してきます」
「頼む。凛と夏海はマリーたちとこの世界の食材をかき集めてきてくれ」
「わかったわ! 急いで集めてくる! 」
「時の倉庫にある備蓄分からも持ち出してきます」
「シルフィと蘭とセルシアは、ガンゾやヨハンさんたちが作り置きしている装備を集めてくれ。それと2日ほど休むことを各方面に伝達を頼む」
「わかったわ。2日なら大丈夫よ」
「俺は伊勢神宮から方舟に行って集金してくる」
ミスリルはまだだろうが、黒鉄と食糧あたりは貯まっているはずだ。今回は大量に使いそうだしな。
こうして俺たちは異世界に渡る準備をそれぞれが行うのだった。
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作者より
このお話で8章は終わりです。
9章は9月26日木曜日から始まります。
その間は遅いお盆休みの間に、全日程大雨に見舞われた沖縄旅行中に気分転換で書いた『ニートの逆襲』をお読みいただいて暇つぶしをしていただければ幸いです。
凄く黒い気分で書きましたw
こちらはメイン作品を書いている時の気分転換に書く予定なので不定期更新になります。
当然ハーレムでちょっとえっちな物語にする予定です。
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