第9話 異変





BRAVEの初興行を終えて3日が経過した。


初日と2日目の興行は大成功を収めた。

参加した冒険者たちからは対戦させた魔物に関して大クレームをもらったが、皆が口々に感謝の言葉を述べてくれた。

やっぱり自分たちが命を懸けてやってきたことを、多くの人に認められたのは嬉しかったみたいだ。

彼ら彼女らにはさっそくテレビ出演のオファーが殺到し、新聞や雑誌にも彼らの生い立ちや戦績が大きく取り上げられていた。

そのうちあいつらをキャラクター化した対戦ゲームとかが出たりするかもな。


うちの会社には海外の現役冒険者たちから、自分たちも出たいという問い合わせが殺到しているらしい。まあ今のところ決まってるのはリチャードたちくらいかな。ほかは谷垣さんを通すように言って全て断るように指示してある。

日本の冒険者は今回いきなりトップチームを出したから、あまり変なのから出たいとは言われていない。中堅から上のパーティばかりだな。

今回出てもらった高杉たちには年末のイベントにも出てもらえるように言ってあるから、しばらくは彼らも色々と忙しくなるだろうな。

ただ、天草にモデルのオファーが来ているのは知りたくなかった。俺にはそんなもの一切来た事はない。



「主様、蘭も主様の伴侶として出演すべきだと思います」


「俺の創造魔法じゃ蘭とまともに戦える魔物なんて造れないぞ? 」


「むむむ……上位ドラゴン5頭とかどうでしょう? 」


「野球場に40mオーバーのドラゴンを5頭もどうやって置くんだよ。たとえ置けたとしてもそれだって瞬殺しちゃうだろ」


強くなり過ぎた弊害だな。蘭とそこそこ戦えるのなんて、方舟のラスボスのルシファーくらいか? さすがにアレを今の俺の技量で創造するのはもったいない。まずは主天使や熾天使たちの知能をそのままに創造できるようにして、ロットネスト島の空で組んず解れつイチャイチャできるようになってからだ。


「むむむむ……」


「ククク……」


「主様に笑われました」


「いや、この世界に来てから蘭は良い意味で変わったなと思ってな」


アトランにいた頃の蘭は天然を発揮することや、無邪気に笑うことは少なかった。王都の市場のおばちゃんや、ギルドの受付嬢にエルフの里に行った時くらいしかそんな蘭を見ることはできなかった。

それがこの世界に来てから19歳の女の子らしく毎日楽しそうに笑って、天然を発揮してみんなに可愛がられている。凛と仲良く魔法の練習をしている姿なんてずっと見ていたいくらいだ。


蘭は変わった。良い意味で本当に変わった。


「そうです……ね。凛ちゃんとなっちゃんに出会って、シル姉さんと再会できました。セルちゃんとも一緒に買い物いったりして、リムちゃんや紫音ちゃんたちとも仲良くなりました。なによりこの世界には蘭の大切な主様を害することのできる存在がいません。蘭はいまとても幸せです」


確かにアトランには魔王以外にも危険な魔族がたくさんいた。街中でも安心などしてられなかったな。

この世界にはまだそんな反応はない。だから蘭も安心して普通の女の子に戻ることができているんだろう。


「よかったよ。魔王を倒して転移の魔法陣が現れ、蘭とこの世界に来た時に俺は不安だったんだ。生まれ育った世界から離れて全く知らない世界、しかも科学が進歩したこの世界で蘭はちゃんと幸せになれるのかってな」


「蘭は主様がいる世界ならどこにいても幸せです。たとえ凛ちゃんとなっちゃんにシル姉さんがいなかったとしても、蘭は幸せを感じていました」


「俺も蘭がいてくれさえすれば幸せだ。そうだな……もうこの世界に来てから1年と8ヶ月が経つんだな。方舟での一年があるから体感としてはプラス1年か、アトランのみんなはどうしてるかな」


「エフィルちゃん……」


「エフィルは俺たちが最後に挨拶に行った時に遠くから見てたぞ? 」


「え!? そうなのですか? 」


「ああ、あの子はもう大丈夫だ。いつまでも引きこもっている性格じゃないよ」


エフィルはシルフィのいたエルフの里の子供だ。とても明るくて活発な子で、蘭と同じ歳ということもあり、里に寄った時は蘭とエフィルはよく遊んでいた。シルフィが死ぬまでは……

エフィルはシルフィの姪でシルフィにべったりだったからな。シルフィが死んだのを知って心が病んでしまい引きこもってしまった。


「そう……ですね。シル姉さんがいることを教えてあげたいです」


「まあ、もう少し凛と夏海が育ったら賢者の塔にもう一度行って、クリスタルを通してリアラにエフィルにシルフィが別の世界で生きているって伝えるよう頼んでみるよ。俺も半神ってのになったなら会話くらいできるようになっているだろう」


この間寝ている時に突然話しかけてきたアマテラス様に、リアラとはどうしたら話せるか聞いたんだ。過去の文句を言いたい訳ではなく、魔王を倒して突然転移させられたからな。俺たちが救った世界の復興具合とか聞けたらいいなと思ってさ。


アマテラス様曰く、この世界やこの世界の並行世界の神ではなく、完全に異世界にいる神と話すにはその世界に行かないとできないそうだ。神同士なら問題なくできるが、ただの人と異世界の神が話をするのは不可能らしい。


だが、賢者の塔のようにリアラが造り、リアラの神力で満たされている場所なら可能性はあるそうだ。それでも話すことはできず、イメージを伝えるのがやっとなはずだと言われた。

あの時賢者の塔で蘭には聞こえず俺だけに声が聞こえたのは、俺がただの人ではなく勇者だったからだろう。


だが、今なら俺は半神だし蘭も神力を操れるようになってきているから、話ができる可能性があると思う。

呼ばれて行くのは絶対にノーだ。こちらから行くのが望ましい。呼ばれるってことは、絶対に面倒なことをさせられるに違いないからな。


「蘭も話しかけてみます! 神力というのが掴めてきましたので、リアラ様とお話しできるかもしれないです」


「そうだな。その時にエフィルがどうなったかも聞いてみよう。水精霊の泉のララノアももう12歳だしな。ちゃんと水精霊と契約できたかも聞いてみよう」


「うふふ、ララちゃんなら大丈夫です。あの子は真面目ですから」


確かにララノアは真面目な子だったから大丈夫か。最後の挨拶に行った時には蘭にしがみついて、ランおねえちゃん行かないでってずっと泣いてたっけ。懐かしいなあ。


「そうだな。ララノアなら大丈夫だな。泣き虫だけどな」


「うふふ、ララちゃんは優しい子なんです……みんな幸せになってるのでしょうね」


「俺たちが頑張ったからな」


「はい。がんばりました」


そのあとも蘭とアトランにいた竜人族のウザさや、以蔵たちとはまた違う忍者かぶれのダークエルフたちの話をして昔を懐かしんだ。


2年にも満たない期間じゃまだまだ復興はできていないだろう。それでもエルフたちは里を守れたから、精霊神の恵みで復興は早いはずだ。男のエルフたちには超精力剤を大量に渡してあるし、あっという間に数を戻すだろうな。エルフとダークエルフが1万人とかになってたらどうしよう。そうなったらもう一度あの世界に行きたいな。


俺と蘭が死ぬ気で守った世界だ。みんな幸せになってくれよな。



《 こ、光魔王様! め、女神の泉の像が大変なことに! 》


《 この声はサリか!? どうした! 何があった!? 》


《 女神の像が突然光りはじめています! 》


泉にあるリアラの像が光った? 聖水が湧く泉の像が……サキュバスたちは大丈夫なのか?


《 サリ! 女神の島にいるインキュバスとサキュバス全員に転移のスクロールでこっちに戻るように言え! とにかくすぐそこから離れろ! 》


《 ハッ! 》


なんだってんだ!


《 以蔵! 女神の島にいるインキュバスとサキュバスを全員退避させろ! すぐにだ! 急げ! 》


《 はっ! こちらでも光を確認しました! すぐに救出します! 》


次に……リムは確かロットネスト島に行っていたな。聖魔人とはいえ万が一があるが、配下の者を見捨てる女じゃないよな。


《 リム! お前たちはまず塔に行け! そこで身体に影響がないなら砦まで来い! いいか? 絶対に無理をするなよ? 》


《 ご報告が遅れ申し訳ございません、既に砦におります。塔に挑んでいた者には連絡をしてあります。すぐに出てきて島から離れるでしょう 》


もう砦にいるのか! 大丈夫そうだがそれでも万が一がある。


「蘭、女神の島で異変があった。リアラの像が突然光ったらしい。聖水の泉の像だ。万が一のことがある。助けに行くぞ」


「リアラ様の像が!? は、はい! 」


それにしてもこれは……リアラが呼んでるのか? 嫌な予感しかしない!


俺は凛と夏海とシルフィとセルシアに心話で女神の島の砦に来るように言い、蘭を連れて急いで転移をした。

落ち着け。最悪の事態を想定しろ。泉に行くのはシルフィたちと合流してからだ。その前にサキュバスたちを避難させる。それが最優先だ。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「リム! ミラ! ユリ! 大丈夫か! 」


「ハッ! この光は我らにはそれほど影響はありません。サキュバスも少し苦しみはしますが、方舟に行った時よりは影響ありません」


「そうか、よかった〜」


聖水は湧くが聖属性ではないということか。神力と聖属性の差がイマイチわからん。魔と聖は相反していて神力は別次元的なものか? しかし魔に影響が0ってわけじゃ無いんだよな。

もしかしたら魔が強ければ神力もそれだけ影響を強めるものなのかもな。聖魔人のリムたちは特殊な魔族として、一度ほかの上位の魔族にこの光をあてて実験したいものだ。この砦の元の持ち主のアジムでも創造してみるか?


「光魔王様がこんなに心配してくれるなんて、ボクたちすっごく嬉しいや! 」


「ふふふ、私たちは愛されてるのですわ」


「いやははは、まあ心配し過ぎて悪いことはないからな。以蔵、この島にはもうサキュバスたちはいないか? 」


「はっ! 塔に挑んでいた者も全員横浜へ避難させました」


「あって良かった心話スキルだな。アマテラス様に感謝だ」


「確かに心話が使えなかったのならば、塔にいた配下の者たちは避難できなかったです」


「最初の頃は光魔王様にボクの声を聞かれちゃったけど、この心話はすっごく便利だよね! 」


今それを言うのかミラ……ゲーム欲しいなぁとかアイス食べたいなぁとか、夜にえっちな声とか聞こえてたのを思い出したじゃないか。


「私もいま思い出すと恥ずかしい失敗をしてしまいましたが、光魔王様になら聞かれてもいいですわ」


ユリは夜のえっちな声オンリーだったからな。

いかん! 思い出したらムラムラしてきた。


「ダーリン! 」


「コウ! 」


「光希! 」


「みんな! 大丈夫か!? 」


「来たか。突然呼び出して悪かったな。どうもリアラの像が光って神力が溢れ出たらしいんだ。聖水が湧く泉だから念のためサキュバスたちを避難させたところだ」


「じゃあみんな無事なのね? よかった〜心配したわ」


「サキュバスのみんなが危ないって聞いて飛んできたわ。無事でよかったわ」


「焦りましたよ。リムたちに何かあったらって心臓がドキドキして、転移を失敗するところでした」


「あたしも焦ったよ。まあ無事でよかった! 」


みんな仕事着のままじゃないか。凛なんてスリッパのままだし。それだけ心配したんだな。



「お妃様……」


「うっ……ボク……こんなにお妃様たちに心配されて嬉しい……グスッ……」


「お妃様方ありがとうございます。この通り私たちはピンピンしてますわ。来週蘭お妃様とセルシアお妃様とお買い物に行く約束があるのに死んだりなんてしませんわ」


「ユリちゃん。よかったです……」


「ユリにはデパートで化粧水を選んでもらう約束をしてるからな! 」


なんだかんだいって三年近い付き合いだしな。俺の恋人たちと買い物にもちょくちょく出掛けてるし、映画も観に行ったり外食しに行ったりもしてるしな。友達が傷付くとなればそりゃ心配するさ。


「ふぅ、とりあえずなんともなくて良かった。今までこんな事はなかったからな。俺も動揺して大袈裟に騒いでしまった。すまん」


「い、いえ! 私たちを心配していただきとても……う、嬉しかったです」


「ふふっ、リムは顔が真っ赤よ? まあ無事で良かったわ! それより、さっきより光の範囲がが大きくなってない? 」


「そうだな……蘭、これはやっぱアレだよな」


「はい……いつものだと思います」


「ダーリン、アレって伊勢神宮の時のような? 」


「多分な」


「なるほどね。だからコウは砦で一旦集まろうとしてたのね」


「蘭ちゃんと光希だけ連れて行かれる可能性もありますからね」


「んん? アレってなんのことだ? 連れて行かれる? 」


「セルちゃん。伊勢神宮で光ってどうなりましたか? 」


「伊勢神宮でか? 光ってから神様の声が聞こえて方舟があるところに転……ああっ! そういうことか! リアラの像が光ったってことは、旦那さまがあたしたちのいた世界にいっちゃうってことか! 」


「まだわからない。その可能性もあるってだけだ。なにか伝えたいことがあるだけかもしれないしな」


どうか世間話だけで済みますように……ないな。

これだけ激しく呼んでるんだ。きっとアトランかその並行世界でなにかあったんだろうな。

新しく勇者を召喚されて、なんの罪もない人間に俺と同じ思いをさせるくらいなら……


俺はとにかく最悪の状況だけを想定して、恋人たちを連れ光るリアラの像がある泉へと向かうことにした。

もうタダじゃあ俺は動かない。もし魔王を倒せと言われたなら、最低でも今後二度と俺に干渉しないくらいの約束をさせてやる。






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